長編9
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火昇力採点と夏

はじめに断っておきます。

これは創作です。

なのでこんな恐ろしいことは実際起きていません。

「このサイトに作り話乗せてんじゃねーよ」とおっしゃる方もおられるかと思いますが、大目に見てやってください。

この物語は「自殺サイトと四季」編に出てきたユング、クジ、シキ、部長が活躍したりしなかったりする話です。

一応人物紹介らしきものをします。

ユング:高校二年生。主人公であり語り手。疋柄村では部長の巻き添えを食った。

シキ:イケメンと雰囲気イケメンの間くらいのやつ。良い奴。

クジ:チャラい女子生徒。根は良い奴。

部長:掴みどころのない奴。今回はあんま出てこない。

ではでは、「火昇力祭典と夏」編スタート

「やべえ、全身の毛穴閉じてきた感じ~」

クジがだるそうな声を出した。

冷房の設定は「18℃」。

3時間前からずっと付けてる。

こんな部活動をずっと続けてたら確実にクーラー病になりそうだ。

「ユング、ファンタ買ってきて。

それかヤクルト3パック」

クジがとろけるチーズみたいにうなだれている。

「外出るのダリい」

俺は椅子を三つ並べて作ったベッドもどきの上でダレていた。

ぶっちゃけ返事するのすらしんどい。

(失祖至御丹周縁貪莉何処奴企夫込途倭眺・・・・)

「うおおおぉ!?」

俺とシキの二人は跳ね起きた。

「ああ、これ着うただから」

と言ってクジは携帯を取り出した。

疋柄村の時の奴か・・・・。

てか、そんなんどこで手に入れたんだ?

「部長が自作したんだって。

あ、もしもし?」

クジは平然と電話に出た。

「マジビビった。

もう一度『息子』が来たんかと思った・・・・」

シキはようやく呼吸を整えながら呟いた。

ったく、部長もあんな目会っといてよくやるよ・・・・。

「うん、じゃあね・・・・」

クジはストラップをじゃらじゃらさせながら電話を切った。

「誰から?」

何の気なしに聞いてみた。

「部長。

『明日の時間割教えて』だって」

携帯持ってたんだ部長・・・・。

いや、そもそもあの人授業ちゃんと出てたんだ・・・・。

「帰りさあ、『サブリミナル』よらねぇ?」

シキが提案した。

「サブリミナル」とはローカルなカラオケショップだ。

俺たちの町では結構有名だけど、東京行った時従兄に聞いたら「そんな店知らねえw」って言われた。

「ああ、カード持ってんの?」

俺は二人に聞いた。

「作ればいいっしょ。

今日生徒手帳持ってきてるし」

と言ってシキが財布を漁った。

「え、生徒手帳持ってんの?

見せて、写真!!」

クジが飛びついた。

「見せねぇって、俺写真写り悪いから・・・・あっ」

シキの左手にあった生徒手帳は、クジにひったくられた。

「ははははっ、ウケる!!(笑)

真顔!!真剣な顔してる、免許証みたい!!」

クジは何がおかしいのか、歯止めが利かないほどツボにハマっている。

「ああ、もうマジ人間性疑うし。

どう思う?ユング」

シキが聞いてきた。

「まあ生徒手帳は普通笑うもんじゃないよな・・・・!!」

ヤバい。確かにこれはツボる。

こらえきれない笑いは口元で決壊し、俺は噴き出した。

「あははははは」

「きゃはははは」

笑い声は二つに増えた。

「・・・・」

シキは不機嫌な顔をしたが、それでもしばらく笑いが止まらなった。

「だからさぁ、もう許してって、シキ」

半ニヤケでクジがシキの肩を叩いた。

「もう許さん。

末代まで呪い的なことしてやるし」

シキはまだ機嫌が治らない。

「ほら、カウンターの人困ってんじゃん。

早く行こ」

店員の人がうんざりしてる様子を見て、俺は二人を急かした。

俺たちは2階に上がってまっすぐ行った所にあるボックスに入った。

クジは早速曲を入れ始めた。

「飲み物取りに行こうぜ、シキ」

俺はシキの方を見て言った。

「ああ、ちょっと待っててな・・・・はい」

シキはマキシの曲を入れるとコップを持って席を立った。

歌えんのか?と不安になったが、それはそれで楽しみな気がした。

「んだよ、なっちゃん無いじゃん」

ドリンクバーの奴の前で、シキが悪態をついた。

「ホラ、なっちゃんソーダならあるよ」

俺はパネルの一つを指さして言った。

「いや、なっちゃんの炭酸とか邪道以外の何物でもないし。

とりあえずミックスしよ」

といってシキはゲテモノジュース作りに取り掛かった。

コーラーとファンタ、水、氷、コンポタージュ、コーヒー、そして再びファンタ。

「一番低い奴、罰ゲームでこれ飲むのな。

決定事項だから」

シキはいつの間にか機嫌を直し、ウキウキした足取りで歩き始めた。

ボックスに帰ると既にクジが歌っていた。

「あなたに会う喜びあなたに会う切なさ(以下省略)♪」

いや普通グリーンとかじゃねえの?リリィとかお前・・・・。

途中間奏に入ると、「長いから」と言ってクジは早送りした。

それを見ながら罰ゲームの事を言おうかと思ったけど、優位を保つため歌い終わってから教えることにした。

(89点)

「ああ、普通~」

クジは不満げだった。

「これ採点競ってるから、負けたら罰ゲームな」

と言いつつ、シキは例のゲテモノの入ったコップをかざした。

クジもその意味を察したようで

「え~、ずるい~。

それだったらもうちょいちゃんと歌ったのに。

間奏の間とかも絶対ハミングしてたし」

と抗議した

いや、間奏は関係ないだろ・・・・と思ったが、クジの主張はもっともだった。

しかしそんなこと意に介さず、シキは歌い始めた。

「得る熱、まさにデスパイレーツ、購う法律ゲーム・・・・(以下省略)♪」

ヤバい、普通にうまいし・・・・。

(94点)

いやいや、マキホルでどんだけ点数でてんだよお前!?

これは本格的にキツイぞ・・・・。

「ユング、早く曲入れてよ、一時間しかないんだから回転率上げて行こ」

クジが急かした。

「待ってろって、一生を左右するんだから・・・・」

さすがに一生はないが、俺は念入りに選曲することにした。

その時だった。

不良の少年たちが、ドアにはまったガラスの向こうに見えた。

「田中・・・・?」

不良集団の中に、気弱そうな一人浮いてる奴がいた。

やっぱりだ、田中だ。

「田中?誰?」

クジが覗きこんだ。

「バカ、あんま見んなって、絡まれんぞ・・・・」

シキがいさめた。

「ユング、知り合い?」

クジが怪訝そうな顔をした。

「うん。

同中で、クラスも何回か同じだった。

あの一人地味な奴いるだろ、ほら、あいつが田中。

なんかやらかして少年院入ったって聞いたけど、出所したのか?」

俺はかつての同級生の顔を眺めた。

「ええ~、そんなことする風には見えないのに・・・・あ」

不良たちの一人がクジの視線に気づいた。

そして俺たちの部屋に向かって歩いてきた。

「へえ、久しぶりじゃん、ユング」

学ランのそいつは、俺に笑いかけた。

不良たちの中にいたもう一人の同中、紫藤[シドウ]だ。

「シドウ、相変わらずヤンキーとツルんでるんだな」

俺は再会を懐かしむつもりもなく、内心出て言ってほしいと思いながら言った。

シドウは着ていた学ランをドアの所に掛け、中の様子が外から見えないようにした。

そして当然のように、マルボロに火をつけた。

未成年の喫煙がどうとか、そういう倫理観は持ち合わせていない。

「今どこ行ってんの?ユング」

シドウは吐き出した煙に言葉を乗せた。

「立徳館」

俺は素っ気ない口調で答えた。

「超頭いいとこじゃん!!お前そんなキャラだったけ?」

シドウは耳障りな声を上げた。

クジは露骨に嫌そうな顔をしている。

「へえ、ユングの知り合い?君。

可愛いじゃん」

シドウはクジに近寄った。

その品定めするような目付きが気に入らなかったのか、クジは顔を背けた。

「あ、なんか反抗的な態度」

急に真顔になったシドウが凄んだ。

それに反応するように、シキがシドウを睨みつけた。

「ナニ粋がってんだよ、モヤシ君」

シドウはシキに詰め寄った。

「ああ?」

シキは、普段からは想像も出来ないような低い声音で脅した。

なかなか険悪なムードになってきたな・・・・。

するとそこへ、場違いな程済んだ歌声が聞こえてきた。

隣にいるのはあの不良たちだが・・・・あいつらの誰かが歌ってんのか?

そして不明瞭な怒声が続いた。

(オイ、オイ、何やってんだよ!!)

「ちっ」

シドウが舌打ちした。

学ランをのけて外の様子を覗きこむと、隣のボックスにガタイのいい店員が乗り込んでる。

(くっそ、意味わかんねぇ!!)

(ああ、畜生、やべぇ!!)

一体隣で何がったんだ?

「くそ、アイツら何かやらかしたんだ、低能どもが。

この店も多分、出禁になりそうだな・・・・」

シドウはバツの悪そうな顔をして、壁に据え付けられたドアを開けた。

「んじゃぁな、ユング」

シドウは手すりに足をかけた。

「おい、ここ二階だぞ・・・・!!」

俺は思わず制するように手を出した。

(ドンっ)

シドウは地面に着地し、止めてあった原付に乗ると逃げ出した。

「ナニあいつ?マジ意味分かんねぇんだけど・・・・」

シキが吐き捨てるように言った。

「なんか、白けたな。

帰る?まだ一時間経ってないけど」

「うん。なんかもう気分最悪だよね」

クジも同意見のようだ。

俺たちは結局途中で料金払って帰ることにした。

「ちょっとトイレ寄るわ、俺」

俺は二人に言った。

「じゃあ表で待ってるから」

シキはクジを連れて店の前にある駐輪場に向かった。

トイレの中は不愉快な程不潔だった。

俺は用を足すと、手を洗いながら洗面台に唾を吐いた。

不意に、後ろに誰かの気配を感じた。

田中だ。

「あれ、お前逃げてなかったの?」

俺は不思議に思い聞いた。

「うん。なんかトイレにいたら怒鳴り声がして、様子見てたんだけど」

田中は相変わらず弱気な口調で言った。

「ふぅん、まあ気をつけろよ」

俺は何の気なしに言った。

「じゃあね・・・・」

田中はその場を後にした。

その後も俺は少し髪の立ち具合を確かめていたが、しばらくしてまた、あの澄んだ音色が聞こえた。

異国の旋律のようなそれは、無性に不安を煽りたてた。

「?」

翌日、俺は何も知らず登校していた。

学校に着くなり放送で呼び出され、俺は担任のいる資料室へ向かった。

「なんですか?」

「お前ら、あの店にいたんだろ?

昨日」

あの店?サブリミナルのことか・・・・。

「僕たちは何も関係ないですよ」

俺は予め質問を予測し、その問いに答えた。

「それは分かっている。

ただ事情を聞きたいそうなんだ、その・・・・警察の方が・・・・」

警察?

嫌な予感がした。

警察によれば、例の不良たちがいたボックスで謎の変死事件が起きたらしい。

二人が原因不明の死を遂げ、一人は意識不明、もう一人は記憶を喪失しているらしい。

それを聞いて、俺の頭にはあの怒声と、そして何故か澄んだ歌声がフラッシュバックした。

とりあえず警察の聴取は適当にやり過ごしながら、俺は事件の真相について考えていた。

「そうか、まあ君たちも災難だったな。

協力有難う・・・・」

白髪交じりの刑事とその同僚と思しき男は、一通り話を聞くとその場を後にした。

部室に戻ると、どうやらシキとクジも事情聴取されていたようだ。

「謎だよな、何があったんだろう・・・・」

シキは口に指を当て、考え込むような仕草をした。

「不良は基本意味不だからね。

なんかヤクみたいのやってたんじゃないの?」

クジはうんざりしたように言った。

「・・・・こういう時部長だったら速攻首突っ込むんだろうな」

俺は独り言を言った。

「ま、今回の事は部長に教えない方がいいかもね。

余計複雑になりそうだし」

クジのその意見に、俺は妙に説得力を覚えた。

確かにあの人は、「事件を解決する」タイプじゃない。

どっちかっていうと、事態を楽しんでいる節がある。

この時俺たちはまだ知らなかった。

この事件の真相、そして部長の思惑を。

続く

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん

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