中編6
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真夜中の訪問者

深夜1時頃に龍から電話が鳴った。

相談事があるので後10分程でここへ来るとの事。相談事を持ち込むのならアサヒを2本買ってこい!と強く命じて電話を切った。

「さてと…」部屋を見渡す。

「隠さないといけない物が沢山あるな」

ピンポーン♪

呼び鈴に急かされて慌てて残りを片していると、突然ガンガン!と激しくドアを蹴る音が響いた。

「はっ?!テメー何してんだよボケ!!」

ガンガン!ガンガンガン!

「だから蹴んなや!」

俺は頭に血が昇り、大量のエロDVDを手にしたまま玄関まで走った。

ガンガン!ガンガンガン!

「くおらー!ひつこいのオンどれ!ドア蹴んなっちゅうとるんが聞こえんのかボケがあああ!!」

頭に血がのぼるとついつい関西弁が出てしまう俺だが、近所迷惑もかえりみず狂ったように蹴り続ける龍をシバき上げてやろうとドアを開けた。

「………!」

誰もいない

そんな筈は無いと廊下まで顔を出して左右を確認する。しかしやはり誰もいない。辺りは猫の子1匹居らずシーンと静まり返っている。

よく考えてみると龍の電話を切ってからまだ5分程しか経っていない。コンビニで麦酒を買う時間を計算に入れたらこの短時間でここまで来る事は考えられない。

念の為もう一度廊下を見渡す、いない。

「ちっ!なんだイタズラかよ…」

最初に頭に浮かんだ人物(犯人)は2つ隣りの部屋に住む暗い女だった。その女は部屋で騒ぐ度に一々苦情を言ってくる。

前なんて廊下でちょっと小便をしただけで警察を呼んだ程の神経質な女だ。多分奴に違いない。日頃の恨みがある筈だしあの女ならやりかねない。てか、奴しかいない。

「ちっ!」

俺はこの手の陰気でしょうもないイタズラが大嫌いだ。

もしこれが本当にあいつの仕業だったら女だからって絶対に容赦はしない。たらふく飲んで食ってあいつの部屋の前で「酒臭い小便」を垂れ流してやるか!…ひ…

ドアを閉めてクロックスを脱ぐ。さあ掃除の続きでもと思った瞬間…

ガンガン!ガンガン!ガンガン!

思わず仰け反り悲鳴を上げそうになった。あり得ない間隔でまたドアが叩かれたからだ。

廊下に人が隠れる所なんてどこにもない。俺は確かに何度も左右を確認してからドアを閉めた。ここは3階、手摺の向こう側にだって人間が立てるスペースはない。

「お、おい!ちょっと待てよ!龍か?龍なのかおい!?」

ガンガン!ガンガン!ガンガン!!!

ドアを蹴る音が一向に止まない。

これは人間の為せる技じゃ無い。馬鹿な俺でもそれぐらいは分かる。

暫くどうするか考えていたが、思いきり蹴られているドアの音を聞いていると恐怖を通り越して、段々とまた腹が立って来た。

「おい!いい加減に止めろし!俺が一体何をしたってんだよ!!」

俺は玄関に置いていた金属バットを手に掴むと、腹を決めてドアを思いっきり開けた。

「………!!」

しかしやはりそこには誰もいなかった。

キョロキョロと左右を確認する。

誰もいない。

見ると3つ隣りの部屋のドアが少しだけ開いている。あそこは確か浪人中の小池さんの部屋だ。俺の声に驚いて覗いているのだろう。こないだ見た時は勉強のし過ぎかゲッソリと窶れていて瓶底眼鏡が曇っていた。多分カップラーメンばかり食べてるので栄養が偏っているのだろう。今にも死にそうな程に顔色が悪かった。

俺はなんか無性に申し訳無い気持ちになり、小池さんの方に軽く頭を下げた。

そしてもう一度左右を確認する。やはり誰もいな…ん?

「………」

ちょっと待てよ…

ふと、この状況では有りがちなパターンが頭に過った。

左右を確認して誰もいないという事は、もしかしたら「上」に何かがいるのかも知れない… 俺の頭の上に…ドアノブを持つ手に力が入り、掌にねっとりと汗が滲む。

一瞬で全神経が上に持っていかれる。

上にいる?何かが?

ぴたん

「何の音だ?」だが見れない。もし本当に何かいたらどうする?殺されるかも知れない。

ぴたん ぴたん

それは濡れた衣服の様な物がゆらゆらと揺れて、何かに張り付く様な音だ。

ぴたん ぴたん

ふふ

その微かな笑い声を聞いた瞬間、俺は弾かれる様に思いきりドアを閉めた。そして震える手でチェーンを掛けると、そのまま恐怖の余りドアを背に固まってしまった。

ここに引っ越して来て半年になるがこんな事は初めてだ。噂で、この建物のどこかの部屋が事故物件だとは聞いた事があるが、それがまさか俺の部屋だとでもいうのだろうか?

事件の内容は母親の帰りを待っていた子供が呼び鈴を母親の物だと勘違いしてドアを開けた結果、そこには精神に異常をきたしたホームレスが立っており、引き摺り出され出刃庖丁で滅多刺しにされるという惨事。

ピンポーン♪

不意を突かれたその呼び鈴の音に、危うく心臓が止まりそうになった。玄関で聞くとやたらボリュームが大きく感じる。

「だ、誰だ!?」もうさすがに扉を開ける根性は無いので、恐々とドアスコープを覗いてみた。

レンズの向こう側には、誰かの右肩から肘辺りまでの腕が映っている。太さからして多分男性の物と思われた。

「りゅ…龍か?」

返事が無い。

もう一度覗くとやはり何者かの右腕が見える。

「おい!龍なんだったら返事しろよ!」

すると俺の声に反応するかの様に右腕がゆっくりと動き出した。そしてその手には刃渡り30センチ程の出刃庖丁が握られているのが分かった。

男はその刃先をレンズにコチコチと当てながら、真っ黒に落ち窪んだ両目でこちらを覗き込んで来た。

ピンポーン♪

この男が押したのかまた呼び鈴が鳴った。

すると奥のリビングから「はーい!ちょっと待ってねー」という声がした。

それはやたらに高くハスキーな声で、ある種機械的な声にも聞こえた。

ピンポーン♪

「お母さん待ってて今開けるから」

するとリビングから子供ぐらいの背丈をした黒い影がパタパタと走って来た。髪は短い…少年だろうか?

そして俺なんて居ないかの様に簡単に俺をすり抜けたその少年は、いそいそとドアのチェーンを外そうとしている。

「ば、馬鹿やめろ!開けるんじゃねぇ!それはお前の母ちゃんじゃねぇ!開けたらダメだ!殺されんぞ!」

思わずそう叫んで少年の手を掴んだ。

すると少年は不思議そうな顔をしながら俺の方を見た。少年も外にいるホームレスと同じく落ち窪んだ黒い目をしていて白目の部分が無かった。この少年も明らかにこの世の者では無い事は分かってはいたがもう今更引く訳にもいかない。

「な、そこは開けるんじゃねぇぞ!外にいるのは知らないおじさんだ、絶対に開けちゃダメだぞ分かったな?」

少年は少し目線をずらせて俺の背後を見た。

ぴたん

背後に強烈な気配を感じ、とてつもない悪感で全身が栗立つのを感じた。

俺の首筋に生暖かい吐息が触れる。

そして最悪な事に、今俺の目の前には上半身を写す姿見がある事に気付いてしまった。

「見てはいけない!見てはいけない!」と思いつつも、俺の意思に反しゆっくりと視線を上げてしまう…

「………!!!」

鏡の向こうにいる俺の右肩の上に、紫色の顔をした女の顔があった。

女は、口を真一文字に閉じて、両方の眼球が今にも飛び出してしまいそうな程に目を大きくひん剥いていた。

少年はその顔に手を差し伸べながら、確かにこう言った。

お母さんおかえりなさい

気が付くと、龍が心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。ズキンと後頭部に痛みが走る。俺逹は龍の呼んだ救急車で近くの総合病院に来ていた。

話を聞くと、龍が来た時には既に、俺は耳から血を流して廊下に倒れていたらしい。

事実俺は右耳の後ろを5針も縫う程の大怪我をしていた。それはまるで刃物でスパッと切られた様な傷跡だった。だが、バックリと開いてはいたものの見た目よりも傷は浅く、大量出血には至らなかった。

先程の体験を龍に一通り説明すると、何故か今回の事件にやたらと詳しい龍が教えてくれた。

犯人の男は少年を殺した後すぐにマンションから飛び降り、母親は事件後あの玄関のドアの上にロープを括り付けて首を吊ったらしい。

あの紫色の顔をした母親は、せめて息子が死んだ場所で一緒に死にたかったのだろうか?

考えてみればやたらと事故物件に遭遇する俺だが、実は未だに俺はこの部屋に住み続けている。理由は家賃が破格なのと利便性がパーフェクトな事からだ。

しかし、幸いな事に今回の一件から部屋で不可解な体験をした事はない。

まぁ無いとは言っても、時折夜中に呼び鈴が鳴ったり、カチカチとドアをノックする音はする。今の所は実害がないのでそのまま放置しているが…

本当、一体いつになったら成仏してくれるのだろうか…

ピンポーン♪

まただ…

勿論出る気は無い。

【了】

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ネタバレ注意

怖い評価をありがとう!しかし自分的には情けなくて、情けなくて恥ずかしい限りだ!他の先生逹の作品を読んで、少しでも上手くなるよう一から勉強させて貰うよ…ひひ…

ヒェ〜((((;゚Д゚)))))))
一同勢揃いとは(T_T)
そして、そんな環境に慣れてしまえたロビンM子さんに一票( ´ ▽ ` )ノ

来ましたね。マジにゾワゾワくるやつでした。
今、自宅のピンポン鳴ったら、ロビンさんを恨んでやるっ!と思いながら読んでました。

やあロビンミッシェル子だ。

す、すすすすまない!まさかのタイトルもろ被りだとは全く気付かなかったよ!沙羅氏の「真夜中の訪問者」も読ませて貰ったが怖く切ないいい怪談だったよ…ひ…

これは・・コワイですね(^^;

タイトルが私のUPしたものと全く同じだったので、あれ?背景が出てない~~と思って開いたら・・
めっちゃコワイじゃないですか!!
ガクガク((( ;゚Д゚)))ブルブル