中編4
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正体

music:4

放課後の高校の教室には、数人の男子生徒が残っていた。

クラスのリーダー格である男と、その取り巻き。

そして、いじめの標的となっていた男子生徒だ。

学校が終わり、教員も自分の仕事を抱え込み職員室をでないことを確認し、男子生徒への暴力が行われた。

取り巻きが殴り終えると、男子生徒は動かなくなった。

それを見届けたリーダー格の男は最後に男子生徒に唾を吹っかけると、教室を去っていった。

こんな暴力が入学一ヶ月後から行われている。

しかし、その生活に突然変化が訪れた。

リーダー格の男が事故で死んだのだ。

高校二年生の夏。

僕には自称霊能者を語る友人がいた。

ある日彼の部屋を訪れると、彼は自分の書斎のような部屋で一人、新聞記事を眺めていた。

覗き込む。

小さな記事だ。

高校一年生の冬、僕が通う高校で起こった事件で、クラスでも人気者であった生徒が、ある日自宅で首を吊る、という話だった。

まあ、僕はその生徒とは接点がなかったのだが。

友人に、その事件知っとるで。

と話しかけると、友人は知ってるだろうな

とそっけない対応をしてきた。

やけに集中している。

不意に、「どんな事件だった?」

と俺の目を見る。

読んでるじゃないかと、脳内で毒づきながら、自分の知っている内容を話す。

彼は黙って聞いていたが、話し終えると。

「違うな」と否定をしてきた。

続けて、「それは誰から聞いた話だ?」

確か、別のクラスの知り合いだっただろうか?

少し考え込んでいると、見かねたように彼が言った。

「この話の面白いところはね、その真実の不確定さにある」

少しゾッとした。

まあ、と続けた。

「事件によっても変わってくるけど、この手の話は特にな」

「どういうこと?」

彼は、机の引き出しから、二枚の記事を取り出し俺に見せた。

別の新聞のコピーのようだ。

似たような内容だが、死因が違っていた。

一つは病死、片方はマンションからの転落死。

友人がにんまりと笑うと

「で、お前が知っているのは首吊り」

そう言うと舌を出し、体をぶらぶらと揺らして見せた。

なぜか分からないが、ゾクゾクする。

そして今更思い出す、彼が自称で霊能者を語っていることを。

「これもそういうのが関係しとん?」

彼は首を横に振った。

「ちょっとちゃうな」

それだけ言うと、んじゃぁ、行こかと立ち上がった。

外に出ると、鬱陶しい夏の太陽が僕達を照らし付けた。

「実は、さっきの新聞記事、同じ事件やけど、別々の事件ってことになっとるんよ」

でもな、と続けた。

「死んだのも、死んだ時間も一緒で、死因と場所が別々やねんよ」

どういう事だろう。

虐められていた生徒の名は福田。

リーダー格の名前は加納。

そして今まさにその福田の家の前に居る。

何でこいつが住所を知っているんだろうかと思っていると、彼は「ここで待っとけ」と言い残し、インターホンを鳴らした。

中から中年のおばさんが出てくると、家の中に招かれた。

5分もすると彼は出てきた。

ニヤニヤしている。

次に向かったのは神社だった。

そこでさらにゾッとするものを見る。

そこの木の陰に、人形が木に杭で打ち込まれていた。

それも、四肢、首、頭に杭が刺さっている。

人形自体は古びて、抹茶色になっている。

友人は構わずにその人形の腹を切り裂き、中から白い何かを取り出した。

綿のように見えたが、よく見ると丸めたティッシュだった。

「これが、丑の刻参りってやつだ」

分かりきったことを彼は確認するように言う。

この事件、自殺でもなければ、変死でもない、事故でもない。

他殺だ。

そして、半年前の事件の真相を語った。

事件の発端は加納による福田虐めだ。

加納も唾をかけるのが癖になっていたんだろう。

だが、それが運の尽きだったな。

そう言うと、彼はティッシュの端を持ち、ぶらぶらと揺すった。

僕はティッシュを見やる。

よくこんなものを素手で触るもんだ。

そうなことを考えていると、思い至る。

待てよ、この人形とあの事件が何の関係があるんだ?

彼は僕の顔を見るや否や。

「まだわからないのか」

と溜息を付いた。

加納殺しの犯人だ

人形を指差しながら言った。

「あの事件についての俺の見解はこうだ」

本来、丑の刻参りってのは、精神的にも強靭なものがやらなければ、効果を発揮しない、ましては福田のようなど素人が扱える代物ではない。

だが、発動した。

それも5度も。

そこまで聞くと口を挟まずにいられなかった。

「5度ってどういうことだ?」

「事故死、首吊り、変死、転落死、溺死…俺が知ってる限り、加納は5回死んでるんだ」

つまり、殺されてからも殺された。

人の《悪意》に干渉したからか、気持ちが悪くなった。

彼は続けた。

「これだけの強力な呪いをかけられる人間なんて、限られてくる」

俺が知りたいのは、この事件の真相なんてもんじゃなくて、犯人の方だ…。

冷たい言葉だったように感じた。

大学二回生の春。

俺はキャンパス内で、感じた悪意にあの高校二年生の記憶を重ねた。

俺は彼がたどり着けなかった《悪意》の正体を知ることができるのだろうか。

そんなことを思った。

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