神の住処の一族の子供をいじめた話

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神の住処の一族の子供をいじめた話

自分がガキの頃、親が転勤族だったので数年スパンで全国を転々としてたんだけど、高校2年の頃に某中国地方のかなり田舎の町に引っ越した。詳細は控えるがとある基幹産業があるおかげでど田舎の村から町レベルに急速に発展したようなところだ。

そこの町は地域の守り神?みたいなのがいるみたいでその町に住んでいる人たちは全員その神様を大切にしているみたいだった。自分たちはよそものだったので祭事や儀式的なものには参加もしていないし何をするかなども一切知らされていなかったのでどういう神様を祀っていたのかはわからない。

しかし唯一わかっているのはその神様はとある一族(O家とする)が守っている というか世話をしているというのを人から聞いた。

神様の世話をしているというと神社の神主のような人たちを想像するかもしれないがごく普通のサラリーマン家庭のように見えた。

O家は町の中心部からやや外れの森に近い場所に住んでいて家はかなり大きかった。また家の周囲は入り口を除いて垣根で囲われていて垣根の中の様子は外からは見えない状態だった。

高校生の好奇心旺盛な自分としてはミステリアスな雰囲気にすごく興味を惹かれていた。

一方でこの町には一つ違和感のあることがあった。それは町の住人全員がO家の人たちに異常に優しいのだ。

自分や親が目にしたのは、O家の人に会った人は立ち止まって丁寧に挨拶する、町のイベントでは常に最前列の席が家族分用意される、旅行に行った人は必ずお土産か何かをO家に持っていく、結婚や出産などの前後にはO家に報告にいくなどなど例を挙げればキリがない。

さらに自分の目に異常に映ったのは学校の先生が生徒であるO家の息子のK君だけをさんづけで呼ぶことだった。他の男子生徒は呼び捨てだったが自分以外の生徒はそれに対しておかしいとは思っていないように感じた。

いろいろモヤモヤしていた高校2年の秋に東京からTが転校してきた。Tはヤンキー入ってる感じで常に気だるそうな空気をまとっていた。また身長も180近くあったので最初は俺も結構ビビってた。

だがTと自分は転校してきたもの同士ということですぐに打ち解けた。もっと言えば自分もTもクラスメイトとうまく関係を作れていなかったということも自分たちが仲良くなるのを加速させたのかもしれない。

町や学校にも馴染んできた高校3年の春のこと、Tの家でダベってたら突然Tが

「Kのやつ調子乗ってるよな?完全に特別扱いじゃねえか」と怒り出した。

何を急にと詳しく聞くとどうやらTは小学校の頃から背が高くやんちゃな性格もあり常にクラスでは気にかけられる存在だったとのこと。まあつまりクラス全員Tにビビってたということだ。

だがこの町に来てからT自身は周囲からぞんざいに扱われているように感じているらしく、さらに自身ではなく常にK君がクラスの中心にいることが耐えられなくなったらしい。

ひどい逆恨みだなぁと思ったが自分自身も確かにK君とその周囲の人間との関係に違和感があったので適当に相槌を打っていた。

すると「なあ、Kをシメようぜ」と完全にヤンキーモードになったTが提案をしてきた。まったく賛同できない提案だったが仲がいいとは言え自分とTの間のパワーバランスを考えると断るのも難しい。

しかし町であんなに贔屓にされているO家のK君になにかするとなると自分だけでなく家族にまで影響があるのではと不安になった。

が、今この瞬間の自分に降りかかるかもしれない暴力と将来の不安を天秤にかけた時自分の理性は暴力の即時性に負けてしまったのだった。

Tに具体的に何をするのか聞くと

「かる〜くいじめてやったらあんな温室育ちすぐに俺にビビるようになるだろうよ。そうすれば他の連中も自然と俺を特別扱いするようになるさ。どこか人のいないとこに呼び出してボコる、写メ撮って、誰かに言ったらまた殴るって脅せばいいんだよ。ちょっとお小遣いをもらってもいいかもな・・・」とかなり浅い作戦を展開してきた。

高3にもなって暴力沙汰はさすがに進路に響くと自分が抗議すると

「お前はKを呼び出して殴られてるKの写メ撮るだけでいいからよ」と言うのでまあそれならばと了承した。

翌日自分はクラスでK君に

「この町に来てからずっと気になっていることがある。クラスの他の人には聞けないから相談に乗って欲しい。誰かに見られても気まずいので放課後に学校裏の林に来てくれないか?」と約束を取り付けた。なんとなく困ったような顔をK君がしたように見えたが気にしないようにした。

放課後K君に軽く目配せしてそそくさと先に学校を出た。道中Tと合流しTは近くの木の影に身を隠した。

10分ほどするとK君が現れたがそれを見計らってTが木の影からぬっと出て来た。K君はTがいることに困惑しているようだったが自分に危険が迫っていることには気づいていない様子であった。

「お前の罪を数えろ」とTがわけのわからんことを言うや否や、K君は真後ろに吹っ飛んだ。TがK君の腹を蹴ったのだ。

地面に転がるK君は自分に何が起こっているのか把握できていないのか涙目でこちらを見つめていた。さすがに罪悪感があったが、Tは倒れているK君の腹を踏みつけていた。

自分はぼーっとその様子を見ていたが彼は今まで他人から攻撃される経験がなかったためにこんなときにどうすれば良いかわかってないのでは?などと考えていた。写メを撮るのは完全に忘れてた。

しかしすぐにK君は「頼むからやめてくれ!!お願いだから・・・」と悲痛な声をあげた。その声に満足したのか最後にTは横腹を蹴り上げてK君への暴力を終えた。

「これからはあんまり調子に乗るなよ、あと誰かにこのことを言ったらダメだよー」とニコニコ顔で釘を刺すTを見て、あのとき逆らわなくて本当に良かったと安堵する自分がいた。

すると倒れていたK君がフラつきながら立ち上がり

「すまない、謝って済むようなことではないが本当にすまない」と自分たちに謝ってきたのでTが何に腹を立てているのか気づいたんだなと思った。

Tが帰るぞと言うのでボロボロのK君を置いてその場を離れた。

次の日から学校でのK君の様子が少し変わっていた。ふと見るとTを目で追っているような素振りをしているのだ。さすがにあれだけ痛めつけられたら意識するよな・・・と可哀想になった。

TもK君の視線に気づいているようでなんだか気分が良さそうだった。

そんな日々が続いたがある土曜にTに家に呼ばれた。Tの家には何度も来ているがなぜかその日のTの家では空気が重いというか誰かに覗かれているような不快感というか体験したことのない感覚を覚えた。

Tの部屋に入るがどうにもTの様子がおかしい。怯えているような雰囲気なのだ。

どうしたん?と聞くとTが自分の身に起こっていることを語り始めた。それは概ねこのような話だった。

最近夜になると自分の部屋の窓の外から何か変な音が聞こえる。最初は小さすぎて気のせいだと思ったし、そもそも部屋は2階で窓の外には何もないので音なんてするはずないと思ってた。

だがだんだん音は大きくなりそれはぶつぶつつぶやく独り言のような声だとわかった。

それでもその声は小さすぎて何を言っているか聞こえなかったが、数日前からその声が何と言っているのかだんだん聞き取れるようになり、

「んしゃわもんそこのおたり んしゃわもんそこのおたり」とひたすら繰り返していることがわかった。

これが何を意味しているのかわからないがとりあえず聞き取れるままメモったとのこと。

TはKの祟りだと震えていた。

自分もK君に対してすごい罪悪感があったのでそれならばK君に謝りに行こうと提案したがヤンキー根性の業なのかそれは頑として受け入れなかった。

そこで自分だけでもK君に月曜に謝り、ついでに何が起きてるのかだけでも聞いてきてやるとTに話しT家を出た。春なのに妙な寒気を感じた。

月曜、学校に行くとTは来ていなかった。サボりまでして謝りたくないのか・・・と呆れた。

昼休みにK君が1人になった瞬間に声をかけ、先日のことを謝りたいこと、そしてTのことで相談があることを伝えた。K君は怒ったような悲しいような顔をしていたが「放課後学校に残っていてください」と言ってどこかに行ってしまった。

放課後教室に残っているとK君が「ちょっと移動します」と言って歩き始めた。黙って着いていくと視聴覚室に入っていった。

自分はふと視聴覚室はコーラス部の練習場所じゃなかっただろうか、しかも大会前みたいな話を教室の部員が言っていたのを思い出しそのことを尋ねると「ええそうですね、ですがここが一番防音がよいのでコーラス部さんにはお休みいただきました」と何事でもないかのように言った。

この時点で普通ではない何かをK君にいまさら感じた自分は少し、いやかなりビビっていた。

そこでまずは先日のTからの暴行について自分が関わったことを誠心誠意謝罪した。なんならTに脅されていたと少し盛った。

K君は「別にいいですよ、すごく痛かったですけど怪我もしていなかったので。T君も加減してくれていたのだと思います」と言ったが、違うぞK君、あいつは痛いけど怪我にならない箇所を狙って蹴ってたんだと内心思ったがそのことは言わなかった。

とりあえず謝罪が拒絶されるような最悪の事態は避けられたので安心しているとK君の方からTに何かおかしな様子はないかと尋ねられた。

まさに自分が聞きたいことだったので自分の知っていることを全て話すとK君はまたあの怒ったような悲しいような顔になった。そしてこの町の守り神の話とK君自身の話をしてくれた。

そもそも古来よりこの町(当時は村)にいる守り神と言われているものは守り神のような善良なものではなく人に害を与える悪神や悪霊のような存在だった。

様々な方法でそれを鎮めるまたは封印しようと試みたがどれもうまくいかなかった。だがある時とある高名な霊能師が村に現れ鎮めることができると言い出した。

その方法は当時村で迫害されていたO家の先祖の体をその悪神の住処として提供するというものだった。新しい住処を用意するから今の住処である村は人間に自由に使わせてくれるように霊能師は悪神と交渉し契約が交わされた。

村の人間はOの一族に1人差し出せば迫害をやめることを約束し当時のO家の次男が人柱に選ばれた。

詳しい方法までは教えてくれなかったが儀式を行うことで悪神はその次男の体に住み着くことなった。

これで村の人たちは安心し村を発展させていくことができた、またO家には村への貢献ということで過去の罪(どういう罪かは不明)をなかったことにし、むしろ手厚く援助の手を差し伸べた。

だが時が流れその次男も亡くなって数年が経った頃、ささいなことからまたO家への迫害が行われるようになった(K君の考えでは悪神を宿した一族というのも理由だったのだろうとのこと)。

するとたちまちO家への迫害を行った村の有力者一族がことごとく祟られ死んでいった。

そう、悪神は次男からその子供へと受け継がれていたのだった。

霊能師は次男の体に悪神を移した後、O家の一族に次男が亡くなった後悪神がどうなるか検討がつかないことから悪神を親から子へと受け継いでいく儀式を伝えていた。またもし将来また迫害されるようなときは交渉の材料にしなさいと助言までしていたのだった。

初めこそ悪神を宿した者を迫害した者への祟りというものであったがO家が継承を重ねるごとに、騙して資産を奪った者、ないがしろにした者、求婚を断った者とどんどんハードルが下がっていき、現在ではその者に対して不親切という程度でも祟りに合うケースがあるということであった。

「つまりTはK君の中にいる悪神の祟りを受けているということで、それに関わった自分も危ないのではないか?」と恐怖混じりに聞くと、

「僕の中にまだそれはいないんだ、今はまだ父がそれの住処になってる」

「じゃあなぜTは祟られているんだ?祟りは悪神の住処になっている人に何かした時に起こるんじゃないのか?」

「逆に聞くけど君はこれから引っ越す新築をめちゃくちゃに傷つけられて平気でいられる?」

・・・・・何も言い返せなかった。

「でも君は直接僕を殴ったりしてないから多分大丈夫だよ、でもT君は・・・だめかもしれない 様子を聞く限りあれがかなり怒っているから」

「Tは『んしゃわもんそこのおたり』って聞こえるって言ってたけどこれはどう言う意味かわかる?」

「んー、絶対とは言い切れないけど『主はわしのものを傷つけた』って怒ってるんだと思う。僕の体は僕のものではなくあれの物だから・・・」

K君はまた怒ったような悲しいような顔をしていた。

翌日以降もTは学校に来なかった。K君から祟りについて聞かされていたので様子を見にいくことすら憚られていた。あれにTと自分に関係があると思われるんじゃないかとビビっていた。

しかしある日先生からTが急遽転校したと連絡があった。本当に急な引っ越しらしく先生すら次の引っ越し先を把握できていないとのことだった。

この村から離れることで祟りから逃れようとしたのかなとか考えながらなんとなくT家に寄ってみて唖然とした。

T家は完全に焼け落ちており柱1本残っていなかった。

火事の現場を他に見たことはないのでわからないけどこんなに綺麗に焼けるものなのだろうか?

そもそも救急車のサイレンなども聞いていない。

そしてこんな大きな火事が起こっているのになんで誰からもこの話題を聞かないんだ?

ふとK君の「O家に不親切な人すら祟る」という言葉を思い出す。

そうか、悪神はすでに町の人全員の心の中に巣食っているのか・・・。

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