短編2
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マンションのドア

深夜自宅に帰ると、ドアを開けるのが怖くなるときがある。中に何ものかがいるような気がするときがあるからだ。思い過ごしであると信じてドアを開けると、真っ暗な闇が訪れる、昨日買った足下をブルーに照らす常備灯をつけ忘れたことを後悔し、一歩中に踏み込む。

玄関の電気をつけてリビングへ向かう。昨日使った飲みかけのグラスがテーブルの上に置いたままだ。「ん、まてよ!」ここのテーブルに置いた覚えはない。リビングでは水を飲まないからだ。水を飲むときはダイニングのウォーターサーバーから直接グラスに注ぎ、その場で飲む習慣があるからだ。グラスを置くなら必ずダイニングテーブルのはずだ。

玄関を開けたときの得体の知れない違和感が蘇る、リビングのグラスを手に取り観察してみる。コップの底に残る水分は水のように見える、グラスを透かして見るとうっすらと淡いピンクのルージュのような物がついている。この部屋に女性はいない…。ゾクゾクと背中に虫がはいつくばったような悪寒を感じる。

しっかりと洗ってなかったのか、嫌、それはない。毎日使うグラスなので、一日に何度かは必ず洗っているからだ。ティッシュで強く拭き取ってみた、ティッシュにはピンクの絵の具のようなものが付いていた。部屋の電気という電気を全て点け、部屋中を見渡すが特に変わった様子はない。もちろん誰もいない、悪寒が背筋を何度も走る。

ベランダのサッシを開け放つと、リビングにほのかに甘い香りが漂う。慌ててサッシを閉めてみたが、部屋の中にはまだ甘い香りが漂っている。

頭が混乱したが「俺の思い過ごしだ、疲れが溜まっているようだ」と何度も自分に言い聞かせ、爆睡した。

本当に残業続きで疲れていたのか、朝起きてシャワーを浴びると、昨日のことが夢のように思えた。

不思議なことがある物だ、疲れていると幻覚を感じてしまうのだろうか…と、思いながら家を出ようとしたとき、ゴミ箱に入っていたピンクによごれたティシュを発見してしまった。複雑な気持ちを抑え、念の為と思いセロテープを6㎝ぐらい取って手の甲にセロテープの端っこを貼る。玄関のドアを閉めドアの一番上当たりにドアとドア枠をまたぐように手の甲から取ったセロテープを貼って会社に向かった。

仕事を終え、23時に自宅前に到着。ドアに貼ったセロテープを確認した…ドアからテープが剥がれ、ドア枠にはしっかりと貼りついたまま、セロテープはひらひらと風になびいていた。

背中に走る悪寒はぞぞぞと全身を鳥肌で覆うように広がる。カギを差し込み、「ガチャ!」と解錠した。

ドアを開けるとほのかに甘い香りがする、真っ暗闇のその廊下の奥には…何ものかがこちらを見つめて立っているような気配だ。慌ててドアを力任せに閉め、同僚に電話をした「何も聞くな、すまない今日泊めてくれ!」。

Concrete
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夜行列車様、久しぶりに書いてみました。
まだまだ、です。
怖話の星新一を目指しています!
(*´艸`*)

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