長編8
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ニクメン

この話は、私の地元で有名な心霊スポットでたった1度だけ起こった出来事です。

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私達は当時暇で、毎回ほとんど同じメンバーでまるで公園でたむろするかのようにその心霊スポットに行き、遊んでいました。

そこは遊び場ではなく、曰くのある場所だなんて発想は愚かだった私達にはなかったのです。

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その場所は三階建ての横に広い、まるで学校のような形をしたホテルでした。

そこの地下室には幽霊が出るという噂があったのですが、私達はいつも幽霊には出会えませんでした。

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いくら夜中の心霊スポットとはいえ毎週のように通っている場所なので、みんな慣れたというか飽きたというか、新しい刺激を求めていました。

初めてそこを訪れた時には身を寄せあって震えながら探索した場所も、今では鬼ごっこや隠れんぼができるほど慣れた遊び場に成り下がってしまっていたのです。

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ただ、毎週のように訪れている私達にも一つだけ謎がありました。

そのホテルの二階の部屋と部屋の間に重い鉄の防火扉のようなものがあり、その奥へはどうしても行けなかったのです。

部屋と部屋の間にドア?

ってことはここも部屋?けどドアが防火扉だしなぁ

非常階段?は別にあるみたいだし…

など、毎回私達はその扉の前で色々考えを巡らせるのですが、いつも答えが出ません。

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1度みんなでこじ開けようと試みましたが、長年の劣化なのか扉が変形しており、コンクリートに埋まっている部分があるため、私達の手には負えませんでした。

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それからしばらくしたある日、やることのない私達はまたその心霊スポットにいました。その日はメンバーの集まりが悪く、私を含め4人しかいませんでした。

いつもの様に隠れんぼしながら遊んでいると、ほんの少し違和感を感じました。

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いつもの場所いつもの落書き、そしていつもの隠れんぼなのに、なぜか私は緊張していたのです。

見つかったところで罰ゲームもない緩い遊びをしているだけなのに。

私はその時鬼から隠れていたのですが、私の隠れ場所は一階の家族風呂のような小浴場のドアの裏側でした。

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どこだ〜♪という呑気な友達の声が近付いてきて息を殺し隠れていたのですが、私はワンパターンな隠れ方をするらしく、見つかってしまいました。

あ〜。次は鬼かぁと言いながら友達と浴場を出ると

おいっ!二階二階っ!

と一つ年上の先輩の大声がホテルに響きました。

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私達は急いで二階に向かうと、先輩が真面目な顔をしながら私たちに

扉がないんだよ。あの鉄の

と少し怯えながら言いました。

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私と私を浴場で見つけた友人は恐る恐るドアのあった場所に目をやると、確かにドアが丸ごと無くなっていました。

少し遅れて屋上に隠れていた友人も駆けつけ、ドアの前に4人が揃い。部屋と部屋の隙間の暗闇を見つめていました。

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はい…る?

先輩がぽつりと言った時、私は浴場で感じた焦りのような緊張のようなものを再び感じはじめました。

その部屋と部屋の間の空間は真っ暗で奥は何も見えず、男性の肩幅より少し狭いくらいの隙間で、4人全員が入れるような場所ではありませんでした。

先輩は自分が言い出した事もあり、少し格好つけたかったのでしょう、ちょっと見てくる。といつもの軽い雰囲気で携帯電話を隙間にかざし、奥へ入っていきました。

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ぎゃあーーーっ!

という先輩の悲鳴が隙間の奥から聞こえてきました

そういうのいいからなんかありました?と私は先輩に尋ねました。

この先輩人を驚かすのが本当に下手なので、すぐに嘘だとわかってしまうんです。

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少し残念そうにしながら、先輩は奥にはなんもないよ。と私達につぶやき、隙間から戻ってきました。

私達はこの心霊スポット本当になんもないよなぁと笑いながら先輩の顔を見て、心臓が止まるほど驚きました。

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先輩は服も携帯も隙間に入ったときのままなのに

顔が全然違うんです。

顔の皮が垂れ下がったようにぶらぶら揺れており、口がないんです。

3人とも悲鳴を上げて後ろの部屋に逃げこみました。

しかし一番驚いたのは先輩だったようで

なに?なに?どうした?と、こちらに話しかけてきました。

私達はもしかしてまたイタズラ?と呆れながら先輩の顔を見てため息をつきました。

普通こんなものまで用意する?と先輩にマスクを取るように言うと

マスクってなに?

と先輩が私達に言いました

同じパターンで驚いてもらえると思っているのかこの男は?正気か?

と私の中のほんのささやかな先輩への恋心が泡になった時に、先輩は自分の顔を触って小さな悲鳴をあげました

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なんだよこのブヨブヨしたの、とれない!

痛い!

と、先輩が混乱したように顔に着けているマスクを引っ張りだしました。

私達は起こっている事態が呑み込めず、とにかく先輩に落ち着くように話しかけました。

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顔に着いたブヨブヨのものを携帯で照らして見てみると、表面は感触も色も人間の肌の様でとても柔らかく、引っ張れば5cm程度は伸びるのですが、どうやっても顔から離れないのです。

目と鼻の位置に穴が空いているので窒息などの心配はなさそうでしたが、とにかく熱いし痛いと先輩が

言うので、車まで行ってマスクを切るものをさがそうと私達全員の意見が一致し、車に向かいました。

階段を降りながら、先輩は不意にうしろを振り返りました。

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先輩?と声をかけた私達3人は、次の瞬間一斉に階段を駆け下りました

うしろを振り返った先輩の後頭部に4つの目があり、上下左右に動いていたのです。

私達は一階のロビーまで走って、なにあれ?ウソ?と階段を見つめました。

すると先輩がゆっくりと降りてこちらへ向かってきました。

うしろむきのまま

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先輩は私達に声をかけてきました。

なんで先いくんだよ〜。みんな走ったら危ないし

それに……

と、いつもの先輩の調子で普通に話すのです。

4つの目玉で私達を見ながら

先輩なんともないんですか??

友人が尋ねると

なんともないわけないだろ、この顔見たろ?

早く取ってくれよ〜

早く〜

はやく〜

はやくはやく

はやくおまえのこと すきを ぜんぶぜったいみつけておいしくいだだきますぜったいです

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え?と聞き返した友人の方に、あの後頭部の4つの視線が集まりました

私はその友人とは逆の方向に本脳的に走りだしました。足はもつれ呼吸もままならないまま、とにかく逃げました。

もう一人の友人も私と同じ方向へ走ってきたのですが、途中どこか部屋に逃げ込んだのか、私達はバラバラになってしまいました。

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4つの視線を集めてしまった友人も、叫びながら逃げ回っているようです。

これで全員がバラバラになってしまいました。

いつも遊びでやっていた隠れんぼを命懸けでしなきゃいけなくなりました。

これがデジャヴかぁ、緊張してたのは軽い予知みたいなものだったのかなぁ。あ、先輩の車だから帰れないや。と私はパニックだったのか冷静だったのか

今の現状をあれこれ考えながら

それにしてもワンパターンだなぁ私

と、ドアの裏で小浴場を眺めていました

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鬼は幸いどこを探しているかすぐにわかります。

日本語にもならないような言葉をわめきながら足を引きずって歩いているようでしたので。

私はホテルの外に出ようとは不思議と考えられませんでした。ホテルの外に出てはいけないという確信のようなものが

なぜかあったのです。

他の2人も同じだったようで、外に逃げる音は聞こえませんでした。

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そのうちホテルが静かになりました。

物音一つしなくなったのです。それは長い間続きました。

みなさん隠れんぼには不思議な心理が働くような気がしませんか?

鬼から逃げて隠れて見つからなければ勝ちのはずなのに、自分が探されていないような気がすると今度は不安になって鬼がちゃんと探しているかこっちから探してしまう。

これは命懸けの隠れんぼでも同じでした。

私は2度と見たくない存在を探しに行こうと、小浴場のドアの裏から廊下へゆっくり出たのです。

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まずロビーの方向を向いて、それから反対にある階段も確認して、私はゆっくり歩きはじめました。

二階へは絶対行きたくなかったので、向かう方向はロビーしかありませんでした。

物音をたてないようにゆっくりゆっくりと進んでいくと、右にある部屋からチャリっという音が聞こえ思わず振り向くと

そこに先輩がいました。先輩はゆらゆら揺れたり、ブルブルっと震えながら部屋の真ん中に立っていました。

そしてこちらをバッと振り向きました。

いえ、正確には後ろをふり向いて4つの目をこちらに向けたのです。

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いた

いた

すきなこ いた いたからね ねっ

もらいたいもの すきなこは

もらう ねっ

そんなことをつぶやきながらこちらへゆっくり向かってきました。

私は悲鳴をあげながら走りだしました。

そして諦めたように考えました

人間ってバカなミスほど繰り返すなぁと

いつもの小浴場を見つめながら

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先輩はすぐそこまで迫っています。

私は見つかるでしょう。

どんなことをされるのかな?痛いのかな…

私はもう完全に諦めていました。ドアの裏に隠れながら死を待っていました。

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ドアの裏から浴場を覗くと、少し深めの浴槽が見えます。

もしかしたら

そう思った私はドアの裏を飛び出し、カビと苔だらけの浴槽のなかに寝そべりました。

ズズっと足を引きずる音がして、先輩が私を呼びました。早口で何度も

いつもだね いつもだもんね

そういいながら先輩はドアの裏に後頭部を向けました。

いない

一言だけ言うと、先輩はしゃがみこみました

早く出ていって!私は願いながら浴槽の中に隠れていました。その時割れたガラスから私の手にほんのり朝の光が差し込みました。

なぜかその瞬間封印が解かれたように、私は外に逃げようと決意しました

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しかし目の前に先輩がいます。どうしよう。

私が逃げる方法を考えていると、先輩はゆっくり立ち上がり、またうしろむきのまま浴場を出ていきました。

私は苔だらけの体を持ち上げて、音をたてないように脱衣場へ行き廊下をゆっくり覗き込みました。

私が廊下へゆっくりと頭を出し右を向くと、そこに先輩の顔がありました。

私と先輩は10cmくらいの距離で目が合いました。

4つの目ではなく本当の先輩の目と

その目は両目とも見開いていましたが、もう何も見えていないようでした。

どこかなぁ すき どこかなぁ

そう言いながらうしろむきで歩いていきました。

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私はその後外へ走り、友人達となんとか合流できました。

友人に聞いた話では、先輩は私だけを探していたようです。友人の1人が先輩に見つかったときに

すきは?はやく しゃべりなよ すきどこ?

と聞かれ、何もされないまま解放されさたそうです。

私は先輩が少し好きでした。

バカでカッコつけなところが

先輩も同じだったのかなぁ。

気がつくと泣いていました。

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それから私達は心霊スポットには行っていません。

霊のいる場所に無闇に行く愚かさを身をもって知ったからです。

現在私は地元を離れています

でも時々古い友人に聞かされる事があります。

先輩が私を探していると

あの日から行方不明なはずなのに、色々な共通の友人の家にいきなり現れて私の居場所を尋ねるそうです。

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ニコニコ笑顔でこんなふうに

すき なんだ あのこ どこ?

私を探している先輩はどっちを向いているのでしょうか

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ダメだ(´Д` )これは、とても怖いです…。

何で4つも目があるんでしょう…。

先輩のゆなさんへの想いまで、何者かに侵食されてしまったんでしょうか?

4つの目玉が、キュッと視点を定めるのを想像すると、
息がしにくくなるくらい怖く感じました。

ゆな様はここぞ!という所での怖い描写が秀逸ですね。

ラグト先生の作品を拝読した時に感じた衝撃を受けました。勉強になります!

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