短編2
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二段ベッド

私が自衛隊に入隊した時ですので、十数年前の話になります。

自衛隊に入ると最初に新隊員教育を受けることになるんですが、そこでの生活というのが古い隊舎に1部屋10人で、しかも二段ベッドという状態でした。

それで場所も決められてて、私はドアに近い方の上段でした。

昇り降りがめんどくさいなあ、と思いましたが、二段ベッドなんて初めてだったので少し嬉しい気持ちもありました。

新隊員教育も2週間ほど経ち、そろそろこの生活にも慣れてきたころでしょうか。

就寝後、一度だけ不思議なことが起きました。

消灯は11時です。当直が見回りにくるので、話などせずすぐに寝ます。もっとも日中訓練でしごかれているので、皆疲れて寝てしまうのですが。

消灯後、何分、何時間経っていたのかわかりません。ふと目が覚めると顔の近くで人の気配がするのです。

10人部屋ですから、私以外に4人が二段ベッドの上段に寝てますが、ベッドの間は1メートルくらいは空いてますからそんなに近くに気配は感じません。

おかしいな、と思いながら寝たままふと横(ドアに近い方)を見ると、暗がりの中に顔がありました。

二段ベッドの下から目から上だけ出して、こちらを覗いているのです。そして何やらぶつぶつ呟いています。

一瞬ギョッとしましたが、すぐに下段のF田2士が寝ぼけているのだろうと思いました。

私は寝たまま

「おい、F田!何やってんだよ。当直見回りくるぞ」

となるべく声を落としながらいいました。

すると下の方から眠そうなF田2士の声がしました。

「んー?何?…どしたの?誰としゃべってんの…?」

あれ?と思いベッドの反対側から下を覗くと、F田2士がベッドに横になったまま目をこすっています。

じゃあこれは他の奴か…

と再び顔のある方へ目を向けたときです。

窓の外を巡察のジープが通り、一瞬部屋の中がカーテン越しにライトで照らされたのです。

カーテンの隙間から入ってきた光に照らされたそれは、全く知らない若い男の顔でした。

目から上だけしか見えませんでしたが、その両目は殴られたのか青黒く腫れ上がっており、涙を流しています。

そして私は彼が呟いていた言葉がその時はっきりと聞こえました。

「班長ごめんなさい…」

私はあまりの恐怖に声をあげることもできず、再び薄暗闇に戻った部屋の二段ベッドの上で、朝までふとんをかぶって震えていました。

次の日、F田2士に昨晩あったことを話しました。彼は私が呼びかけたのは覚えているが、すぐに寝てしまったのでわからないとのことでした。

他の班員にも聞きましたが、誰も気づかなかったそうです。

朝になると夢かどうかもはっきりしなかったので区隊長や班長には言えませんでした。

ちなみに現在その隊舎は取り壊され女性自衛官隊舎が建てられたそうです。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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