中編5
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同棲

俺は今日から彼女と同棲することになった。

本当は、もっと早くに同棲したかったのだが、俺のほうの環境が整っていなかったため、今に至った。

「ただいま。」

彼女が帰ってきた。

「お帰り。お仕事、ご苦労様。」

「本当に参っちゃうわよ、あのジジイ部長。頭がかたいったらありゃしない。」

「無能な上司を持つと大変だね。」

「あはは、ほんとほんと。コピーやメールくらい自分でやれっての。まったく。パソコンはお飾りで、日々何の仕事してるんだろうね。」

「お腹すいたでしょ?ごはんできてるよ。」

「うわ、おいしそう~。これ、君が作ったの?偉い偉い!」

俺は、こんな日常を待っていた。

ここまでくるのには、苦労した。

彼女がこの同棲に初めは難色を示していたからだ。

経済的な理由だ。俺は自分の甲斐性の無さを嘆いた。

だが、俺は、猛烈に彼女にアタックした。

そして、彼女はついに、俺との同棲を決意してくれたのだ。

自分から言い出したにも関わらず、同棲までに時間がかかった。

同棲が決まれば、彼女は早くと催促したが、なかなか環境を整えるのには時間がかかる。

しばらくは、幸せな日々が続いた。

あいつが現れるまでは。

そいつは突然訪れた。

その日は、ただいまといういつもの言葉すらなかった。

「散らかってるけど。あがって。」

「えー、ぜんぜん散らかってなんかないじゃん。俺の部屋に比べれば高級ホテルみたいだよ。」

「もー、大げさね。」

彼女が男を連れて来た。

「あなたにも紹介するわね。会社の同僚の、柴田君よ。」

「こんばんは、はじめまして。」

その男は笑顔で、俺に挨拶した。

「こんばんは。」

俺も挨拶を返したが、心は穏やかではない。

何故、その男を家に入れたんだ?

「うわー挨拶してくれた。すげー。」

柴田という男は、大げさに反応した。

俺をバカにしているのか?柴田。

「君、ご飯も作れるんだって?」

「ええ、多少。レシピは限られますが。」

「マジで?凄いなあ。」

柴田。気に食わない。

どうして彼女はこんな頭の軽そうな男を家に招いたのだろう。

「今日は、ご飯は作らなくてもいいよ。帰りにスーパーで買ってきたから。」

彼女は俺に微笑みながら、買い物袋を見せて来た。

その買い物、その男としてきたのか?

なんだかまるで夫婦きどりじゃないか。

俺の中にふつふつと怒りが湧いてきた。

俺がどんなに苦労して、君と同棲にこぎつけたと思ってるんだ。

「ねえ、これ、高かったんでしょ?」

柴田が俺を指して、言った。

これ、だと?ふざけるな。俺は、お前にこれ扱いされる覚えはない。

「うーん、最初はね、やっぱ迷ったよ?でもさあ、すごく販売店の人に押されちゃってさあ。思い切ってクレジットで買っちゃったの。」

「へえ~、名前はあるの?」

「うん、あるよ。」

「なんて呼んでるの?彼のこと。」

「え?・・・恥ずかしくて言えない。」

「なんで?」

「えーと、彼の名前は・・・。アツシ。」

「えっ?それって。」

「ごめんなさい。勝手に、柴田君の名前つけちゃって。」

「美咲ちゃん・・・。」

「実は私、柴田君のことが、好きなの。」

「美咲ちゃん、実は前から俺も、美咲ちゃんのこと・・・好きだった。」

おい、やめろ柴田。それ以上、俺の美咲に近づくな。

ふざけるな、お前。俺の目の前で。

「ダメ、柴田君、アツシが見てるよ。」

「はは、ナニ言ってんの。これは、ただの人工知能搭載のスピーカーだろ?音声認識で何でもやってくれるっていうやつ。」

「でも、これ、転送機能とかあるからヤバいよ。もし間違って、私たちの様子が転送されちゃったらヤバいでしょ?」

「へぇ~、そうなんだ。でも、なんかそれって逆に見られてる感じでモエない?」

「あん、ダメ。そこっ!」

「へえ、弱いんだ、ココ。」

「あぁん、いやっ、だめ。」

「そんなこと言いながら、もうこんなになっちゃって。」

ふざけるな、ふざけるな、ふざけるなあああああ!

柴田、殺す。殺してやる!

俺は、部屋を飛び出した。

行く先は、もちろん美咲の部屋。

俺たちの同棲生活をめちゃくちゃにしやがって、柴田。

美咲は、俺を人工知能搭載スピーカーだと信じてやまなかった。

販売したのも俺で、届けたのも俺。スピーカーの声ももちろん俺で、自動調理機の遠隔操作をしていたのも俺で、洗濯も掃除も全て俺が合鍵で入ってやっていたのだ。

この機械に細工するのに、どれだけの労力と時間を費やしたと思っているんだ。

許さん。

美咲も、柴田も。

俺を裏切りやがって。

二人、まとめてあの世に送ってやる。

俺にはこの合鍵があるんだ。見てろ。

ほら、開いた。覚悟しろ、二人とも。

あれ?開かない。

ガチャガチャガチャ

「えっ?だれ?」

抱き合っていた二人は、ベッドから離れ、美咲は柴田のシャツを羽織り、インターホンのスイッチを入れ、画像を確認した。

「開けろ!美咲!俺だ!」

sound:14

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「やだ、怖い。」

「美咲ちゃん、誰?この男。」

「見たことあるような・・・あっ!思い出した。あのスピーカーを買った店の担当販売員だわ。」

「なんで、電気屋の販売員が?まさか、美咲ちゃん、この男と・・・。」

「そんなわけないでしょう?こんなキモイ人。」

「だよな。こんな奴が美咲ちゃんの彼氏とは思えない。」

「ふざけるなよ、柴田!殺してやる!」

「なんで俺の名前知ってるんだよ!」

「柴田君の名前なんて、私もこの男に話したことなんてないよ?」

sound:14

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「俺の美咲に触るんじゃない!出てこい、柴田!」

「おい、お前、ふざけるなよ。誰が俺の美咲だよ!」

柴田は、インターホンのスイッチを入れると応対した。

「俺と美咲の同棲生活を邪魔しやがって!許さんぞ!」

美咲の顔が青ざめた。

「ねえ、柴田くん、もしかして、このスピーカー・・・。」

「なるほどね、これで美咲ちゃんのこと見てたのか。」

「やだ、怖い。キモいよ。」

「こいつ、イカれてるよ、美咲ちゃん。警察を呼ぼう。」

「最近、なんか家の物の位置とかが微妙に変わってて、気持ち悪かったから、今日、業者の人に来てもらって二重ロックにしたの。やっぱり誰かが侵入してたんだわ。」

こうして俺と美咲の同棲生活は終わってしまった。

「あのね、君、被害者と同棲してたっていうけど、そんな事実はないよね?」

「同棲してたんです。」

「妄想もたいがいにしなさいよ。君は、彼女に細工を施した人工知能スピーカーを販売し、自らの声で彼女に話しかけてたんだよね?」

「彼女は、いつも俺と一緒だった。」

「こういうのを、ストーカーっていうんだよ。知ってる?で、合鍵はどうやって手に入れたの?」

「彼女からもらった。」

「そんなわけないでしょ?」

「あいつさえ現れなければ。俺たちは幸せに今も暮らしていたというのに。あいつさえ・・・あいつさえ・・・殺してやりたい。殺す。」

Concrete
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