中編4
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我が茶番的闘争の日々

この地域があの男の巨大な実験場と化して、もうどれくらいの年月がたったのだろう?

あの男は狂っている。

もちろん世界全土を見て回ったわけではないが、おそらく人類が滅びたその瞬間から。

そしてそれは、あの男の生涯をかけたこの実験の始まりを意味する。

多分、目的は恒久的な平和なユートピアを作る事。

彼は丸々一つ街を作ったのだ。

そして、そこに自作したアンドロイドを住まわせた。

いや、順番は逆なのかもしれない。

アンドロイドを先に作り、労働力を確保した後に街づくりをしたのか?

どの道あの男はあの街において、神のような存在だ。

しかし、そうでありながらあの男は街の中での自分の位置を明確なものとし、住人の一部として溶け込み平気な顔で生活している

あの男には、一人だけ助手がいる。

若い女性だ。

彼女が、旧人類の生き残りなのか、もしくはあの男の悪魔的な技術力によって人工的に生み出された生命なのかはわからない。

しかし、彼女はただの助手という訳ではないだろう、この世界で人類はもうあの男と彼女の二人だけだ。

残りは造られた生命……アンドロイド達が闊歩する世界だ。

きっと彼女はあの男の慰み者でもあるのだろう。

俺は、そんな世界であの男によって作られたアンドロイドの一体だ。

ただ、俺はあの男の『お気に入り』にはなれなかった。

何故か?

知能レベルの差だと思われる。

おそらく、俺はあの男の作ったアンドロイド達、その中でも比較的初期のまだ性能が安定しなかった頃に作られ一体だと思われる。

偶然の産物か、それこそ神のイタズラなのか。俺は他のアンドロイドたちに比べて知能レベル、平たく言えば頭が良かった。

俺は出来るだけあの男に好かれるように、動いた。いや、動いたつもりだった。

「俺をもっと見てくれ」

「俺は他のアンドロイドと比べものにならない程の知能を持ている!」

「俺はこんだけ気を回す事が出来るんだ!」

「俺はこんなにもあんたが好きなんだ!」

「俺はあんたにもっと愛されたいんだ!」

しかし、あの男が欲しかったのは何かを察し、自発的に行動するようなアンドロイドなどではないのだ。

自分の手の平で完全に掌握できるアンドロイドなのだ。

結果、俺はあの男に疎まれ、あの街を追放された。

やがてあの男は、一体の傑作アンドロイドを作り上げることになる。

俺は、それが他のアンドロイド達の性能を遥かに凌ぐ事から、超規アンドロイドと名付けた。

超規アンドロイドは強く、他の住人に優しく、知能レベルこそ低かったが何より、あの男に従順でコントロールしやすかった。

また、超規アンドロイドは、住人のためなら自らを犠牲にすることなど、何の躊躇も抱かないように見える。

俺はそれ以来、嫉妬の塊となった。

住人、助手、超規アンドロイド、どいつもこいつも気に食わなかった。

特に殆ど知性というものの欠片も見られない癖に、あの男の寵愛を受け続ける住人共。

俺はいく度も街の崩壊……つまりはあの男の世界の崩壊を企んだ。

しかし、何時も寸でのところでその企みは、超規アンドロイドの超暴力の元に叩き伏せられた……。

それはいく度も、いく度も、いく度も、いく度も……本当に気の遠くなるような長い年月と回数繰り返された。

ここに来てようやく、俺も気づいてきた。

俺という存在もやはり、結局あの男の手の平で踊らされ続けていたのだ。

弱者が強者によって守られる、それが世界が平和であり続ける条件なのだ。

強者はその中で自己犠牲の精神に基づき、弱者を守る『盾』であり続けなくてはならない。

悪は常に悪として存在し続けなくてはならない、永遠に悪として負け続けなくてはならない。

俺は決して、初期生産時の不安定さから生まれた存在ではないのだ。

ちゃんとした役割を持って生まれてきているのだ。

よし、解った。

それがあの男の望みなら、叶え続けてやろうじゃないか。

今日も俺は、住人をいじめる。

やがてやってくる、超規アンドロイド。

今では、他のアンドロイドたちへのエネルギー運搬用の白い奴やら、ただのマイナーチェンジに思われる黄色い奴など、新型の超規アンドロイドも増え、戦力的な差はますます圧倒的に広がったかのように見えるが、こっちにもドキドキさせるオレンジの奴やら、骨だけで構成されたアンドロイドなどの良く分らない仲間もふえた。

きっとこの茶番的闘争はますます激化するだろう。

そしてそれはずっと続くのだ、村での役割はパン工場の工場長としておさまっているあの男が死ぬまで……。

そして今日も俺の企みはあの知性の無さそうな、丸っこい顔した奴に叩き壊される……。

「アーン○○チ!!!」

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