長編39
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憑かれた男

長いです。

誤字脱字はスルーでお願いします。

7年前の今位の夏の季節

俺と友人の剛、貴之と貴之の彼女の玲奈の4人で、毎日暑いし山の川へ、キャンプって程ではないが、涼みに日帰りで行こうと計画し、車バカの剛のワゴン車で向かっていた。

時間は午後13時過ぎ。

前日の大雨の後の晴天、まだ若干水たまりが道に残っている。

地元から車で一時間程だし、前に同じメンバーでドライブの途中に寄った事があり、道も覚えてるし、川まで多少道が険しいが日帰りなら余裕だべ?と、何の準備もせず、身ぃ一つで向かっていた。

今思えば後悔している…

山が見えてきた。

山の入り口にあるコンビニの駐車場に停める。

コンビニでお菓子や酒などを買った。

地方のコンビニなので駐車場が広く、店の裏側に山へ通じる細い歩道があり、そこを進めば川に辿り着けるのだ。

川への案内の立て札もあり、前回その道を見つけたのは貴之だった。

川へは歩いて20分位で着く予定だ。

全員がそれぞれお菓子などの袋を分担し持ち、歩いてさぁ行こうとした時−

「あれ?」

先頭の剛が言葉を発した後に全員が同じ言葉を発した。

歩道入り口の道が草木で完全に塞がれていた。

案内の立て札も無くなっていた。

俺「入口は確かにここだよね?」

剛「間違いなくここだよ…なんでねぇの?」

貴之「川だし無くなる訳ないよな?」

玲奈「え〜?どうするの〜?」

などと話をしていた時−

《ガサガサッ》

山のその入口の方から突然物音がして、俺達は一瞬ビクッとした。

剛「なんだ?動物か?」

先頭の剛が注意深く見つめた。

もう一度草木が揺れた直後、山の中から中年の男性がでてきた。

俺達は男性を見た直後、違和感を感じた。

なぜならその男は真夏なのに冬に着るような厚手の黒いジャケットを着ていたのだが、山から歩いてきて、気温は30度を超えているのに、汗一つかかずに、無表情だった。

玲奈は少しの恐怖を感じたのか、貴之の袖を掴んだ。

男の目がギョロギョロと四回動いた。

俺達を確認したのだ。

するとそのまま歩きだし俺達の間を割るように歩き、駐車場の端へ向かっていた。

剛「…あの!…この先に川…まだありますよね?」

剛が突然男に問いかける。

男は聞こえないのか止まらない。

貴之「!…バカ…」

その怪し過ぎる男に不安を感じて関わりたくなかった貴之は、話しかけた剛に小声で言った。

その瞬間、男の歩みが止まる。

やばい聞こえたか?!と思った貴之は下を向く…

男「…………川…あるよ…。」

低い声で男が言った。

剛「あ…ありがとうございます!」

剛も男に違和感をもちろん感じていたが、川の方から出てきたし、思い切って聞いたのだ。

男はそのまま駐車場の端に停めてある白の軽トラに乗り込み、運転席からこちらをチラッと見た後、車道へでて走り去った。

剛「び…びっくりした〜…」

貴之「なんでいきなり話しかけんだよ!危ない奴だったらどぉすんだよ…」

俺「充分危ない見た目してたけどな(笑)」

玲奈「あの人、一人で何しに行ってたんだろ?県内ナンバーだったし、地元の人だよ…」

ちゃっかりナンバーチェックをしてた玲奈。

貴之「さぁな…リストラでもされて、自殺しようとかしてたのかも?(笑)」

俺「うわ〜見た目といい、マジ自殺志願者かもな…」

剛「まぁ、川がちゃんとあるのわかったし、あんなハゲ忘れて行こうぜ?」

確かに男は中年ハゲ?というか、後頭部にだけ髪が生えてるいかにもオヤジだった。

男が去り、安心感から俺達は若干の笑みがこぼれつつ草木を掻き分け、川へ向かいだした。

入って見ると驚いた。

入口だけではなく、歩道自体が草木に覆われ道がほとんどないのだ。

歩道の土を踏むどころか、完全に草を踏みながら歩いていくしかなかった。

このままだと危ない。

急斜面の途中の歩道で、歩道の左手には上から見たら崖のようになってて慎重に歩かねば、落ちてしまう。

死ぬような高さじゃないが、万が一落ちれば無傷では済まないだろう…

剛「こりゃ危ないからゆっくり行こう…」

先頭の剛が後列の俺達に言う。

俺「そうだな、時間あるし、落ちたらシャレにならないしな…」

といいつつ、先ほどの男がこの道を平然と歩いてきたのを考えると軽く恐怖を覚えた。

しかし、今は安全に歩くほうが大事なのでその事は口にしなかった。

貴之「玲奈、危ないから手ぇ掴んでろ。」

玲奈「う…うん。」

それぞれゆっくり慎重に歩いていた。

山に入って10分程だろうか…

ゆっくり歩いていたので川へ着くのが予定より時間かかりそうだ。

その時−

《ピシィッッ!!》

何か右手上の木々が、軋むような音が聞こえた。

思わず足を止め、上を見る俺達。

その瞬間何か大きなモノが俺達に迫ってきた。

土砂崩れだ…

前日の大雨で地盤が緩んでいたのだろう。

「うわぁぁーー!・・」

土砂崩れと認識し、慌てて叫んだが時すでに遅く、土の塊に叫び声は完全にかき消された。

ニュースにでるような大規模な土砂崩れではなく、小さいものだが、俺達4人を飲み込んで、崖下に連れてくには充分過ぎる規模だった…

(目の前が真っ暗だ…

息苦しい…)

(苦しい!!)

意識が戻って数秒後、体中に冷たさと苦しさを感じた俺は訳もわからず、必死にもがいた。

「ぷはっ!…ゴホッ…」

ぬかるんだ土を手で掻き分け、口の中に入った土を吐き出し、新鮮な空気を吸い込む。

完全に埋もれてたら窒素死してたと思うとゾッとした。

だんだんと意識がハッキリしてきた。

ぬかるんだ土が幸いしたか大きなケガはないが、所々痛みを感じた。

俺「ゴホッ…(皆は?)」

泥だらけになりながら辺りを見渡す。

自分達が買った菓子や飲み物が辺りに散乱していた。

そこに下半身を土砂に埋まって仰向けで倒れてる剛を見つけた。

俺「剛!…おい!起きろ!起きろって!」

頬を平手で叩く。

剛「…ん……」

剛が目を覚ました。

俺は安心しつつ、剛の下半身の土砂を掻いてやり、無事に出してやれた。

剛「…痛…なんとか無事みたいだな…」

辺りを見渡しつつ中腰で両膝に手をあて剛が言う。

俺「貴之達が見当たらない…」

(まさか土砂の中に埋まってるんじゃ…)

極度の不安が俺と剛を襲う。

必死に手当たり次第、二人で土砂を掻き分けるが見つからない…

俺「…貴之…玲奈…」

最悪な事が頭をよぎった瞬間、

剛「…おい、こっちだ!」

剛が急に大声で呼ぶので、急いで剛の元へ向かう。

そこには土砂崩れに遭遇する前と同じく、手を繋いで気を失ってる貴之と玲奈がいた。

どうやら途中で投げ飛ばされたように、俺達とは離れてた。

今度は剛が貴之の頬を叩く。

貴之「う……ゴホッ」

貴之はむせながらも意識を取り戻した。

俺は安堵のため息を吐いた、剛も同じだ。

貴之「俺達…生きてるの?」

悪夢から覚めたように貴之が言う。

剛「まだわかんねぇよ…」

上にある俺達が歩いていた歩道を見つめながら剛が言う。

素人目で見て、恐らく20〜30メートルはあるだろうか…

登れなくはない…

そう思った剛は草や木を使い登り始めたが、まだ草木は濡れていて滑り、3メートルもしないで落ちてしまった…

いつのまにか、玲奈も目が覚めて、4人が集まる…

互いを確認したが、全員擦り傷程度で無事なようだ。

時計を確認したが午後4時過ぎ。

俺達はもう涼みに行く所か一刻も早く帰りたくなった…

だが、ここからが本当の地獄だった。

俺達は土砂崩れに遭遇し、大きな怪我はなかったが、擦り傷と全身泥まみれになり、日帰り旅行なんてする気が失せていた。

各自携帯を確認するが案の定…圏外…

電波の入らない携帯は何の役にも立たない…

剛「どうする?ここからは登れそうにないぞ…」

剛が皆に問いかける。

俺は辺りを改めて見渡した。

山の中、歩道から大きくはずれた、大自然のままの草や自分達より何倍もの大きな木。

密集していたので、遠くが見えない…

草木を掻き分けないと歩く道すらない。

夏なので日が落ちるのは遅いが、いくらなんでもこんな所に夜までいたら危険過ぎる。

何の種類かわからない鳥の鳴き声や風でザワザワと揺らぐ草木の音は、すっかり俺達を不安にさせていた。

貴之「と…とにかくさ、上の歩道に沿って駐車場に戻れるようにしようぜ…」

貴之が、いい事言った。

剛「でもよ…完全に塞がれてるぞ…」

上を見ながら、少し離れて先を見た剛が言う。

言われるまま剛が見る方向を確認すると、崖が駐車場の方とは逆に伸びていて、歩道に沿って行けそうもない…

玲奈「……とにかく…あたし…もう帰りたい…」

玲奈は生まれてはじめて死にかけたからか、軽く震えて今にも泣きそうだった…

貴之は愛する玲奈の感情を察知し、繋いだ手を離し肩を左手で抱きしめた。

剛「…川まで後どのくらいだ?」

剛は意外な事を言った。

俺「さぁ…ってかお前こんな目に合ってんのにまだ川行くつもりかよ?」

剛「ここまできたんだし、それにこのまま車に乗りたくねぇよ…川で泥落としてから車乗りたいし…」

最悪だ…

車バカもここまでいくか…

俺「泥なんていいだろ!このまま夜まで迷って遭難したらどうすんだよ?!」

極度の不安からか、思わず声が大きくなる…

剛「…このまま駐車場の方に向かって歩いても、迷うかもしんねぇし、だったら川に行って、そこから駐車場に繋がる歩道から帰れるだろ。

川へは歩道に沿って何とか行けそうだし、帰りの土砂の残骸も…殆ど崖下に落ちて、何とか通れるかもしれないし…」

いつも冷静な剛は、意外と考えていたようだ。

車の事だけかと殴りかかりそうだったが、安全性、確実性を考慮すると、剛の案は最適だった。

距離も明らかに川への方が近いだろう…。

俺「…貴之達はどうしたい?」

貴之「……確かに川へなら、近いし帰りも…いいかもな…

歩道に土砂がいっぱいあったら…ヘコむけど…

…玲奈はどうしたい?」

玲奈「………早く帰りたい…けど…こんな所で死にたくないし、本当に安全なら…」

俺「…決まりだな。」

俺達は駐車場の方を背に、土砂の表面に散乱した飲み物や菓子など、持てるだけ持ち、歩きだした。

これが

一番の間違いだと

誰にも

この時にわかるわけない

俺と剛は1m位の太く丈夫そうな枝を使い、上の歩道を確認しながら、草を掻き分け進み、その後ろを貴之達が続く…。

しばらく進み、川の流れる音が微かに聞こえる。

「近いぞ!」

俺達は砂漠でオアシスを見つけたかのように、進むスピードが早くなる。

その時

《ザグッ……ベチャ…》

山中には不自然な音が、川の音に混じり聞こえた…

一瞬だったので方向がわからず、俺達は辺りを見渡す…

貴之「な…なんだ今の…」

玲奈は一瞬で恐怖に包まれ、貴之の腕を掴む力が強くなる…

剛「…猪とか…熊とか…動物……か?」

俺「………」

俺と剛は枝を構えて、いざという時に備えた…

数分の時間が流れたが何もない…

全員聞いたし聞き間違いではないのだが…

剛「……行こう。」

剛が俺達の緊張の糸を切り、歩き出す。

俺は嫌な予感がしていた。

無意識に山の入口で出会った男を思い出してしまったのだ…

せっかく忘れていたのに…

などとしばらく考えていると剛が走り出した。

俺「お、おい!?」

思わず追いかける俺達。

剛「着いたぞ−!!」

振り返り、大きな笑顔をこちらに向ける剛。

その剛の後には、前にきた時そのままの川が見えた。

俺達は疲れや痛みを忘れ、子供のように川へ走る。

先ほどの不自然な音など忘れて…

それは歓喜だった。

川の水で顔を洗う剛。

水の掛け合いをする貴之と玲奈。

俺も顔洗おうと手を川に入れる。

冷たすぎもなくぬるくもなく、ちょうどいい水温、夕日が反射しハシャぐ貴之達を照らし、一枚の絵のようだった。

この時が俺達の今日一番の笑顔だった。

泥を落とし、ハシャぐだけハシャいだ俺達は、川の脇の岩に腰掛けて休んでた。

夕日が落ち掛けてきた…

そろそろ行かねば道が見えなくなってしまう…

水分補給や軽く菓子を食べ、休憩はとれたので、足取りも軽く、前回来た時に通った歩道の入り口の方へ向かった。

相変わらず草木が生い茂り、スムーズに進めはしないが、崖下から川へ向かう時に比べたら、たいした事はない。

濡れた服が気持ち悪かったが、掻き分ける手も慣れ、順調に進んで、もう帰れると信じていた俺達は自然と笑みがこぼれ、まるでハイキングでもしているかのようだった。

しばらくして、その楽しい時間は一瞬で吹き飛ばされた…

土砂崩れのポイントまでこれたのだが…

道が無くなっている…

崖の斜面と同じ角度で歩道が土砂に“消されて”いた…

掻けばどうにかなるような量ではない…

絶望的…。

口を開く者はいない。

玲奈は崩れるように座り込み、泣き出した。

貴之も崩れ落ちた。

剛「…うあぁぁぁーーー!!!」

苛立ちや不安が爆発したのか、剛は持ってた枝を土砂に突き刺し、強引に道を作ろうとした。

だが表面から少し中はまだぬかるんだ土。

土に捕らわれ大きな音を立て、武器のように持ってた枝は真っ二つに折れた…

剛も座り込む…

剛「誰か……

…助けてくれーー!!!」

いつも冷静な剛とは違うその姿は、俺に簡単に死を連想させた…

自然と持ってた枝が手から離れて、気力が無くなり俺も座り込む…

どれくらい過ぎただろうか…

辺りは暗くなりはじめ、鳥や草木の揺れは激しさを増し、俺達をあざ笑っているようだった。

こんな事になるなんて誰も予想してない。

懐中電灯なんかなく、

愚かな装備

誰も悪くない

山をナメてた…

口を開いたのは剛だった。

剛「川に戻るぞ。

ここにいたらまた土砂崩れに合うかもしれない…」

落ち着きを取り戻し、冷静に判断したその台詞は妙に力強かった。

行きとは真逆のテンションで川へ戻る俺達…

まだ何とか先は見えてる。

道中、自ら口を開く者、ましてや軽々しく何とかなる…助かる…など、無責任な事は誰も言えずに無言で進む。

川が見えてきた頃…

《ボキッ…グチャ…グチャ…》

また嫌な音がした。

剛「しっ!誰かいるぞ…」

剛がしゃがめとジェスチャーする。

かがんだまま、川の方を見た俺達は小さな明かりを見つけた。

明かり=ライト=人=助かる

そう思った貴之は、そこにいる者を呼ぼうとしたが、剛が全力で阻止した。

それを横目に俺は目を凝らして、よく見てみた。

そこにはあの男がいた…

何をしてるのか疑問に思った瞬間、男は黒いモノを両手で持ち上げ、岩に勢いよく叩きつけた。

《ベチャ…》

音の正体はこれかと理解した後、一気に鳥肌がたった。

その“モノ”は、猪の頭部だった。

男の足元には猪の体部分が無造作に倒れてる

よく見ると俺達が休憩してた岩場は猪の血で染まっていたが、暗かったので赤くは見えなかったのですぐに気づかなかった。

再度狂ったように、頭を叩きつけ、骨が砕ける音がした後、切断時に使ったであろうナイフを岩の陰からとり、頭に突き刺す…

俺達は見たくないのに、あまりの異常な行動に体が固まり動けなかった…

玲奈は口を押さえ、涙を流している。

ナイフを刺し、手前に動かした時、また鈍い音がした直後、勢いよく血が男の体に飛び散る。

ナイフを足元に落とし、頭の中へ両手を突っ込む…

《グチャ…ニチ…グチャ…》

何かを取り出した。

それは誰が見ても脳みそだった…

男「…ぐふっ」

…男は笑っている。

ソレを口元に運ぶ。

後ろ姿で見えないが、何をしてるかは音でわかった…

《ブチィ…クチャクチャ…》

猪の小さな脳みそを食べたのだ…

その音を聞いた時、玲奈は気を失った…

貴之は玲奈を守るように覆い被さり震えている…

玲奈を抱えて逃げれる訳ない…

剛と俺は、テレパシーで通じ合ったかのように、男に気づかれないように様子を伺いこのままやり過ごす事にした…

頭の内部の肉も捌いて口に入れた男は、猪の体を岩場に乗せ、まるで手術するかのように、雑に真ん中からナイフを突き刺し開いた。

肉…腸…内蔵…

横向きな為、だらしなく飛び出して、むき出しになる中身…

男はむき出しの中身を鷲掴みし、むしり取り、食事を続けた…

生きた心地がしない…

あまりの恐怖で自分が喰われているかのように錯覚を覚えた…

男は食べながら

グフ…

いひぃ…

グゥフフフ…

などと甲高く気持ちの悪い奇声を発し、

俺達の恐怖を煽る…

しばらくし、

食事が終わったようだ…

“食事”が終わったようだ…

残ったのは手術室の術後の床のような辺りに飛び散った大量の血…

牙と頭の形でかろうじて猪とわかる、毛がついたペラペラの皮…

そして折れて原型もなくどこのかもわからない無数の骨…

今までに体験した事のない恐怖の中、俺達は固まっていた…

何かの力で金縛り…なんて不可思議で、後で笑える話なんかじゃない…

ただ単に、ほんの10数m先にいる男の、

異様な雰囲気、

異様な“食事”

それが怖くて怖くて仕方ないからだ…

『神なんて信じない

…神?

クソ食らえ!』

なんて思っているが、この時俺は心底神に祈っていた…

幸いまだ気づかれてはいないが、このままでは危ない…

なぜなら駐車場と、この川を繋ぐ道は、俺達の知る限り、今俺達が通ってきた歩道しかない…

川から向かう入口辺りの茂みに今俺達は隠れている…

男の異様な“食事”が終わって用が済んだなら、この道を使うはずだ…

このままでは見つかってしまう…

俺は剛にギリギリ聞こえる位の小声で耳打ちした

俺「ここは危険だ…

もっと奥の茂みに隠れよう。」

剛は震え、男一点を見つめたまま固まっていたが、俺の声で我に返り、俺を見つめただ力強く頷いた。

貴之にも伝え、玲奈は気絶しているので、貴之と俺で運ぶ事にしたが、貴之が完全に恐怖に支配され、手が震えて上手く玲奈の肩の服を持てずにいた。

剛「どけ…俺がやる。」

剛が小声で貴之をどかすと、剛と俺で玲奈の体を持ち上げ、ゆっくり慎重に茂みの奥へ歩き出した。

先ほどは異常な恐怖だが、

今は尋常じゃない緊張感…

見つかったら錯覚した時のように、俺達も殺されて喰われる…

仕事で何10キロもの重い荷物持って力仕事は慣れてるのに、それより軽いはずの玲奈の体が恐怖と緊張で、ひどく重く感じ、手足が震えてしまう…

『大丈夫だ!大丈夫だ!

大丈夫だ!大丈夫だ!

大丈夫だ!大丈夫だ!

大丈夫だ!……』

必死に頭で繰り返し叫んだ…

気づかれていないか、見るのも恐ろしかったが、男に視線を向けた。

男は食事の余韻に浸っているのか、力なく空を見上げ、遠くの月を見つめている…

『ほら大丈夫だ!』

自分に言い聞かせるように言った。

ゆっくり…

ゆっくり運ぶ…

草一本揺れた音だって出したくない程慎重に…

安いホラー映画ならここで誰かが枝をポキッと踏んで気づかれてしまう所だが、先ほど神に祈ったからか、俺達は枯れた枝は踏まずに無事に移動できた…

ほんの数mの移動でも、とても時間かかったが、運良く男はまだ月を見上げている…

剛や貴之は気づかれないようにそれぞれ自分より遥かに太い木の裏に隠れてる。

玲奈は長い草を壁にして寝かせ、俺は草の隙間から男を見張る…

男がこのまま気付かずに去るのをひたすら待った…

どれ位経った?

生きている実感がない…

なぜ日帰りでこんな所にきたのか自分を恨む…

まだ男は動かない…

『お前はなんなんだ?!

何をしているんだ?!

何故動かない?!

とっとと消えやがれ!!!』

男への恐怖がパンクし、男に対して怒りや憎しみが溢れ出す…

『いつまでいる気だ…

今何時なんだ…』

…時間………

『…携帯!!』

川へ到着した時は、帰れる希望が大きかったから誰も携帯を見なかった。

山の中は携帯は圏外だが、川なら電波入るかも!

ゆっくり…

慎重にズボンのポケットの携帯を取りだす…

《………チャリ…………》

!!

しまった!!

ストラップの金具の音が一瞬鳴ってしまった!!

目が潰れるんじゃないかって位、強くつぶり、調子よく神にまた祈る……

冷や汗が顎から滴り、携帯に落ちる…

俺は勇気を振り絞り、男を確認する…

男はまだ見上げている。

だが何かブツブツ言っている…

俺はまた襲ってきた恐怖と戦いながら携帯をゆっくり開く…

『眩しい…

携帯の液晶のライトがなぜこんなに明るい?!

こんなんでは男に気づかれてしまうじゃないか…』

と、生きて帰ったらメーカーに訴えてやると理不尽な事すら考えてしまう…

電波は??

……一本!!

なんとかいけるだろう…

俺は助けを呼ぶ為に、

静かに数字キーを押す…

『1……1……0…』

小声で喋れる様に携帯をくの字にして口に密着させた。

『…頼む…

…繋がってくれ…』

心臓がありえない速さで鼓動するのがわかる…

あまりの恐怖と緊張で吐きそうだ…

コール音が鳴った!

[カチャ……

ザァーーーーーーーーーーーーーーー]

『……なんだ??』

まるで深夜のテレビの砂嵐のような音…

電波なくてもこんな音はしないはず…

俺「警察か!?頼む!やばい奴がいるんだ、動けない!助けてくれ!場所は…」

俺は警察には聞こえてるが、警察側の電話の不調と自分に言い聞かせ、男に気づかれないようにか細い声で助けを求めた。

[ザァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー………

………ふふふ……ザァーーー]

『!!』

何とか叫び声はあげなかったが、この時俺の心臓は2〜3秒は止まっただろう…

携帯を投げ捨て、激しい震えが絶え間なく襲う…

携帯を投げた音で男に気づかれたのではと、

剛が俺に怒った顔をしていたが、今はそんなの頭に入らない…

『今のはなんだ?!

…今の声はまるで…

あの男の声じゃないか…』

ダサい男と思われてもいい…

この時俺は訳がわからな過ぎて、ひどく混乱し泣いていた。

涙と鼻水やよだれが垂れる顔で、また男を確認する…

俺はまた心臓が止まっただろう…

男は体はそのままで、顔だけ限界まで曲げ、こちらを向きピンポイントで俺を見つめていた。

その目は駐車場で出会った時と同じで死んだような目をしていたが、口は猪の内臓や脳みそを喰い漁って、真っ赤に染まっていて口が裂けそうな程笑っている…

月明かりに反射され、口元だけ赤いその顔は、何かに憑かれた狂気のピエロのようだった……

俺は男のくせに女のように情けなく、ひどく怯えた…

戦う気なんておきない…

ただ黙って刃物で引き裂かれ、猪のように脳みそや内臓などをむさぼり喰われるんだと…

頭にはただでかく…

『死』

の一文字が浮かんだ…

奥歯が、ガチガチ音を鳴らす…

その音に気付き、状況を察知したのは、やはり剛だった。

剛「逃げろ−−!!!!」

剛の大声で、恐怖に飲み込まれてた俺は、ビクッとしながらも我に返った。

その大声は皆に危険を知らせる以外に、俺の絶え間ない恐怖の渦から救いの手を差し伸ばしてくれたように思えた。

急いで立ち上がり、逃げ出す。

最初からただ震えていた貴之も決死の覚悟で玲奈を持ち上げ肩に乗せて走り出す。

俺は最大の恐怖から戻ってこれたからか、妙に冷静で、貴之や剛は歩道を走り始めたが、先が行き止まりなのを思い出した。

俺「そっちはダメだ!!

山の中に行くんだ!!」

剛と貴之は、言葉の“意味”に気付き、急いで方向転換。

俺は男を確認。

ナメてるのか?と思う位ゆっくりしたスピードで歩いてこっちへ向かってる。

男の右手には月明かりに反射してる、でかく赤く染まったナイフがあった。

《ゴクッ…》

あんなので刺されたら…

俺は生唾を飲み込み走りだした…

走ってる間、妙な冷静からか恐怖よりも疑問が頭を支配していた。

数時間前、

男は確かに駐車場から軽トラで出てった。

それは間違いない。

駐車場と川を結ぶ歩道は一本道。

俺達は男を駐車場で見た後に歩道を通り、土砂崩れに遭った。

歩道の反対から向かったら土砂で歩道は全く通れなかった。

他の道は崖や封鎖されていて入れない。

『じゃあ男はどこからあの川へ辿り着いた??』

『俺達は今日…

…死ぬのか…?』

俺達は走った。

この世のものとは思えない異様な男から逃げるために…

正確には恐怖から…

あまりの恐怖でパニックとなりバラバラに逃げてしまう俺達…

『息が苦しい…』

どれ位走ったろうか…

倒木に寄りかかり息を整えて辺りを見渡す。

男はいないが、

皆もいない…

大声を出せば見つかるかもしれないが、男にも見つかる可能性がある…

ゆっくり慎重に辺りを警戒しながら、歩く…

息が整って、少しばかり落ち着きを取り戻した俺は、貴之の事を思い出した。

気を失った玲奈を抱えたまま走ってる…

人一人抱えて速く走れる訳がない…

もし…

あの男に捕まってたら2人共……

最悪なシナリオが頭から離れない…

さっきの男の異様な行為や貴之達への不安や恐怖から、息を整えたのに荒くなり、心臓の鼓動は早くなり、体が震えだす…

汗か涙か…

顔を腕で拭き取り、周りの気配に集中し、歩く…

少し歩いた所で…

《ザザザ…ザザザ…》

何かを引きずる音がする…

音を立てずにその音の方向へ…

どうやら高さ数mの小さな崖下から聞こえる…

ほふくて崖の端に行き、ゆっくり下を確認する…

人影だ…

月明かりだけなので暗く、ぼやける。

目を凝らして見ると…

それは貴之と玲奈だった。

まだ気を失ってる玲奈を貴之は背中で背負いこんで、足を引きずりながら歩いている…

顔が見えるが、先ほどの異常な恐怖からか、放心状態で歩いている。

でも無事に再会できた俺は久しぶりに笑顔がこぼれる。

俺「貴《パキッ》…」

?!

貴之達の後ろの方で枝の折れる音がした。

『アイツだ!!』

貴之達の10数m後ろを、あの男がゆっくり歩いていた。

貴之は全く気づいていない…

男は完全に貴之を見ており、ゆっくり確実に貴之達との距離を縮めていた。

『このままじゃ貴之達が!!…』

先ほどの異様な行為がフラッシュバックする…

このままでは2人は殺されてしまう…

だが俺が助けに行ったら俺が…

葛藤する…

┏━━━━━━┓

┃友…命…殺…┃

┃…ナイフ……┃

┃…助け…る…┃

┃見捨てる……┃

┃恐怖…震え…┃

┗━━━━━━┛

さまざまなフレーズが頭の中を駆け巡る…

とてつもない恐怖に駆られながら、俺は無意識に武器を探していた…

山の森のど真ん中にナイフに攻撃力が勝る武器なんてある訳ない。

横の茂みに1m位の太い倒木を見つけ両手で握りしめる…

再び崖の下へ視線を静かに向ける…

貴之達と男と距離はほんの2〜3mまで縮んでいた。

男は右手に持つ、赤く染まったナイフをゆっくり振りかざす…

俺の恐怖と不安は一気に高まる…

男のナイフが月明かりに反射し、眩しさを感じたその瞬間、俺の中で何かがはじけた。

俺「う〜…うあぁぁーー!!!!」

俺は勢いよく立ち上がり、下の男めがけて手に持つ倒木を投げつけた。

《ガキーン!…ドサ…》

コントロールには自信なんかなかったが、投げた気はナイフに当たり、甲高い音を鳴らし、木はそのまま男にぶつかり、男は倒れた。

俺「貴之!後ろだ!!逃げろ!!!!」

甲高い音と俺の叫び声で、貴之はビクッとして、すぐ後ろに男がいた事に慌てふためいて、また急いで走りだすが、玲奈を抱えたまま…足の遅い人の走りより遅い。

このままでは捕まってしまう…

俺は崖に沿って生える枝をロープ代わりに崖下へ降りる。

『男は?!』

すぐさま男を確認したが、痙攣し何やらうめき声をあげている。

貴之達の元へ走った。

俺「貴之!行くぞ!!」

玲奈の左腕を俺の首へ回し、2人で抱えるように走りだす。

ぎこちない走りだが、貴之一人よりは速く、男から逃げれるかもしれない。

後ろを振り返る余裕なんてない。

無我夢中で走った。

すると後ろで落ち葉を踏みしめる音が聞こえ、慌てた俺は走りながら振り返る。

男が追いかけてきた。

食事の後のスピードとは違い速い。

何より違うのは男はナイフを持っていなかった。

ナイフは男の右側の首に突き刺さっていた。

木を投げつけ弾かれたナイフは、すぐ下の男の首に突き刺さったのだろう。

明らかに男は痛みを感じてない。

《ブシュ…》

何かふき出すような音が聞こえ、もう一度振り返る。

男は雑にそのままナイフを抜き取り、傷口からは血がふき出す。

目は死んで、口は相変わらず笑い、赤く染まった歯の隙間から、猪の血や、男の血、よだれが小さな泡となってグチュグチュ音を立てている。

俺は恐怖の絶頂だった。

走っていても全身が震えているのがわかる…

男はすぐ後ろまできていた。

この時、死を覚悟した。

人は死ぬ直前、走馬灯のように何かを見るか、スローになるという…

どうやら俺はスローのようだ

完全に死を覚悟していた

むしろこのとてつもない恐怖が死んで終わるなら…と考えたが

横の貴之の叫ぶ顔が俺に戦う勇気をくれた…

貴之と玲奈を突き飛ばし、振り返る

男は気持ち悪い笑顔のまま、全てがスローに見えているせいか、ナイフをゆっくり振りかざす

ナイフを見つめ、ゆっくり俺の顔に向かうナイフを両手で止めようとする

両手で男のナイフを持つ拳を受け止める

だが格闘技も何も経験にない素人の俺にナイフを止めるなんて無理だった

《サクッ》

右手は拳を止めたが、

左手の人差し指と中指の間がナイフの刃に突き刺さり、めり込んだ…

あまりの痛さと、不思議な血の生ぬるさで、スロー状態が解けた。

左手には力が入らないが、全神経を使い、何が何でもこの右手は離すものかと、男を睨みつける。

そんな俺を見た男は、また笑い、口からまた赤い泡を吐き出し、一気にナイフの所へ顔を動かした。

何をしたのかはすぐわかった。

《ガジュ…ブチッ》

とてつもない激痛が走り、思わずナイフを離してしまう。

痛さから左手を右手で包む…

できれば見たくなかった…

左手の人差し指と中指は、必要異常に開き、手の隙間から、下の土が見える…

さらに人差し指の右側、根元から第一関節まで、肉がえぐれていて、何か白いモノが見えていた……骨だ……

経験した事ない激痛で、その場に膝から落ちる…

死を覚悟したからか、目の前に男がいるのに、貴之の方を振り返り…

俺「貴之…逃げでぐれ…」

あまりの激痛で、男と同じように、だらしなくよだれが滴り落ちる…

最大の震えが遅い、上下左右に震える体を止める事ができない。

男を見上げる。

《グチュ…ニチャ…》

俺の指の肉らしき物を

噛み締め、猪・男・俺、全てが合わさった液体が男の口から垂れ流れている

男はナイフの刃を下向きに持ち替え、振りかざす…

男の気持ち悪い笑顔が消え、真顔になる…

『終わった…』

覚悟し目を瞑る。

貴之「止めて!止めてくれぇーー!!!!」

貴之の悲痛な叫びが響き渡る…

《ガツンッ》

不思議な音がした…

目を開け目の前を見ると、男の血に染まった手ではなく、泥まみれの手が目の前に差し出されていた…

『剛だ…』

剛は走ってきたからか、息は荒かった。

俺の後ろへ回り込み右手を首に回し抱える。

『男は?!』

男に視線を向けると、剛は太く、先の尖った木をぶつけたのか、左耳の辺りが陥没し、赤い血に混じって黒い血がドクドクと溢れだしてる。

男の頭の下の葉はみるみるうちに、その色に染まっていく…

『死んだ…のか?』

誰がどう見ても死んでた。

俺達は再会の挨拶をする余裕もなく、一刻も早くここから去りたくて、歩きだした…

ゆっくりと草木を体で掻き分けていたから、シャツに枝に何回か引っかかり破れる音がした。

裂けた左手に葉や枝が触れると激痛が走る…

その度に苦痛の顔をしていた俺を剛は見逃さなかった。

急に足を止め、着ていたシャツを脱ぎ、破りだした。

剛「この手、このままでは危ない…ちょっと…いやかなり痛いが我慢できるか?」

先ほどは死を覚悟していたんだ…

それに比べたら…

俺は強く頷き、剛の肩を掴み、堪える準備をした。

シャツの生地を一周させる。

すぐさま赤く染まりはじめる…

剛「…フゥ…いくぞ?」

裂けた隙間を下から持ち上げるようにゆっくり縛る…

《クチャ…ギュゥゥ…ミシ…》

俺「グァーーー!!!!…」

意識がハッキリしていると、音も鮮明に聞こえゾッとする…

しばらく歩き、開けた場所にでた。

体力的・精神的にも限界だった俺達は、

枯れた木を集め、

この場所で、少し休む事にした。

しばらくして…

玲奈が目を覚ました。

《パチッ…》

寄せ集めた枝に火をつけ、虫の鳴き声と燃える枝の音がする。

焚き火をし、休んでいたが誰1人口を開く者はいなかった…

俺は左手の激痛に必死に耐えていた…

シャツを巻き、血が流れるのは何とかおさまっているが、かなり血を流しこのままでは、きっと血が足りなくなる…

貴之は玲奈のそばで下を向き、泣いているのか時折、肩を揺らしている。

俺を助けてくれた剛は、長い枝を焚き火の火の中に意味なくに出し入れしている。

貴之「…なんなんだアイツはよ…」

少し泣きながら貴之が口を開いた。

貴之「…なぁ!何なんだよアイツ…意味わかんねぇよ…何で殺されかけなきゃなんねぇんだよ!誰か教え「落ち着け!!」

また混乱しだした貴之の話を、剛が一喝する。

剛「…俺達にわかるわけないだろ…きっと快楽殺人者とかそんな所だろ…誰でもいいんだよ…殺すのは…」

確かにアイツは俺達に恨みがあるなんて到底思えない。

それに頭がおかしくなってない限り、猪の死肉をそのまま喰うなんて常人には無理だ…

剛に一喝され、やり場のない不安から貴之は、玲奈の頭を撫で、何とか落ち着こうとしていた。

「……ん…んん…」

その場の三人がその声の主に顔を向ける。

玲奈が目を覚ました。

貴之「玲奈!…良かった…良かった…」

玲奈は俺の手の事にすぐ気づいたので、俺達は食事の後に何があったかを話した。

玲奈「…そんな……そんな事って…」

頭を抱える玲奈。

剛「とにかく…今歩き廻るのは危険だ、明るくなるまで…と言いたい所だけど、手の治療をしないと…男の事はもう大丈夫だし、何とか車まで戻らないと…」

確かにその通りだ…

玲奈「ねぇ…」

玲奈が暗い声で話す。

玲奈「その男…ちゃんと死んだのを確認したの?もう大丈夫なんだよね?」

俺・貴之・剛は三人で顔を合わせる…

俺「脈が止まったのを確認した訳じゃない…けど明らかに死んでたよ…」

陥没した耳から、血を流し倒れてる男を“見た”だけだ…

言いながら俺は、また不安と恐怖の感情が大きくなり始める…

また襲われるのはごめんだ…

それに完全に安心したい気持ちが強いので、

貴之は反対したが、俺達はそれぞれ武器代わりの木を持ち、男が倒れてる場所へ確認しに戻った。

そろそろだ…

玲奈に戦う力はないし、少し離れた場所に貴之と玲奈を残し、俺と剛はそのポイントへ向かう。

俺は片手が使えないので剛が先頭を歩いた。

男が倒れたのは、大きな木と密集し生い茂った草の裏だ…

『大丈夫…絶対に死んでるから安心しろ…』

また心臓の鼓動と高まる不安と恐怖の俺は、必死に自分に言い聞かせる。

剛が持ってる木でゆっくり草をどける…

『…ドクン…ドクン…ドクン……』

心臓の鼓動が強くなり、胸の所が鼓動に合わせて動いてるのがわかる…

『!!!!』

いない!!

男がいる筈なのに、あるのは男が流した血に染まってる草だけだった。

剛「おい!男がまだ生きてる、気をつけろ!」

剛が叫んだ瞬間、玲奈の叫び声がする。

離れて俺達を見ていた貴之と玲奈の後ろの茂みに隠れていた男は、静かに忍び寄り、後ろから貴之に近づき、首の後ろから勢いよくナイフを突き刺した。

刃渡りの長いナイフ、首の後ろから斜めに柄の所まで深く刺されたナイフは、貴之の口から飛び出し、前歯が刃の先で押され、えぐれて歯並びはひどく変形する。

「!!カッ…ガフッ!…」

貴之は自分に何が起きたかわからず、眉間にシワを寄せ涙を流す。

大量に湧き出る血で口の中が血で埋まり、むせる。

ナイフの刃で喉も潰され声にならないうめき声をあげた。

ナイフが突き刺さったまま倒れ込む貴之。

玲奈は泣き叫びながら、腰を抜かしたように崩れ、両手両足で後ずさりする。

男は刺さったナイフを回収しようと、首のナイフを力任せに左右に動かす。

《グチュ…グチュ…》

「ア………ゥヴ……」

まだ息がある…

残酷な事にナイフが動く度に貴之は苦悶の表情を浮かべ、ナイフが抜けた時に、顔の力が一気に抜けた…

うめき声も止まってしまった…

男は目の前の玲奈、そして俺達を確認しようとギョロギョロと不気味に目だけを動かした。

俺達は固まった…

剛「玲奈ぁ!こっちへ走れ!!」

剛が叫び、玲奈と男の方へ走る。

玲奈は目の前で恋人を惨殺され、完全にパニック。

泣き叫び、首を振りながら振り返り倒木を乗り越えこちらへ走り出す。

《ザクッ》

玲奈が倒木を乗り越えようとしている時、男は後ろから玲奈の腰にナイフを突き刺した。

刺した所から、円を描くようにみるみる赤く染まる服。

玲奈「嫌ぁーーあぁ!!」

玲奈の声がさらに激しさを増す。

剛「この野郎ぉ!!」

剛が武器を構えながら男に立ち向かおうと走る。

俺も死ぬ覚悟で男に向かう。

1日で死ぬ覚悟を何回もするなんて…

それだけで地獄だ…

こちらに向かってくる俺達に気づいた男は、ナイフを持ったまま、反対の手で玲奈の首を掴み、後ろへ投げ飛ばし、その勢いでナイフを抜く。

頭から飛ばされ、木に強く頭をぶつけた玲奈は叫び声が止まる…

2人の血が滴り落ちるナイフを持ったまま、また不気味に笑う男。

それを見た剛は足を止めるが、再度立ち向かう。

木の枝を力任せに男の顔めがけ振る。

男は平然とナイフの逆の手で防御し、そのまま枝を掴み、ナイフを真っ直ぐ剛の肩に突き刺した。

剛「ぐぁあ!!」

剛は痛みに耐えながらも、思いっきり男の腹を蹴る。

《ブチュッ》

男が少し後ろへ飛ばされた勢いで、剛の肩のナイフが音を立てて抜けた。

痛みで膝をつき、肩を押さえる剛。

一度倒れた男はすぐさま立ち上がり歩み寄る。

剛の前に立つ。

《…ドクン…》

その瞬間、先ほどの俺の姿が重なり、フラッシュバックをおこした。

ドクンと鼓動する度に、男に対しての恐怖は、どんどんと怒りに塗りつぶされていく…

「うおおぉぉぉーーーー!!!」

俺は全速力で男に向かって走り、横から思いっきり飛び蹴りをした。

男は勢いよく吹き飛び、その途中で木に顔がぶつかる。

《ベチャッ》

男の血が一気に噴射したように木につき、木の根元に男の赤く染まった歯が何本かポトポト落ちた。

飛んだ勢いは死なず、そのまま斜面へ転がり続けた男。

俺「剛!大丈夫か?!」

剛「あ…あぁ…」

蹴りからすぐさま立ち上がり、剛を起こし腕を掴み逃げる。

貴之と玲奈に視線を送ったが…

それぞれ首と腰から血を流し、目を見開き口からも血を流している…

『殺された…』

声をあげて泣きたかったが逃げるのが先だ。

俺と剛はどこへ向かうかもわからず走る。

『うぅ…』

走りながら、大切な友達を目の前で殺され、声を押し殺し泣く俺と剛…。

左手のシャツがほどけて、ポタポタと再び血が落ちる。

絶望感が2人を襲う…

体中が痛い…

ただ左手の痛みを感じなくなってきたのはいいが、神経が死んだって事か?

こんなえぐれてたら…

もう再生は無理か…

男に貴之、玲奈を殺され何とか生き延びた俺と剛…

友を失い、悲しむ余裕はない。

今、どこに向かっているかもわからない…

とにかく恐怖から逃げたい一心で足を動かす。

風が生暖かく気持ち悪い、喉もカラカラだ。

もう辺りが見えない程、真っ暗だ…

枝に着ていたシャツを巻きつけ火を付けて灯りにしていたが、油を染み込ませた訳じゃないし、数分で消えてしまう…

燃やす物が無くなったらどうすれば…

男の恐怖に加え、

暗闇の恐怖…

もう…耐えられない…

その時、風に乗って奇妙な臭いがした。

『ウッ…』

俺と剛は立ち止まり、凄まじい吐き気が襲う。

嗅いだ事のない臭い…

何か腐ったような…

『何の臭いだ…』

口から胃液が上ってくる感覚…

俺達は残り少ない生地を巻きつけ火を灯す。

剛が火を持ち、2人とも口を押さえながら、臭いの元を探す…

その元を確認した途端に2人同時に吐いた。

人の手…

火を近づける剛…

いつのかわからないがここ最近だろう…

真夏で暖かく、腐敗がひどい…

皮膚の面積より蛆虫が群れている面積の方がでかい。

そのすぐ近くに、手の持ち主が横たわっていた…

服の隙間から大量にうごめく蛆虫…

はだけたシャツの下のお腹部分は、首下からヘソ下まで真ん中から開かれ、その中にあるべきモノたちがなく空っぽ…

開けた所の内部にも蛆虫がウヨウヨいる…

頭も…雑に壊され、内部がもぎ取られたように無くなっている…

また吐いた。

手口からしてあの男の仕業だ…

貴之、玲奈もこうなってしまうのかと思うと…

吐きながら、流れる涙を拭く。

口の中が気持ち悪く、余計に水分が欲しくなる…

もう…

限界を超えている…

その死体に俺達ができる事は何もなく、

ただ…

怒り、恐怖、不安…様々な感情が増幅する…

立て続けに色んな事が起こり、頭がおかしくなりそうだ…

悪夢なら覚めてくれ…

と何回思ったのだろうか…

その度に体の痛みで現実なんだ…と思い知らされる度に、絶望する…。

いっそのこと、二人して崖から飛び降りて自殺した方が楽じゃないか?と考えてしまう。

だが、横にいる剛のその表情はまだ生きる事を諦めていない…

剛に比べて俺は何て弱い人間なんだろう…

互いを支え合い、足を動かしながら、俺は良い事の何一つ考えられずにいた…

剛に申し訳ない気持ちでいっぱいだった…。

会話をする体力も気力もなく、さまよい歩く。

すると何か聞こえる…

2人共気づき、足を止めて耳をすます…

《………ザーーーー》

これは聞き覚えのある音だった。

川が近くにある!

互いに理解し、自然と笑みがこぼれ、相手の肩を掴む力も強く、より強く地面を踏みしめながら、音の方向へ向かう。

木々を抜け一気に涼しさを感じる。

やはり川だ。

山を登ってる感覚はなかったし、最初の川からだいぶ下流だろう。

このまま川の流れに沿って行けば山を出られるかも…

危機的状況が全て解決した訳ではないのに、久しぶりの安堵感に大いに喜び、川へ走るが、体がガタガタで小石に何度も足をもってかれて転ぶ俺。

ふと横を見ると剛も同じように転んでいて、互いに笑い合う。

すぐさま水を飲もうと川の中へ手を入れて水をすくう。

『ズキッ』

激痛。

あまりの喜びに左手の事を忘れたまま水の中へ入れてしまい、しみる所の痛みじゃない…

痛みで叫びたかったが、叫び声も枯れる程、喉がカラカラだったので、我慢し右手で何度も水を口へ運ぶ…。

俺と剛は呼吸を忘れるほど飲み続け、落ち着く頃には息が荒れていた。

水で満たされ、極度の緊張・恐怖から少しだけ解放された俺達は強烈な眠気に襲われ、気づいたら寝てしまった…

《…クァ…カッ…ハグッ…》

奇妙な声で目を覚ました。

すぐ横にいたはずの剛が横にいない…

立ち上がり辺りを見渡した。

寝起きで頭が働かなくても瞬時に理解した…

あの男が剛の上に乗り、両手で首を絞めている。

片耳は陥没し、首から血を流し、口も怪我をしているのに…なぜ執拗に追いかけてくるのだ?!

必死にもがき、男の手にはみるみる剛の爪痕がつき、血が滲み出す…

俺は男にたいしての恐怖より、怒りが勝っていた為か、体は固まる事は無かった。

足元の無数の石を一つ拾い男に向け投げつける。

それと同時に剛のもがく手が遅くなり両手はそれぞれ左右にパタンと倒れる…。

《ゴッ!》

頭を狙ったがそれて、男のナイフ跡がある首に当たり、鈍い音がする。

衝撃で首から再び血が少し噴き出しながら倒れる男。

溜まった怒りが爆発し、大声を出しながら男に走り、わき腹に渾身の蹴りを入れる。

「…うぐぇっ!」

男は口から血などの様々な液体を吐き出し、悶える。

《ブシュウゥ!!》

間髪いれずに、頭を蹴り飛ばし、液体を吐き出しながら数m転がる男。

俺「ハァッ…ハァッ…剛!剛!!

しっかりしろ!!」

頬を数回平手打ちし、首の脈を計る。

不規則だが微かに脈はあるようだ…

必死に剛を起こそうと試みる。

「…うふひひ…」

男の笑い声に驚き、振り返る。

男は俺達と同じように体中から血を流し、歯は何本か折れ、そこにできた隙間から絶え間なく液体を流し続け、足元の無数の石にポタポタ落ちる。

その状態で、あの笑みを続けている。

『ゴクッ…』

唾を飲む…。

次の瞬間、俺の頭に石が振り落とされ、意識が飛んだ…

『………』

新たな頭の痛みで意識が回復した。

右手で傷を確認したが、深くはないが、血が流れている…

俺「痛ッ……!…剛?!」

思い出し辺りを見渡しても剛の姿はない…。

『ドクン…』

嫌な予感がする…

『ドクン…』

剛まで失ったら…

『ドクン…』

俺は……

『ドクン………』

「剛ぃぃーーーーーーー!!!!!」

空に向かい、叫んだ…

一人になった事によって、今までの非じゃない程の負の感情の波が俺を襲う…

俺はしばらく…

壊れたかのように…

泣き叫んだ………。

そして一番グロいです。苦手な方は…

それとオチは…初めての話作りですし、多少甘い目で見てください…(泣)

男に石で殴られ、気を失い、気がついたら剛がいなくなった…

頼りになり、極限の恐怖で心の崩壊をギリギリで止めてくれてた剛が…

『剛…』

足元の無数の石の上にうずくまり、孤独の恐怖や不安に襲われ石を握りしめ泣き続けた。

握る石には左手から血が染まり赤くなる。

左手の激痛よりも、今は支えの剛がいない事の方が辛い…

俺一人では何も…できない…

ひとしきり泣き続け、冷静に考える…

『剛を探さなきゃ…

だが俺一人では…』

携帯で助けを…と思い取り出すが電池切れ…

夜の山中に一人、燃やせる物もないが、川沿いを歩けば、月明かりで前が見えるし、このまま下流に行けば街が見えるだろう。

『何が何でも生きてやる…』

俺は歩き出した。

剛は生きていると信じて…

横には川があるし、水分補給は問題ない、だがこのままどれ位歩けば街に着くのか…というか街に着けるのか?

不安だらけだが、今は自分を信じて歩くしかない…

どれ位歩いた…?

血を流し続けたのもあるだろうが、歩き続け、フラフラになり頭がぼーっとする…

少し水を飲もうと、川の水を飲み、川の先を疲れから睨むように見つめる…

…何か見える…

明かりだ…

小さな明かりが点々と見える!

『家がある!』

俺は疲れを忘れて走りだす…

すぐに息があがるし、体中が痛いが、助かるという気持ちからか、限界を超えて走る。

何とか家の近くに着いたが、崖になっている…

周りを確認すると、住民達が作ったのか、木を切って作ったような簡易式の階段を見つけ、俺は急いで降りるが、疲れ・安心感から足が震え、途中で踏み外し、一気に転がる。

「ぐ…ぐふ…」

呼吸を整え、力を振り絞り何とか立ち上がる…

全身怪我だらけだ…

口の中も切り、血と唾を地面に吐き捨て、一番近い家へ急ぐ。

明かりは無いがドアをドンドンと叩き助けを呼ぶが反応が無い…

仕方なしに他の家を見渡し明かりがついてる家へ走る。

ドアを叩き、少ししたら俺と同じ位の青年が出てきた。

青年「ど…どうしたんですか?」

事情を説明し、家へ入れてもらう事に。

だがこの青年…

どこかで見た記憶がある…

玄関に座り込み、青年は奥へ救急箱を取りに。

助けられ安心しつつ、記憶を探る…

『…そうだ!コンビニの店員だ!』

青年「おいおい…家きちゃったよ?とりあえず連れてくよ。」

答えが出た瞬間、青年を見ると、携帯式無線機で誰かと話てる。

『え?!』

思った瞬間、顔に冷たい感触。

青年に何かの液体を噴射され急な眠気が襲う。

瞼が閉じる時、青年を見ると…笑っていた…

《ガラガラ…》

頭がぼーっとし、ふと目を開けると、工事現場で土を運ぶ時の台車に乗せられ山の中…

再び眠気に襲われる…

異様な気持ち悪さで目を覚ます。

?!

動けない…

暗闇で何も見えない…

すると一気に明かりがつき、久しぶりの照明で眩しい…

数m感覚で裸電球がついた。

洞窟?坑道?

動けない事の違和感で体を見ると、テープで柱に巻かれている…

辺りを見渡すと、天井の支えの木に両足を縛られ逆さまに吊られている人がいる。

俺「…?!剛!剛ぃ!!」

剛は気絶させられ吊されている…

足音がする…

「起きたぁ?」

青年がこちらへ歩み寄る…

俺「…あんたなんなんだ…なんでこんな事…」

青年「いや、別に最初はあんたらに恨みなんか無く、ただ俺達が生きる為の獲物だったんだよ」

意味がわからない…

青年「たださぁ、身内に怪我させられたとなりゃ話は違うでしょ?」

???

更に奥から足音…

!!!

あの男だ!!!

男は青年がやったのか、体中の至る所に包帯を巻いていたが、目と口元ですぐわかった…

心臓の鼓動が速くなる…

俺「身内…てまさか…」

青年「そ!この人は俺の尊敬する親父!」

青年は男の両肩をポンと叩き、屈託のない笑顔で俺に話を続ける。

息子「前に親父はさぁ、街の工場で働いてたんだよ、でも木を粉砕する機械に人が巻き込まれる事故を間近で見て以来、壊れて職も母親も失ってね。」

息子はナイフを片手にクルクル踊るように回りながら話を続ける。

息子「んで、小さな頃から親父と遊んでて山は庭みたいなもんだし、ここの今は何の役にも立たん防空壕に2人して仲良く自殺しにきたんだよ。

俺も世の中にウンザリしてたからね…

そしたら先に自殺してた先輩を見つけてさ!」

息子はナイフで俺の後ろをさす、縛られたまま何とか後ろを振り返る。

そこには衣服を着たまま完全に白骨化した遺体が…。

息子「財布見て名前見てビックリ!

昭和後期に全国で無差別に32人も殺した齋藤宗則さんよ!」

名前聞いてもピンとこない…

息子「俺は憧れの中の一人に会えてテンション上がってさぁ、まさか逃げた挙げ句こんな近くにいたなんてね…必死に親父に説明したよ!」

俺「くだらない身の上話は沢山だ!!殺すならさっさと殺れよ!!」

疲れきって既に諦めてた俺は叫ぶ。

息子「…まぁ聞けよ、親父に説明してたらよ、急に電球破裂したと思ったら親父が急に苦しみだして、おかしな事が起きてね、その後話したら齋藤さんの霊が憑いたみたいでさ、俺は嬉しくて発狂したぜ?!」

息子は大声で笑う

息子「んでよ、伝説の人がいるしどうせ自殺するなら楽しんで死のうと思って、お前らみたいな馬鹿な奴らをコンビニでチョイスして、川に行ったら齋藤さんの出番て訳。

生活する為に金もらったり体も大事に頂いたよ。齋藤さんはすげぇな、人の殺し方の他に調理方法も知ってんだから!」

『男もこの息子も狂ってる…』

どこにもぶつけられない怒りが今にも爆発しそうだ…

息子「腹減ってるんだろ?お前も喰ってみろよ?材料はいっぱいあるぜ?

ちなみにこのナイフは齋藤さんの〜。

よく切れるぜぇ〜?」

ナイフに舌を這わせた後、父親(齋藤?)にナイフを渡す息子。

剛の奥を見ると、貴之、玲奈が横たわっている…

『皆を喰う気か?!』

ナイフを持つ男は俺を素通りする…

『ドクン…』

俺「…おい!…なにすんだ?!止めろ!!」

男は逆さ吊りの剛の前に立った。

《ザク…ブチブチブチ…》

男は剛の首を右から左へ深く切り裂いた。

剛の下の土が真っ赤に染まる…

俺はあまりの出来事に涙を流し、止めてくれと懇願する。

息子「慌てるなよ、まずあぁやって無駄な血を抜くんだよ。本来あのまま放置すんだけど、お前の為にちゃっちゃとやってもらうよう頼んであるからよ。」

大量の血が出続け、俺の足元まで血が流れてきた…

反射的に避けてしまうが、靴に触れた時、

深い絶望が襲う。

男が調理を続ける

《ザクッ…ミチミチ……ゴパ…ピチャ…ボキボキ…》

ヘソから首まで縦に切り、両手で強引に皮膚を開く…

肋骨を何本も折って地面に投げ捨て、内臓等を覆う膜を無理やり引き剥がし、赤黒やピンク色の剛の中身が見えた時、頭が崩壊し、穴という穴から涙や涎、鼻水を出しながら泣いて喚く俺…

男は続ける…

内臓などが丸見えの状態で、胃らしきものを上下切り取り取り出し、ナイフを刺し胃の中身を捨てる。

そのまま腸を取り出しコードを巻くように束ね、剛の顎にぶら下げ端を切る。

内臓を取り出し、横にあった空のでかい鍋に放り込む…

男の手は二の腕まで真っ赤に染まり、そのまま鍋を卓上コンロの上へ…

本当に調理して喰う気とわかった瞬間、俺は吐いた…

男は剛の衣服を切り裂き裸にし、太ももの皮を切ってはいだ後、肉を切り取る…

『なんなんだこれは…

悪夢としか考えられない…』

俺は何とか逃げようと必死にテープを外そうとする…

息子「最初は俺も抵抗あったけど喰ってみると意外に美味いんだよ…心臓が固くてタンみたいだよ…それに…」

息子は話を続けるが頭に入らない。

狂ってる!

狂ってる!!

狂ってる!!!!!

『逃げないと!』

手首だけ動く俺は、尻のポケットを探り家の鍵を静かに取り出し、鍵の凸凹でテープを切り取ろうとガリガリ擦る…。

男は調理…

息子は話に夢中…

『ピリ…ビリビリ…』

喚く演技をし、慎重に少しずつ剥がす…

剥がれた!!

俺は気づかれる前に目の前にあった木材を手に、息子の頭にぶち込む。

鍋を持ってた男は気づいたが、先に近づき、小さな棚の上に置かれたナイフを奪い、こちらへ向かう男の左目に突き刺した。

叫び声を上げて倒れ痙攣する男。

『剛…ごめんな…』

心で呟き出口へ走る。

息子「…この野郎!」

息子は立ち上がり、俺を追おうとするが、父親の異変に気づく…

その隙に俺は逃げ出す。

息子「親父〜何してんだよ?あいつ逃げたぞ?」

声を震わし、ナイフを抜いてやる…

《クチュ…グググ…ズル…》

ナイフは抜けたが刃の先に男の眼球が刺さり、左目も抜ける、刃先から肌色のドロッとした液体が滴り落ちる…

眼球が抜けると同時に男の痙攣も止まり静かになる…

息子が震え目つきが鬼のように険しくなる。

眼球と液体をナイフを振って振り落とし、俺の後を追う。

『ハァッ…ハァッ…ハァッ…』

体も痛い、今にも泣き叫んで壊れそうだが足が軽い…剛、貴之、玲奈が背中を押してくれているのか…

「止まれぇ!」

慌て振り向くと、息子が顔を赤くし、ナイフ片手に追いかけてくる…

顔を前に戻すと、目の前に崖が…

決死の思いで崖の高さなど確認せず、枝や葉を体で突き破り飛び降りる。

幸いあまり高くないし、車道に出てこれたが、コンクリートな為、足を挫いた…

息子「そこにそのままいろよ…」

息子がゆっくり崖から降り、俺に近く…

手にはナイフ…

俺は足を引きずり後ずさり…

息子「親父と同じ目にあわしてや…《プァーーーーン!!!》

その時、夜中に山のカーブの連続の道で腕を競う男達の二台の車が…

一台は俺の顔スレスレを猛スピードで走りさり、突風に煽られ目を瞑り、鈍い音がして目を開けると、最初の一台でまた死にかけたからか、再びスローになり、数m上空を息子が飛んでいた…

二台目の車に跳ねられ飛ばされた息子は車道沿いのガードレールの上に腹から叩き落ちた。

《ザクッ》

上部分が丸みを帯びてなかったガードレールに叩きつけられ、息子は腹から切断されている…

「ごぷっ…」

大量の血を口から吐く息子…

息子「…ガフッ…こ…ここで…か…よ……」

《ズル…ボキ…ビチャベチャ…ズル…ボタ…》

息子は上半身を車道に落とし、内臓などをガードレール沿いの雑草にボトボト落とし、下半身は崖下の奈落へ落とし…

絶命した……。

二台目の車の運転手が半ベソをかいて車から降りてくる…

『助かった……』

大の字で車道に寝そべる俺…

後続の車が次々に止まり、ざわつく…

ざわつきを耳で聞き、

少なくとも人を食べたりしない、まともな人達が沢山いる“街”に戻れたと感じ…気を失った…

数日後、

警察から繰り返し聴取を受け、裏付け捜査を行った所、

山の所々に埋めた後があり、少なくとも14人は犠牲になっていた。

犠牲者達の車は息子がパーツを抜き取り売りさばいて、車体は誰も行かない崖下に落としていた…

防空壕に行くと、剛達の遺体、さらに齋藤という男の白骨化した遺体はあったが、父親の遺体はどこにもなかった。

後日鑑識が調べると白骨化遺体は間違いなく齋藤だったが、不思議な事に鍋などからも、死んでるはずの齋藤の最近ついたと思われる指紋が検出された…その為、世間には公表されていない…

その後俺は、

壊死した左手は切断され、この事件の悪夢に毎晩うなされ、長年精神病院で暮らしている…

怖い話投稿:ホラーテラー Shadyさん  

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グロイ( ¯―¯٥)

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