これは、私が7歳の時に体験したものです。
当時の私の家は、築70年を超えた木造りのものでした。
家は、増改築を繰り返され、部屋数は30を超えていましたが、利用できる部屋はほとんどなく、私たち家族は限られたスペースで生活をしていました。
ある日、学校から帰ってきた私は、家に誰もいないことを確認したうえで、母から「入室禁止」と言われていた部屋に入ってみることにしました。
その部屋というのは、曾祖母が30年前に切り盛りしていた「喫茶店」です。
喫茶店は、私が産まれる前に閉じられたらしく、それ以来、その部屋は使われていませんでした。
家族が利用していないスペースの電球や蛍光灯は取り外されていたため、私は懐中電灯を持って、その部屋に向かいました。
家の2階にある中央階段を下り、祖父が利用していた事務所を通り、喫茶店へと続く廊下を歩いて行きました。
夏の夕方にもかかわらず、廊下は真っ暗で、懐中電灯を持っていたとしても、進むべき道を照らすのみで、それ以外は何もわかりませんでした。
私は、喫茶店の扉を開け、中に入りました。
そこには、蓄音機や造花が放置されていました。私は、始めてみる光景に高揚感を覚え、直ぐに、先に進もうと思い、調理場に続く扉に近づき、それを開けようとしましたが、それは閉ざされていました。
それに落胆した私が、喫茶店を歩きまわりながら、何らかの収穫を探していた時でした。
「ヒタ…ヒタ…」
私は音のする方向に、懐中電灯を向けました。
その光は、人の素足を照らしたのです。
その足が、もと来た廊下に続く扉の前にいたため、私は、後ろを向き、無我夢中で開くはずのない調理場の扉に体当たりしました。
「ヒタ…ヒタ…」足音が近づいてきました。
もう終わりだと思った瞬間………扉が開き私は、調理場へ倒れこみました。
私は、扉を閉め、水道台の下に潜り込み、息を殺しました。
「ガチャ…」扉が開き、足が部屋に入ってきました。
私は、ただその足がこちらに来ないことを、祈っていました。
「ヒタ…ヒタ…」足が、私の前を通り過ぎていきました。
足は、調理場を一通り歩いた後に、私を見つけられなかったからでしょうか、調理場から出て行きました。
私は、この場から早く立ち去りたいという衝動から、意を決し、部屋を出ようとしました。「ヒタ…ヒタ…」しかし、扉越しに、足音が聞こえてきました。今出ていけば、あの足に遭遇してしまうことは、間違いありません。
そのため、私は、故意に音を立て、足を調理場に呼び、扉から離れた隙をついて、ここから逃げ出そうと考えました。
「カンカン」私は、雪平鍋を投げ、音をたてました。その瞬間に、扉が開き、足が入ってきました。
「ヒタ…ヒタ…」足が、私の前を通り過ぎ、調理場の奥へ向かっていった瞬間に、私は懐中電灯をつけ、扉を開けました。
「ガチャ…」そこには、男が立っていました。
それから13年が経ち、家を建て直すために、荷物の整理をしていた時でした。
母が、半世紀以上前に「喫茶店」で起きた事件を教えてくれました。
「喫茶店」がある1階は、元々、書生に貸していたスペースだったそうです。そこには、3名の書生が身を置いており、彼らはもとから旧知の仲であり、関係は良好であったそうです。
しかし、ある日、曾祖母が朝食の支度ができたので、彼らを呼んだのですが、返事がありませんでした。それに異変を感じた曾祖母は、彼らの部屋に入り、2名の死体を見つけました。
もう1名の書生は、池に身を投げていたそうです。
このようなことが起こってしまった結果、部屋を利用するものはいなくなり、部屋は放置されていたのですが、30数年前に、そこを改装し、「喫茶店」を開きました。
しかし、「喫茶店」は、開業して、僅か7ヶ月で店じまいをしてしまいました。
それから、曾祖母が亡くなり、1階に立ち入る者はいなくなりました。
そして、私の体験に到るということです。
私は、母の話を聞き、足が私の前を通り過ぎたにもかかわらず、喫茶店内に男性がいたことについて、合点いきました。
怖い話投稿:ホラーテラー ししさん
作者怖話