リサイクルショップ〜シリーズ:6 呪われたアコースティックギターの末路〜

長編11
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リサイクルショップ〜シリーズ:6 呪われたアコースティックギターの末路〜

電車から降り、改札を抜け駅を出ると懐かしい街並みが姿を現した…

殆どシャッターの下りた商店街、昔から何これ?と思っていた銅像、幼少の頃から既に大木だった銀杏(いちょう)の木…怪しすぎるリサイクルショップ…何も変わらない我が故郷。

実家に向かおうと、懐かしの風景を眺めながら、子供の頃に遊んだ空き地の前を通りかかった…

ゴミ置き場と化した空き地に、

ネックが折れボディの継ぎ目が剥がればらけている一本のアコースティックギターが捨てられていた…

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近寄ってよく見ると、MARTIN(マーチン)D-18 1939…

以前、ギターショップで働いていた時に100万近くで販売していたのを覚えていたので、正直驚いた。

拾い上げて全体を見ると茶色いシミなども見られた…が修理が効きそうだ。

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「直せそうだな…ボディの継ぎ目は膠(にかわ)とかで繋ぎ合わせて…ネックはボンドかなんかで繋げれば…」

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私はそのギターをウチに持ち帰り、ギタークラフト(ギター製造、リペアなどの職人)の経験を活かして修理する事にした。

だいぶ価値は下がるとは思うが、名器であることは間違いない…この状態のまま焼却炉で燃やされてしまうには勿体無い…

見ると、ペグが壊れていた。これは流石に直せそうに無い…

仕方が無い。リサイクルショップのオヤジに頼んで取り寄せてもらうか…やはりマーチンのオリジナル部品でなければ、形にならない…

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タバコ屋の角を曲がると、鳥居が見えてくる…その鳥居をくぐり、十段ほどの石段を上がると、懐かしの我が家だ。

私の実家は神社で、私の父はその神社の神主をしている。

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……………

タバコ屋の婆は元気か?

とカウンターから覗き込むと、背中が随分昔より丸くなった婆が、炬燵(コタツ)に身をくるんでNHKの相撲中継を観ていた。

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「ばぁちゃん!こんちゃっ!!リュウが帰ってきたよ!」

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と声を掛けると…

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「はいはい…ちょっと待ってくださいね…」

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とゆっくり立ち上がり、カウンターに来ると

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「どの銘柄かね?」

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と聞いてきた…どうやら気がついていないようだ…

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「そうじゃないよ…リュウだよ。よく見て…」

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私は自分の顔に指を指し気づかせようとしたが…

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「はい?『リュウダ』?そんなタバコあったかね?」

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と、全く話にならない…

仕方が無いので、「ラッキーストライクのライトを下さい…」とタバコを一箱買った。

タバコ屋の看板娘も歳をとったな…

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「はいはい…440円ね……………」

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「っ!?」

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「ありゃ?ありゃりゃ?あんたリュウちゃんかぇ?」

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今頃気づいたのか…

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「だから、ばぁちゃん…さっきからそう言ってんだろぅ…」

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と、苦笑いで答えると、どうやら耳が遠いのか、的外れなことを話し始める。

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「大きくなったねぇ…立派になって…あっ!あのね、リュウちゃんのお父さんも最近この店には来なくなってねぇ…あたしも寂しくしてるよぅ?」

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大きくなったって20半ばのおっさんに何言ってんだよ婆…

父が来なくなったのは頷ける、電話で父本人から、タバコをやめたって話を聞いていた。

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「ばぁちゃん元気そうでなによりだね?」

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「んにゃ…最近、お客さんが減って…そろそろタバコ屋も辞めどきなのかねぇ…」

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会話にならない…

その時、後ろから私に声を掛ける者があった…

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「あれ?あれあれ?隆一じゃね?

…あっお婆!こんちゃ!ピースのスーパーライト頂戴!?」

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振り返ると、学生時代…仲の良かった佐々木だ。婆は佐々木が来たことなんぞ気づいていないのか世間話をブツブツと話している…

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「ははは!懐かしいなぁ!何年ぶりだ?この街は!?お婆っタバコ!ピースのスーパーライト!」

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「さあ、どれくらいだったかな…ふふふ…」

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ちっとも変わらぬ間抜けな笑顔に少し、うけた…

すると、佐々木は俺の持っていたギターに目を止めると、まんべんの笑顔だった顔が急に苦笑いに変わった…

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「お前…それ…何処で?」

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「ん?あぁ…これ?さっき其処の空き地で拾ったんだよ。」

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「へっ…へぇ…で?どうすんのそれ?」

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どうしたのか?顔色がみるみる悪くなってゆく佐々木…

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「いや、だってコレ…マーチンだぜ?勿体無いじゃん…直そうかと思ってな…」

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「え?直せんの?マジで?」

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何だこいつは…悪くなった顔色が急に良くなる。

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「何だよ?」

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私が不審に思い尋ねると、えっへっへと不気味な笑顔を覗かせると、事情を話し始めた。

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「ソレさ…俺が捨てたんだわ。いやぁ、色々と訳があって壊れちゃってさ…ははは!」

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は?オイオイ…マジかよ…幾ら何でも、このマーチンを、いくら壊れたからって、こんないい加減に捨てるなんて…

こいつ…俺と同じギタークラフトの学校に行ったくせに…

と、私の方が逆に苦笑いに変わった。

佐々木とそんな話をしている時だった…

佐々木の後ろの電柱の影に少し顔色の悪い男が立っているのが目に止まった…こちらをずっと見ている。いや、睨んでいると言った方が正しいか…

気になったので、佐々木に尋ねた。

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「なぁ…あの人…知り合い?」

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あ?

と、後ろを振り返りその男の顔を確認すると

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「さあ…誰だっけ…」

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と少し考えると、佐々木は、ああ!っと何かを思い出したように手を叩き。

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「ラジオの男だ!」

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と、声を上げる…

(何のことだかさっぱり分かりません…)

表情でその事を訴えると、昨日こんなことがあったんだと、事情を話してくれた。

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「リサイクルショップでさ…」

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(※リサイクルショップ〜シリーズ

トランジスタラジオ・モデル7C-307A:参照)

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リサイクルショップで起こった話を事細かく話すと、またえっへっへっと、不気味な笑顔を覗かせた…

「薄情な奴だなぁ…譲ってやりゃよかったじゃねえか…」

と、眉間にシワを寄せると…

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「いや!あの無愛想なオヤジが俺には2500円、あいつには2000円なんて依怙贔屓(えこひいき)に値段を変えなかったらこんな事にはならなかったんだよ!」

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と、リサイクルショップのオヤジのせいにして全く悪ぶれる事無く、またまた不気味な笑顔を覗かせた…

別に依怙贔屓ではないだろう…と思ったが、昔からこういう奴だったと私も彼の笑顔につられ笑った。

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すると、急に

「あっ!俺、用があったんだ!」

と、挨拶も早々、じゃっ!っと行ってしまった…

これも昔と変わらない奴の性格だ。

後ろの顔色の悪い男が動く…

何やらブツブツと言っている。

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「殺してやる…許せねぇ…殺してやる…殺す…殺す…殺す…殺す…」

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私の方が彼の顔より青ざめたと思う…何だあいつは…?気持ち悪い。

彼は手に何か持っている…

商店街にある二村刃物店の袋…?

袋から枝のような部分だけ顔を覗かしている…

ちょっと…殺すってまさか佐々木を殺そうってんじゃないだろうな…

って、んなわけないか…

と、振り返り、タバコ屋の婆に「またね」と挨拶をして実家の神社に向かった…

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懐かしい鳥居は以前より古ぼけ、色あせたように思われた…

鳥居をくぐろうとした時、何と無く手にしているギターが重くなったような感覚があった…

気のせいだとは思うが…

石段を上り、ボロい境内を見た瞬間…あゝ帰ってきた…とまた実感した。

庭を箒ではく中年が居る…親父だ。

石段を上がり終え懐かしの景色を眺めている私に気づいたのか

「おう!」と掃除の手を休め、懐かしいヘラヘラ顏で腕を上げた…

笑っているのかよく分からない表情で近づいて来て、私の手にしているギターに気がつくと、顔の口角を急に下げ、不思議なことを口にした…

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「お前そのギター…どっから持ってきた…」

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お帰りとか…他に無いのか…?

何故、今このギターに食いついたのか…

その後の言葉がさらに驚いた…

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「捨ててこい。そんな汚ねえもん…」

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なっ!?

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私が何を持って来ようとこの人には関係ない。

いつもこうだ、昔から私のする事にいちいちケチをつける…

このウチを出たのもこの親父の自分勝手な言動がキッカケだ。

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「他に言うことがあんだろ…もっとこう、父親らしい言葉が…お帰りとか…よく戻ったとか…」

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「いいから、俺の言う通りにしろ。そいつはマジで置いてこい…理由が聞きたいなら話してやる。」

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「は?何だよその理由って…」

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「呪いってお前知ってるか…?知ってるよな…誰だって知ってる…

そいつには、そんなモノよりもっと矢場いモンが憑いてる…俺みたいな不良神主でも、そのての事は何と無くだが分かる…お前、鳥居くぐる時、何か感じなかったか…?」

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いつもヘラヘラっとにやけている父が真面目な顔でそう言ったので、何と無く私も背中に寒気のようなものを感じた…

それに確かに鳥居をくぐろうとした時、異変を感じた…

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「矢場いって…どのくらい矢場いの?」

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「そんな事はよく分からん。が、兎に角、死人が出るほどって言や、お前も納得するだろ…?」

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なっ!?死人?

ギターをもう一度確認する…

ステッカーが剥がされたような跡があり、その貼ってあったであろう真ん中に、小さく念字が描かれていた…

呪い…

信じる信じないがどうこうでは無い。

神主の息子として生まれ、幾つかお祓いの儀式を手伝ったことがあった…

父の得意とする儀式の一つ…

陰陽道の使い手である父は、これまで幾つも呪いのかけられた物品を祓ってきた…

普段はしがない神主だが、陰陽道に関しては、私も尊敬の目で父を見てきた…

その父が顔を強張らせ、捨ててこいと言うほどのギター…

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「親父の手で祓えないの?」

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と怖る怖る尋ねると、みるみる細めていた目が丸くなり、ブルブルっと顔を振った…

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「お前、俺に死ねって言ってるようなもんだぞソレ…

命を喰らう事でその形を止めてるんだ…

祓うには、命を差し出さなきゃ祓えねえ…そんな危ねえ呪いは、久々に見たぜ…お前がガキの頃、お前も覚えてっと思うが、あの『子取り箱』以来かもな。

そのギターは、あいつに匹敵するほどヤベェ…

今までも恐らく命を喰らって来たんだろう…

そのせいで余計に怨念が強まってる…

まぁ、其れなりに強いお札(ふだ)でも貼っときゃ少しは、持つだろうが…永くは持たねぇ…」

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子取り箱…あの恐怖は今でも忘れない…

ガキだった頃と言っても高校の頃…

この神社にカラクリ箱が持ち込まれた…

そのカラクリ箱のお祓いは壮絶を極めた…(怖話にも『子取り箱』について幾つかお話があります。そちらを参照下さい。端折ってすいません)

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「捨ててくる…勿体無いけど仕方ないよね…」

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「待て…その形のままで捨てるのは、怨念をばら撒くだけだ…神主として…いや、陰陽師としてそんなことは出来ねえ…直そう…元のギターの形に…お前なら出来るだろ?」

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ぐっ…正直、早くこんな恐ろしいもの捨ててしまいたい。

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「大丈夫?何も起きない?」

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父の顔は歪んでどちらとも取れない表情に変わった。

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「何とか抑えとく…その間に直しちまってくれ…どれくらいかかる?」

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「どれ位って…相当かかるよ…結構酷い状態だもん…膠(にかわ)とか使うし、ボンドだって乾くのに時間かかるし…一日じゃ終わら無いよ…」

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青ざめる顔というのは、あまり良い心持ちがしない…

父の顔は今まで見たことがないほど青ざめた…

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「やっぱ、このまま捨てちゃおうよ」

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と私が誰もが上げるであろう提案をすると、父は首を振った。

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「俺だってさっき言ったように、すぐそんなもん捨てちまって、知らん顔決め込もうって思ったが、街のみんなに不振が起こるかもしれない…それか、天変地異みたいな事があって街自体無くなる事だってあり得る。そんな事は出来ない…其れなりの封じはしとかなきゃ…ならねぇ。」

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どうやら、どっちにしろ直さなきゃならないようだ…

作業はウチのガレージを使うことにした。

何とか早く直す方法を考えて、一番最短の方法を取る…

ボンドは使用しない…

乾くのに一晩は必要になる、問題外。

全て膠(にかわ)を使う。

完全乾燥とまではいかなくとも、繋がってはくれる。

作業の間、父は方陣を組み始めた、

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西に青龍…青い龍の神獣

東は白狐…白いキツネの神獣

南に朱雀…燃え盛る鳳凰神

北に玄武…黒光りする亀の神獣

これらの方角の神獣を象(かたど)った像を起き

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「この中心で作業しろ…」

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と冷静な表情で私の肩を叩いた…

流石、こういう時の父は心強い。

早速、作業に取り掛かる。

膠を熱で溶かし、ブラシで接合部に塗りつける…

その反対の接合部にはホルム液を塗り、ピッタリと接合…暫く手で抑える…

酷く臭う…

ホルマリン、ホルムアルデヒドの臭いが辺りに広がる…鼻と目が痛い…

程なくして接合完了…

それを全ての剥がれ、ばらけた場所に施す。

ネックも元の状態とまではいかないが元通り形にして、全部繋ぎ合わせが完了した…

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「終わったよ…」

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何やら唱えごとを行い札(ふだ)を書いている父に言うと…

コクリと目をつむったまま頷き、最終的な封じの儀式を始めた。

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「隆一…弦も張れ…元の形だ…兎に角、元の状態でなければ、そいつは納得しない。」

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弦も?大丈夫だろうか…貼った途端ネックの繋ぎ合わせた所が折れたりしないだろうか…

兎に角、自分の部屋に弦を取りに行く…

階段を上って直ぐの部屋が私が使用していた部屋だ。

扉を開けると以前のまま、何一つ変わっていない。

片付けも、され綺麗になっている…

だが今は懐かしさに浸っている場合ではない…

確か机の引き出し上から二番目にギター弦やベース弦、ピックなどがしまわれていたはずだ。

引き出しを開け…

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!??

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開かない…?

鍵がかけられている…

マジか!っと鍵を探した…

鍵など何処にやったかなんて覚えていない…

外のガレージから父の叫び声が聞こえる

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「まだかぁぁ!!?」

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仕方が無い!机を壊そう!

木製の机、ハンマーでサイドを力いっぱい殴る。殴る。殴る。

『バカッ!』と引き出しの前面が外れ中身が落ちる…

よし!これだ!

と弦を持って階段を駆け下りる。

ガレージの扉を開けて、絶句した。

父が血まみれで、ギターを抱えうずくまっている。

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「おっ親父!どうしたの?何があったの?」

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「う…畜生…おっ…俺は…大丈夫だから、…ギターに弦を…張れ…」

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よく見ると身体中の毛穴から血が吹き出している…

これが呪いの力?

私は慌てて弦をパッケージの袋から出すと、弦を張り…

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「親父…ダメだ…張れねぇ…」

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「な…なぬ?どうしてだ?」

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そう…ペグが壊れているのだ…

張りようがない…

父の様子はみるみる酷くなる。

目は真っ赤になり、鼻や口からも血を吹き出している。

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「ぐふっ…これまでか…畜生…

なぁ…隆一…よく聞け、俺ぁもう助からねえ…へへっ…最後の手段だ。命を捧げて…この野郎…っぐふぉっ…はぁ…はぁ…この際だ…封じるのは辞めだ…祓ってやらァ…」

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なっ!!!???

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そんな事は許さない!

せっかく、帰ってきたのに…

仲直りが出来そうだったのに…

この人はいつもこうだ…

勝手に決めて、勝手に行動…

だから何時も喧嘩ばかりした。

ウチには母さんがいない…

兄弟もいない…

父と子二人で生活してきた…ずっと小さい頃から…

他に身寄りだって無い…親戚だって今まで会ったこともないから顔すら分からない…

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「嫌だ!父さん!絶対嫌だ!」

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「馬鹿!…お前は…またわがままを言って…俺を困らせるのか?」

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「だって…父さん…」

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「親父らしいこと…出来なくて悪かったな…幸せになれよ…じゃな…」

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と、言うと…ギターを抱えた父の身体は火に包まれ、みるみるうちに灰になって渦を巻きながら、開きっぱなしだった扉から、外に吸い込まれるようにして出て行ってしまった…

呆然と、その場に崩れ落ち…

父の突然の死を悲しむでもなく、悔しむでもなく、天井を見上げていた…

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欲求不満さん、あっありがとうございます。

匿名さん、分からないところはご愛嬌ということにさせてくだせぇ!