長編8
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忘れないで

40を過ぎた今でも、思い出す事があります…。

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私は自分の不注意で、2匹の猫の命を奪った事があります。

自作品の「白い毛」には、飼った猫としては書いておりません。

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私が12歳、中学1年の時、1匹の猫の命を奪いました。

蝉の大合唱が盛んな、夏休み中の8月の中頃でした。

母は職場のお友達と広島へ旅行中。

夜は愛猫のマイケルと、近所の公園で拾って育てていた三毛猫の「ミケ」と留守番です。

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お昼過ぎ、身体が汗臭かったのでお風呂に入ろうと沸かしてました。

しかしテレビを観ていてお風呂の火を止めるのを忘れてしまい、熱湯風呂になってしまった。

私は何を考えたのか、水を入れずに風呂の蓋を開けて熱湯風呂を冷ましてました。

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居間でテレビを観ていたら…。

”ドボンッ”という音が、お風呂場の方から聞こえてきました。

私は(ヤバッ!)と思い、お風呂へ直行。

すると、熱湯風呂の中に猫のミケが入ってしまったのです。

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ミケはマイケルと違い、外に出る猫で少し開けているお風呂の窓から、家と外を行き来してました。

そして、風呂の蓋を踏み台にして外に出ていたのです。

ミケは、お風呂のお湯が熱湯とは知らず…。

また、蓋が開いてるのも知らず…。

外に出ようと、浴槽の蓋にジャンプしたんだと思います。

そして、熱湯風呂に落ちた。

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私は熱湯風呂に手を入れ、ミケを取り出しました。

すると、部屋中を逃げ回ります。

多分、火傷をしているはず。

ミケを助け出した私の右手も、水膨れが出来て火傷をしていた…。

今思い返すと、相当熱かったんだと思います。

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母も旅行で居ない。

動物病院に連れて行くにしても、自転車しかなく、仕方なくタクシー会社に電話しました。

火傷した猫を動物病院に連れて行く事を伝えたら、ペット専用のタクシーがあるからと手配してくれて、5分後に自宅前に来てくれました。

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暴れまくるミケをタオルケットに包み、キャリーケースに入れて、近くの動物病院へ向かいました。

獣医に診せたところ、身体の80%を火傷していると言われました。

助ける事は出来たとしても、普通に育たないと言われ、安楽死を提案されました。

私は悩みに悩んで、ミケを安楽死させる事に決めました。

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別室で、安楽死の処置をされるミケ。

外で待っていた私の耳に聞こえてきたのは、ミケの悲しげな鳴き声でした。

所謂「最後の声」というヤツです。

この鳴き声は、今でも忘れられません。

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そして、変わり果てたミケ。

ミケの身体は、火傷のせいで熱い。

「貴女も火傷の手当しなきゃね」

ミケを渡してくれた看護師さんに、そう言われました。

右手は火傷でただれてるのに、痛みは全く感じなかった。

ミケの方が、私よりもっと熱かった。

私より苦しかった。という思いが、痛さを忘れさせていたのだと思います。

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ミケの亡骸を、包んでいたタオルケットに包み外に出ると、タクシーの横で待っていてくれた運転手さん。

「助からんかったんか…。」哀しげに、私が抱えているタオルケットを見つめてました。

そして「帰りの運賃はサービスやけん、気を落さんよーにな?」運転手さんに言われて、帰りのタクシーの中で号泣しました。

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自宅に帰ったら、マイケルが私に擦り寄ってきた。

そして、床に置いたミケを包んでいるタオルケットを匂って、前足でカシカシしています。

タオルケットの端がハラリと開き、まだ身体が濡れているミケの亡骸が現れました。

するとマイケルが、ミケの身体を舐めているのです。

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マイケルは、ミケが死んでいる事に気付かず、前足でミケの身体をツツキながら毛づくろいをしています。

その姿に、胸が苦しくなりました。

取り敢えず、夏場で腐敗も酷くなると思って、ミケを4枚あわせのゴミ袋に入れて冷蔵庫の中へ入れました。

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一人では何も出来ないし、母親も帰ってこないから、こうするしか方法がありませんでした。

それに、右手の火傷も少しづつ痛くなってきて、奥の方からジンジンしてくる。

お小遣いを、動物病院で使い果たしたし、皮膚科にも行けず…。

仕方なく、オロナインを塗り、傷口に油紙を乗せて、包帯でグルグル巻きにするしかありませんでした。

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お風呂にも入らず、食事もせず私は布団に潜りました。

シーンとした静寂が、私を支配します。

すると、涙がどんどん溢れてくるのです。

ミケの命を奪った事がショックで、自分を責めました。

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*ガシガシ*

マイケルが、私の部屋の扉を爪で引っ掻いていたので、扉を開けてマイケルを部屋に入れました。

すると、私の足に擦り寄り「にゃー」と、哀しげに泣くんです。

私が抱き抱えると、私の頬をペロペロと舐めてくるのです。

頬は涙の筋がついていて、それを舐め取ってくれてるように感じました。

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頬を一舐めして「にゃー」

一舐めして「にゃー」

マイケルに、過ぎた事は気にしちゃダメだと言われてる気がしました。

マイケルのおかげで心も落ち着き、マイケルを抱いたまま深い眠りに落ちました。

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夏の蒸し暑さで、朝の5時に目が覚めてしまい、キッチンでお水を飲んでいると…。

”ドボンッ”という音が、お風呂場の方から聞こえてきたんです。

え…っ…?と、一瞬、身体が硬直しました。

浴槽の蓋はかぶせてるし、音がするはずはないのですのが、はっきり聞こえました。

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すると、今度は部屋中を、タタタタタタッッと走り回る音が聞こえてくるのです。

私はパニクり、部屋に戻ろうとしても、全く動きません。

私は、立ったまま金縛りにあってしまったんです。

目は動くんです。

それ以外は、金縛りなのか、硬直したまま動きません。

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視線を真横に移すと、端にミケが映るんです。

苦しそうに藻掻いているミケが…。

首を動かそうとしても動かす、マイケルを呼ぼうとしても声も出せません。

苦しそうに藻掻くミケは、時折凄い眼力で睨んできます。

その目は、光が差し込んでなく真っ黒。

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その瞬間、悪寒が襲います。

真夏で暑いのに、悪寒を感じるなんて、生まれて初めての経験です。

怖くなり、私は心の中で(ごめんね。ミケごめんね。ちゃんと供養するから…私の事…許して…)と謝る事しか出来なかった。

すると、スッと身体が楽になり、金縛りが解けました。

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私は翌朝、電話帳をめくり、ペット霊園の連絡先と住所を調べました。

そして、生活費用のタンス貯金の封筒から30000円を抜きました。

旅行から帰ってきた母に、事後報告すれば済む事だと思い、一番近いペット霊園に連絡をしたら、迎えに来てくれる言うので、冷蔵庫からゴミ袋に入れたミケを取り出しました。

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霊園の人から、持参する品々を伝えられました。

愛猫が写っている写真。

愛用していた布で亡骸を包む。

好きだった玩具と食べ物。

遺骨を入れる小さなを筒。

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これらを準備するように言われたので、ミケが愛用していたバスタオルにミケの亡骸を包み、ミケが大好きだったネズミの玩具と猫缶を準備。

遺骨を入れる筒に悩みましたが、身近にある筒が未使用の茶筒しかなかったので、茶筒を準備しました。

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朝10時過ぎ、”ビィー”と家の呼び鈴が鳴り、玄関を開けるとペット霊園の人でした。

「お待たせしました。さっ、車に猫ちゃんとお乗り下さい」家の外に、軽自動車が停まっていました。

後ろの席に座ると、車は郊外に建つペット霊園に着きました。

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まず事務所みたいな部屋に通され、ミケとの出会い、どのような性格だったか、どのような形で亡くなったのかと聞かれたので、全て正直に話しました。

すると「苦しかったのね…。大丈夫よ…今から虹の橋を渡る手助けしてあげるからね…」泣きながら、係の人がタオルケットに包まれるミケの亡骸を撫でてました。

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「貴女も大変だったわね…。今から火葬の準備に取り掛かりますから」

火葬場は、小さな建物でした。

右側に火葬をする小さな釜と、左側に小さな仏壇と、その手前に大きな白いテーブルが置いてあり、そこへ係の人が、愛用していたバスタオルで身体を包まれたミケを、釜の台に乗せました。

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「ミケちゃんの好きな玩具と好物の餌を、ミケちゃんの顔の前に置いて下さい」そう言われたので、ネズミの玩具と蓋を開けた猫缶を置きました。

ついでに、マイケルと一緒に写る家族写真も乗せました。

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そして、手を合わせてお経を唱え、ミケは釜の中へ。

そして、釜の火が点火。

「火葬は20分で終わりますが、遺骨が冷めるまで50分位かかります。先程の事務所でお待ち下さい」係の人にそう言われて外に出ましたが、事務所に戻らず火葬場の煙突を見てました。

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最初は、白っぽい煙が上がり、徐々に黒い煙に変わりました。

後ろで清掃員のオバちゃんに「黒い煙が上がったらもうじき終わるよ…」と言われたけど、理由は聞きませんでした。

というか、聞きたくなかったのが事実ですけどね…。

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後から聞いた話だと、火葬場などで上がる黒煙は、身体の皮膚などの外側が先に燃え、最後に内臓系が燃えるそうです。

内臓系が燃える時、黒煙が上がるそうです。

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火葬が済み、釜の中から骨になったミケが…。

そして、用意した茶筒に骨を一個一個箸で摘んで入れました。

全ての遺骨を入れ終えると、骨壷を綺麗なピンクの飾り袋に入れてくれて、広い仏間に連れて行かれました。

大きな仏壇に、ミケの写真を置き、お坊さんのお経…。

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お経の中に、ミケとの出会いから、命果てるまでの生い立ちを唱えてくれてます。

それに、家族を恨まず虹の橋を渡るように…と付け加えてくれて、それに緩んでいた涙腺が再び緩み涙ボロボロでした。

全て終わり、係の人に自宅へ送ってもらいました。

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帰宅すると、母は既に旅行から帰ってきていて、骨壷を持つ私を見て驚いてました。

「それ…ミケなん?」涙目の私が持つ骨壷を手に取る母。

「風呂沸かし過ぎて、蓋開けたまんまにしとったらミケが…」そこまで言うと、言葉が詰まって伝えられなかった。

「そんで、ミケが熱湯に入ったんやね?」母に聞かれ「…うん」と…。

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「しょうがないやん。それがミケの運命だったんよ。悔やんだらいかんよ?」遺骨を居間の窓側の棚に置き、私の頭を撫でてくれた母。

「ごめんね?」私は母に頭を撫でられながら謝った。

「謝ったらイカンやろ?」

「違う…タンスの中のお金使ったんよ…」

「は…?」母は、キョトンとしている。

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「動物病院で、貯めた小遣いの10000円用意したら、小遣い無くなって、ペット霊園に20000円かかって、これが残りなんよ」残りの10000円を母に渡した。

「そういう事なん?その10000円持っとき。小遣いにしたらよか…」苦笑いの母。

「ええの?」10000円受け取りながら、母に確認をする。

「ええよ。仕方ないやん。動物飼ってる宿命やろ?」母は微笑んだ。

「そうやね…。」私も微笑んだ。

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それから30数年経ちましたが、10数年に一度、ミケの事を思い出す時があります。

その時は、必ず涙がボロボロ溢れます。

涙なんて流したくないのに、ボロボロ溢れてくるんです。

多分ミケが「私の事忘れないでね?」と、問い掛けているのではないかと思っています。

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忙しい日々の連続で、飼っていた猫の事を思い出さない自分が居ます。

思い出す時は、必ず寝れない時。

特に疲れが酷く、早く寝たい時に限って眠れない。

そのような時に、飼っていた猫や、命を奪った2匹の猫の事を思い出します。

それって、不思議な力が作用してるのでしょうね。

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動物を飼っていた方へ。

たまには亡くした動物の事を、思い出してあげて下さい。

思い出す事も、供養に繋がると私は思います。

残りの1匹「元気」のお話は、また後で…。

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おわり

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ちゃあちゃん様。コメントありがとうございます。

ミケは、まだ一年満たない子だったので、本当に悔いばかりです。
「今までありがとう」と思う事も大切ですね。
読んで頂き、更にコメントも頂き有難う御座いました。

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涙で、なかなか読み進められませんでした。
私も今まで何匹も猫を見送って来ましたが
何度経験しても、これだけは慣れませんね。
いつまでも、亡くなった猫の事を思い悩むより、時々思い出して「君といた時間は幸せだった、ありがとうね」と感謝する方が良いと動物霊園の住職に言われました。
ミケちゃんも、まさりんさんの元にまた生まれ変わって来てくれるかもですね。

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光道進さん。コメントありがとうございます。
毎朝のお祈りは凄いですね。

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マリさん
悲しい話ですね。
ご冥福を祈ります。
私は毎朝祈りをあげてから会社に向かいます。
その祈りの中に、必ず死んだ者の供養も忘れないようにしてます

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