中編3
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葵(ァォィ)

一気に口から血が吹き出た。

ぴくりとも動かない。

人間を殺すのがこんなに簡単だったなんて。

俺は右手に持っている包丁をゆっくりとシンクに置き蛇口をひねり水で流した。

確かよく洗い流しても血液の痕跡は残ると聞いた事がある。

この時代は大変だ。

昔は敵の首を取ってなんぼのもんだったのに…。

さて、この死体をどうするか?

俺は瞼を閉じた。

森の中に入ると小さな池がある。

その近くに背の高いアオイが伸びている。

淡いピンクの花びらが何ともいえず癒される。

もうそろそろアオイも終わりだな。

暑い夏がやってくるな。

その前に早く死体を始末しないと。

俺は瞼を開き車のキーを持つとホームセンターに行った。

ブルーシート、スコップなど買った俺は暗くなるのを待った。

夜中の1時過ぎ、俺は死体を乗せた車を西に向かって走らせた。

早くしないと東の空が薄明るくなってきた。

アオイがつぼみを半分開いてまるで俺を凝視しているようだ。

俺は手早く穴を掘りブルーシートに包んだ死体を埋めた。

ギリギリ間に合った。

俺はアオイの花が咲く頃、全てが終わった。

ゆっくりアオイを観ていたいが時間がない。

車に乗るとアクセルを踏み込んだ。

家に着くと俺は死んだように寝てしまった。

俺は人を殺したが自分はまだ死んでいない。

でも死刑かな?

いや、無期懲役か?

そんな事を考えていると目が覚めた。

窓の向こうには綺麗な夕陽が見えた。

随分寝ていたようだ。

俺の体はかなり疲れているようだ。

かれこれこの体には50年近くお世話になっている。

そろそろ廃体かな!?

この体の持ち主の新井さんには本当にすまないことをした。

平凡なサラリーマンで妻と二人の娘たちと平和な暮らしをしていたのに。

俺が体を調達したばっかりに

ある日、突然の失踪。

もちろん体だけで脳は寝てもらったが……

残された家族には金銭面で充分援助した。

時々、遠くから安否を伺ったが奥さんは去年の暮れに亡くなったよ。

上の娘さんが家を継いでいる。

下の娘さんは独身だが看護師で働いている。

しかし何故あのものは俺の正体を見抜いたのだ??

俺の秘密を知ったばかりに命を亡くした哀れな男。

ピンポーン!!

ドアを開けると若い女性が立っていた。

「どちらさん?」

「ご無沙汰しています。

父上」

「……珠(ガラシャ)…なのか?」

その女性は大きく頷いた。

明智光秀と娘のガラシャは約500年の月日を経て再会した。

自分の正体がバレたら始末しなければいけない決まりになっているが

些か自分の娘には手を下せない。

苦労した娘ガラシャにはこの時代で幸せになってもらいたい。

私は後頭部にある次元ボタンを静かに押した。

私は50年前に突然失踪した新井という男として静かに命を絶った。

奇しくも救急車で運び込まれた先は新井さんの次女の勤める病院だった。

身元確認で提出された免許証で事実を知った次女は

付き添いのガラシャにそっと埋め込まれたチップを手渡した。

「これで任務も終了です。長い間お疲れ様でした」

チップを受け取った女性は次女に礼を述べ病院を後にした。

「先生!先程、明智光秀と思い込んでいた男性が死亡しました。

これが脳に埋め込まれていたチップです。

先生の研究の結果がやっと芽を開きますね。」

「君……私はただの先生ではないぞ。

なんせ私はアインシュタインなのだから」

そう言う先生の後頭部にあるボタンを私は見逃さなかった。

怖い話投稿:ホラーテラー ナナさん  

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