中編6
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羽鳥さんと10年ハゲ

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いらっしゃいませ おでん屋でございます。

大根、牛すじ、ちくわにはんぺん...各60円で販売しております。

60円がないお客様には特別に、おでん1つにつき怖い話1つで販売しております。

今日はやっと外を出歩けるようになった羽鳥さんのお話です。

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私、生まれつき毛深かったの。

剃っても抜いても、すぐに太くて濃い毛が生えてきて…

中学時代は男の子にモジャ子なんて呼ばれてた。

母に永久脱毛がしたいと頼んでも、「色気付いちゃって」と子供扱い。

中学生じゃバイトも出来ないしお小遣いも少ない。

お金をかけずに脱毛する方法はないかと毎晩インターネットで脱毛について検索したの。

そしたらある日、【無料で10年間ツルツルの毛穴を】って広告を見つけたの。

クリックして開いてみると通販のサイトみたいだった。

無料ならもし効果が無くても損はしないと、軽い気持ちで購入ボタンを押したの。

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一週間後 そのサイトから私宛に宅配便が届いた。

すぐに部屋へ持って行き箱を開けた。

中には瓶が一つと説明書が一枚。

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瓶の中には海老だか虫だか分からない生き物が10匹ほど入っていたの。

なんだか気持ち悪くてそっと箱へ戻した。

そして説明書を読んだ。

【説明書】

この度は当社の「10年保証 無毛海老」をご利用いただき誠に有難うございます。

簡単ではありますが無毛海老の使用方法を説明させて頂きます。

瓶の中におります無毛海老を取り出し、生きているもののみを海老フライにして下さい。

(死んでしまっているものは使わないでください)

海老フライが出来ましたら瓶の中へ戻し、部屋の涼しい所で保管して下さい。

たったこれだけで、あなたの10年間の無毛ライフをお約束致します。

やっぱり海老だったのか…と、少し安心した。

箱からもう一度瓶を取り出し、まじまじと見る。

小指ほどの小さな海老達が狭い瓶内で重なり合い蠢いている。

(食欲わかないなぁ)

そう思いながらも、母が帰ってくる前にやってしまおうと急いでキッチンへ向かった。

料理なんて調理実習で数回した程度で、海老フライの作り方なんてわからない。

スマホで海老フライの作り方を検索して、見ながら作ることにした。

大きめの皿に瓶の中の海老を全て出す。

死んでいるものは三角コーナーへ捨てた。

動いている海老の頭をブツリと切って殻をむき背わたをとった頃には、もうボロボロになっていた。

調味料と衣をつけ、油の中へと入れていった。

たくさんの小さな泡と共に美味しそうな音がした。

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衣がとれたり、揚げすぎて黒っぽかったりといった不恰好な小さな海老フライが7つ出来上がった。

食べたい気持ちを抑えてキッチンを片付け、洗った瓶に海老フライをいれた。

そして部屋に戻り、机の下の棚に瓶を隠した。

これで準備は大丈夫。

それからはいつになったら効果が出始めるんだろうとワクワクしながら過ごしたわ。

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特に変化がないまま1ヶ月が過ぎた。

相変わらず男子に無駄毛をからかわれる日々を過ごしていた私は、放課後公園のブランコに座り指から生える逞しい毛をブチブチと抜いていたの。

クチャ....クチャ....ッ

.....ジュル...クチャ...クチャクチャ......

突如ねっちょりとした音が頭上から聞こえた。

驚いて顔を上げると、背後から私を覗き込むように立っている男がいた。

手に持っている何かをクチャクチャとしゃぶっている。

(変質者だ!!)

私はすぐにブランコから降りて走り出した。

変質者なんて初めて見た。怖い。恐い。こわい。

たいして早くもない足を必死に動かし、公園から遠ざかる。

家に向かえば家がばれてしまう。

変質者に会ったら人の多い所へ行けと先生が言っていたのを思い出し商店街へと向かった。

時間は18時前頃。

仕事帰りのサラリーマンや遊び帰りの学生、買い物帰りの主婦がいたっておかしくない。

でも商店街につくまで…いや、商店街についても人は誰もいなかった。

お店の人も居ないなんておかしい。

息切れと恐怖でフル稼働の心臓を必死に落ち着けながら、私は家へと戻ることにした。

幸いあの男は見当たらない。

家に着くまでの間も相変わらず誰もいない。

「ただいま」と玄関を開ける。

この時間ならお母さんがパートから帰って来てるはず。

でもいつもの「おかえりなさい」は聞こえてこなかった。

私は涙を流しながら玄関や窓の鍵、カーテンを閉めた。

お母さんはきっと買い物をして遅れているだけ。大丈夫。大丈夫。

そう自分に言い聞かせながらソファの上でしゃがんで膝の間に頭を入れるようにうずくまっていたの。

クチャ......クチャ...

泣きすぎて頭がボーっとしてきた頃に、またあの音が聞こえた。

今度は目の前。相変わらず何かをしゃぶる男が目と鼻の先にいた。

涙でぼやけてハッキリとは見えないけれど、手に持っているそれは鎌のような形をしていた。

持ち手部分は茶色く、刃の部分は白っぽい…小さな鎌。

私と目が合うと口から鎌をねっちょりと出し、不気味に微笑んだ。

「無駄毛をぉ…なくしましょうぅう」

男は低い声でそう言うと私の髪の毛を勢いよくつかみ、手に持っていた鎌を…再び口にいれた。

そしてブチブチと手で私の髪を引き抜き始めた。

「痛い!!痛い!!」

叫ぶ私の声なんか聞こえていないかのように男は毛を抜き続ける。

髪が終わると眉毛…まつげ…鼻の穴に手を突っ込んでまで鼻毛を抜き、

最終的には脇から脛から足の指の毛まで全身の毛を抜いていった。

.

ようやく全身むしり終わったのか、男の動きが止まった。

無理やり引き抜かれた毛穴からは血も出ていた。

いっそ意識が飛んで仕舞えば良かったのにというくらいの痛みを感じていた私に、男は口から鎌を出しにっこりと微笑んでこう言ったの。

「とぉっても綺麗な毛穴になりましたぁあ」

「海老フライ、いただいていきますねぇええ」

動けない私を置いて男は私の部屋の方へとスキップしていった。

そして数分後…唇をテカテカにした男が戻ってきたの。

「これぇえ、10年後また生えてきた時につかってくださぁい」

そういって私の前に小さな紙を置いて帰っていった。

紙には 「無毛海老割引券…担当:部長」とだけ書いてあった。

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血を流しながらソファに横たわる毛のない私をお母さんが見つけたのはそれから少し経ってからだった。

悲鳴をあげて救急車を呼び、警察にも連絡したらしい。

私は起こったことを全て話した。

けれど街の防犯カメラにはそんな男どころか私すら映っていないし、私が発見された時間は公園にいたはずの17時過ぎだったようで、ショックで記憶が混乱しているんだろうと言われてしまった。

血はすぐに止まり命に関わるような傷もなく、病院からお母さんと一緒に家に帰った。

お母さんからもショックが隠せないのが伝わってくる。

とても気を使って私を安心させようと言葉を選んで喋ってくれていた。

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家に着くとすぐにごはんを作ってくれた。

メニューは当時私が大好きだった手羽先。

食欲なんてなかったけれど、お母さんをこれ以上心配させられない。

私は手羽先にかぶりついた。

好きだけれど、とても食べにくい。

骨と骨の間の肉を食べようとしゃぶりつく。

...クチャ...クチャ......クチャ

どこかで聞いたようなねっちょりとした音が自分の口元から聞こえてくる。

ようやく真ん中の肉を食べ終えた手羽先は、手に持っていた細い部分が茶色く、上の部分が白い骨だけになった。

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あれから13年経って、やっとここまで毛が生えたの。

あの割引券は警察が持って行ったから手元にないしあの男も現れない。

青春らしい青春なんて出来なかったけど、ようやく解放されたのかと思うとほっとするわ。

あんな思いするくらいなら毛深いままの方がいいわね。

.

「おやぁあ、手羽先のような綺麗な毛穴が台無しじゃないですかぁあ」

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暖簾をヒラリとめくりながら現れた常連さんの言葉に、

羽鳥さんは頼んだつくね串も食べずに逃げ帰ってしまいました。

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