短編2
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水子

学生だったころの話です。

私は霊感があり、そのためなのか寄ってきやすい体質でした。

普段から腕に数珠を着けていました。

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私が通っていた学校はとても古く、100年以上そこに建っていました。老朽化が激しいため新しい校舎を建てている真っ最中で完成を心待ちにしていました。

部活で遅くなった日です。

完全下校時刻まであと少し、外は夕焼けで真っ赤に染まっていました。

校門が閉まる前に早く出なければと、友人と2人で廊下を走っていました。

どこからか赤ん坊の泣き声が聞こえてきたのです。

思わず立ち止まりました。

「どうしたの?早くしないと閉まるよ?」

友人が心配そうに言ってきます。

「さっき赤ちゃんの泣き声しなかった?」

「え、わたしは聞こえなかったけど…」

私の勘違いなのでしょうか。

その方がいいと思ったのでそれ以上は何も言わずに再び走り出しました。

看護科資料室の前を過ぎた時です。

ピシッ

手首に小さく痛みを感じてチラリと見てみました。

数珠にヒビが入っていました。

そして、今度は赤ん坊の笑い声が聞こえてきたのです。

まずい、ととっさに友人に言いました。

「今から校門出るまで絶対に振り向かないで!」

「は!?」

「見たらダメ!連れていかれる!」

私が「見える」と知っていた友人はわけが分からないという顔をしながらも私の言う事を聞いてくれました。

「おう、お前らが最後だぞー」

校門にいた先生はのんびりと言いました。

「ぎ、ぎりぎりセーフ…?」

「疲れた…」

息もたえだえに学校を出ました。

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友人に「振り向くな」と言った時、何があったのかというと。

看護科資料室の前を過ぎた時、赤ん坊が何人か寄ってきていたのです。

こちらに手を伸ばして、捕まえようとしているようでした。

そこで私は思い出したのです。

学校の七不思議の中に、「看護科資料室にいる赤ん坊は母親を探している」というものがあったことに。

母親を見つけたら赤ん坊はどうするでしょう?

ずっと傍にいてほしいから、自分たちの方へ連れていきます。

実際に、「赤ちゃんの笑い声が聞こえて、その後誰かに押された」と階段から落ちてケガをした生徒もいました。

赤ん坊たちは正面玄関までついてきていました。

しかし校舎の外には出られないようでした。

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看護科資料室には胎児の標本が週数ごとにあります。

授業で使うものなのですが、これは本物の胎児なのです。

許可も取ってあって、供養はしているものらしいのですが、供養の部分に関しては本当にちゃんとしたのかどうかがわからないところもあると後に先生に聞きました。

今は新校舎に移り、色々な資料も新校舎に移されたそうなのですが、胎児の標本はまだ旧校舎に置いてあるそうです。

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