スノードロップをあなたに

長編10
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スノードロップをあなたに

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「誕生日おめでとう」

そう言って、真冴人(まさと)は、美咲に一輪の花を手渡した。

「ありがとう。これは、何ていう花なの?」

「スノードロップだよ。花言葉は『希望』、僕たち二人の未来が、希望に満ちたものになるように、この花を君に贈るよ」

真冴人は、美咲にそう言い、微笑んだ。

「素敵な花ね、いつでも見えるように、リビングに飾っておくわ」

それからも毎年、真冴人は美咲の誕生日に、スノードロップを贈った。

ところがあるとき、美咲は、突然意識を失い、病院に搬送された。

病院に搬送された美咲は、一命をとりとめたが、検査をしても異常は見つからず、意識を失った原因は、不明だった。

異常がないため、数日様子を見て、問題がなければ退院することになっていたが、それからも美咲は、何度も意識を失ったため、ずっと入院していた。

美咲のもとには、家族、友人、大学のサークルの先輩や後輩など、たくさんの人が見舞いに来た。中でも真冴人は、毎日のように見舞いに来て、週に一度は、必ずスノードロップの花を持って来た。

「美咲、不安だろうけど、希望を捨てたらダメだよ」

そう言いながら、真冴人は、美咲の手をそっと握る。

「うん。ありがとう真冴人」

そう言って、美咲も、真冴人の手を握り返す。

しかし、美咲の病状は、良くなるどころか、悪くなる一方で、意識を失う間隔も、日増しに短くなり、徐々に衰弱していった。

それでも真冴人は、毎週スノードロップの花を持って来て、美咲の手を握りながら

「大丈夫、きっと大丈夫だから、希望を捨てないで」

と言った。

美咲は、弱々しく手を握り返すのが、精一杯だった。

数ヶ月後、真冴人の願いも虚しく、美咲は息を引き取った。

美咲の葬儀が終わってから、最初の美咲の誕生日の日、真冴人は、美咲の墓に来ていた。

真冴人は美咲の墓の前で、しゃがむと話し出す。

「美咲には言ってなかったけど、スノードロップは、贈り物にすると花言葉が変わるんだ。贈り物にした場合の花言葉は、『あなたの死を望みます』なんだよ。僕から君への、最後のプレゼントだ。君が好きだった、スノードロップ」

そう言って、真冴人は美咲の墓の前に、スノードロップを置いて去っていった。

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さて、少し、僕の話をしようか。僕の名前は、結城真冴人(ゆうきまさと)、大学生だ。僕は、比較的裕福な家庭に生まれた。兄弟はいなくて、一人っ子だったから、両親は僕に、何かと世話をやいてきた。正直、鬱陶しいと思っていたから、大学に進学するのを機に、上京して、一人暮らしを始めた。ちなみに故郷には、一度も帰っていない、特に寂しさも感じないし、親しい友人とかも、いないから。

僕は、昔から飽きやすくて、常に退屈していた。だが僕は、大学に入って間も無く、面白い遊びを見つけた。僕には、幼い頃から不思議な力があった、それは花言葉を現実にする力、言霊とは違い、口に出さなくても、花言葉として広く知られていれば、僕が望みさえすれば、それは現実になる。僕は、その力を使って、付き合った女性を、不幸のどん底へ、突き落としていった。彼女たちの苦しむ顔を見るのが、たまらなく快感だった。幸い僕は、けっこうモテたから、玩具(おもちゃ)に不自由することはなかった。

美咲は、僕が初めて死なせた女性だ。日に日に弱っていく彼女の顔は、本当に美しかった。女性の苦しむ顔は、本当に美しい、これほど刺激的な遊びはない。さて、次の玩具を探さないと、何の花を使おうか。

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私はある日、大学で、一人の男子学生を見かけた。彼は、容姿端麗で、女性にモテそうな見た目をしていたけど、目だけはひどく冷たく、まるで、感情が無いかのようだった。

「ねえ、あの人かっこよくない?」

美希(みき)が、そう話しかけてくる。

「え?そうかなあ……」

私は、彼の雰囲気が、何となく怖かったから、そう曖昧な返事をした。

「真理(まり)っていつもそんな感じだよね?人を見かけで判断しないっていうか、まあそれがいいところでもあるんだけど」

私は、その場を笑ってやり過ごすことしかできなかった。

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今日僕は大学で、次の玩具を見つけた。彼女は、友達と一緒にいたけど、たしか、「真理」と呼ばれていたかな。そこそこ整った容姿をしていた。彼女の絶望した顔も、きっと美しいに違いない。さて、そうと決まれば、早速準備に取り掛からないと。

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「すみません。隣、空いてますか?」

ある日の昼休み、大学構内の食堂で、真冴人は、そう真理に声を掛けた。

「ええ、空いてますけど……」

不意に声を掛けられたことに驚きつつ、真理は答える。

「良かった。どこも空いてなくて、どうしようかと思ってたんですよ」

そう言って、真冴人は真理の隣に座り、続けた。

「いつもここで昼食を取っているんですか?」

「はい、まあ……。あの、あなたは?」

「ああ、すみません。僕は結城真冴人といいます。あなたは?」

「あ、宮林真理です」

名前を訊かれ、真理は思わず答えた。

「真理さんですか。素敵な名前ですね。ところで、真理さんは何学部なんですか?」

「え?あ、文学部です。すみません、講義があるので失礼します」

このまま、やりとりを続けていると、プライベートに関わることまで、訊かれそうだったから、真理は適当に理由をつけてその場を後にした。

「チッ、逃げられちゃったか。まあいいか、まだチャンスはあるし」

それからも真冴人は、ことあるごとに真理に関わってきた。

「おはよう。真理さん、今週末空いてますか?近くにお洒落な雰囲気のカフェがあるので、一緒にどうですか?」

「真理さん、映画のペアチケットがあるんですけど、一緒に観に行きませんか?」

「今度近くで、世界の花展があるので一緒に行きませんか?」

このような感じで、頻繁に話しかけてくる。真理はその度に、適当に用事を作って断っていた。

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ある日、春香が私に、プレゼントのような包装がされた、一つの小包を渡してきた。

「春香、これ、どうしたの?」

「なんか、真理に渡してって頼まれたから、預かったんだけど」

「誰から頼まれたの?知ってる人?」

「ううん、知らない人だったけど、かっこいい人」

「そう。とりあえずありがとうね」

春香が教室から出て行ったあと、私は、その小包を開けてみた。

中には手紙が一通と花が入っていた。その手紙にはこう書かれていた。

━━宮林真理さん、今日、夜7時に榊公園で待っています。

結城真冴人━━

その手紙を読んで、私は、真冴人のしつこさに異常さを感じた。私は、手紙と一緒に入れられていた花を確認する。

「この花って、オイランソウ……?」

花言葉は、「あなたには私が必要です」。どういうつもりだろう。

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ある日の夜、僕は大学の近くにある、榊公園で、真理を待っていた。 待ち合わせの7時まで、あと5分ほどというところで、彼女はやって来た。

「すみません。待ちました?」

「いえ、ちょうどいいです。待ち合わせは、7時だったので」

僕は、笑顔をつくって、そう答える。

「よかった。ところで、結城さん、手紙と一緒に、オイランソウの花を贈ってくれましたよね?花にメッセージを託すのって、素敵ですよね。だから私も、結城さんに渡そうと思って、花を用意して来ました」

そう言って、真理は一輪の花を、僕に差し出した。

「これは、ホウセンカか。ようやく僕に心を開いてくれる気になったのかな?」

僕がそう問いかける。しかし彼女は

「いいえ、私がその花に託した花言葉は、『心を開く』ではなく、『私に触れないで』です。私は、あなたみたいな、しつこい人は好きではありません。もう私には関わらないで下さい。それでは、さようなら」

と答えた。そして、僕に背を向け、その場を去っていった。

僕は真理を呼び止めることはなかった、いや、できなかった。その時、僕の頭は、疑問で埋め尽くされていた。

(僕は、確かに彼女に、オイランソウを贈ったはずだ。オイランソウの花言葉は「あなたには私が必要です」。僕の能力で、彼女は、自分には僕が必要だと感じるはずなのに、なぜ彼女には効かなかった?)

そうだ、僕はこれまでも、この方法を使って、女性を僕の虜にしてきた。最初は、適当に取り繕っておけば、ある程度は親しくなれる。でも最後は、いつも花の力で相手を僕のものにしていた。これまでこの方法が、うまくいかなかったことはないのに、なぜか真理には効かなかった。彼女はこれまでの女性とは何が違うんだ?

いや、落ち着こう、こういう時こそ、冷静に判断しないといけない。まずは、なぜ僕の力が、真理には効かなかったのかを突き止めないといけない。彼女の友人にあたってみるか?いや、へたに話せば、僕が変な人物だと思われる。それどころか、僕の力のことがバレるかもしれない、それはだめだ。

じゃあ、どうする?このまま、しばらく様子をみるか?いつものように、花を贈り続けて、彼女の方から、何か行動を起こすのを待つ。

いや、いっそのこと、真理は諦めて、新しい玩具を探すか?僕の力が効かないなら、深追いしすぎると、危険かもしれない。

いやまて、これまで、僕の思い通りにならない人間はいなかった。真理だって、例外ではないはずだ。こうなったらなんとしてでも、彼女を僕の思い通りにしてやる。

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私は、完全に油断していた。ホウセンカの花を渡したから、もう結城真冴人は私には関わってこないだろう、そう思っていたのがいけなかった。

彼はまた、春香を通して私に花を贈ってきた。しかも、今回はガマズミの花だった。花言葉は「無視したら私は死にます」まあ、他にもあるけど、多分これだろう。

ただ、私はそれよりも、なぜ私の力が、彼には効かなかったのかが、疑問だった。私には花言葉を現実にする力がある。使い方によっては、かなり危険な力だから、滅多に使わないが、これまで、効かなかったことはなかった。

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その日、真理は、ある花を持って、大学の食堂を訪れていた。彼女が、食堂を訪れたのは、真冴人に、直接会って、話をするためだった。

真理は、ガマズミを、送りつけてくるほどなら、真冴人には、直接自分と会う意思があると思っていた。そして、真冴人が、真理に会おうと思うなら、最初に接触してきた、食堂に来るだろうと思った。

真理のその考えは正しかった。食堂に着いて、真冴人の姿を探していると、彼はいつも真理が座っていた場所の近くの席で食事をしていた。真理が真冴人の方へ近づいていくと、彼も真理に気づいたようで、彼女にむかって笑顔を向けてきた。

「やあ、真理さん。奇遇ですね」

「ええ、そうね。ところで、結城さん、ガマズミの花を贈ってくるなんて、あなたは本当に、花を使ってメッセージを伝えるのが好きですね。だから私、今日も花を持ってきたんです」

そう言って真理は、真冴人に、一輪の花を手渡した。

「これは、黄色い……カーネーション……だと……?!」

そう言う真冴人の声は震えていた。

「どういうつもりだ!この花の花言葉、知っているのか!?君は、この僕を、軽蔑しているというのか!」

真冴人は、怒りのあまり、鬼のような形相で、真理にそう詰め寄ってきた。

「ええ、そうよ。ガマズミの花なんて送りつけてきて、随分、私に執着してるみたいだけど、あいにく、あなたは、私が一番、軽蔑するタイプの人みたいね。前にも言ったけど、二度と私に関わらないで」

真理は、真冴人の気迫にも、怯むことなく、毅然とそう言い放つと、食堂を後にした。

その夜、真冴人と真理は、それぞれ考えを巡らしていた。

(やっぱり、真理には、僕の力が効いていない。間違いなく、真理には何かある)

(なんで結城真冴人は、花言葉にこだわるんだろう?何か、理由があるはず……)

二人は、互いの行動を思い返していた。

(それにしても、なぜ真理は、オイランソウやガマズミの花言葉なんて知っていたんだ?)

(どうして、彼は、オイランソウやガマズミの花言葉を知っていたの?)

やがて二人は、同じ考えにたどり着いた。

次の日の夜、真冴人と真理は、榊公園にいた。二人はここで会う約束をしていたわけではなかった。ただ、互いにここに来るのではないかと、直感的に感じただけであった。

「やあ、真理さん。こんなところで会うなんて、本当に奇遇ですね」

そう真冴人は、微笑みながら話しかける。だが、その目は全く笑っていない。

「ええ、そうね。あなたのことは嫌いだけど、どうしても聞きたいことがあったから会えて良かったわ」

「偶然ですね、僕も真理さんに聞きたいことがあったんですよ」

「そうですか、じゃああなたの質問から、お先にどうぞ」

真理が無表情でそう言うと、真冴人はちいさく笑ってから

「じゃあお言葉に甘えて……、真理さん、君も、花言葉を現実にする力を持ってるんだよね?」

真理は、一呼吸おくと極めて冷静に

「『君も』と言うことは、やっぱりあなたも力を持っているんですね?」

と答える。

「やっぱりバレてたか、じゃあ君のことは諦めるしかないな、君の望み通り、二度と君には関わらないことにするよ。それじゃ」

そう言って去っていく真冴人の後ろ姿を見て、真理が公園を後にしようとした時

「なんてね」

彼女が、自分のすぐ後ろでしたその声に振り向くと、いつの間にかそこにいた真冴人が、真理を押し倒し馬乗りになって、手で首を絞める。

「僕の力が効かないなら、力ずくで君を苦しませるしかない。本当はもっとじっくり楽しみたかったけど、この際仕方ないから、こうさせてもらうよ」

笑顔でそう言う真冴人の言葉は、真理の耳には届かず、彼女は数分間もがき苦しみ動かなくなった。

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さて、どうしたものか。人を殺した以上、この町に長居はできないな、とりあえず真理はできるだけ遠くの山に棄てよう。大学はもうすぐ卒業だから、卒業式が終わったらすぐに引っ越そう。内定は断るしかないな、しばらくはフリーターをすることになるが、仕方ない。さて、真理を運ぶための車を取りに行くか……。

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