短編2
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後ろ

俺の住んでいる地域には、ある心霊スポットがある。

このあたりではとても有名な場所で、K地と呼ばれており、よく話のタネになったものだ。

噂によると、そこでは一家心中した家族がいるとか、首なしライダーが出るとか、漫画やアニメのような話ばかりだった。

特に有名なのは、K地は自殺者が多く、そこで未練を残している霊達が道行く人を襲う…。

何とありきたりだろう。

ある日、俺は彼女と他愛もない話をしながら車で観光地に行こうとしていた。

しばらくして、ちらっと横目で彼女を見ると心なしか具合が悪そうだった。

そして、K地を通らないとここを抜けられないことに俺は気付いた。

元々彼女は霊感が強く、少しでもそういう気配があれば体調を崩してしまうのである。

しかし、K地を通らなければ楽しみにしていた目的地にたどり着けないため

「少し我慢できるか?」

と彼女の背中をさすってやりながらK地へと車を進めていった。

10分ほどだろうか、無事K地を抜けた俺は内心ほっとしつつ観光地へ向かった。

彼女はというとK地を抜けた瞬間、緊張の糸が切れたように眠りについてしまったのである。

そしてまた10分、何事もなく運転していると

目が覚めたのか、彼女があることを尋ねてきた。

「ねえ、私のこと好き?」

俺はいきなりどうしたんだと思いつつも若干照れ気味に

「好きだよ」

と前を見ながら答えた。

「私も好きよ」

そう彼女が返してくれたので、俺はとても嬉しくて

「観光地に行ったら何しようか、あそこの料理は美味しいらしいしなぁ」

と期待を膨らませていた。

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「ねえ」

「さっきから

誰と話してるの?」

急に彼女の声のトーンが低くなったので驚いた。

「誰とって、お前だよ?」

彼女の顔は青ざめていき、混乱したように言う。

「私、さっきまで寝てたもん。私じゃないよ…!!」

俺も少しパニックになったので、彼女を落ち着かせようと近くの休憩所へ車をとめた。

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彼女曰く、俺の声が聞こえてふと目を覚ますと俺が一人で喋っていたという。

そんなことはない。

俺は確かに、彼女の声を聞いてそれに返答していたのだ。

うーんと唸っていると、彼女が

「ひっ…」

と怯えた声を発した。

俺がどうしたと聞くと

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「…後ろ」

ばっと振り返り視界に入った窓には

おぞましい数の赤い手形がついていた。

恐らく女性の手だろう。

それを見たすっかり彼女は怖がり、ガタガタと震えていた。

俺は車を出て必死に跡を消そうとしたが、中々消えない。

まさか、と思った。

急いで車に戻り、後部座席から窓へと恐る恐る手を伸ばした。

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ぬるり。

俺の指には生暖かい「それ」がついた。

Concrete
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