中編3
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訪ねてきた女

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自宅アパートに着くと、隣の部屋のインターホンを押し続ける不気味な女が居た。不審がって女を見るが、意に介さず、ただひたすらインターホンを押し続けていた。こんな時間に何の用なのだろうか?確か隣人は昨日から旅行で遠出をしている筈だ。特に声をかけることもなく家に入る。

それから眠りに就こうと明かりを消して布団に入り、辺りが闇に包まれ静寂が訪れて初めてそれに気がついた。

「ピーン…ポーン…ピーン…ポーン…」

と一定のリズムで隣の部屋からインターホンが鳴っているのが聞こえたのだ。確か帰ってきたのが九時過ぎで、今はもう十二時前。まだあの女が居るのかと想像して鳥肌が立った。その音を遮るために耳にイヤホンをして心地の良い音楽を聴きながらその日は小さな騒音をしのいだ。

次の日。仕事から帰るとまたあの女が居た。

「ピーン…ポーン…ピーン…ポーン…」

と人指し指で前後に体を動かしながらインターホンを鳴らしていた。また昨晩みたく、眠りを妨げるようなことをされては困ると思い。

「家の人留守ですよ。確か旅行でしばらく帰ってこないって言ってましたから」

女はその声に反応するようにピタッと不気味な動きを止めた。何だか怖くなってすぐに家に入り、鍵とチェーンをかける。少し呼吸を整えようと扉に寄りかかっていると

「ピーン…ポーン…」

自分の部屋のインターホンが鳴り、慌てて扉から離れる。

「ピーン…ポーン…ピーン…ポーン…」

その音は一定のリズムで鳴り続けている。

「ピーン…ポーン…ピーン…ポーン…」

扉にゆっくりと近づきドアスコープを覗いた。

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「ピーン…ポーン…ピーン…ポーン…」

女は笑っていた。笑った顔が少し離れ、近づき、また離れて近づき…。

「ピーン…ポーン…ピーン…ポーン…」

何故かその場から動けず、女から目を離すことが出来なかった、

「ピーン…ポーン…ピーン………」

なんの前触れもなく急に音が止まる。女は相変わらず不気味に笑っている。そして、「…ポーン」と鳴った瞬間ドアノブが「ガチャガチャガチャ!」と激しく音をたてて暴れ出した。それに驚いて慌てて扉から離れた時、躓いて尻餅をついてしまった。

「ガチャガチャガチャガチャガチャ!」

ゆっくり後退りをして、扉から離れようとするとドアノブを回す音と一緒に

「アハハッハッハハハァ!!!あああぁぁあぁあああぁぁぁあ!!あぁァアアあぉあおあアオォアぉぉああぁ!!」

ドア越しにも関わらず、その女の不気味な奇声はまるで、耳元で響くように頭の中にこだました。四つん這いで馬のように部屋の奥へ逃げ、全ての窓の鍵を閉めて布団に潜り込んだ。ドア越しに籠った女の声と、ガチャガチャと暴れるドアノブの音は延々と部屋に響き渡っていた。

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気がつくと朝になり、女の声もドアノブを回す音も聞こえなくなっていた。恐る恐るドアスコープを覗くと女は居なくなっていた。外へ出て確認しようと扉を開くと、目に飛び込んできたその光景に一瞬固まってしまう。玄関の目の前、足元にはまるで血だまりが広がるようにどす黒い何かが床を濡らしていた。それを踏まないよう外へ出て、扉の外側を見た。ドアスコープの周りにはどろどろとした透明な液体がべっとりと纏わりついていた。これはあの女が残していったものなのだろうか…。

それからすぐにそのアパートを出て行ったのであの女が一体何だったのかは未だにわからないままだ。無闇矢鱈に声をかけてはいけない。そう思った出来事だった。

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