中編4
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後ろに立つ少女

中学の入学式から、なんとなく「いる」ことは感じていました。

ハッキリ目撃したのは、3年生になってからです。

4階奥の教室が、私のクラスでした。

夏休みも明けて2学期が始まり、3年は受験戦争の準備が始まります。

そんな時でした。

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理科担当の金子先生が息抜きに、と、怖い話をしてくれることになりました。

「学校の裏門に、いつも夕方になると赤い犬がいるんだよ」

そんな話に、男子がすぐ反応し、

「先生!それフ○トワークの配達車じゃん!」

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そう言われて先生は、

「なんだ、バレたか」

そう笑っあと、急に神妙な面持ちになり、私が座る窓側の席を見てから窓を指差し、

「何年か前にな、その窓から落ちて死んだ女子がいるんだ」

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窓の下は花壇があります。

「よほど打ち所が悪かったのか、落ちた時は即死だったそうだ」

先生の話に、さすがにみんなゴクリと唾を飲んだようでした。

「せ、せんせー、また冗談を…」

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男子が引きつった笑いを浮かべて言いました。

「冗談でこんなこと言わないさ。古株の先生方なら、みんな知ってる話だ」

「ま、まじか…」

「さ、授業に戻るぞ!みんなも、ふざけて窓から落ちないようになー」

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何とも言えない空気の中、授業は再開されました。

たぶんみんな、そんなガチな話を聞いて授業どころではなかったと思います。

私は窓からではないですが、入学当初から気配は感じていたので、その気配の主なんじゃないかと、そんなことを思っていました。

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私の通っていた中学は、2学期の中間テストが終わると文化祭があります。

テスト疲れも抜けないうちに、文化祭の準備で大忙しになっていた時のことでした。

演劇をすることになっていたので、衣装やら大道具、小道具まで自分達で準備。

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私は絵が得意だったので、大道具の背景作りを手伝っていました。

「ごめーん、カーテン用の生地を分けてくれないかなー?」

私は技術室から教室へ、劇に使う窓枠のカーテンの生地をもらいに戻りました。

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「いいぞよー!好きなの選んでって!」

衣装係の子が、使ってない生地をいくつか見せてくれました。

「レースがいいかなぁ?それとも、重厚な感じの生地がいい?」

そんなことを話していると。

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「あれっ、今、誰か窓の外を落ちていかなかったか?」

小道具係の男子が言いました。

「はぁ?誰が落ちんのよ?上は屋上で立ち入り禁止だし、第一、落ちた音しないじゃん?」

…と、衣装係の女の子。

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窓の下を覗いても、何もありません。

「鳥と間違えたんじゃないの?」

女子の言葉に、言い出しっぺの男子が首を捻って「おかしいなぁ」と呟いた時でした。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

1人の女子が悲鳴を上げたのです。

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そして、窓を背に立っていた女子を指差して、

「り、りっちゃんの後ろ…!」

つられて皆が窓を見ます。

「う、うわぁぁぁぁぁっ!!」

その場がパニックになりました。

その時なぜ一斉に視えてしまったのか、今でも不思議です。

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りっちゃんと呼ばれた女子の背後、つまり窓の外に、長い髪をして俯き加減の女の子が両腕をぶらりとさせ浮いていたのです。

教室から逃げ出す者、その場で失神する者もいました。

当のりっちゃんも、振り向くなり気絶してしまいました。

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《ワタシ…モ…マゼ…テ…》

立ち尽くしていた私は、その少女がそう言ったのを聞きました。

それからすぐに、スッと消えてしまいました。

誰かが呼んだのか、担任が教室に戻って来ました。

その頃には皆、意識を取り戻していました。

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結局、担任に話をしても

「お前ら、馬鹿なこと言ってんなよ」

と、取り合ってもらえず、思春期の集団心理による幻覚とかで片付けられてしまいました。

そのうち、皆も「白昼夢か何か」と、その出来事を忘れていきました。

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「忘れた」というよりは、「忘れたかった」のかもしれないと、今は思います。

それに何より、あの少女は文化祭の準備で楽しそうにする私達が羨ましくて仲間に入れてほしかったんじゃないかと、そんな気がするのです。

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少女の幽霊が、金子先生の話していた女子生徒かどうかは分かりませんが、ただ…、楽しい青春時代を過ごしたい思いは、生きている私達となんら変わりはないんじゃないかと、私は思います。

簡単に自殺して命を手放してしまう学生もいる、今の世の中。

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命の尊厳や青春時代の大切さを、いかに教え導いていくのかが、今を生きる大人達への課題かもしれませんね…。

[おわり]

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