中編4
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猿のしっぽ

ある3人家族がいた。

父、母、息子の3人だ。

息子は勤勉で割と有名な工場に就職しており、

反抗期というのも特になく、親や先生に可愛がられ、友人もたくさんいた。

この家族は平穏な生活を送ることに幸せを感じていた。

3人それぞれが家族を愛していたからだ。

そのためアルバムには笑顔の写真であふれており、思い出も大切にしていた。

この生活が続けばいいと切に願った。

そんなある日、家に小包が届いていた。

送り主不明、古いにおいがするのを感じた。

開けるのを少し待って知り合いに小包を送ったかどうかを確認したが、誰も知らないという。

いよいよ小包を開けることになり、中を見てみた。

そこには小さな手紙みたいなものと、赤ちゃんを産んだ後にもらう乾燥したへその緒のような乾いたものが入っていた。

手紙には説明が書かれていた。

「これは猿のしっぽです。こ

れを握りしめて願いを唱えるとたった2度だけその願いが実現します。」

という簡単なものだった。

誰かのいたずらだろうと3人は言葉を交わさずとも思った。

「これはいらないだろう。」と父がごみ箱に捨てた。

この穏やかな輝きに彩られた生活をしているうえに、更なる幸福は望まない。

強欲でないところも近所の人から好かれていた。

その夜3人はそれぞれの部屋のベッドで眠りについた。

仲はいいがベッドは別である。

夫婦でもベッドを別にして適当に距離を置いたほうが離婚しないというがそれと同じ理屈だろうか。

しばらく寝て息子が目を覚ました。

とてつもない胸騒ぎに駆られ完全に眠気は吹き飛んだ。

彼は麻薬中毒者が薬を求めるようにあるものを求めていた。

あのしっぽである。

昼間には彼自身も全く興味を持ってなかったあのしっぽ。

欲しくて堪らない。

死んでも手に入れてやる。

彼はあのしっぽをごみ箱から救い出した。

そのあと心臓は落ち着きを取り戻し、また眠りについた。

朝になって息子は昨夜のことを話し、しっぽを家に置いておいてくれと必死に親に頼んだ。

親はこんな息子の様子を見るのが初めてだったのですぐさま了解した。

しっぽは最初の小包の中で息子の部屋に眠った。

長い月日を経た。

親はしっぽのことを忘れており息子でさえもほぼ忘れかけていた。

平凡な日が続いていたある日、父は定時で家路についたが息子は残業していた。

しかし帰ってこない。

父は嫌な予感がしていた。

チリン、チリン、チリン、チリン。

黒電話が鳴った。工場の人からだった。

「息子さんが機械に巻き込まれて瀕死状態です。

すぐに来ていただけませんでしょうか!○○病院です。」

父の予感は的中した。

二人で病院に駆け込んだ。

血走った眼は必死に息子の病室の番号を探した。

病室には見るも無残な息子がいた。

原形をとどめておらず、おそらく救急車に乗る前には死亡していただろうという状態だった。

二人は頭が真っ黒になった。

この得体のしれない物体が息子だという事実を受け入れられなかった。

遺体は霊安室におかれた。

息子の同僚に話を聞くと事故の悲惨な状況が頭に浮かんだ。

人間圧搾機にのまれていく息子は声を張り上げ、血を撒き散らし、恐ろしいほどの痛みに沈んでいった。

とりあえず二人は家に帰った。

冷え切った頭は次にすべきことを考えようともしない。

空しい時間がたって父の頭にあることがよぎった。

あのしっぽである。

息子の部屋に駆け込み、妻と一緒に握りしめた。

あの大事な息子が手の届かないほうへ消えていかないようにと願いながら。

『息子を生き返らせてください』

・・・。

その場では何も起こらなかった。

しばらくたって、玄関のドアをたたく音がした。

二人はドアに飛びついて行った。

ドアの向こうにはさっきみた得体のしれない物体があった。

そう。

しっぽはこの物体に息子の命を戻しただけだった。

思わず悲鳴を上げた。

再びこの姿を見せつけられ息子は戻らないと悟った。

あの平穏な生活に戻れない事も。

この奇妙な生き物から逃れる様にまたしっぽにすがった。

あと一回使える。

父は泣く泣くこう唱えた。

『息子を殺して天に召してください』

元息子は光の粒になって薄れていった。

妻は崩れるように座り込んだ。

次の瞬間、夫に首を落とされた。

そこには刃物を振り回しながら発狂している夫の姿。

こう叫んでいた。

「俺の人生は完璧だった。このときの中にずっといたかった。でも何でだ!

誰がこの幸せを奪っていくんだ!死ね!シネ!しね!生きてるやつは殺してやるぞ!」

赤い目の殺人鬼が外に飛び出していった。

しかし誰かに刃物を振り下ろされた。

振り返ると息子がいた。

それもあの愛おしいきれいな姿をした息子だった。

その瞳が訴えていることを父ははっきりと理解した。

「僕は父さんを悪い心から連れ出すために来た。

優しい父さんでいてほしい。

さぁ、もう逝こう。」

息子は二人の手を強く握り、力強い速さで天に迎えた。

父は憎悪から解放されるのを感じた。

「次の人生でもみんなに会いたい。」

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