中編6
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留守電の相手

これは、小さいときからの友達、和也(仮名)の体験談です。大学に上がりたてのとき、妙に神妙な顔であいつは私にこの話をしたんです。

正直、私はその手の話は全くと言って良い程信じていませんでした。しかし、普段おちゃらけてる和也の真剣な面持ちを見た時から、私は、もしかして?と思うようになりました。

「もしもし…たかゆき?」

「いえ、違いますけど…」

ガチャ!!ツーツー…

和也に突然の間違い電話でした。

和也は親の反対を押し切り、大学に近いという理由だけで、ある団地に一人暮らしをしていました。

私も1度だけ行ったことがあります。こんなことを言うといかにもという感じですが、だいぶ古い傷みの激しい団地です。

和也がその団地に引っ越しをして、2日ばかりたったある日のことです。

部屋はまだ散らかったままで、電話線だけは最初に繋げたらしいのですが、引っ越しをして初めての電話です。

和也はいつもの調子で、初電話にウキウキで出ました。

「たかゆき?…」

「違いますけど…」

まさかの間違い電話です。気分が沈んだ和也でしたが、最初は、前の住人と間違えたんだろう程度にしか思っていなかったそうです。

それからしばらくたち、部屋にも慣れてきた頃、一本の電話が鳴りました。

「もしもし」

「…」

「も、もしもし」

「たか…ゆき…?」

「え、あの違います…けど」

ガチャン…ツーツー

「またかよ…」

再びあの間違え電話です。

しかしそんなことなど気にしない和也でしたが、それから毎日のように同じ間違え電話があります。

おそらく同一人物で、声は同い年くらいの女性とのことです。

そんなあるとき、大学の研修で2〜3日留守にしたときのこと。

大学からの帰宅後、和也は明かりの点滅してる電話機に気付きました。留守番電話です。

和也は、大した用件などないだろう程度に思い、着替えながら留守電を再生しました。

『ピーッ…メッセージが28件です』

半分程度にしか聞いていなかった和也の、ボタンを外す手が思わず止まりました。

『ザーッ…たかゆき…』

ピーッ

「たかゆき…」

ピーッ

「…たかゆき!」

ピーッ

「たか…ゆ…き?」

それから永遠と同じような留守電が続きました。

1213件目で和也も怖くなり、後の再生を聞かずして全て消去。

「な、なんなんだよ…こいつ」

プルルルル!!!…プルルルル…!!!

いきなりの電話に和也は思わず飛び退いたそうです。

怖いながらも、震える手で受話器を取りました。

「…もしもし」

「もしもし和也?この間お父さんが野菜いっぱい持って帰ってきてさー。欲しかったら取りに帰ってきてよ」

「な、なんだ母さんかー」

「なんだとは何よ!あんた次いつ休みなの?」

現実世界に戻された気がします。電話の向こうから聞こえるのはあの女の声ではなくて、母親の声。いつしか怖さも忘れて母親と長話。

「じゃぁ母さん。次の休みには帰るから。オレのことは心配しないで」

「わかったわよ。次会えるのを楽しみにしてるわね。おやすみなさい。」

「あぁ。おやすみ」

母親の声を聞くと、不思議と心が休まり、あんな間違え電話で怯えていたことに、自分で自分が可笑しくなります。

プルルルル!!…プルルルル!!…

「なんだ母さん?言い忘れたことでもあったのかな?…はいもしもし」

「たかゆき?」

「!?!?」

それは和也の母親の声ではありませんでした。まぎれもなくあの女の声です。

「ち、ちがいます!!」

「たかゆき?…一人はイヤ」

ガチャ…ツーツー

しばらく息をすることも忘れ、少ししてから大きなため息をつきました。

この時、和也は母親の声を思い出しましたがまったく心が休まりません。

「明日、番号を変えよう」

そうつぶやくと、和也は研修の疲れもあり、すぐに深い眠りに落ちました。

次の日、和也は大学に行く前に電話番号変更の手続きを済ませ、心も晴れやかに家を出ました。

もうあの恐怖からは解放されたんだ!

そう思うと足取りも軽く、その日は久しぶりに大学の友人と飲みに行ったそうです。

その日の帰り、すっかり酔った和也は千鳥足で帰宅をし、そのままベッドに横になりました。

ウトウトしていると、一本の電話が鳴りました。

一瞬和也はドキッとしましたが、番号を変えている、そんなはずはありません。

和也は何の躊躇もなく電話に出ました。

「たかゆき…」

一瞬にして酔いも吹っ飛びました。あまりの驚きに受話器を落としそうなるほどです。

女はいつもと変わらぬ冷たい声で、電話の向こうから話してきます。

「たかゆき?」

ガチャン!

思わず和也は受話器を置いて電話を切りました。

ここまでくるともう悪戯ではありません。

何か得たいの知れないものが自分のそばにいる。そう思うと酔っているはずなの眠りにつけませんでした。

和也はそのまま朝を迎え、一睡もしないまま大学に登校。昨日一緒に飲んだ友人は、和也が二日酔いだと思ったらしく、和也の青白い顔を見て笑っていましたが、当の本人はそんなこと気にもとめません。

そんなことより電話をどうするか。それが和也にとって一番の問題でありました。

大学の講義もほとんど聞かず、ずっと頭を悩ませていた和也は、重い足取りで帰宅。

もう帰りたくない。怖い。そんな思いでいっぱいでした。

帰宅後、見計らっていたかのようにけたたましくなる電話。

「もしもし」

「たかゆき?」

「…」

「たかゆき!!」

「違うって言ってんだろ!!いい加減にしろよ!!」

耐えられなくなった和也は、目を潤ませながら叫びました。

「…」

「聞いてんのかよ!」

「…ひとりはいや!!」

ガチャン…ツーツー

それは女の声ではありませんでした。地を這うような低い声。うめき声のような恐ろしい声でした。

和也は恐ろしさのあまり、倒れこんでしまいました。

そして何を思ったなか、和也は電話のリダイヤルボタンを押したのです。

おそらく、相手はいったい何者なのか確認したかったのかもしれません。

ピポパポピピピ…プルルルル…

プルルル…

電話は誰も出ません。

ただ無機質な音が響いてるだけです。

やはり怖くなり、電話を切ろうとした時、和也はふとある小さな音を耳にしたのです。

プルプル…

「電話の…おと?」

それは微かに聞こえてきます。

よく耳をすませると、それはどうやら外から鳴っているようです。

意を決して、和也は外に出て、音の鳴るほうへと歩みよりました。

一歩一歩近付くに連れて、確かに電話の着信音は大きくなります。

そしてあるところに辿りついたのです。

それは、和也の団地の直ぐ下にあるボイラー室。

今はほとんど使われていません。音は確かにこの中から聞こえます。

和也は錆びていた鍵を外し、中へと足を踏み入れました。

そこて、ボイラー室の非常灯の真下に明かりに照らされて黒い大きなビニールシートが怪しく光っており、そのビニールシートは何かを被せてあるかのように不自然な膨らみがありました。

電話はそこから聞こえてきます。

和也はもう後には引けないところまで来ています。怖さや逃げたさ、恐ろしさのあまり気絶しそうになるその様々な葛藤の末、和也は勢いよく、ビニールシートをめくりました。

「うわあああああ!!」

そこにはミイラ化した人間の遺体と、かたく握られた携帯電話。

その携帯電話からは、けたたましい音で着信音が鳴り響いていたそうです。

その後警察の調べで、遺体は19歳の女性と判明。もともとは和也の住んでる部屋で前の住人と同棲していたことも分かり、ただちに同棲相手も逮捕。

喧嘩の末に思わず殺してしまったらしく、遺体を隠すためにあそこに置いたそうなのだが、警察によると、彼女は一度息を吹き返した形跡があるとこのとこ。

しかし、喧嘩で体中殴られ、動くことも、叫ぶことも出来ず、ただ、ビニールシートの下でもがくことしか出来なくて、そして寒さのために、力尽きていったそうです。

和也は、その後すぐに引っ越したそうです。

私は和也からその話を聞いたとき、私には、彼女はもしかしたら、殺さてしまったものの、それでも彼を愛していたのではないかと思いました。

最愛の人ともっと一緒にいたい。

そこに彼女の密やかな悲痛に満ちた本音が垣間見えるようで、私には恐ろしいよりも、ただ悲しく感じられました。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名Aさん  

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