銀色のベヘリット/楽園・卵・嘘(四月の三題話)

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銀色のベヘリット/楽園・卵・嘘(四月の三題話)

手に入れた「卵」は楽園への鍵だった。

犠牲の代償を支払うことで、人間を超えた何かに転生できるのだとか。

その卵の形をした銀色のアクセサリーは、人間のような目や口や鼻がついている。しかもグチャグチャの位置で奇妙な形。特別な呪術の道具なのだと、あの占い師は言っていたが。

曰く「ベヘリット」、この世界の裏にいる天使「ゴッドハンド」を召喚してその「使徒」になり、新しい世界の楽園に生きることができるらしい。

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山賊狩りに害獣駆除。

ハンターとして村や都市に雇われて生きている俺にとっちゃ、ちょっとしたお守りか。

楽園に行ける、と思えば気休めにはなる。

あの山賊ども、止められなかった。

人数が多すぎたし、受けた依頼の内容で聞いたのとは全然違う。騙されたのだろうか?

それに、あの不気味な男、俺の持っていたベヘリットを見て大笑いしていたな。あれは普通の人間じゃない。長弓で矢が三発も突き刺さって、まだ平然としているだなんて。

しかも、一回殴られただけで、肋骨と内臓がグチャグチャにやられたらしい。口から血があふれて呼吸もやっとだ。じきに俺は死ぬだろう。

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「その傷ではじきに貴様は死ぬ。死にたくなければ、そのベヘリットであの方たちを呼び出せ! そして我らと同じ「使徒」となって新しい楽園に生を受けるのだ!」

そんなことは知っている。俺だって何度かあの化け物たちを予感したし、大切な誰かを「生贄」を差し出せば欲望を叶えてやると囁いたからだ。

断ってきた。

その方が愉悦と優越感を味わえたし、割に合わない取引に感じられたからだ。

あの盗賊の男だって、きっと内心ではどこかで後悔している。だから、自己肯定したいために、私にも同じになるように勧めたのだろう。

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「その思いなしには嘘がある」

朦朧としていく意識の、幻の中に現れた、髑髏の騎士はそう言った。

「その銀のベヘリットは白い影、並みの使徒が捧げる生贄以外の代償と供物で欲望を叶えうるもの」

「代償?」

「心や感覚の一部を失い、さらには理不尽な戒律が課せられる。だが「魂を売り他者を生贄」以外の選択肢を持つゆえ、上位使徒と呼ばれる」

いつだったか、あのむさ苦しい筋肉マッチョの戦場伝説が「戦場に身を置くことこそ我が戒律、貴様の欲望の戒律は何だ?」とか言っていた(殺されそうになったが、見逃してくれた?)。

たぶんあいつも、さっきの盗賊と同類なんだろうが、ひょっとして俺と同じタイプのベヘリットを持っていた?

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俺は、それから或る傭兵団に入った。

団長が「真紅のベヘリット」を持っていたので、その行く末を見届けたくなったからだ。

こいつはいつか魔王「ゴッドハンド」に転生し、そのために部下や親友たちを生贄にするのだ。魔王になれる替わりに、必要とされる生贄を自分自身の代償や戒律で埋め合わせすることはできないらしい。

でも、この時間とこいつらは好きだ。

ひねくれ者のコルカスはどこか俺に似ている。「敵わない」劣等感や敗北感に苛まれて、ずっとひねた態度で新入り(今は斬り込み隊長、団長の親友)に八つ当たりしていたり。

俺にとっては普通にいい友人だが、あの紅一点で団長崇拝だったキャスカがこいつに気がある様子なのは、少しばかり妬けたなあ。本当に「ただの人間」なのに、すごい奴だよ、こいつは。

こんなに若いくせに、何十年も生きている上級使徒のはずの俺と、俺がモンスターに変身する前だったら同じくらい強いとか、ミラクルで天才だぜ!

「俺はなんでも器用にできたけど、一番にはなれなかった。だから、一番になれそうな奴についていってみている。あのひねたコルカスも、昔はもうちょっと素直だったのかもだけど、劣等感ってのはあると思うぜ」

「ふうん? お前、投げナイフはうちで一番上手いじゃねえの?」

「まあ、戒律っていうか、自分ルールみたいなのがあるんだよ」

「お前、ジンクスとか縁起担ぎする方だっけ?」

きっと、こいつは俺が団長のことだけ言っていると思っているんだろう。お前にも劣等感持ってるんだけどな! 悪い奴じゃないけど、その鈍感さがコルカスの神経を余計に逆撫でするんだと思うぞ?(きっと女にもあんまりモテなかったろう。ざまあみろだから、キャスカのことは大目に見てやるよ)

そうだ、しょうもない腹いせと修行させるために、適当にサボってやろう。どちみちに生贄の大惨事は運命で避けられない(俺自身の力不足で無力感とやるせなさはあるけれど)

それでいざ(生贄のとき)となったら死んだふりして、ほったらかしにしてやる。こいつだったら(少しばかり手助けしてやれば)きっと生き残るだろうし、知り合いの髑髏の騎士の旦那や妖精王にも「面倒見てやってくれ」と頼んでおくか。

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