ではボクも「向日葵」でひとつ…

短編2
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ではボクも「向日葵」でひとつ…

北海道の農村に暮らす、その女の子はこの春、小学校に入学したばかり。

家族で農業を営んでいて、広大な畑に、ジャガイモやトウモロコシ、大豆にカボチャといった、たくさんの種類の作物を育てていた。

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ある年、家の窓から眺められる畑で、向日葵が栽培されることになった。

作物でもない向日葵が、まさか育てられるとは思いもよらず、女の子はとても喜んだ。

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作物は、同じ畑で同じ作物を作り続けると「連作障害」が起き、品質が下がったり、病気になりやすくなってしまうため、数種類の作物を一年ごとにローテーションするのが一般的だ。

この農家ではローテーションする作物のひとつに、向日葵があり、家の窓から見える畑にはその年、向日葵が植えられたということだった。

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女の子はもともと向日葵が大好きだった。

毎日毎日、向日葵が少しずつ育っていく様子を窓から眺めるのが日課になった。

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本当はもっと近くで見たり、触ったりしたかったのだが、畑に入ることは両親にキツく止められていた。

「向日葵は背丈が大きいから、畑の中で迷子になってしまうから」というのが、理由だった。

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女の子はいつも言いつけを守っていたが、夏休みのある日の朝のこと。

窓から見える向日葵が一斉に大輪の花を咲かせ、辺り一面が華やかな黄色の海原のようになったのだ。

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女の子は居ても立ってもいられず、両親の目を盗んで、向日葵畑の中に忍び込んだ。

近くで見る向日葵は美しく魅力的で、女の子の心を魅了した。

大好きな向日葵に囲まれ、女の子はとても幸せだった。

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言いつけを破ったことの後ろめたさもあったが、畑に寝そべり、向日葵が作り出す日陰に心地よさを感じているうちに、ウトウトと居眠りをしてしまった。

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その日の夕方。

女の子が行方不明になった。

昼食の時間になっても家に戻らず、数時間が経過して、日も暮れかけたが、女の子は一向に家に戻ることはなかった。

警察にも届け出たが、数日経っても、女の子が見つかることはなかった。

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女の子は知らなかったのだ。

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向日葵は「緑肥」であり、最も美しく、栄養を蓄えた時期に、肥料として畑にすき込んでしまうことを…。

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両親は知らなかったのだ。

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広大な畑を維持するために導入した、外国製の大型トラクターを原動力として、固く繊維質な向日葵の花や茎でさえ、いとも易々と木っ端微塵にしてしまうロータリー耕運機で、愛する娘の肉体を一瞬にしてミンチに変えてしまったことを…。

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Concrete
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未投稿の過去作品はアレンジや再構成して投稿するつもりで、既にどれも構想は出来上がってはいるんです。仕事や家族サービスが忙しくて(を言い訳にして)、なかなか書く暇がなかったんです。自分で決めた誓約を破って、新作を書いてしまいました。

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