中編3
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新世界

私は、今、尊い説法を頂戴している。

清水 マリア様。

それが尊いわが師のお名前だ。

マリア様は、齢、26にして、解脱された。

私と、マリア様の出会いは、今から1年前。

その頃の私は、荒んでいた。

長年付き合っていた彼氏にフラれ、しかも、職場でもいい年になった私は、「まだ結婚しないのか」などのセクハラまがいの言葉を浴びせられ、途方に暮れていたのだ。

良いことなんてちっともない。自分は今一番不幸だなどと、世の全てを恨んだのだ。

そんな時、同僚に「悩みなど、全て解決してくれる人が居るので、会わないか?」と勧められたのが、この教団だ。マリア様に、あった瞬間、そのあまりの美しさに、目を奪われた。

マリア様は、その見た目通りに、慈悲深い目で、私の話を全て聞いてくださった。

人の存在には全て意味があるのよ。

どう見られたいか、ではなくて、あなたがどう生きたいか。

私は、その日感涙にむせた。

お優しいマリア様。私は一生、貴女について行きます。

マリア様には、不思議な力がある。

痛むところに、マリア様が触れると不思議に痛みがとれたり、マリア様の体から発する匂いは、私達をとても良い気分にしてくれるのだ。マリア様の近くに居ると、なんだか、幸せな気分になり、恍惚となるのだ。

マリア様が、日の光にあたると、目に見えて、オーラが見える。オーラなど、目に見えるものではないと思っていたのだけど、ほんとうにマリア様にはオーラがあるのだ。

教団のパンフレットにも、オーラを纏うマリア様の写真が載せられているのだが、これは合成などではない、紛れもない事実なのだ。

今日も芳しいマリア様の周りには、大勢の信者が祈りを捧げている。

すると、説法をされていたマリア様が、急に壇上にうずくまってしまった。

すぐに、幹部の人たちがマリア様を心配して駆け寄ってきた。

その瞬間、マリア様の胸のあたりから眩い光が発して、私達の目をくらませたのだ。

何が起こったのだろう。私は、眩しい目をこじあけて、壇上のマリア様を見た。うずくまった、マリア様の背中が縦に割れて、光を発している。その光は、どんどん巨大になり、盛り上がっていった。

あまりのことに、皆声も出せずに、その様子を見ていることしかできない。

盛り上がった眩しい光はやがて、さらに大きくなり、マリア様の背中に羽のように広がった

みな、うっとりとマリア様の美しい変貌に見とれた。

マリア様が、徐々に、お顔を上げられると、皆が、驚愕の声をあげた。

顔いっぱいに膨らんだ大きな複眼が二つギラギラと光り、その真ん中からは、コイルのようなストロー状の口がついていた。羽は、日の光に七色に輝いている。

蝶々?その姿は神々しいばかりだ。

「マリア様、マリア様。」

人々はひざまずき、涙を流しながらその神々しさを讃えた。

光り輝く、マリア様がフワリと宙に浮いて、ゆっくりと羽を動かすと、そのたびに、七色のオーラを私達に振りまき、私達は、恍惚とした状態になり、動けなくなってしまった。

マリア様は、ゆっくりと、一人の信者のもとへ舞い降りた。そして、ゆっくりとその信者を包んだ。

「わぁあぁああああ!」

マリア様の羽の中で、その信者が叫び声をあげた。

声が途切れると、ゆっくりとマリア様はまた宙に浮かんだ。

マリア様の包んだ、その信者は、ミイラのように痩せ細って、倒れていた。

その姿を見て、初めて、皆が動揺し、阿鼻叫喚となったのだ。

私も驚いて、必死に逃げようとするのだが、体が思うように動かない。

どうやら、他の信者も同様で、体がしびれて動けないのだろう。

叫びはすれども、皆成す術もなく、その場に横たわることしかできないのだ。

マリア様のオーラのせいかもしれない。

あの、オーラは燐ぷんだったのか。

もはや、蝶の化け物でしかない、マリア様はゆっくりと、一人ずつ、命を吸い上げて行く。

ああ、そろそろ私の番なのか。

少しの不幸など、命に比べれば。

私をやさしく虹色の羽が包んでゆく。

ミラーボールのような二つの目の中に、いくつもの私の姿が映し出された。

ゆっくりと伸ばされたぜんまいの切っ先が私の体を貫いて行った。

薄れ行く意識の中、マリア様は、膨らんだ腹から輝く玉を産んだ。

中では巨大な蟲がうごめいている。

ああ、新しい世界が始まるのか。

私達は新しい世界の糧となる。

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