長編7
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賽の河原遊び…

私の育ったところは、山深い田舎です。

四方、全てを山に囲まれ、

その山々の間を大きな川が流れており、

私達の集落にも、幾つかの、澄んだ水の流れる小川があり、

私達子供は、山の中をかけて回り、

小川で魚を取ったりカニを捕まえたり、

少し深いところでは泳いだりして、

自然を友達に、大きくなっていくような所でした。

夏休みなどは、もっぱら、川遊びに興じ、

イワナやアマゴを潜って獲り、自分達で焚き火を起こし、焼いて食べておやつ代わりにしていました。

流れの緩やかな、石や岩の多い所には、

沢蟹がたくさんいて、

低学年の子達は、その沢蟹の繁殖の様子を、自由研究にしたりしていました。

私も夏休みの間は、友達と一緒に

川に出かけて、魚釣りを上級生から教えてもらったり、素潜りで狩る方法をおしえてもらったり、

平たい石をたくさん拾って、飛び石をしたりして遊んでいました。

ある日、お昼から川に出掛けると、

妹も来ており、同級生達と遊んでいるようでした。

私も同級の友達と一緒だったので、一緒の場所にいながら、違う事をしてそれぞれ遊んでいました。

しばらくの間、川で泳いで遊んでいたのですが、私の友達が疲れたと言い出したので、

川から上がり、みんなの遊ぶ様子を見ながら、話をしていました。

ボーッと見ていたその先に、妹達がいることに気づき、

何をしてるのかなと見ていました。

妹は、4人くらいで遊んでいるようで、

4人が少しずつ離れた所で、懸命に穴を掘っていました。

ある程度の深さ(5センチくらいの深さでした)まで掘ったら、

次は何やら、石を探しているようです。

思い思いの石を集めてきて、穴の横に置いたら、

少し大きめの岩や石をひっくり返して、

沢蟹を捕まえています。

捕まえた沢蟹を掘った穴の中に入れ、

先ほど集めた石で蓋をしてあるようでした。

なにしてんだろ、蟹の家でも使ってるつもりかな。

でも、良く見ていると、穴に石で蓋をしているのではなく、

穴に石を入れていることに気づきました。

何やってんの、あの子達。

そんなことしたら、穴に入れた蟹が、潰れしまうじゃない。

私は立ち上がり、止めに行こうとしました。

すると、妹が、

『準備出来た?用意、スタート!』と

声をあげ、

妹の声を合図に、4人が一斉に石を積み始めました。

先に掘った穴に、また石を、その上にまた石を…と、積んでいるようです。

何?あの遊びは。

なんか、すごく気持ち悪い…。

止めに置こうと立ち上がった私は、近づけずに、ずっと見ていました。

そんな私に、友人が気づき、

私の眼の先を見て、妹達のしてる良くわからない遊びを見て、

『何してんの?石、積んでんじゃん。

賽の河原みたい。』

と、言いました。

私は、ちょっと行ってくる。と友人に言い、

妹の所まで歩いて行きました。

側に行くと、4人共、必死になって石を積んでいます。

掘ってた穴を覗くと、1番下の石が入るギリギリの大きさのものでした。

『あんた達、何やってんの?』

私は、妹の方を見ながら、聞きました。

妹は、ちらっとこっちを見て、

邪魔くさそうに、

『新しい遊びを考えたんだよ。

忙しいから、あっち行ってよ。』

と、言います。

蟹を閉じ込めて、石の下敷きにする、気持ち悪い遊び…。

何で、こんな遊びを思いつくのか…。

そこで、私は、妹に、

『ねぇ、おしえてよ。

何で、蟹を入れたの?』

と聞きました。

妹は、はぁっ、とため息をつくだけ。

なので、質問を変えてみました。

『新しい遊びなんて、良く思いついたね。

ねぇ、どんな遊びなのか教えてよぉ。』

私のその言葉に、

妹は笑顔で顔をあげ、説明し始めました。

『お姉ちゃん、賽の河原って知ってる?

お父さんやお母さんより、先に死んだ子供が、地獄の河原で石を積むんだよ。

7段、積み上げたら、子供はまた生き返れるけど、その前に、鬼が来て、石を全部倒してしまうんだよ。』

先ほど、友人が言った、

『賽の河原みたい。』という声が、頭の中に静かに響きました。

『それで?この遊びはじゃあ、賽の河原の真似っこなの?』

と、また質問してみました。

妹は、キャキャキャッと笑い声をあげて、

『真似じゃ無いよ。賽の河原をしてるんだよ。賽の河原遊びだよ。

これはね、賽の河原にいる子供に、蟹を送ってるの。

7段積んだら、地獄から帰ってこれるんでしょ。きっと、地獄につながる道が出来るんだよ。』

それでね、と妹は続けます。

『地獄に行くにはまず、死ななきゃいけないから、

蟹を、石で押しつぶして、そのまま地獄に送るの。』

気持ち悪い…。

やっぱり、気持ち悪いという気持ちしか湧いてこない。

『どうして、地獄の子に、蟹を送るの?』

そう聞いた私に、

妹は…、

『だって…、

誰も死にたくないって言うから。』

そこまで聞いて、私は、

妹に

『バカッ!』

と大声をあげました。

『蟹だって、死にたくないに決まってるでしょ!バカな遊びはやめな!』

そういう私に、妹は

『うるさいなっ!お姉ちゃんの蟹じゃないでしょ!

もう、あっち行ってよ!』

と言い返してきました。

私は、妹に言ってもわからないんだと思い、

妹が積んでた石を崩して、蟹を穴から取り出そうとしました。

やめてよ!あっち行ってよ!

妹は、私に殴りかかってきましたが、

側に来ていた私の友人が、捕まえてくれていました。

石を全部どかし、穴を見ると、うっすらと水のある穴の中で、

蟹が足を折りたたんで小さくなっていました。

死んでしまったかな、と思いながら手ですくうと、蟹は生きていて、

私は川原に放してやりました。

妹は、それを見て、

『うわぁ!お姉ちゃんは、鬼だぁ!

石段、潰しちゃった!』

と言い、

『鬼だ!鬼だ!鬼だ!鬼だ!鬼だ!鬼だ!』

と手を打って、私の周りを回りだしました。

一緒にいて、同じ遊びをしていた妹の友達にも、

『鬼だよ、あの人!』

『一緒に回って!』

などと言いながら、ぐるぐる私の周りを回ります。

その様子に、私の友人は、びっくりした顔で固まっていました。

妹の友達は、何かバツの悪そうな顔をしながら、3人固まって立っていました。

私は、他の子の積んでいた石も全てどかし、蟹を穴から出してやりました。

『こんな遊びはしたらダメ!

蟹もかわいそうだし、賽の河原の真似っこなんて、しちゃダメ!

わかった?』

私は、怒った顔で妹の友達3人にそう言いました。3人は、

『わかった。もうしない。』

と言い、帰って行きました。

1人残った妹は、

『つまんないの、友達も帰っちゃったし、お姉ちゃんは鬼だし、最低〜。』

とふてくされていました。

私はいよいよ腹が立ち切って、

『あんたね、自分が死にたくないからって、蟹を殺して地獄に行かそうなんて、

気持ち悪いことするんじゃないよ!

そんなことするなら、もう、ここで遊ばないでっ!』

と怒鳴りました。

妹は、ポカンとした顔で私をしばらく見て、

『お姉ちゃんに、そんなこと言われることないと思うんだけど。

遊びなんだから、良いじゃない。

蟹が死んだって、ここにはまだ、いっぱいいるんだよ。

じゃあ聞くけど、飼うって連れて帰った蟹が死んだとした、それはどうなるの?』

と言いました。

私は、死んだ人が、あちらでしてることを真似して、

生き物に殺生なんてしてはいけないと言ったのですが、

何度、説明しても、

『何で私が蟹を殺したらダメで、

他の子の連れて帰る蟹が死ぬのは良いの?』

という答えしか返ってきません。

仕方ないので、私は、

『ばあちゃんに教えてもらおう。

ばあちゃんなら、ちゃんとダメな理由を教えてくれるよ。』

と言いました。

妹は、また、しばらく黙ったのですが、

片方の口の端をあげて、

ニヤァ〜と笑いながら、

『死んだ後、地獄とか天国とか、

そんなのあるわけないでしょ。

死ぬ、だけだよ?

だって、死んだ後にどこに行くなんか、

誰がわかるの?

もう、死んでるのに、どうやって説明するの?

だからね、地獄も天国も本当は無いんだよ。

それに蟹はきっと、あってもそんなの分かんないよ?』

と、言いました。

それを聞いた私の友人が、

『本気で、キモいわ。行こう、にゃにゃみ。』

と言い、私の手を掴んで、歩き出しました。

友人に引っ張られながら歩く私に、

妹が駆け寄ってきて、

『でももし、お姉ちゃんが死んだ時、

地獄に行ったら、

賽の河原があるのか、

教えに来てね?』

と、さっきのにやけ顏ではなく、

可愛い子供の笑顔で言われました。

私の友人は、

『あんたから聞いて、変な子だとは思ってたけど、

ごめん、本当に怖いわ。あんたの妹。』

と言われ、

私は友人に、

『ごめんね…。』と謝りました。

信じてもいない、死んでからの世界に、

蟹を送って何をしようとしてたのか…

未だもって不明ですが、

その理由が、

それにこじつけて、ただ単に、

殺生を楽しんでいた…

とだけは、絶対答えて欲しく無い…。

野生の生き物がたくさんいて、それらに囲まれてるような場所で、大きくなった私にとって、

妹の行動は、

とても傲慢で無粋な、自己満足でしかなく、

これくらいのこと、と軽くあしらうその態度が、人として足を掬う時がいつか絶対訪れるだろうと、

予期せずにはいられない、

何とも言えない、気持ち悪い出来事でした…。

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