深夜2時頃、あるタクシー会社に電話がかかってきた。
事務員が受話器を取った。
『ありがとうございます、〇〇交通の〇〇営業所です』
すると、電話の向こうから勢いよく、中年の男の声が聞こえてきた。
『あのっ!もしもし!運転手のAですけどっ!』
『ああ・・・Aさん。どうされましたか?』
『すみません、すみません・・・私、事故を起こしてしまいました!』
『事故ですか?』
『相手の車、ぐちゃぐちゃになっちゃいまして・・・・ああ・・・私、どうしたらいいか・・・』
『Aさん、落ち着いてください』
『うう・・・・・私、妻も子供もいますし・・・・・この仕事を辞めたくないんです・・・・・子供もまだ小さいのに・・・・』
Aさんは完全にパニック状態だ。事務員が優しく声をかける。
『Aさん、落ち着いてください、大丈夫ですから』
『うう・・・・・もしこの仕事を辞めたら、次の仕事が見つかるかどうか・・・・・子供もまだ小さいのに・・・・・妻も子供も、私が養っていかないといけないのに・・・・』
半泣きのAさんに、優しく声をかける事務員。
『大丈夫ですよ、大丈夫』
事務員は言った。
『Aさん、あなたの奥さんも子供さんも元気ですよ。 だから、安心して成仏してください』
『・・・・・・』
ガチャ、ツーツーツー。電話が切れた。
Aさんは数年前、深夜の事故で仕事中に亡くなっている。
今でも、年に数回、Aさんが事故を起こした時間に電話がかかってくるらしい。
作者るん