中編6
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生き物の命を粗末に扱ってはいけません

これは俺逹がガキの頃、大人に教わった言葉だよな。行き年生きる物全てに魂が宿っており、無闇に殺生をすると必ずその報いを受ける事になります。

そんな事はみんな分かっている。誰が好き好んで生き物を殺すものか…

ジージーと最後の悲鳴を上げながらアスファルトの上を転げ回り、命の灯が今まさに消えようとしている一匹の蝉を眺めながら俺はそんな事を考えていた。

「お前は蝉として生まれて来て、この数週間で何を学び何を残した?お前の人生は満足の行く物だったのか?」

もちろん声には出さずに心の中で蝉に問いかける。

ジー ジー ジー

残念ながらこの広い世の中には命を粗末に扱う人間が山程いる。

正に「虫螻」を扱う様にゲーム感覚で人の頭を撃ち抜いて行く。ターゲットが即死すると歓喜の声を上げながらカメラに向かってVサインを送る。

いや殺すのは人間ばかりでは無い。己のくだらない欲求、ストレスを解消する為だけに動物を無闇に虐待し、殺す人間逹もいる。心的障害?そんな理由は正当な理由にはならない。そんな理由で人は人や動物を死に追いやっても許されるのだろうか。

どんな人間でも初めて生き物を殺す時は多少なりとも躊躇った筈だ。しかし自分より弱い物を殺す優越感、その快感を覚えてしまった者はどんどんとエスカレートし、また新たな強い刺激を求めて次の生き物を殺めてしまうと聞いた事がある。

国柄、宗教、置かれた環境の違いと言われればそれまでかも知れないが、よくニュースで見るそういった殺戮を繰り返している武装集団達は、敵を人だと思っていないのではないか。

人を殺す事に何の抵抗もない、それは殺人という物に対して完全に「麻痺」してしまっているのだと思う。

そうこの「麻痺」という言葉。

俺はこの言葉は世の中で一、二を争う程に怖い言葉だと思う。

もし俺逹がこの平和ボケした国では無く、海の向こう、未だ激しい内戦を繰り広げている国に生まれ堕ちたとしたらどうだろう…

己の信念を曲げずに殺生をせずに生き抜けるだろうか?裏切り者だと身内を殺されても?自分の腕を切り落とされても?

間違いを間違いと訴え、平気でいられるのだろうか?俺は少なくとも、命乞いしている名前も知らない兵士の頭を、なんの躊躇も無しに撃ち抜ける彼等にはなれる自信が無い。

しかし、そんな俺逹日本人もある意味麻痺しているのかも知れない。護身用のピストルもナイフもいらない平和で豊かで安全な国「日本」に。

ジージー

蝉は灼熱の太陽の下で、チリチリに熱せられたアスファルトの上を右に左にと転げまわっている。

そう言えば蝉は蛹からかえり死ぬまでの数週間で、一生分の快楽を味わっていると誰かに聞いた事がある。だから蝉は鳴き続けている。

気持ち良すぎて気持ち良すぎて堪らないから力の限りに鳴く。ジージージージー死ぬ間際まで鳴くのだと…

それがもし本当だとしたら、次生まれ変わった時に蝉だったとしても満更悪くも無いかも知れないな…

ジージー

俺の靴にぶつかった蝉が、その弾みで車道の方まで転がって行った。

そしてあっさりと二輪車に轢かれた。ミチャッという音を残し、原型無く潰れてしまった。

「ふ、残念だったな蝉君。君の死因は老衰では無く事故死だったようだね…」

命とは場所によっては俺達が考える以上に軽くもあり、重たくもあるのかも知れない。

人は何の為に生まれ、何をする為に生き、何の為に死ぬのか、いや誰の為に生き、誰の為に死ぬのか…などと、誰もが「中二」の頃に考える様な事を改めて今考えてみた。

子孫を残し命を繋いで行く為

まぁこれが妥当な所だろう。

ならば別に人間に生まれなくとも、昆虫や動物でも構わない訳で、何故人間だけが唯一この地球の中で他の生き物を寄せ付けない程の知能を持ち、文明を築いているのにも拘らず、個人から国レベルまでの醜い格差をつけて優劣を競い合うのか?そして何故人は未だに戦争なんぞを繰り返しているのだろうか。

それに他の生き物全てを自分逹の良い様に配下につけている意味とは一体何なのだろうか?誰かに聞いたら答えを教えてくれるのだろうか?どういう意味で、どういう使命を持ち合わせて俺逹は生まれて来たのだろうか。

人口が増えれば増える程、粗末に扱われる命も増えているのではないだろうか?もしかすると人間という生き物は実は生態系の一番を勝ち取っているというのは大きな間違いであって、知恵を持つ事によって実は生物の中で一番愚かで、劣っている種族なのではないだろうか。

もしかすると母親の身体から生まれ堕ちた後の数年間の内に見えていた景色こそが、正にそれこそが実はこの世の「真実」なのかも知れない。

「おーい、ロビンさん休憩時間もう終わってますよーー!」

「おう分かったすぐ戻るよ!」

最近入った若い衆にこんな話をしたら引かれるだろうな。おっさん暑さで頭おかしくなったんじゃねぇかと陰で笑われるかも知れない。

俺は短くなった煙草を燻らせながら蒼く澄み渡った空を見上げた。

人間も所詮は動物と同じ、生きるか死ぬか、殺すか殺されるかだろ?

そう言う人もいるだろう。確かに言葉だけ聞くと今の社会は自然界と同じく強い者達が生き残り、弱い者から先に死んでいく生き残り合戦の様な物かも知れない。

しかし考えて見てくれ。人類は調子に乗りすぎてしまってはいないだろうか。自分で自分逹の首を絞めてはいないだろうか。今から百年後には今地上にいるほぼ全ての人間がこの世にいないという事実。俺の事なんて誰も覚えてなどいないという現実。俺は限られた残りの人生で一体どれ程の事が出来るのだろうか?

平和な国、我が国日本、俺逹がこの小さな離島に生まれた意味を知りたい。かたや明日をも約束されていない命。俺逹が銃弾飛び交う町に「生まれなかった事」に対しての意味とは一体何だったのかも知りたい。

この想いをあの人逹が聞いたら多分「平和ボケしたガキが何を調子づいた事言ってんだよ馬鹿野郎!!」と罵られる事だろう。見聞きするだけでは伝わらない事の方が実際多いのだろう。そこで体験してもいない人間の戯言など豚の餌にもならないのだ。

俺は多分明日も精一杯仕事に励み、酒を飲み、女の尻を追っ掛け、怖話を読むだろう。

俺に出来る事なんてそんな程度だ、ただ…

ただ…

ただ…

ただ、ただ、ただただただただただただただただただただただただただただただただただただただただただただただただただただただただただただただただただただただただただただただただただただ…

幼くして消えていった命、生きたくても生きれなかった全ての命の為に、俺は明日も全力で毎日を精一杯やり切って生きたいと思う。

ジ ジジ ジ…

俺は耳を疑った。

「おい!お前まだ生きてたのかよ!」

てっきり死んだとばかり思っていた蝉の命がまだ消えていなかったと知り、俺は車道まで歩いて行った。

「こんなになっても生きてるなんて凄えなお前!そんなに死にたくねーんか?」

ジ ジジ ジ…

蝉を安全な場所に移す為、アスファルトから引き剥がしてやろうと屈んだその時、バサバサと黒い塊が俺のすぐ前を翳めて行った。

それは一羽の大きなカラスだった。

嘴には瀕死の蝉を咥えている。

「おう!良かったな!!」

俺はカラスに向かってそう叫んだ。

「おいカラス!そいつは根性のある蝉公だ!心して味わって食ってやってくれよな!!」

これで良かったんだ。

奴はこれで事故死では無く喰われて死んだ事になる。所謂、食物連鎖に貢献して死んで行った訳だ。奴の生まれた意味が今証明されたんだ。

「ふ、蝉公!なんかお前に色々と教わった気がするよ…」

少しだけ胸の支えが取れた気がした俺は、大空に消え行くカラスの姿を何時までも何時までも見送っていた…

若い衆1「お、おい…ロビンさん空に向かって手ぇ振ってんぞ!あれヤバくねぇか?あの人クスリとかやってる人だったっけ?」

若い衆2「あ、ああアレはヤベエな!完全に暑さでイカれちまってんな…」

若い衆1「どうする?監督呼んでっけど、もう少しだけ休憩してて貰ってた方がいいかな…」

若い衆2「…ああ、そうだな… 」

俺はあの蝉公にこんな言葉を教わった気がした。

人生とは自転車と同じ

倒れたくないならば

走り続けなければならない

by、せみお

ありがとう蝉公…

そしてさようなら蝉公…

【了】

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鏡水花氏、俺も君と同意見だよ!季節が変わる様に時代も変わり世代も変わっていく。決められた時間があるからこそ人は成長し、そして枯れていくんだろうな…ひ…俺のくだらない戯言に付き合ってくれてありがとう!
りこ氏、ご指摘ありがとう!恥ずかしくて顔がパンパンに赤くなってしまったので加筆修正させて貰ったよ!

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