中編7
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イジメ

それは、突然始まった。

「おはよう!」

俺は元気よく、いつも通り教室に入ると挨拶をした。

数人のクラスメイトがすでに教室には居た。

だが、誰一人として俺の挨拶に応じるものが居なかった。

あれ?聞こえなかったのかな。

俺は、自分の机に向かうと、すでに前の席の親友の竹中が座っていたので、竹中の背中をぽんと叩き、また挨拶をしたのだ。

「竹中、おはよう!」

竹中は振り向かずに、黙って席を立ち、教室の外に出て行ってしまった。

え、もしかして、俺、無視されたのか?

言いようの無い不安にさいなまれた。

何か竹中に悪いことしたのかな、俺。そう思いつつも俺は、ランドセルから一時間目の教科書を取り出す。

予鈴が鳴り、担任の小林先生が教壇に立つ。

「きりーつ。れい。」

学級委員長の号令とともに、皆がおはようございます、と挨拶をした。

淡々とホームルームが進み、その後1時間目の授業が始まった。

1時間目が終わると、俺はもう一度竹中に話しかけてみた。

「なあなあ、竹中~。」

後ろから竹中に話しかける。

いつもなら、面倒くさそうにだけど、あぁ?と首だけを後ろに曲げて

変な体制で俺の顔を見るのだが、また無視された。

俺はいい加減、腹が立って

「無視すんなよ!」

とつい声を荒げてしまった。

それでも、竹中はこちらを向かなかった。

こんなに大声を出したんだから、皆が俺を見ているはず。

俺は、教室を見渡した。

休憩時間、それぞれがわいわいと話をしている。

結構大声を出したつもりだったんだけど、皆気付いていない。

竹中に無視された俺は、仕方なく、隣の佐藤に話しかけた。

「なあなあ、佐藤。俺、竹中に無視されてんだけど、俺、何かしたのかな?」

佐藤は黙って、席を立ち、教室から出ていってしまった。

「なんだよ、お前まで無視すんのかよ!」

そう言いながら佐藤の後を追った。

佐藤はトイレのほうに向かった。

後ろから怒鳴る俺を全く無視しながら、トイレに向かい個室に入った。

「ウンコかよ!」

俺はわざと佐藤の気を引くためからかった。

中からは何も反応がなく、面白くないので、佐藤が今ウンコしているのを

クラス中にばらしてやるつもりで、教室に帰った。

誰に一番最初に話そう。

お、佐藤が好きだという噂の、春香に言ってやる。

俺を無視した罰だ。

「なあなあ、春香。今、佐藤、トイレでウンコしてるんだぜ。」

春香のそばまで行き、机に手をついて、聞こえるように耳元で話した。

春香はまったく何も反応しなかった。

嘘だろう?春香まで俺を無視するのかよ。

どうなってるんだ、このクラスは。

俺は頭にきて、教壇の上に乗って叫んだ。

「何でみんな俺を無視すんだよ!」

こんな大きな声で叫んでいるのだから、絶対に聞こえるはず。

だけど、皆は俺を無視している。

「俺が何をしたって言うんだ。」

俺がもう一度叫ぶと、チャイムが鳴り、小林先生が教室に入ってきた。

「きりーつ。れい。」

その号令が発せられた時に小林先生がこちらをチラリと見て

「田中君、席に戻りなさい。」

と小さな声で俺に注意した。

「おねがいしまーす。」

その声とともに、俺は仕方なく自分の席に戻った。

いったい今日はどうなっているんだ。

俺は気分が悪いので、昼休みを前に学校をサボって家に帰った。

家には母さんが居るはずなのに、誰も居なかった。

俺は気分が悪くて、家に帰ってもお腹がすかず、そのまま自分の部屋で寝てしまったのだ。

気がつくと朝の9時だった。

やばっ!嘘だろう?俺何時間寝てたんだ!

何で母さんは起こしてくれなかったんだ!

俺は慌てて二階の自分の部屋から降りて母さんに抗議しようと思った。

ところが、母さんは居なかった。

母さん、どこに行ったんだろう。

俺は不安になった。

母さんの携帯に電話してみた。

「この電話は、電波の届かないところにいるか、電源が入っていないためかかりません。」

そう乾いた声が無情に伝えてきた。父親の携帯にも電話をかけてみたが同じだった。

俺は不安になった。

とりあえず、学校に行ってみよう。

ふと小林先生の顔が浮かんだのだ。

生真面目で淡々と授業を行う、面白みもない普通の先生。

だけど俺には今、頼れる大人が小林先生しか浮かばなかった。

それにしても腹が減らない。もう丸一日以上、何も食べていないのに。

俺はとぼとぼと学校への道のりを歩いて行った。

教室はちょうど、1時間目が終わった休憩時間だった。

俺は自分の机に違和感を感じた。

俺の机の上に白い花がいけた花瓶が置いてある。

俺は猛烈に怒りを感じた。

「誰だ、こんな嫌がらせをするやつは!」

俺は叫んでみたが、やはりクラスメイトは全員無視をきめている。

くっそー、俺が何をしたって言うんだ。

目の前が悔しさで涙で滲んだ。

俺は職員室に向かった。

「失礼しまーす。」

職員室に入ろうとすると、ちょうど小林先生に出くわした。

「先生・・・。」

俺はつい、男の癖に先生の顔を見ると涙が溢れてきた。

小林先生は、俺を見ると小さな声で呟いた。

「ついてきなさい。」

そう言われ、俺は黙って先生の後をついて行った。

先生は誰も居ない理科室に入って行き、準備室の鍵を開けた。

「入りなさい。」

小林先生に促されて、俺は準備室に入り、椅子に腰掛けるように言われた。

「先生、僕、みんなに無視されているみたいなんです。」

俺がそう切り出すと、先生は黙って俺を見つめた。

「何で、無視されるのか、わからなくて。今日なんて、僕の机に白い花を置く嫌がらせを受けて。」

俺はぎゅっと握った拳の上に涙を落とした。

「僕、イジメを受けているんでしょうか。」

信じられないことだけど、受け入れるしかないのか。

小林先生が重い口を開いた。

「田中君、落ち着いて聞いてほしいんだ。」

小林先生がまっすぐに俺を見た。

そして、少し戸惑った表情で言いよどみ、もう一度俺をまっすぐに見た。

「君はもう、死んでいるんだ。」

俺はショックを受けた。先生までが俺をイジメにかかってきた。

「酷い、先生まで。僕を苛めるんですか?」

先生は首を横に振り、悲しいような苦しいような複雑な表情を浮かべた。

「違うんだ。先生はね、見える性質の人間なんだよ。」

俺は先生の言っている意味が全く理解できなかった。

「君は、夏休みに入る前にある重病で入院した。夏休み中、ずっと入院していて、症状は改善されずに、どんどんと重篤になっていったんだ。」

小林先生が搾り出すように行った。

何を言っているの?先生。

「新学期になっても、君は退院できず、とうとう危篤状態になってしまった。」

意味がわからないよ、先生。

「私は、昨日、君が学校に来ているのに驚いたよ。危篤という知らせを前日に受けていたから。

だけど、自分の性質上、すぐにわかった。田中君の意識だけが学校に来ているのだと。」

嘘でしょう?そんな冗談はやめてくれ。

「みんなはね、君を無視していたんじゃないんだ。君が見えないんだよ。」

さっき死んだって言った。俺をからかうのもいい加減にしてくれ。

「そして、君は・・・。」

そこまで言うと先生は大粒の涙を流しだした。

ひどいよ、先生、そんな芝居をしてまで、俺を苛めたいの?

「昨日の夕方、息を引き取った。」

ふざけるな。そんな話は信じない。

「みんなこの後、君の葬儀に出席する予定なんだ。」

「ひどいな、先生。こんな冗談。酷すぎる。先生まで結託してイジメをするの?

教育委員会に訴えてやるからね。」

俺はそんな言葉を弱々しく吐き出した。

小林先生は静かに泣き続けた。

「行かなくては。」

小林先生が席を立つ。

「ねえ、先生、嘘でしょう?イジメだって言ってよ。

これ、からかっているんでしょう?

はいはい、もう降参。僕が何か悪いことをしたのなら謝るし。

反省しています。だから、もうこういうのやめようよ。

ちょっとイジメにしては酷すぎない?」

俺を置いてどんどん先に歩いていく先生の後姿を追った。

俺のクラスの教室の前まで行くと、引き戸をガラガラと引いた。

教室からすすり泣きが聞こえる。

教室の皆が目を真っ赤にして泣いていた。

「みなさん、今から田中君の葬儀に参列します。」

おい、葬式ゴッコかよ。マジひでえ。

お前ら、最悪ー。

もうこんな学校、二度と来るかよ。バーカ。

俺はそう言い捨てると、自分の家に帰った。

家に帰ると母さんが、俺の写真を抱えて泣いていた。

父さんも横で号泣している。

なにそれ、クラスだけでなく、父さんや母さんまで俺を苛めるのかよ。

待てよ、どこ行くんだよ。

父さんと母さんを追って、一緒に黒い車に乗る。

え、嘘だろう?みんな、どうしてこんな場所に集まって泣いてんの?

父さんや母さんまで一緒になって。

葬式ゴッコかよ。

ひでえよ。

なあ、これってイジメだよな?

イジメなんだろ?

みんな!

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なんかかわいそうでした…いっそイジメであって欲しいという少年の思いが切ない…
自分の死を受け入れるってどんな気持ちなんでしょうね。