短編2
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「見るな」

祖父と祖母が神社にお参りに行った時の話。

その神社は山の上にあった。

車で15分程山道を走ったところだったと思う。

祖父は人混みが嫌いなため、人の少ない時間を見計らって参拝に来ていた。

二人は途中までは一緒に行動していたが祖母が

「私、ちょっとトイレに行ってくるわ」

そういって祖母はお手洗いに、祖父は参拝を続けることにした。

祖母がトイレに行くと

普段見たことがない景色があった。

トイレの前に行列ができていた。

正確にはトイレに並んでいるわけではなく、神社に向かって並んでいる行列ができていた。

端がどこなのかすら分からないくらいの大行列。

トイレに向かうにはその行列を横切らなければならない。

祖母は

「ごめんなさいねー」

人と人との間を縫ってトイレに向かった。

用をすませ、トイレから出た。

いつもの景色だった。

誰もいない閑散とした景色。

(いやな感じやなー…)

そんなことを思いつつ、祖母は行列の人たちの服装を思い出した。

あの時はトイレに行きたくて焦っていたが、

白。

真っ白な着物。

真っ白な顔。

そう、気づいたときには小走りで車に戻っていた。

車に戻ると参拝を済ませた祖父が先に待っていた。

先程のことを話そうと車に乗り込んだ矢先、

祖父の顔が険しくなったことに気づいた。

視線のさきは前の崖に向いていた。

「…?」

見ると真っ白な着物を着た男が二人、

崖っぷちに立っている。

(さっきの人たちか?)

そう考えた瞬間、

男達は崖から飛んだ。

あっと息をのむ

しかし、飛んだ男達は落ちるどころか

切り立った崖の壁を走って降りてくる。

(夢でも見ているのだろうか?)

それくらいに信じられない光景。

あっという間に崖を下りきった男達は

そのまま自分達の乗る車に向かって走ってくる。

車の後ろは崖になっており、逃げ場はない。

前から迫ってくる男二人。

どうしようもない

それでも祖父は男達を睨むように凝視していた。

ついに車まで迫った男達は

車の上を軽く、ピョンとでもいうように飛び越えていった。

後ろは崖。

どうなるか大方予想は着く。

祖母が車内から振り返ろうとしたとき

「見るなぁあああああ!!」

祖父は怒号と共にエンジンを吹かせ、車を発進した。

帰り道の車内

祖母はトイレでの行列の話をした。

「あれはなんやったん?」

「……あれは「向こう」に行く人達や。大きい事故でもあったんかもな。あの時振り向いてたらお前も連れていかれたかもしれへんで。」

この話で俺は神社があまり好きではなくなった。

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