中編3
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木曜日の歯医者

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俺の親知らずが猛烈に痛くなったのは、日付の変わった木曜日の深夜だった。

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痛い痛い!とにかく痛い!

あまりの痛みに、俺は一睡もできなかった。

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朝になり、会社に休む旨を伝えると、俺は痛みに顔を歪めながら近所の歯医者へと向かった。

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歯医者に着いて、俺は愕然とした。

入り口の扉に「定休日」のプレートが掛かっていたからだ。

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嘘だろ?勘弁してくれ!俺のこの歯の痛みは、誰がなんとかしてくれるって言うんだ?医者が休むとか意味わかんねーし!病人や怪我人は定休日には出ないってのか?現に俺は苦しんでるじゃねーか!

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俺は歯さえ無事なら、怒りで歯ぎしりしていたことだろう。

だが今は爪が食い込むくらい、きつく拳を握ることくらいしか出来なかった。

と、

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――ガチャ

プレートが掛かった扉の向こうの、薄暗い待合室の奥から、ひとりの男が現れた。

それは白衣を着た白髪の老人であった。

老人は扉まで近付いてくると、内側から鍵を開けた。

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「いや、すまんすまん。プレートが掛かったままになっていた。今日はスタッフが皆風邪で休んでしまって、まだ店を開けておらんかったのです」

老人は並びの良い白い歯を覗かせて、はははと笑った。

俺にはこの老人が救いの神に見えた。

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事情を話すと、老医師はすぐに俺を診察室に通し、診療台に寝かせた。

そして俺の口の中を覗き込むと、

「あー腫れてる腫れてる。これは痛そうだ。すぐに抜いた方がいいですな」

と言った。

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老医師は俺にまず白い錠剤を渡した。

口内への麻酔注射の前に服用するものらしい。

それから俺に口を開けさせると、慣れた調子で麻酔薬を注射していく。

しばらくすると口の中をつつかれても何も感じなくなった。薬が効いたらしい。

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痛みから一時的に開放されたことで、昨夜の寝不足から来る眠気が一気に俺を襲った。

俺の意識は暗闇に沈んでいった。

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…………

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…………

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…………

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俺は鏡の前に立っていた。

違和感を感じて、あんぐりと口を開ける。

――ボロリ

上の歯が一本抜ける。

と、

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――ボロリ

――ボロリ、ボロリ、

――ボロリ、ボロリ、ボロリ……

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みるみる歯が抜け落ちていく。

俺の歯が、すべて。

あ、

ああああ、

あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!

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…………

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…………

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…………

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俺は目を覚ました。

室内は電気が消えており、薄暗かった。しんと静まり返っている。

俺は診療台にひとり、寝かされていた。老医師の姿はない。

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どこに行ったのだろう?

俺は上半身を起こし、首を左右に振った。

口内に違和感を感じる。

痛みはない。麻酔はまだ効いているようだ。

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俺はつい気になって、口の中に指を入れ、奥歯の具合を探ろうとした。

しかし、

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――ヌルリ

指に伝わってきたのは、ぬるついた、柔らかい歯茎の感触――

だけだった。

歯が、

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俺の歯が歯が1本もなくて代わりにあるのは孔の空いた凸凹の歯茎だけで口内からは生暖かい唾液と血液がタラタラと流れ口の端を伝い顎を濡らしてピチャピチャと床へと垂れてそれを茫然と眺める俺の背中からは冷や汗が流れ眼球からは涙が溢れてまるで熱病に冒されたかのように身体がブルブルと震えて――、

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――ガタッ

薄暗い診察室の奥から物音がした。

俺はビクリとしてそちらを見やる。

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そこには、あの老医師がいた。

彼の足元の床には、後ろ手に縛られた白衣の中年男性と、若い女性が転がっていた。

二人は無表情のまま目を見開き、そしてあんぐりと暗い口を開けていた。

彼らが事切れているのは明らかだった。

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「お目覚めか?」

老医師は、

いや、俺が医師と思っていた男はそう言って嗤うと、手にしていた何かを頬張った。

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――ボリボリガリ、ボリボリボリボリ……

固いものが砕けて割れる音が、男の口から響いた。

白い細かな粒が、口の端からこぼれて床に転がった。

それは――。

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