《再》かわいい金魚(期間限定)

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《再》かわいい金魚(期間限定)

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あ~かいべべ着た

可愛い金魚

おめめを覚ませばご馳走するぞ~……

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美波は同僚で彼氏の健太と、会社の休みの土曜の夜、それぞれに浴衣を着て、縁日が開催されている最寄りの駅で待ち合わせをした。

美波は何故か縁日やお祭りが苦手だった。

理由は覚えていないが、幼い頃の記憶なのかもしれない。

だから、健太と付き合い出してからも、その前からも、縁日も花火大会も、美波は行くことも、浴衣を着たのでさえ、今日が初めてなのではないか?

だが今日は、浴衣姿の美波を見たいと、健太に半ば強引に連れて来られたのだ。

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たこ焼き、焼きそば、お好み焼き、焼きトウモロコシ、射的に輪投げ、りんご飴にあんず飴と・・・

沢山の夜店が並び、健太ははしゃいで次々と屋台に並んでは色々な物を買って来る。

「美味いだろ?」

焼きたてのたこ焼きを頬張りながら、健太は美波の顔を覗き込む様に聞く。

「うん。」

美波は答える。

確かに、何故こんなにワクワクするお祭りが苦手だったのか分からないほど美波も楽しんでいた。

美波はいちごシロップの掛かったかき氷、健太は冷えたビールの紙コップを片手で持ちながら、キャラクターのお面を被ってみたり、綿あめが出来る様を眺めたり、とても楽しい夜を過ごしていた。

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「あれやろうよ!!」

健太が指差した先には、金魚すくい。

こめかみにキリキリと痛む様な疼きを感じたが、健太に手を引っ張られ、屋台の中を覗くと、水槽の中を泳ぐ赤い金魚が目に付く。

中には黒い出目金や、白い色の金魚や、種類は分からないがちょっとプックリ丸い金魚が、ひれをヒラヒラさせながら泳いでいる。

「すいません!二人分!!」

健太は屋台のおじさんに二人分の代金を支払い、代わりに白い紙を貼った丸いカラフルなプラスティック製のポイを渡される。

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「おーし!!行くぞ~!」

浴衣の袖を肩までたくし上げ、水槽の上に浮かぶ小さいボールに水を少し入れると、健太は赤い、3cmにも満たない小さな金魚を掬い上げた。

「やったっ!!」

少年の様に目をキラキラさせて、自慢気にガッツポーズをすると健太は美波の顔を見る。

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「子供みたいねぇ~」

笑いながら美波も空いたボールを手に取り、浴衣の右側の袖を左手で押さえると、肘の辺りまで右腕を出し、ポイを構える。

「ぎゃ~!やられたぁ~・・・」

最初の小さな金魚を掬えたから、今度はチャレンジして大き目の金魚に狙いを付けた健太だったが、アッと言う間にポイに大きな穴を開けられてしまった様だ。

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「そうそう上手く行かないもんだよねぇ」

健太は溜息交じりに小さな金魚の入ったボールと、真ん中に大きな穴が開いたポイをおじさんに渡すと、ビニールの袋に少しだけ水を足し、ボールの中の金魚を一匹流し入れ、おじさんは健太に渡した。

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「次は私の番ね!」

美波はポイをゆっくりと水に浸け、健太の物より更に小さな赤い金魚に狙いを付け、掬い上げようとした次の瞬間、先程健太が狙って穴を開けられたプックリと丸い綺麗なひれをした金魚がポイの上に乗って来てしまった。

「あっ!!破られる!!」と思ったが、プックリ金魚はポイの上に横たわり、美波に掬い上げられても暴れる事無くボールの中に滑る様に入って行った。

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「嘘だろ~!!美波、金魚すくいの天才だ!」健太は美波以上に大はしゃぎしている。

「え?これがビギナーズラックってやつ?」美波は一番綺麗な金魚をGetした事に驚き、目をまん丸くする。

だが、次に狙った黒い小さな出目金でポイに大穴を開けられてしまった。

美波も健太と同じ様にビニールの袋に金魚を入れてもらい、顔の高さまでビニール袋を持ち上げ金魚を眺めていたら…

何故だかとても懐かしく…切ない想いで胸が締め付けられる様な気持ちになった。

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「綺麗な金魚だなぁ・・・」美波と並んで健太も一緒に眺める。

「うん・・・。本当に綺麗な金魚だね…。」

二人は暫く何も言わずに金魚を眺めていた。

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「そろそろ帰ろうか?」健太の声で、美波は我に返ると

「うん。そうだね。」と微笑みながら答えた。

「今日は泊まって行けるの?」健太の問いかけに美波は黙って頷く。

健太と美波はそれぞれ、金魚を持つ手と反対の空いた方で互いの手を握り合い、縁日の喧騒から抜け出し街へと歩き出した。

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歩き出して暫く行くと、ふと美波の目の端にヒラヒラと何かが動く。

顔を横に向けると、未だ2~3歳の幼い女の子が、金魚柄の浴衣を着、まるで金魚の尾びれの様な赤い兵児帯を揺らして美波の横を走り抜ける。

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その姿に美波は足を止める。

(どこかで・・・?)

瞼の裏に薄っすら浮かぶ情景を、美波は記憶の底の引き出しから引っ張り出そうとする。

急に立ち止まる美波を気遣う健太が

「どうしたの?」

顔を覗き込むように問いかける。

「ううん!何でもない!」

そう答えると気を持ち直し、再び健太と歩き始めた。

すると美波の手にぶら下げた金魚がビニール越しに勢い良く暴れ出す。

ビニールを破り抜けるんじゃないかと思うくらいに、少ない水の中でジャンプしたり、ビニールに体当たりしている。

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「ちょっと待って!」

美波は健太に言うと足を止め、金魚の入ったビニールを持ち上げ、中の金魚の様子を二人で伺う。

次の瞬間、目の前の電柱に車が突っ込んで来た。

突然の出来事に美波と健太は呆然と、大破した車を見詰めていると…

車の横に、先程の金魚柄の浴衣を着た女の子が立ち、美波を見詰めて微笑んでいる。

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「みちる・・・ちゃん・・・?」

(そうだった・・・

・・・

私には3歳年下の妹がいたんだ・・・。)

霞みの掛かった記憶の中の、忘れていた笑顔を思い出した。

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あの日も縁日に行っていた・・・。

妹と手を繋ぎ、美波は縁日の人込みを歩いていた。

幼い妹は、夜店の屋台が珍しくて、すぐに美波の手を離してどこかに行ってしまいそうになる。

未だ小さい美波だったが、そんな妹の手を離さず、何度も言い聞かせるのだが、妹は聞いてはくれない。

そうこうしていたら、一緒に歩いて居た筈の両親の姿が見えなくなってしまった。

妹の手を掴み、両親の姿を探すが、見えるのは知らない大人の背中ばかり。

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……

………

「もう・・・みちるちゃんのせいでお父さんもお母さんもいなくなっちゃったじゃない・・・。」

妹の前で泣きたくなかったが、不安から美波はポロリと涙を流した。

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それなのに、妹のみちるは金魚すくいの夜店を見付けると

「金魚~!!」

美波の手を振り解き走って行ってしまった。

美波は勝手な妹に腹が立った。

そして

「もう・・・みちるなんて知らない!」

と、声を上げて泣いてしまった。

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そんな美波の姿を見た近くに居た大人が

「どうしたの?迷子になっちゃったのかな?」

優しく聞いてくれるが、両親とはぐれ、妹は言う事を聞いてくれず、不安と悲しさで美波の小さな胸は張り裂けそうになり、返事も出来ずに泣きじゃくっていた。

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その時

「すいません・・・」聞き覚えのある声で顔を上げると、そこには見慣れた両親の姿が・・・。

美波は母のスカートに顔を押し付け泣きじゃくった。

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「美波・・・ごめんね。不安だったよね?」

そう言い、母は美波の頭を抱え込み抱き締めてくれた。

父も同じ様に美波の頭を大きな手で撫でる。

「美波?みちるはどこに行ったの?一緒じゃないの?」

母に聞かれて、泣きながら美波は金魚すくいの屋台を指差した。

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美波は父と母の間で両手を繋いでもらい、明かりの漏れる金魚すくいの屋台を覗いた。

しかし、みちるの姿はどこにも無く、両親が屋台の人にみちるの特徴を話し、どこに行ったか聞いていると・・・

俄かに人がざわつき出し、通りに人々が走って行く。

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『子供が轢かれたぞーっ!!』

その声に両親は美波を引き摺る様に通りへ走る。

そして・・・美波が見たのは・・・

車体の下に見える金魚柄の浴衣・・・。

赤い兵児帯・・・

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『みちゆの金魚―!』

母が用意してくれた浴衣の金魚を、それは嬉しそうに眺めていた妹。

『あ~かいべべ着た可愛い金魚

おめめを覚ませばご馳走するぞ・・・』

浴衣を眺めては、母から教えてもらった【金魚のひるね】を舌足らずな可愛い声で唄っていた。

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あの日…

『ねえたん。みちゆの金魚―!』

みちるは最後にそう言い残し、金魚すくいに走って行った。

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美波は自分を責めて責めて・・・あまりにも悲しい想いに、いつしか美波の中ではみちるの存在が消えた……。

両親にしてみれば、美波もみちるも愛しい我が子だったのだろうが、辛い事を美波が想い出し、傷付く事を恐れたのだろう…。

美波の前でみちるの話をする事をやめ、アルバムからもみちるの写真を取り出した。

だから今迄美波はみちるの記憶を消し去ったままだったのだ。

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あのまま歩いていたら、電柱にぶつかる前に車は美波たちを跳ねていただろう…

みちるは、自分を忘れた姉を助ける為に姿を現してくれた。

美波は泣いた。

健太は何事かと思っただろうが、何も聞かずに黙って、泣いている美波の肩を抱いていてくれた。

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気が付くと、金魚柄の浴衣の女の子の姿は消えていた。

「みちるちゃん…有難う…」

手にぶら下げた金魚を眺めると、優しく微笑んでいる様に見えた。

―終ー

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