中編3
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ハイ、サヨウナラ。

部屋で勉強していたら、後ろからガタッと音がした。振り返ると、クローゼットが目に入る。

ハンガーでも落ちたかな、と思いクローゼットを開けた。しかしハンガーは落ちておらず、代わりに古ぼけた人形が転がっていた。

その人形には見覚えがある。小学生の時に買って貰ったものだ。名前は確かメイちゃんだったと思う。

メイちゃんはリカちゃん人形を少し大きくしたような人形だった。なので、顔や体が生身の人間によく似ており、こうしてみると少し不気味だ。

小さい頃はよくメイちゃんと遊んだ。1人っ子だった私にとって、メイちゃんは大切な友達のような存在だったのだ。

ただ…時折、私はメイちゃんを乱暴に扱っていたけれど。

学校で仲の良い友達と喧嘩したり、先生に怒られた日は、決まってメイちゃんに八つ当たりした。

腕を引っ張ったり、足を引っ張ったり…どうしようもなくムシャムシャした時は、2階から放り投げたこともある。

メイちゃんを使って憂さ晴らししていたのだ。

そんなことを考えていると、メイちゃんは足の関節をおかしな方角に捻じ曲げながら、ゆっくり立ち上がった。首をギチギチと鳴らし、乱れた長い髪の毛の隙間から、目が覗いている。

「メ…メイちゃん?」

「ア…アヤチャ……アヤチャ…ン。アヤチャン」

壊れたスピーカーのように、メイちゃんは私の名前を呼んだ。そしてだんだんとこちらに近付いてきた。

「アヤチャン、イッショニアソビマショ。ネェ、アソビマショ」

「あ、遊ぶって…何して遊ぶの?」

「ヒッパリゴッコシマショ」

メイちゃんは右手を突き上げた。

「アヤチャン、ワタシノオテテヒッパッタ。ワタシモアヤチャンノオテテヒッパッテアゲル」

途端に右手が物凄い力で引っ張られた。腕が抜けるかと思った。あまりの痛みに、悲鳴を上げて倒れ込む。

メイちゃんは次に左足を上げた。

「ツギハアンヨ。アンヨもヒッパッテアゲルカラネ。アヤチャンガワタシニシタヨウニ」

「ッ、ぎゃあっ!!」

今度は左足を引っ張られ、その場に倒れ込んだ。顔面を強く打ち、唇を切った。口中に鉄の味が広がる。

「サイゴハニカイカラオトシテアゲマショウ」

「やめてーッッ!!!!」

両足を引っ張られ、俯せのまま、ズルズルと窓際に引きづられていく。ひとりでに窓が開き、ベランダへと出された。

そしてグイと体を持ち上げられ、ベランダの柵から身を乗り出すような体勢を取らされる。

いつの間にかメイちゃんが傍に来て、愉しそうに私を見ていた。私は半分泣きながら、必死に叫んだ。

「ごめん!ごめんね!痛かったよね!ごめんなさい、もうしないから!メイちゃんに酷いことして本当にごめん!もうあんなことしない!絶対しないから!約束する!だから…だから、お願い。許して…」

すると体を押される感覚が消えた。恐る恐るメイちゃんを見ると、メイちゃんはしばらく黙っていたが、やがてニコリと笑った。

嗚呼、許してくれたのか…。

安堵する私の耳元で、メイちゃんは囁いた。

「ハイ、サヨウナラ」

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怖かったです(>_<)人形はなんだか本当に人間を見てるようで、眼が合うとぞくっとする事も度々(´`:)

言葉選びの弟子さんのお話はとても興味深い話が多くていつも楽しませてもらったり、感心したりしています(^^*)私にはない才能をお持ちで、尊敬します!

オモチャは大切に扱いましょう

なんだな背筋がぞくっとしちゃいましたね(;_;)

人形の話は苦手だなー怖いを押させて頂きます。

メイチャンひどい…( ̄□ ̄;)!!