中編5
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最後に…

数年前…

東京都内のとある地区で、住宅やマンションの建設ラッシュがあった。

山や畑、その他個人の土地を不動産屋が買い占め続けた。

そんな時期に起こった事件…

マンション管理会社が半ば強引な手段で神社の敷地を買収、そしてマンション建設に着手した。

当然、神社の神主やその他古くからその近所に住む住民達は、不動産屋の汚いやり口に最後まで抵抗し続けたのだが、不覚を突かれ、気が付けばマンション建設が始まっていた。

納得がいかなかった神主や住民達はこれを市議会に申し立てしたが、当時の市議会はこれを無視。

神主や住民達は泣き寝入りするしかなかった…

マンションが完成して、次々に入居者が増え始めた頃からだろうか?

不思議な事が後を絶たなくなったのは…

完成から4ヶ月後。

マンションの貯水槽に大量の小動物の死骸があるのをメンテナンス業者が発見。 だが、よくある事?なので特に周りに情報を出すことはしなかった。

完成から8ヶ月後。

3階に入居していた住民が突然失踪した。

部屋には生活の後が色濃く残っており、特に生活に困っていた様子は無く、また遺書なども発見されなかった。

完成から12ヶ月後。

最上階の住民が立て続けに自殺。自殺の方法は全く違ったが、書かれた遺書の内容は全く同じだった。

遺書の締め括りには、

『ごめんなさい。ごめんなさい、私達は一線を越えてしまいました。』

と、意味不明な謝罪があった。

完成から16ヶ月後。

マンション住民から管理会社に、「マンション内に入居者以外の人間が多数入って来て、夜な夜な廊下を歩き回っている」と苦情が相次ぐ。

調査に向かった管理会社の人間は、「オートロックのエントランスが付いてるのだからそんな事あるわけ無い」と思いながら現地へ到着。

夕方頃から調査を始めたが…その管理会社の調査員はいつになっても管理会社に戻らず、そのまま行方不明になった。

完成から20ヶ月後。

相次ぐ不幸な事故や、不思議な現象にマンションの住民は減少。43世帯ある部屋の内37世帯が空き部屋状態。もちろん、管理会社の経営にも影響があった。

完成から24ヶ月後。

誰も住んでいないはずの空き部屋から管理会社宛に当時の入居者の名前で手紙が届きだす。

内容は管理会社を非難する内容の物、中には明らかに人の血で書いたであろうという物まで様々だった。

その頃からだったろうか?

マンションの隣の、土地を奪われた神社に黒いモヤがかかり出したのは…

完成から28ヶ月後。

やっと管理会社が本気で動きだす。

徹底的にマンション近辺を調査し、今現在の入居者達に事態の聴取を行い、遂には空き部屋に管理会社の社員自らが入居して実際何が起きているのか確かめようとした。

しかし、入居した社員達の多くは謎の自殺、失踪、あるいは会社自体を辞めたいと言い出す者まで出た。

そんな中、この不可思議な現象の原因を突き止めた社員がいた。

彼も会社の命令でこのマンションに入居していた。彼の部屋は7階。

そう、あの謎の遺書の発見された部屋の内のひとつ。

入居初日の夕方からそれは起こった。

彼がリビングで報告書を書いていると、突然玄関の鍵が開いた。

そして、首の無い人間が2人部屋に入ってきた。

恐ろしさの余りに、硬直して動けない彼に向かって首の無い2人は紙に書かれた文章を渡して消えた。

渡された紙には、

『早くここから逃げろ。恐ろしいのは生きた阿修羅。奴の前では総てが無に帰す。生ける者の所業ではない。』

……??

彼は、この文章の意味がよく分からなかった。

後日、彼は例の神社を訪れた。だが、自分があのマンションの管理会社の者だと知られれば、神主に嫌な顔をされるのは目に見えて明らかだった為、それを臥せて行った。

神主はにこやかに彼を迎え入れ、話を聞くと言う。

彼は早速、神主に例の紙を見せる。

それを見た瞬間、神主の表情が一変した。

その顔は…

まるで…阿修羅。

彼は気付いた。

あの紙に記された阿修羅とはこの神主のことだと。

総てが無に帰す。

瞬間、彼の首は宙を舞った。いや、そう感じた。

神主の目は、まるで生ける者のそれではなかった。

何かに取り付かれたかの様に黄色く澱み、血走った目。口元に覗く歯は、お歯黒でも塗っているのかの様に、真っ黒だった。

神主が言った。

神主 「貴様、あの建物の住民だな?!」

彼は、何故か落ち着き払って深く頷いた。

神主 「……く、ククク。ふぁっ、ははは!!いい度胸だ若僧。のこのこ自分から出向いて来おるとはな!」

神主が物凄い勢いで彼に飛び掛かり、2人は互いに殺し合いとしか思えないような取っ組み合いを始めた。

そんな中、彼が神主に聞く、

「どうして!?何故、入居者達を殺した!?他に誰が関与しているんだ!?」

神主 「殺した!?誰が…

誰が奴等のような下等な物に手を触れようと思う?

ワシは何もしておらん、殺ったのはワシの式神じゃ!!神聖な場所を汚しおって、己の事しか考えられん下等な物どもに阿修羅の怒りを届けるのじゃ!!!」

神主は狂っていた。

いや、何かに取り付かれていた。その方がしっくりくる言い回しだ。

彼は腕力には自信があったが、神主の力は圧倒的なものだった。

気が付けば、神主の背後におびただしい数の人ぐらいの大きさの鬼の様な影が見えた。

「ヤバい!!」

彼がそう思った瞬間、突然、境内の戸が破られ警察が突入してきた。

彼は、もしもの時を考えて、ここへ来る前に予め警察に応援を頼んでいたのだ。

押し寄せる警察を目の前にしたその瞬間、神主の顔が元に戻り、神主は力無くその場に倒れこんだ。

警察が神主の身柄を押さえた。神主は意識がないままだった。

その後…警察が神社の中を隈無く捜索したが、結局何も証拠は出ず、神主はシロと言うことになった。

そして、そのマンションに起こった出来事は、そのままただの不幸な偶然として闇に葬られた。

現在でもその神社は存在していて、あの神主もいる。

しかし、あのマンションだけはすっかり消え去っていた…

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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