長編8
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A

今から20年前。

とても奇妙な体験をした。

隣のクラスにAという女が転校してきた。

Aは天然パーマでぐるぐるの腰まである長い髪が特徴。

休憩時間はいつも1人。

話し掛けても無反応。

手首にはリストカットらしき傷痕が多数。

時々独り言をブツブツ言ってる。

Aの噂はこんな感じ。

でも本当はかなり美人。

いつも下向いてるけどそこらへんの芸能人なんかレースにならないくらい。

なんだかわざと目立たないようにしてるって感じがする。

ある日の休憩時間Aの顔見たくて用もないのに隣クラスに行った。

相変わらずAは1人だった。

寝てるんだか瞑想してるんだか座ってうつむいたまま微動だにしない。

しばらくしてチャイムが鳴ったのでクラスに戻った。

「なぁ…俺、Aのこと気になって仕方ないんだけどやっぱり無理かな?」

友人のBに相談してみた。

「マジで!?う〜ん…なんて言えばいいか…なんか気味悪くないか?自殺未遂ばっかで病院に入ってたって噂聞いたぞ。確かに可愛いと思うけど…」

Bの言ってたことは本当なのか?

ますますAのことが気になった。

奥手な俺は行動にうつせないまま1学期が終わろうとしたある日下校途中にAを見かけた。

学校では見たことがない笑顔でカバンを胸に抱き誰かと話していた。

いや正確に言うと誰かではなく鳥と。

話している相手はともかくAの笑顔は最高に可愛かった。

あまりに可愛く俺は魅入っていた。

Aが突然こちらを向いた。

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「見られちゃった」

Aはそう言うと照れたように顔を赤らめ下を向いた。

俺は胸がドキドキした。

それからAと少しずつ話すようになった。

「お前すげえじゃん!Aになんて言ったんだよ。つ〜かあんな奴に深入りしてヤバクネ?」

Bは俺を心配しているみたいだが俺はどんどんAに惹かれていった。

下校時間いつものようにAが鳥と話していた場所に行く。

そこは神社という名ばかりのもので寂れて誰も通らない。

俺は近道になるから通ってるだけ。

あれから毎日ここを通るのが楽しみになっていた。

今日もAは居た。

クスクスと笑っている。

「よぉ!何笑ってんの?」

俺も自然と笑顔が出る。

「鳥さんがね、面白い話を聞かせてくれたの」

「…なんて言ってた?」

クスクス笑いながらAは俺の手を握った。

え!?何だ?何だ?

何だ、この展開!!!

小さな手で俺の手を握ったままAは

「家においでよ」

と言い俺を引っ張って行った。

30分ぐらい歩いただろうか。。

目の前にはばかでかい門。

その奥にはばかでかい家。

こいつとんでもないお嬢だ。

俺は緊張する間もなく手を握られたまま家の中に入って行った。

シーンと静まり独特な香り。

「家の人は?」

「ママは私を産んですぐに死んだ。パパは仕事で毎日遅いの。」

余計なこと言ってしまった…。

Aは気にする様子もなく

「散らかってるけど私の部屋」

と言いながらドアを開けた。

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何だ、この広さ。

俺の家のリビングより広いぞ。

右奥にでかいベット。

真正面に高そうな机と椅子。

左側にはこれまたでかい本棚。

そして高そうな絵。

女の子の部屋初の俺だが

ドキドキするより圧倒されていた。

「着替えてくるね」

と言い部屋を出たA。

俺は落ち着かなく本棚の本を見た。

…英語で何て書いてあるか分からない。

パラパラ見るとなんとなくだが魔法とか魔術とかたぶんそんな類いの本。

俺には一生かかっても読めない代物。

お香のような香りが漂ってきた。

机の上には簡素な作りの人形が1つ置いてある。

手に取ろうとした瞬間

「触ったら駄目」

Aがいつの間にか俺の背後に居た。

はっきり言ってびびった。

でもそれよりAの私服姿を初めて見た俺はあまりの美しさに口をあんぐり開けた。

ノースリーブって言うんかな。

袖のないワンピース。

黒い長いワンピースなんだけどとても似合ってて人形みたいなんだ。

Aは人形を乱暴に掴むと机の中に押し込んだ。

「頭おかしいと思ってるでしょ」

???

細い両腕を上にあげ両手を合わせる。

「こうして心落ち着かせるといろんな声が聞こえてくるの。」

Aの手首の傷痕には気がついていたが手首どころか腕の至るところに傷痕があった。

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Aはしばらくその状態で目をつむっていた。

しばらくすると口元が動き始めた。

何を言ってるのか聞き取れないが目を閉じたまま何か言っている。

俺は心霊現象とかUFOとかそういう世界は全く信じない。

だからAのやっていることは理解出来なかった。

ただAのことが好きだから理解しようと努めた。

シーンと静まりかえった部屋。

お香の匂いがきつい。

俺何してんだっけ?

そんなことを思い始めた時

…なんだか聞こえたんだ。

小さな声でボソボソって話し声。

えっ!?

音のする場所に顔を向けた。

…そこはAの机。

空耳なんかじゃない。

俺は机に恐る恐る近寄る。

その時

ドアをノックする音が聞こえた。

俺は悲鳴をあげそうになった。

「お手伝いさんだよ」

Aはドアを開けおやつを受け取った。

俺はさっきの話し声が気になって仕方なかった。

「机の中見たい?」

俺の心を見透かすように言いAは机を開けた。

中にはあの人形しか無かった。

「これは私の悪い分身。だから人に触らせたら駄目なんだ。」

悪い分身ってなんなんだ???

「もっと聞きたい?」

俺の腕をさわりながらAは身体を寄せてきた。

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…お香の匂いがきつい。

Aの長い髪が俺の腕をくすぐる。

Aの息遣いが聞こえてきそうなほど近い。

先ほどの摩訶不思議な出来事なんて忘れてしまいそうだ…

俺は夢を見てるのか?

そう思っていた時腕に痛みが走った。

!!!

腕を見ると血が流れている。

Aはどこから持ってきたのかあの気持ち悪い人形で俺の血を拭っていた。

「何してんだ!!!」

俺は夢から目が覚めたようにふらふら立ち上がり腕を見る。

傷はたいしたことなさそうだ。

Aは満足気な顔をして俺に天使の笑顔を向けた。

「これは貴方の悪い分身」

「あとは貴方の髪の毛をこの子の中に入れてね」

そう言うと人形を差し出した。

俺は心霊現象とかUFOとかそういう世界は全く信じない。

けどこれは一体何なんだ。

頭の中でBが言ってた台詞を思い出す。

「…あんな奴に深入りしてヤバクネ?」

…お香の匂いがきつい。

俺は渡された人形を見た。

Aの机にあった人形とは少し違う。

「…ごめん。俺帰るわ」

Aは窓から外を眺めていた。

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家までの帰り道とてつもなく長く感じられた。

「おかえり」

母の声がこんなに安心出来るなんて。

2階の自分の部屋に行きベットに寝転がる。

ズボンに違和感を感じポケットの中身を取り出した。

…あの時Aに差し出されて迂闊にも受け取っていたようだ。

顔の表情とか服とか細かな物は無い。

シンプルな作りの人形は所々汚れていた。

その汚れは俺の血に違いない。

……

ゴミ箱に投げ捨てようかと思ったがAの言った言葉を思い出す。

「貴方の分身」

俺はBに電話をかけた。

「だから言っただろう。あいつはかなり危ない奴だ。そんなもんとっと捨てろ。オカルトマニアなだけだよ」

……捨てれないから電話してんだろ〜が。

ボソボソと耳障りな話し声が聞こえる。

よく聞こえないな。

苛々する。

はっきり喋ろ。

苛々する。

心地よい風が吹いてきた。

誰かの髪が俺の頬をくすぐる。

天然パーマのぐるぐる。

「やあ。こんな所で何してんの?」

「鳥さんがね貴方とお話したいって。髪の毛ちょうだいって」

!!!

身体中から汗が吹き出ていた。

いつのまにやら眠っていたようだ。

起き上がろうとした手に何かが触れた。

人形だ…勘弁してくれ。

俺は一体どうしちまったんだ。

翌朝俺はAに会いに隣のクラスに向かった。

Aは何事もなかったように俺の顔を見微笑んだ。

俺のズボンのポケットを

ツンツンしながらこう囁いた。

「こんな所に持って来たらダメだよ」

そして声に出さず

ア・ト・デ・ネ

そのタイミングに合わせるかのようにチャイムが鳴った。

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教師が口をパクパクさせながら黒板になにか熱心に書いている。

机の上の教科書はさっきからずっと同じページのままだ。

チャイムが鳴ったと同時に俺は教室を出た。

自慢じゃないが俺は授業をさぼったことは一度もない。

だからどこに行けばいいか皆目検討がつかない。

考えた挙げ句結局いつもの寂れた神社に来た。

空を見上げると真っ青で雲ひとつ無い。

ここは大きな道路から離れているし滅多に人が通らないのでとても静かだ。

風が吹き木の葉がゆれる。

時が止まったような気分になれる。

クスクス。

振り返らなくても分かった。

「…ねぇ、君の望みは何?」

Aは答えず俺の横にちょこんと座り砂をいじり始めた。

風が吹き木の葉がゆれる。

俺はポケットから人形を取出しカッターナイフで腹の部分に切れ目を入れた。

そして…髪の毛を抜き突っ込んだ。

「…これでいい?」

Aは停止ボタンを押したかのように止まっていたがみるみる笑顔になっていった。

その時木にとまっていた鳥達が一斉に飛び立った。

真っ青な空が一瞬真っ暗に感じられるほどたくさんの鳥。

Aは立ち上がり両手を広げ何かを呟いている。

腰まである長い髪が風に揺られとても綺麗だ。

「お前ら何してんだよ!!!」

Bだ。

「悪い。後で話すから今日は勘弁してくれ…」

言いおわらないうちに俺が持っていた人形をBは取り上げた。

そして踏みつけ放り投げた。

俺の意識はそこで途絶えた。

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いつもの神社で俺はAを待っていた。

気持ちいい日だな。

鳥がさえずりながら俺のそばに来た。

「やあ。何か用かい?」

俺が手を差し伸べると逃げて行った。

…やっぱり俺には無理なんだな。

フッと笑いがこぼれ

そして寂しさがこみあげた。

ぐるぐるの長い髪が俺の視界に入る。

「やあ。待ってたよ」

俺が声かけるとぐるぐるの長い髪は俺の視界から消えた。

俺は必死で後を追う。

嫌だ!

頼むから待ってくれ!

「…おい大丈夫か?」

担任のSが心配そうに俺をのぞきこんでいる。

あれ…?

俺何してんだっけ?

聞けば俺が急に倒れBは慌ててSを呼びに行ったらしい。

記憶が徐々に戻ってきた。

Aはどこだ?

辺りを見回すがどこにも居ない。

頭が痛い。

触るとヌルッとした。

Sはしきりに病院へ行こうと言っている。

たぶん倒れた時に打ったんだろう。

Sには病院に行くと告げ、なんとか納得させた。

俺はその足でAの家に行った。

チャイムを押すが誰も出てこない。

躊躇ったがドアに手をかけると開いた。

中からお香の匂いがした。むせかえる程の匂い。

階段を上がり

Aの部屋の前で名前を呼ぶ。

…返事がない。

ドアを開けるとAが居た。

Aは窓のほうを向き立っている。

ダランと腕を垂らし窓から見える空を見ているようだった。

そしてゆっくり振り返った。

その顔はいつにも増して真っ白でその身体はいつにも増して小さく感じた。

「ごめんね」

そう言いながら俺の胸にもたれて来た。

Aの腕から血が流れている。

「分身に血をあげると願いをひとつ叶えてくれるの」

聞く前にAはそう答え微笑んだ。

俺の分身は触られたせいで力を失ったそうだ。

正直そんなことはどうでもいい。

Aが俺を見上げてクスクス笑う。

いつものAだ。

このままこうして居たいが俺は聞かなければならないことがある。

「…いつからこんな事始めたんだ?」

俺はAの原点を知って言葉を失った。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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