中編5
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落ちる。

落ちてきそうなほど大きな満月の夜、綺麗な黒猫に出会った。

 

落ちてきたのは月では、なかったのだけれども、

 

まるで、夜は全て自分のものと、物語るかのようにその黒猫は暗がりで銀の星のような瞳を光らせ、夜の街へとと溶けていった。

 

 

これは、兄貴が死んでからの俺達4人の話。

 

 

あの日以来、彼女と連絡がとれなくなり、打つ手を無くし、絶望感と空虚の狭間で、なにか吹っ切れたように感じた。

 

多方の想像通り、俺は現実逃避と言う名の自己防衛を、フルに活用する事にした。

 

彼女のことはいったん、高い、物凄く高い、棚の上にでも置いておこう。

そして手の届かない程、高いところに置いたのだから、いつか届くほど背が伸びたらまた、考えよう。

 

そう思うようにした。

 

何が悪い?

 

 

こう見えても少しずつ進んでいるのだ。

その証拠に、すねかじりを卒業するべく、「元」兄貴の家へと住み込み、一人暮らし(+愛犬)とバイトも始めた。

 

とは言え、俺は生きることを舐めていたとすぐに痛感した。

 

 

 

一人暮らしってのは、どうしてこんなにも面倒なのだ?

 

ゴミを出すのは朝早く、寝ている時間だ、たまりにたまっていくゴミ袋。

洗濯物を洗濯機で回すまでは、よかった。

白のシャツがピンクになって出てきた時には、宇宙規模な得体の知れないパワーが働きかけているのかと頭を抱えた。

 

 

 

それでも、なんとか3ヶ月もすれば生活に慣れはじめた。

 

彼女の情報としては、彼女の運営してるサイトがまた運営をしはじめた事が、確認できたので、ホッと胸をなで下ろした。

 

生活に慣れはじめて気づいたことが、もうひとつあった。

 

それは、兄貴の意志を、存在を、近くで感じることが、あの日以来、日に日になくなり、今はほぼなくなったことだ。

 

そして、それを悲しく思っているほど暇を作らないためのバイトだ。

 

深夜のトラック運転手を始めた。

 

飯は、基本的にコンビニだ。

仕事を終え、家に帰れば、ファラオ(愛犬)が寝迎えてくれる。

 

そして、彼女のオカルトコミュを確認する。

 

これが、今の俺の生活であり、全てだ。

 

トラックの運転はきつくはない、長時間、長距離をひたすら運転するだけなので、多少腰が痛くなる程度だが…ついていなかったのは、配達先だ。

 

それは、病院なのだ、洗濯したシーツやら、手術着を届けて、汚れたものを持って帰ってくる、これが仕事の内容になるわけなのだが…

 

生と死が日常的に交差するその場に、深夜配達をするのはなかなか気味の悪いものだ。 

 

そんな日々になれてきた頃、通い詰めているコンビニへと夜食の買い出しに向かっていた。

ファラオを散歩がてら連れて行くのが日課で、その日も彼は好き勝手歩き回り、前へと進まないので、俺に抱え上げられているという、いつものなんの変哲もない夜だった。

 

ふてくされたように、俺の腕の中で、顎をちょこんとのせながら眠っていた、ファラオがビクンッと起きたと同時に周りをキョロキョロと見回す。

 

陸橋のある大きな道路の手前、

 

 

ミャー…

 

と、聞こえて立ち止まる。

 

陸橋の階段、三段目ぐらいのところに黒猫がいた。

 

 

その時、陸橋の上から落ちる陰を横目にとらえ…

 

えっ!?と思うのと同時に、ドサッという水袋を落としたような音…人だ、人が陸橋から落ちた、いや、飛び降りたのか??

 

とっさに猫を凝視する事で打ちつけられる瞬間から目を背けたが、ドロドロとアスファルトに流れ出る血液をイメージして吐きそうになった。

 

 

ウゥウ…

 

苦しそうなうめき声が耳に入り我を取り戻す。

 

まだ、生きている!助けなくては!!

 

そう思い、道路へと飛び出し駆け寄ろうとして、硬直した。

 

こちらを見ていた。

 

アスファルトの上、横たわりながら、顔が半分潰れていたが、

 

 

 

 

俺自身がこちらを見ていた。

 

 

 

遠くの方で

 

プーーー!!

 

と、いうクラクションと、

 

ワンワンワンワン

 

と吠えているファラオの声が聞こえている。

 

それでも、倒れている自分と目が離せない。

 

時間にしてみればほんの数秒の出来事だったのかもしれない、でも感覚的にその瞬間は止まっていた。

 

そして時間は動き出す、

 

ミャー

 

という甲高く、引き裂くような、鳴き声が耳を突き抜けていった。

 

ビクンとして後ろを振り返ると同時に、真横をトラックが通り過ぎた。

 

 

 

『ばかやろう!!死にてぇのか!!…』

 

罵声が突風と一緒に走り去っていく。

 

バッ!!と、また道路の方へと振り返った。

 

 

あのトラックは潰してしまったのではないのか…?

 

だけどその予想は大きく肩すかしを受ける形で終焉を迎えた。

 

 

道路に寝そべっていたのは、顔の潰れた動物の死体だった。

 

 

訳が分からず、その場にへたり込む。

 

あれはなんだったのだろうか?

 

陸橋の階段では黒猫に向かってファラオが威嚇をしていた。

 

ミャーとひと鳴きすると、その黒猫は少し明るい月明かりを集めながら夜の街へと消えていった。

 

『ドッペルゲンガーを見ると死ぬって言うよね。』

 

 

静かな夜に不釣り合いな明るい優しい声に話しかけられそちらの方を見る。

 

黒猫を抱えた女の人がいた、

 

『ちょっとそこの坊やに家のミーちゃんいじめないようにいっておいてくれる?』

 

胸の奥の方でズキズキと小さな痛みを感じた。

 

『いや、あれはたぶんドッペルゲンガーじゃないと思うよ、以前、似たような動物を高速道路でひいてしまった事があるんだ…』

 

目の前で息絶えているその動物は高速道路でひいてしまった動物より小さく感じ、親の敵をとりに来たのかもしれないと、気分が沈殿していった。

 

 

『あなたは、あの人にそっくりね…』

 

その女の人は静かに、さとすように話しかけてくるそのたびに、胸の奥の方でズキズキと小さな痛みが生まれる。

 

 

 

 

『はじめまして、私はC、俺君のいとこのA君だよね?雰囲気がそっくりだからすぐにわかっちゃったよ♪』

 

と、にっこり微笑みながらその背の小さな人は、手を差しだし俺を立ちあがらせてくれた。

 

『あなたも彼と同じね、死にまとわりつかれてるみたい…』

 

少しだけ悲しそうな顔をしてから、彼女は近くの公園にあの子を埋めてあげよう、と息絶えた動物を一緒にとむらった。

 

 

懐かしい雰囲気を、感じた。

 

その女の人は、H,C、兄貴とあの部屋で同棲をしていた元カノらしいのだった。

 

 

人生とは無慈悲なものだ、

なーぜこんな美人が兄貴なんかと?

 

胸はズキズキと痛むばかりだ、

プリクラで兄貴と一緒に写っていた、あの見るからに元気っ子は、

 

落ち着いた綺麗な黒猫のような人だった。

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執筆お疲れさまです。

どうなっでいくんですかねー気になる!

ローズさん コメントありがとうございます♪

そのとおりでございます(^_-)楽しみに待っていていただければ光栄ですヽ(^o^)丿

カオスの幕開けですね( 〃▽〃)
楽しみー♪