続きです。
ある日、アパートに戻ると郵便受けに封筒が入っていました。
早速封を開けると、いつものパソコンで打った文字ではなくボールペンで書かれた文字でした。
特徴のある字体に少し見覚えがありましたが…内容は
『〇〇(私)様
貴方には長年大変ご迷惑をお掛けしました。
最初に私が書いた言葉、覚えておいででしょうか?
時期がきたらお教えします……
私自身今がその時かと思っております。
来週4月3日の夕方6時、駅前の喫茶△△にお越しください。
お待ちしております A』
「…A!?あのAか!?」
私は驚きました。
会社の同僚だったAが何故父や美紀の事を知っているのか。
いずれにしても、私は4月3日に必ず行かなければならない、そう思いました。
待ち合わせ当日、私は朝から落ち着きませんでした。
指定された場所に30分前に着くと、そこには既にAが座っていました。
私が緊張した面持ちで座るとAは「ご無沙汰しております」と、会社でも使わなかった敬語で言います。
Aの顔も少し強張っていたような感じがしました。
暫し無言でコーヒーを飲んでいるとAは
「あの…付いて来て欲しい所があるんですけど」と俯き加減に言います。
「俺が探している人と関係があるの?」と聞くと黙って頷きました。
私は会計を済ませAと向かいました。
電車を乗り継ぎタクシーで案内された場所は田舎の一軒家。
「ここは?」
「…私の実家です。父に会ってもらいたいので中にお入り下さい」
「ちょっと!まさか俺の家族を殺したのは…」
Aは黙り込みました。
私はAを押しのけ中に入りました。
片っ端から部屋を開けると、奥の座敷に初老の男が寝込んでいます。
私のうしろにAがやって来て、寝ている男に
「お父さん、お連れしたわよ…」
男はAの父親でした。
そして目を覚ましますが、衰弱しきっている様子。
「真司さん、父の話を聞いて下さい」
(以下Aの父をSとします)
19年前……
Sは私の父と高校時代の同級生で、職を失ったSは私の父に金を工面してもらいました。
当時奥さんが蒸発して、中学に入ったばかりのAを育てながらSのバイト代だけでは生活費が足らず、何度も父に金を借りていたようです。
しかし家も同じような境遇で余裕が無く、父は断ったそうです。
断られたSは精神的にも追いつめられていて、父を逆恨みしました。
そしてあの日の夜、私の家に金の無心に訪れました。
「頼む!3万…いや、1万でもいい!なんとか頼むよ!」
「S、うちも子供二人育てるのに大変なんだ。分かってくれ!それに今日は息子の誕生日だ。もうすぐ息子が帰って来るから帰ってくれ!!」
そして断られたSは父さんを恨み、電気を消した所に忍び込んで予め持っていた包丁で父と美紀を刺し殺し逃げました。
途中の川に返り血を浴びた上着を投げ捨て、家に戻るとAが出迎えトレーナーの首元や袖に血が付いてるのを見つけたそうです。
「どうしたのお父さん!?」
そう聞いても顔を真っ青にして「大丈夫なんでもない」としか言わない父に不信感を抱いていた所、テレビでニュースが流れ事件を知りました。
凄惨な事件だった為どのチャンネルも一色でした。
Aは思い切って父に尋ねると「仕方なかったんだ!!」そう泣き叫んだそうです。
Aはショックでしたが、たった一人の父が逮捕される事を恐れ黙っていました。
そうはいっても罪悪感に押しつぶされそうなAは、葬儀に参列したり、一人取り残された私をずっと気に掛けていたようです。
事件後社会人になるまで会う事はありませんでしたが、私が新規営業をかけていた会社にAの勤めていてそこで私に気づいたそうです。
そこまで聞いて私は
「そんな事で父さんや美紀を殺したのか!?仕方なかった!?時効まで逃げ切って裁かれる事がないと踏んでいたのか!?どうなんだ答えろ!!」
私はSの襟元を掴み叫ぶと、Aが止めに入り
「真司さん、ごめんなさい!!私がいけないんです!私が自首をすすめておけば…それに父は病に冒され余命数ヶ月なんです!!」
「余命数ヶ月?冗談じゃない、それまで生きようと言うのか!?俺の家族はなんの非もないのに突然殺されたんだ!!美紀は…妹はまだ7才だったんだぞ!」
私は隠し持っていたナイフを取り出しました。
続きます。
次が最後です。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話