中編4
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兄の風邪

此れは、僕が高校二年生の時の話だ。

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・・・・・・・・・。

木葉さんが風邪を引いた。

原因は苦手な煙草を吸って、喉を痛めたから。

どうして苦手な煙草を吸ったのかというと、其れは僕が持ち込んだ厄介事を処理する為。

つまり、兄が体調を崩してしまったのは、先日のウタバコの一件・・・言い換えると、僕と齋藤の所為なのだ。

罪悪感で一杯である。

故に僕は、烏瓜さんから連絡を受けた其の日の内に、木葉さんの御見舞いに行くことを決意したのだ。

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・・・・・・・・・。

さて、放課後。

木葉さんの家に着くと、門の扉が開けっ放しになっていた。

普段から鍵は掛けられていないのだが、何となく不用心な気がする。

頭の中に一瞬だけ嫌な想像が過った。

少し急いで門を潜る。

僕はきちんと扉を閉めて、木葉さんの部屋へと向かった。

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・・・・・・・・・。

敷かれた布団の上で、木葉さんは当に苦悶といえる表情をしていた。

ぎぃー・・・ぎぃー・・・ と謎の呻き声まで上げている。きっと悪夢に魘されているのだろう。

「兄さん、大丈夫ですか?」

「ぎぃー・・・ぎぎぎぎ。」

駄目だ話にならない。

病人に手荒な真似はしたくないが、こんなに苦しそうなのだから、此処は仕方あるまい。

「兄さん、起きてください。」

肩の辺りを持ち、ゆっくりと揺する。

「ぎぃ」

「其れは返事なんですか?兄さんってば。」

「ぎぎぎー・・・。ぎ。・・・・・ん。ん?」

突然木葉さんの目が開いた。

「・・・木芽。どうしたんですか平日に。明日は学校でしょう。」

声に疲れが出ている。益々申し訳ない。

「いえ、あの、烏瓜さんが教えてくれて、御見舞いに・・・。」

「あの馬鹿猿め。よりにもよって木芽に教えること無いじゃないですか。格好悪い。」

「でも、今回、兄さんが体調を崩した責任は、僕にあるんですし・・・。」

「別に今回の件は木芽の所為じゃないです。単なる私の不摂生が原因ですから。」

「だとしても、兄さんは実質独り暮らしでしょう。連絡は有り難かったです。風邪の看病くらいなら、僕でも出来ますし。」

布団の上で憤る木葉さんを宥めながら、買ってきたスポーツドリンクを手渡す。

「食事、摂れるようなら何か作ります。お粥とかうどんなら食べられますか?」

ペットボトルの蓋を開けながら、木葉さんは少し拗ねたような顔で頷いた。

「・・・・・・卵粥なら。」

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・・・・・・・・・。

出来た卵粥をモソモソと食べながら、不意に顔を上げ、木葉さんは言った。

「・・・あ、そうだ。今思い出しました。木芽。アルバイトをしませんか?」

「アルバイト?」

僕が聞き返すと、ゆっくりと頷く。

そして、何処か恥ずかしそうにポリポリと頬を掻いた。

「実は、仕事の途中で倒れてしまったので、引き継ぎを御願いしたいんです。あとは、依頼された物を運ぶだけですし、今更になって他の業者に渡すのも何だか癪で。」

「あ、それなら別にバイトとかじゃなくて、普通に手伝いますよ。」

元々、僕が邪魔をしたようなものだから。とは、口に出しては言わないけれど。

実際そうなのだから、せめてもの償いだ。

そんなことを考えていると、見透かしたように木葉さんは言った。

「駄目ですよ。ちゃんと、其処はハッキリさせておかないと。木芽には御両親だってあるんですし。リスクだって無い訳ではないんですから。勿論、危険な仕事はさせませんが。」

コホッ、と小さく咳をして、微かに笑う。

・・・そういえば、木葉さんの両親は、もう亡くなっているのだった。

少しだけ距離を感じた気がして、目を伏せる。

木葉さんが、僕の表情が曇るのが分かったのだろう、あくまでも軽い調子で付け足した。

「甘えてばかりでは、兄の威厳も形無しですからね。格好悪いじゃないですか。」

病人に気を遣わせちゃ、いけないな。

僕は、笑顔を作って軽く首を振って見せた。

木葉さんが笑いながらもう一度言う。

「バイト、御願い出来ますか?」

僕は、今度はゆっくりと頷いてみせた。

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・・・・・・・・・。

先程までの弱り方が嘘のように、木葉さんはテキパキと指示を出した。

「運んで欲しい荷物は、あの机の上にある包みです。ほら、あの紫色の。重くはないので安心してください。風呂敷ごと渡してしまって構いません。あ、タイムリミットは明日の夜七時までなので、明日の学校帰り、渡しますね。電車代は後でちゃんと請求してください。配達場所は隣に紙を書いておきました。地図の読み方は分かるでしょう?御客様に話す内容は其の横の紙。ちゃんと覚えて、粗相の無いように。嗚呼、あと一応、弟としての挨拶もしてくださいね。・・・あ、そうそう。代金は口座に振り込んで頂くよう、先に頼んでおきましたから、木芽は配達するだけで大丈夫ですよ。」

「・・・・・・・・・。」

「どうかしました?」

兄がニコリと微笑む。

用意周到すぎて、寧ろ、此れは・・・

「兄さん、もしかして初めから其のつもりで」

「何のことやら。」

朗らかに笑う兄を見て、僕は、やはり此の人には敵いそうにない・・・と思った。

Concrete
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まっしろさんへ
コメントありがとうございます

そう・・・ですね。恐らく。
兄は一体、僕に何をさせたかったのやら・・・。
取り敢えず悪意は隠っていないでしょうが、謎です。

はい。
強いて言うなら、隈取りよりは舞妓さんの其れに近い感じです。彼処まで主張は強くありませんが。
海外の女優さんとかで、アイメイクが凄い人って居ますよね?あの上まぶたのラインの部分だけを赤くしたような感じ・・・と言えば、イメージしやすいでしょうか。
分かりづらい説明、申し訳御座いません。

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今回のお話は「木芽」としての初の一人仕事になるのでしょうか。
木葉さんの準備の万全さに、mamiさんの「初めてのおつかい」の言葉がしっくりきてしまいました。(笑)

また懲りずに質問なのですが、木葉さんがお仕事の時に顔に引く紅について、どこにどのように引くのか知りたいと思っていました。
(紅を引いた顔について調べたら「舞妓さん」や「隈取り」画像がヒットしてしまい、でもそんなまさか…と悶々しておりました…)
差し支えなければ教えて頂けると嬉しいです。。

返信

mamiさんへ
コメントありがとうございます。

示し合わせて・・・。
有り得ないことではないですね。・・・あの二人が仲良しどうかは別として。

あの時も、僕が行くまでは、なんだかんだで烏瓜さんが看病してたみたいですしね。
何なんでしょうね。本当に。

ええ。結構ヒヤッとしました。
ネタバレになってしまうので、あまり書けませんが。

初めてのおつかい・・・。
まぁ、慣れてないことでしたし、そんな感じも否めなかったと思います(笑)

僕の所も結構関係無い場所だったんですが、何となく気になってしまったので。

把握しました。
僕の住んでる所は有名な物が此れと言って無いので、名物があるというのは羨ましいばかりです。

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裂久夜さんへ
コメントありがとうございます。

皆様のおかげで、無事完結致しました。

お付き合いいただけるのなら、タグを繋いでおきますので、御手数ではあると思いますが、ダラダラ子、で検索をして頂けますか?

返信

みぃねこさんへ
コメントありがとうございます。

あ、はい。そうです。因みに
コンソメ=コンちゃん=木芽=野葡萄=紺野です。
分かりにくいですね。
申し訳ないです。

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木葉さん、さすがです。
実は、烏瓜さんとは仲良しで示し合わせたことではないかと思えますね。(*'▽'*)
そんな、微妙な距離感のお二人も好きです。
お話しになるくらいだから、何事もなく無事に…とはいかなかったのかな?
『初めてのおつかい』みたいですね。

前回は、地震のご心配、ありがとうございました。
震源地とは全然関係ない所に住んでおりますが、ご心配いただいたこと、涙が出そうに嬉しかったです(T^T)

因みに、私は豚骨ラーメンやモツ鍋で有名な所に住んでおります(^_^)ゞ

返信

すみません…

ダラダラ子の話しは、どうなりますか(^_^;)?

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