幽霊になるのは何も人間だけじゃない。
動物だって幽霊になって、
成仏もする。
ある動物病院で、患畜として預かった犬が亡くなった。
数日前から風邪を引いて伏せっており、
18歳と言う年齢もあってか、
あまり苦しまず眠るように息を引き取った。
人間で言うと約90歳。
大往生であった。
早朝なので家族が到着する間、
最期を看取った医師は、
テキパキと受け渡しの準備をしていた。
すると微かに、
ハッ、ハッ、と、犬の呼吸音が聞こえる。
すわ生きていたかと振り返り、
台の上の患畜を一応検査するが、
いかに自分がまだ新米でも、
生死の区別くらいは流石につく。
変だなと再び机に向かい、
書類を書いていると、
またハッ、ハッ、と聞こえてくる。
今度は振り返らず、
目の端で台の方を見る。
犬の足と腹が見えた。
台のそばに中腰で座っている。
台の上を見上げているようだが、
端目なので、顔はギリギリ見えない。
だが呼吸音は確かにそこから聞こえていた。
僅かに見える首輪は古そうな金属製で、
見覚えがあった。
さっき自分が、
最期を看取った犬の首輪だ―――。
突然、チャイムが鳴った。
家族が到着したのだ。
犬の幻影は消えた。
若い獣医師はこのことを、
早速恩師に報告した。
「まあ幽霊だろうね。私も沢山見たさ。」
「先生もですか?」
「今でも見るよ。それに犬だけじゃない。猫も鼠も、他にもな。」
「でも私が見たのは、白い犬でした。
患畜は黒いラブラドールです。」
「そりゃ犬だって大往生すれば、
死装束ぐらい着たいだろう。」
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話