中編3
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繰り返す

夜な夜な訪れる光景が夢といった不可解な形で現れ始めた。

それは、いつものことであり幼いころから見続けているものでもあった。

仮にAとしましょう。

Aは、いつも同じ夢を見ていました。

同じ夢といっても見ているのは、見知らぬ町、知らない人、青い空に白い雲。毎日のように、ふれあい話し合い、別れる。

そんな日々を夢といった形で姿を現していた。

「また、同じ…」

Aは、毎回見るたびに後悔していた。

それは、大切な人を目の前にして殺される瞬間であることだ。

Aは、涙を滝のように流れ、わんわんと泣き出しながら夢を覚ましていた。それは一瞬でもあり、同じ出来事の繰り返しでもあった。

そんなAがぼく(仮にB)に相談を持ち掛けてくることが多かった。

「なんで、俺は毎日毎日、大切な人が目の前にして殺されるんだ。どんな道を変えても、守っていても、必ず殺され消えていく」

そんな話を同じように繰り返していた。Bは、うんざりとしていた。同じ内容で同じセリフでAが話していたからだ。

変わらない台詞に対して対策をいくつか伝えるも、どれも失敗に終わってしまうのだという。

結局、その日は解決できずに別れる。Aは頭を抱えながら唸るようにして帰っていく姿が不憫にならなかった。

「よう」

そう言いながら、不安そうに暗く沈むAの姿がBが行く先先でAが現れては、同じようにそのことについて聞かされる。

まるで、同じことの繰り返しをしているかのように。

ある日、Aが悲しみ気にくれながらBに助けを求めてきた。

喫茶店で待ち合わせたとき、Aはひどく衰弱し、何かに怯えるかのようにしながらBに一つずつ口にした。

「俺はもう、どうしようにもならない」

「あいつは、同じように追ってくる」

「あの子を助けたのに、助かっていない」

と、繰り返しながら言ってきた。

Bはうんざりと思いながらも、話は聞いておいた。

本当は断りたいと思っていた。けど、それをする気持ちになれないことがあったからだ。

Bも過去に、Aと同じように悩んだこともあった。

同じことの繰り返しで同じようにして殺される大切な人。それをどのようにして守りどのようにして生き延びるのかを。毎日、仕事の合間な時間を使って考えては、夢の中で実行する。

それを繰り返して、ようやくそんな繰り返しの夢からさよならした経緯があった。

いま、目の前でAも同じように繰り返しているのなら、自分なりに伝えることができるのではないかとAと話しに真剣に聞きながら、アイディアを伝えていた。

「俺は、もうだめかもしれない」

Aが口にした。その一言はBでも言ってはいけない言葉だったことに少し驚きを見せた。

同じ夢を見ては繰り返す。その現象の中で、自分を責めて責任を放棄するようなことはしてはいけない。Bなりの禁句であり実行してはいけないもの。それをAが口走った。

Bは、机をバンっと大きな音を立て、周りの人々が一斉に振り向いたほどの音を発した。

それに驚いたAは、Bの顔を見るなり、「負けるなよ自分の責任だろ」と、BはAに吐き、店から去っていった。

それ以降、Aが顔を出すことはなくなった。

Bなりに責めすぎた言葉を発してしまったことに後悔はしていたが、ああは言わなくてはならなかったとBなりに判断した言葉だった。

同じことの繰り返しの夢を対策できるのは、友でも親族でもない、自身であるからだ。

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