短編2
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命の非通知

5年前の2月、朝の出勤途中の事でした。しんしんと雪が降っていて、道路にも轍が出来ていました。

朝7時半頃、私は会社へ徒歩で向かっていました。前日少し仕事を残していたのでいつもより少し早い出勤です。

やっぱり残業すれば良かった~などと後悔しつつ、しかも雪で寒いわ足元は滑るわで少々ブルーになりながら俯き加減で歩いていました。

私の少し前をサラリーマン風の若い男性と、小型犬を抱いているおばさんが歩いていました。

何ら変わらない、いつもの朝の光景です。

その時、ピリリリリリ…と携帯が鳴りました。立ち止まり、表示を見ると非通知。

突っ立ったまま、

『非通知?じゃ、出なくいいや』と鳴ったままの携帯をポケットにしまいます。

そして視線を前に戻したその時、後ろからワゴン車が歩道に突っ込んできました。(恐らくですがスピード超過故のスリップでしょう)

そして私の前を歩く2人をすごい勢いではねました。一瞬のことだったでしょうが、まるでスローモーションの様に見えました。

若い男性は、意識は有りましたが足があらぬ方向へ曲がり、確実に折れていたと思います。おばさんと犬、車内の運転手はピクリとも動きません。

偶然一部始終を見ていた方が民家から飛び出して来ます。私は震えながら救急に電話をかけました。その後は救急車が来るまで、声を掛けてあげる事しか出来ませんでした。

あの時、携帯が鳴らなかったら…と思うとゾッとします。でも不思議なんです。何回携帯を確認しても、着信履歴に非通知の文字が見当たらないのです。それどころか最新の着信は前日の夜に夫からかかってきた電話でした。

その時間帯どころか当日に着信はありませんでした。非通知の主が誰だったかは分かりませんが、命を助けられたので私は未だに非通知を拒否出来ません。

怖い話投稿:ホラーテラー 朝日さん  

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