中編5
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ばあちゃんの人形

母がまだ子供の頃なんだけど、遊んで家に帰ってきたら、居間の雰囲気がいつもと違う。

そんときは家に誰もいなくて、母一人。で、何が違うのかよくよく考えたら、飾ってあった人形の位置が変わってたんだ。

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普段はサイドボード?(食器棚みたいなやつ)の中に入れて飾ってるはずが、何故か床にうつぶせの状態で落ちてたらしい。

母の母(俺のばあちゃんな)は几帳面な人だったから、人形を放り出してどっか出かけるなんてあり得ない、母はそう考えて最初は泥棒が入ったんじゃないかと疑ったんだそうだ。

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だけど、部屋の中の他のものは全く動かした形跡もないし、何か気持ち悪いなと思いながら母は元の場所に人形を戻しておいた。

そうしてるうちにばあちゃんが家に帰ってきたんで母が聞いたらしい。

「人形床に落ちてたけど、動かした?」

って。

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そしたらばあちゃんは血相変えて「本当か!?」と慌て出したらしい。

慌て方が尋常じゃないんで、母も怖くなってばあちゃんに何が起きてどうなったのか聞いたらしいんだが、教えられないの一点張り。

とりあえず母の父(俺のじいちゃんだ)が仕事から帰るのを待ってたんだと。

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じいちゃんが仕事から帰ってきて、ばあちゃんが早速そのことを報告すると、じいちゃんがいきなりばあちゃんを張り倒して「だから捨てろと言ったんだ!」ともうブチ切れ。

その日のうちに、車で1時間以上かかる距離の寺まで行く、といってじじばばは出て行ったんだと。

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母は一人残されて心細く思いながらも寝たんだそうだ。そしたら夢の中にその人形が出てきて居間の中を飛び回ってる夢を見たらしい。

普段見慣れてる人形の姿じゃなく、もっと人間ぽい質感になってたと母は言ってたが昔の話だし、夢の中のことだから俺にはわからん。

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朝になって母が起きてくると、じじばばが疲れきった顔して朝飯食ってた。昨日はいったい何があってどうしたんだ、と母が聞いても

「あなたは心配しなくても大丈夫」

と取り合ってくれなかったそうで、母はもやもやしながら学校へ行った。

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で、学校から帰ってくると、ばあちゃんがその人形を丁寧に拭いている。

特に足の裏を念入りに拭いていて、何をしてるのか聞いてみたがばあちゃんは教えてくれない。

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ちらっと見えた人形の足の裏は、泥がついたみたいに真っ黒くなってて、ばあちゃんがそれを拭いてるように見えたらしく、さすがに母も気持ち悪くなりばあちゃんを問い詰めた。

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で、ばあちゃんが白状した内容が

・人形は昔からばあちゃんが大事にしていた(ばあちゃんが子供の頃から)

・大事にしすぎて、じいちゃんと結婚するときも捨てるに捨てられず持ってきた

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・以前も人形の位置が変わったり汚れたりしたことがあり、寺に相談に行った

・寺の住職の話によると、ばあちゃんが人形を大事にするあまり、人形自体に念のような

ものが移り、霊的なものも入り込む受け皿になった、との事。

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・そのときは住職にお経を唱えてもらって、静まった。住職からは、「このまま家に置いておくと

また良くないものが入るから、寺に預けたほうがいい」と言われたが大事なものなので断った

・昨日もその寺に人形を持って向かったはずが、寺に着いてみると人形がどこにも見当たらず

仕方なく帰ってきたら、玄関先に人形が落ちていて足の裏が真っ黒だった。

・箱に入れて持っていったので、出るときに玄関先に落とすということはありえない。

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その話をしてる間中、ばあちゃんは人形の足の裏を拭き続けていて、母は子供心にばあちゃんがよっぽどその人形を大事にしてるんだな、ってことと、その人形にはまだ何かの霊がとりついているんだ、ってことを思って、どうしようどうしようと考えてたらしい。

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じいちゃんが仕事から帰ってきて、母はじいちゃんに相談した。じいちゃんも前回人形がおかしくなったときにひどい目にあったらしく(詳しくは教えてくれなかったそうだが)、今回はどうしても人形を処分したかったらしい。

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で、ばあちゃんに言うと渋られるだろうから、ってことで、ばあちゃんが寝てからコッソリ人形を寺に持っていくことにした。母も人形に対する怖さが先に立ってしまってそれに賛成したらしい。

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で、その夜、じいちゃんは人形を持って出かけて、そのまま帰ってこなかったらしい。

人形はというと、次の日の朝、玄関先に落ちているのをばあちゃんが発見した。ばあちゃんはそれっきり

人形を誰にも見せなくなったらしい。

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ばあちゃんはそれ以来、どこかおかしくなってしまったみたいで(じいちゃんがいなくなったのもあった

みたいだが)、結局母は叔父の家で暮らすことが多くなったんだと。

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そんな暮らしをしてる間に母も大きくなって結婚して、俺が生まれるちょっと前にばあちゃんは病気で入院した。母がばあちゃんの部屋を整理していると、押入れから箱に大事に入れられたあの人形が出てきたらしい。それを見て母は愕然としたそうだ。

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人形の顔一面に、何かを浴びたような黒いシミがあり、人形の至るところにお札が貼ってあったり経文が書かれていたりのそれはすごい状態だったらしい。

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母は慌てて寺に行き、住職(その頃は前の住職も亡くなってて、次の代だったらしい)に家まで来てもらい

お経をあげてから寺に引き取ってもらったんだと。

で、お経をあげ終わって母がありがとうございます、って

言って住職をさて送ろうか、ってときに病院から連絡が入って「ばあちゃんが大変だ」と。

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母が急いで病院にかけつけるとばあちゃんはもう虫の息だったらしく、しばらくしてそのまま亡くなったそうだ。

ばあちゃんのお骨は、母の希望で、寺でしっかり祓ってもらったあとの人形と一緒に埋められたらしい。

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人形とばあちゃんの因果関係とかじいちゃんが結局どうなったのかとかはわからんのだが、ついさっき母に

聞いた話だ。

母の解釈は、じいちゃんは寺に人形を預けにいく途中に「何か」あって、たぶんもう生きてない

だろう(当時捜索願も出したが、胡散臭い目撃情報しかなかったらしい)、人形についてたシミは、

返り血じゃないか、ばあちゃんはそれを理解しておかしくなったんじゃないか、ってとこで落ち着いてた。

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