中編5
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不動産屋にて

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いらっしゃいませ。どうぞどうぞ、掛けてください。

ほな早速、どういう物件をお探しで?

え?探してない?

…へえへえ。フリーライター?ああそうですか。

あ、どうも。…タテオカさんね。

ええ、構いませんよ。…いやいや、忙しいことありません。

ちょっとお待ち下さいね。いやぁしかし暑いでんなぁ…。

…お待たせしました。え?いやいや、遠慮せんと。麦茶しかないけど。

いや、お宅さん汗だくやったからね。まぁ飲んで飲んで。熱中症で倒れまっせ。

ほんで、いったいどういう用件です?

…ツルミさん?そうやねぇ、そんなお名前のお客さんもいてはったような気がしますけど…。

写真がある?どれどれ…。ああ、はいはいはい。憶えてますよ。この方ね。

ええ、つい二三日前でしょ?…そうそう、首吊らはったんやってねぇ。

ええ、そら知ってますがな。ツルミさんが亡うなって、空いた部屋はまたうちがご紹介させてもらうんでね。

…ま、そういうことですわな。もちろん事故物件扱いになります。

なるほど察しはつきました。そういう取材ですか。

ほんでお宅さん、どの程度知ってはりますの。

…ええ。確かに、ツルミさんの前の住んではった方もあそこで首吊ってます。

何ちゅう名前やったかな。ちょっと待って下さい…。名簿をここへ仕舞ってたはずやねんけどね…。

あったあった。ツダさんですね。その前がテンカワさん。その前がフルイチさん、それから…。

え?何がです?…なんや、てっきりご存知かと思てました。そら余計なこと言うてしもたわ。

ええ。みーんな自殺しはったんですよ。

いや、そんな顔しなさんな。なんやお宅さん、ツルミさんと深い付き合いされてたんですか?

…そうでしょ。たまたま仕事で取材してたのがツルミさんで、いろいろ調べてここへ来たちゅうことやね?

そしたら赤の他人ですがな。そんな青い顔せんでも。

まぁ、そらわからんでもないけどねぇ。…え?いや、なんでって言われても…。

ちょっと待ちぃな…なんちゅうこと言うんですか。なんや、私が殺したみたいな言い方やんか。

お宅さん…ええと失礼、タテオカさんやね。タテオカさん、ちょっと誤解されてるんちゃうかな。

曰くの付いた物件には、だーれも住みたがらへんと思てません?そんなことないんですよ。

安う住めるんやったら前の住人が自殺したから言うて、気にせえへん人はようけいてます。

ええ、もちろん。希望されたからご紹介したんです。

…そらそうです。私はね、先祖代々ずっとこの土地でこの商売やってるんですよ。信頼を失うたらやっていけません。

せやからちゃーんと物件のご説明はしてます。例えば今タテオカさんにお教えしたようなことは、入居を希望された方には明かしてますよ。

…わかったようなわからんような顔してますね。

そもそもタテオカさん、いったいどういう記事を書こ思てはんの?

…ほうほう。…はぁ、さよか。

なんや、そういうことかいな。ああ、いや、新聞か週刊誌にでも寄稿しはるんやと思てたから。

…ええ、私もそういうのたまに読みますけど。「呪われたワンルーム」ねぇ…。ああそうですか。

あのねぇ、タテオカさん。

あんたあの部屋に問題があると思てるでしょ?それはまぁ正しいかもしれないけどね、まだちゃんとわかってへんみたいやね。

ちょっと待ちや。…例えばこの物件。それからこれも。ふたつとも今空いてる部屋なんやけど…。

ええ、そのとおり。どっちもツルミさんが入居してたんと同じアパートですわ。

…ほう。察しが早い。

そうです。入居者亡くなってます。…おわかりですね?

なに?回りくどいって?はははは、そら堪忍。

そやけどタテオカさん。木を見て森を見ずっちゅうのは、ライターとして如何なもんですかねぇ。

まぁ、私の方としましてもね、お部屋をお探しでない方にいろいろお話しするのはちょっと問題があるんですわ。

ですから、できたらそろそろお引取り願いたいんですけど…。

…まだ納得いきませんか。そう言われてもうちはうちのやり方でやってますんでね、すいませんけど。

え?…はあ。…義務とか権利とか、そういう話をされましてもねぇ。

自分で言うのもあれですけどね、私は十分親切にお話したと思いますよ。

それから、これも親切で言うんですけどね、あのアパートについて調べたって、たいして面白くないですよ。

もっとどーんとスケールの大きな話を書いたらどないですか?

例えばこんな話があります。あのね…。

…え?聞いてないって?まあいいじゃないですか。

どうせあんた帰ろうとせえへんねんから。言うとくけど、親切で教えたんねんで。

まぁ実話かどうかはさておいて、やけどね。

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…いまからずっと昔ね、ニュータウン計画で、国がある土地をどーんと拓いたんですわ。

そこは新しく住宅街に生まれ変わってね、地名も古い呼び名からA町に変更して、ぎょうさん人が移り住んできました。

ただね、なんでかわからんけど、自殺者が後を絶たんのですよ。

土地開発に携わった人間もみんな不可解な死に方してるんでね、こらおかしいって、国の機関が調査班を発足させたんです。

そこはえらい特殊な歴史のある土地だったようですけど、結局、確かなことは何もわかりません。

古くからA町に住まう人間は自殺せえへんようやったんで、国から気味悪がられたみたいですけどね…。

やがて、A町はある役割を担ってるんやないか、ちゅう考えが共有されるようになりました。

ニュータウン計画ってのは都市部の人口増加に伴って行われますでしょ?溢れ返った都市労働者の受け皿ですわな。

A町が担ってる役割っていうのは、溢れ返った自殺者の受け皿、とでもいいましょうか。

やれ祟りや災いやって、そういう禍々しい認識でA町を扱うのは健全じゃないと、国家も気がついたんですね。

だからね、A町に住んだから自殺してしまうんやなしに、自殺する運命の人がA町に住むんやって考えたんです。

…詭弁やと思います?…私は思いません。

だってね、A町には常に新しい住人がやってくるんですよ。結局自殺するんですけど。

で、空いた住処にまた外部から入居者がやって来ます。そして自殺します。

ね?

だーれも寄り付かんようになったら、町も自ずと死にますけどね。人は死んでもA町は死なんのです。

ええ、そんな町があるなんて聞いたことないですよね。

まぁ日本でもごく一部の人間しか、その存在を認識していませんからね。

A町はね、存在しているようで存在してへん町なんです。

せやから普通の手段では立ち入ることは出来ないらしいんですよ。

私の考えではね、A町の特殊な力が人を選別してるんやと思うんです。

まぁ、自殺する運命の人に聞いてみれば何かわかるかもしれませんね。

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ところで、タテオカさん。

あんた、ここまでどうやって来たんですか?

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こーゆーお話し好き♡

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えー!?
タテオカさん!?つーことは・・・

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いやあ、こういう関西弁での語り、好きです。
怖いっていうか、ホント最後でぞくんとしました(≧∇≦)

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