短編1
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可哀想な人。

庭先で洗濯物を干していたら、お隣から声が聞こえてきた。塀の向こう側をそっと覗く。縁側に女性が1人で座っていた。

「暑いわねぇ」

「ほら、こんなに汗をかいて。仕方のない子ねぇ」

「お風呂沸かしてくるから入りなさい」

そう言うと女性は立ち上がり、網戸を開けて

部屋の中へと戻っていった。周囲には誰もいないのに、まるで誰かに話し掛けているような口振りだ。

もしかしたら、以前に身近な人を亡くした経験があるのかもしれない。勝手な想像だが、もしそうだとしたら可哀想な人だ。

いるはずのない人の面影を見つめ、日々生活しているのだと思うとやりきれない。

しばらくして、女性の声が部屋の奥から聞こえてきた。

「お風呂沸いたわよ。嗚呼、網戸はちゃんと閉めてきてね」

その声が聞こえた数秒後、開きっぱなしだった網戸がひとりでに閉まった。

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ジェシカ様。コメントありがとうございます。

都市伝説や怪談話も恐ろしいですが、私は何よりも生きている人間が1番恐ろしい。

生きている人間の妄執が怖くてたまりません。
怪異よりも、ずっと。

匿名様。コメントありがとうございます。

網戸を閉めたのは誰なのでしょうね。
作中に登場する語り手の見間違いなら良いのですが…。