皆さんこんにちは。
一向に文章が上達しないふたばです。(´・ω・`)
己の練習に他人を巻き込んでやろうと、掲示板を建ててみました。
以下、ここでのルールを説明します。( ᴗ ̫ ᴗ )
↓
🌱ここは、短編の練習をする為の掲示板です。
🌱毎月単語を3つ、お題として出しますので、短編の「三題怪談」を募集します。
🌱「三題怪談」とは、1つのお話に決められた3つのお題のワードを入れなければならないという“縛り”で御座います。
🌱お話の長さの目安は、原稿用紙2枚分(800字)程度。
(あくまでも目安です、越えてしまってもヨシとします)
文字数カウント↓
https://phonypianist.sakura.ne.jp/convenienttool/strcount.html
🌱お題は毎月一日に更新されます。
🌱提出期限は毎月28日までとします。
🌱お話はいくつ投稿しても構いません。
🌱初心者大歓迎。実際私もほぼ読み専なので、文章が下手っぴです。軽い気持ちでご参加下さいませ。
🌱ここで投稿されたお話は、“ご自身で書かれたお話ならば”怖話の通常投稿にあげても構いません。
寧ろ、多くの方に見ていただけるよう、ここで試し書き、本投稿で完成品といったように使って下さいませ。
何なら他サイトでも投稿されている方は、そちらへあげるのも問題御座いません。
(※他の方の掲示板でも同じとは限らないので、その都度そこの掲示板主へご確認下さい)
🌱題名も付けて頂けると助かります(題名は文字数には含みません)。
🌱感想だけのご参加も大歓迎です。
🌱明らかな荒らしコメントは即刻削除致します。慈悲はありません。
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【11月お題】
「黄泉」「狐」「エレベーター」
投稿期間 11/1 0:00〜11/28 23:59
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ですがまぁ…建ててみたは良いものの、私が独りで短編を書き続ける寂しい場所になりそうな気がします……
そこで!ちょっとした特典代わりと言っては何ですが、ここで投稿されたお話は、私ふたばが朗読させて頂きます。ᕦ(ò_óˇ)ᕤ
具体的に言うと、YouTubeにてその月に投稿されたお題の回答を、纏めとして朗読してアップします。
素人の朗読ですのでレベルは低いですが、創作意欲の糧になれれば幸いです。( ᴗ ̫ ᴗ )
※朗読されるのが嫌だという方は、お手数ですが文末に「※否朗読希望」とお書き下さいませ。
📚過去のお題アーカイブ
【9月お題】「彼岸」「ぶどう」「ネジ」
https://youtu.be/DlNJ68yKIfA
【10月お題】「十五夜(月のみでも可)」「図書館」「菊」
(※お題提供:あんみつ姫さん)
https://youtu.be/iA4spsQlSMA
【11月お題】「りんご」「子ども」「落ちる」
https://youtu.be/UMVBBrycZqU
【12月お題】「肖像画」「塩」「M」
(※お題提供:むぅさん)
https://youtu.be/MJmFrqUqvj0
【1月お題】 「ウシ」「晴れ」「厄」
https://youtu.be/N0tX10EOJoE
【2月お題】 「僧」「遊泳」「踊り」
Extraお題「怪僧」「宇宙遊泳」「阿波踊り」
(※お題提供:嗣人さん)
https://youtu.be/9j2vK_kKzhE
【3月お題】 「風」「証」「波」
https://youtu.be/zZoV2ce7poU
【4月お題】「サクラ」「窓辺」「人形」
https://youtu.be/kZzfmq8cNvM
【5月お題】「母」「鬱」「川」
https://youtu.be/RNqUE92-K2k
【6月お題】「クラゲ」「雨」「失踪」
https://youtu.be/BM0ataca42E
【7月お題】 「天の川」「亀裂」「写真」
https://youtu.be/RcXTXfzfKUk
【8月お題】「手を振る」「扉の向こう」「呼ばれる」
(※お題提供:ラグトさん)
https://youtu.be/omL3byV-eF0
【9月お題】「アリス」「スープ」「ハサミ」
https://youtu.be/w20FnRK-bQQ
【10月お題】「バラ」「時計」「たばこ」https://youtu.be/g_zxwy1H73I
【11月お題】「無人探査機 」「提灯鮟鱇 」「地引網 」
(※お題提供:ロビンⓂ︎さん)
【12月お題】
「プレゼント 」「空席」「信号 」
【1月お題】
「トラ」「階段」「玉」
【2月お題】
「ネコ 」「チョコレート」「箱」
【3月お題】
「ウメ 」「日記」「歌声」
【4月お題】
「駅 」「看板」「ポスト」
【5月お題】
「灯り」「公園」「針」
【6月お題】
「カッパ」「アジサイ」「自転車」
【7月お題】
「浜辺」「貝」「欄干」
【8月お題】
「ニセモノ」「蝋燭」「指」
【9月お題】
「帰り道」「ビン」「コスモス」
【10月お題】
「先生」「空腹」「筆」
【11月お題】
「橋」「ゾンビ」「忘れ物」
【12月お題】
「足音」「雪」「吐息」
【1月お題】
「ウサギ」「獣道」「目」
【2月お題】
「鬼」「酒」「身代わり」
【3月お題】
「都市伝説」「ピアノ」「ボタン」
【4月お題】
「絵本」「珈琲」「霞」
【5月お題】
「シミ」「地下」「蝿」
【6月お題】
「ダム」「悲鳴」「カエル」
【7月お題】
「夏草」「鏡」「プラネタリウム」
【8月お題】
「漂流」「雲」「ラムネ」
【9月お題】
「神隠し」「お米」「カバン」
【10月お題】
「皮」「警告」「お札」
【11月お題】
「1週間」「影」「オレンジ」
【12月お題】
「ケーキ」「透明」「チャイム」
【1月お題】
「 」「 」「 」
【2月お題】
「穴」「遅刻」「節」
【3月お題】
「足跡」「惑星」「メッセージ」
【4月お題】
「卵」「楽園」「嘘」
【5月お題】
「人混み」「電話」「花瓶」
【6月お題】
「墓場」「毒」「待つ」
【7月お題】
「海」「境界」「糸」
【8月お題】
「打ち上げ」「ライト」「未練」
【9月お題】
「借りもの」「バス停」「斜陽」
【10月お題】
「骨董」「ピエロ」「姉」
※追記:ここのお話を本投稿へもアップされる方へのお願い
🌱先に述べた通り、ここに書いたお話は一般の怖い話にも投稿して頂いて構いません(そもそも著作権は作者のものですから)
🌱一般投稿分は掲示板のレギュレーションから外れますので、文字数を気にせず加筆修正しても何も問題御座いません。
🌱ですが、投稿の際には題名に“三題怪談”の文字を付けないで下さい(同じ企画系列の題名が並ぶとうんざりしてしまうユーザーが現れ、揉める為。実際、過去にそういう事がありました)
🌱また、お題の単語をお話の解説欄に載せると、その単語に気を取られて純粋な短編として楽しめないので、読者的には解説欄には“掲示板より”とだけ書いて頂けると助かります。
(コメントにお題の単語をネタバレ防止で公開するのはアリです)
(ここのページのURLは貼っても貼らなくてもいいです)
🌱代わりに、投稿作のタグ欄に、お題の単語タグ3種と“毎月お題の短編練習枠”タグが知らぬ間に付いております。十中八九私ふたばが犯人なので怖がらないで下さい。
企画というより常設となるこの場所は、細く長く続けていきたいので、何卒、ご理解下さいませm(_ _)m
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丸々1週間も放置してすいません、本当はリレー怪談が始まる前に9月の纏め朗読を投下したかったのですが、叶いませんでした…orz
皆様のお話に対する返事も遅ればせながら順次させていただきます。
これも全部フクハンノウって奴が悪いんだ…っ!
絶対許さねー!フクハンノウーー!!
次回は、800字におさめたお話を投稿したいと思います。
さすがに、今回の作品は、長過ぎますね。
今月は、あと1作で終わります。
気が向けば、もう1作書けそうだったら、書きます。
ではでは。朗読頑張ってくださいね。
「ひらがなだらけの おはなし」
ぼくのおじいさんのおとうさんは、いなかにすんでいた。
とうほくちほうの さらにきたのほう といっていた。
ぼくのおじいさんのおとうさんのいなかでは、たばこのはっぱをそだてて それをうってせいかつしていた。
「たばこのうか」っていうらしい。
いまから50ねんぐらいまえまでは、たばこはおとなのひとの「しこうひん」として たくさんたくさんうれた。
おさけとどっこいどっこい いや、それいじょうに たくさんうれた。
おじいさんのおとうさんのおうちでは、きんじょでもひょうばんのおおきなはたけをもっていて、そこにたくさん たばこのはっぱをうえていた。
たくさんうえていたから、そのぶん しゅうかくもおおかった。
とてももうかったらしい。
のうかのなかでも、いちばんのおかねもちだった。
あるひ、 おじいさんのおとうさんは、あるだけのおかねをもって、まちにでかけた。
ずっとずっとほしかった きんいろにひかる うでどけいを かいにいこうとおもったのだ。
まちまで かたみち3じかんいじょうはかかる。
おじいちゃんは、とことこ きしゃにゆられて ゆっくりと じかんをかけて、まちまででかけた。
おじいさんのおとうさんは、おおきなまちのなかで、いちばんおおきなおみせにいって、「このおみせでいちばんたかい きんのとけいをください。」といったんだって。
「あいよ。これですよ。」
おみせのわかだんながだしてきたとけいは、まわりのけしきがかわってみえるほど ぴかぴかのきんでおおわれていたそうだ。
それだけじゃなくて、まぁるい とけいのふちにはきらきらとおほしさまのようにかがやく ほうせきが びっしりと ちりばめられていて、ちかくでみていたおきゃくさんたちも おもわず ほほうとこえをあげていたんだと。
でも、ざんねんなことに ありったけのおかねをもってきたのに そのとけいは めんたまがとびでそうなくらいたかくて おじいさんのおとうさんがもってきたおかねでは、とてもかえるねだんではなかったんだ。
「すみません。ちーとばかりたりながったわ。」
ざんねんそうなこえをあげる おじいさんのおとうさんに、おみせのわかだんなは
「これは そうそう うれないしろものです。たぶん、このまちの しちょうさんでもかえないでしょう。」
と まるいめがねをくぃくぃとさせて おじいさんのおとうさんのことを うえからしたまで なめるようにながめながら、そういったんだ。
「はぁ、おらでは、かえねぇってことだべな。」
わかだんなさんは、さっさとでていけとばかりに、べつのおきゃくさんにあいそをふりまき、いちばんたかいとけいでなくても…ほかにもたくさんあるのだから、べつのとけいもみてみたいなぁ。とおもったんだけど、ふんいきが とてもわるくて、それいじょういいだせないまま、おみせをあとにしたんだって。
かわいそう。
おじいさんのおとうさんは、がっくりとかたをおとして いちばんおおきなとおりを のたのたとあるきまわった。
ひさしぶりのおおきなまち。
はんかがいのとおりをあるくだけでつかれてしまい、やくばちかくのこんもりとしたこうえんのすみに にぎりめしをつつんだしんぶんしをほどいて そのうえにすわりこんだ。
そういえば、あさからなんもくってねぇ。
けさでがけに かあさんがもたせてくれた しょぺえ(しおからい)あじのするまんま(ごはん)だけの にぎりめしを むりやりくちにつっこんで、のどつまりがした。
こしにぶらさげた すいとうから、ぬるくなったみずを のどにながしこんでいるうちに そらにうかぶ あどばるーんが こかげのすきまからみえた。
まちっこは えぇなぁ。
そうおもったら、まなくたま(目の玉)からなみだが ぽっろぽっろと こぼれおちた。
ひざとひざのあいだにあたまをいれ、またをのぞきこむように うなだれていたら
すぐまえにひとのけはいがした。
「おい。そこのおにいさん。なにをそんなに おちこんでいるんだね。」
こえのほうに かおをあげてみると、にこにこした40さいくらいの おとこのひとが、
おおくにぬしのみことのような ずだぶくろをしょって こしをかがめて ふしぎそうにみつめていた。
「んや。ちょっと ざんねんなことがあって。」
おとこのひとは、ずだぶくろをあしもとにおくと、じめんにしゃがみこみ じっとおじいさんのおとうさんをみつめてきたんだそうだ。
いっしゅん、ゾゾっとしたけれど、
「なにかこまったことがあったら、なんでもはなしてごらん。おやくにたてるかもしれないから。」
というやさしいといかけに、こころをひらき、なみだをながしながら、きんのとけいがほしくて たいきんをもってまちまででてきたけれど おみせでいちばんたかいとけいをかえなかったこと、ほかにもとけいをみたかったんだけど、あいてにしてもらえず がっかりしてかなしくなったことを はなしてきかせたんだと。
男の人は、ふんふんとうなづきながら さいごまで ひとこともくちをはさまず、はなしをきいてくれた。
「まぁ、世の中というものは、えてしてそんなことのくりかえしだよなぁ。おかねをもっていても、かえないものはある。そのおみせのひとは、そのとけいを だれにもうりたくなかったんだろう。」
そうして、かたわらにおいてあった おおきなずだぶくろのなかから なんと きらきらとひかる うでどけいをとりだしてみせたんだ。
「さっきのおみせでみた いちばんたかいとけいほどではないかもしれないけれど、これはほんもののきんでできている こうきゅうひんだ。」
たしかに、そのとけいは、さっきみたとけいのように まわりにほうせきがちりばめられてはいなかったけれど、とてもていねいにしっかりとつくられていて、つくったしょくにんさんのこころがつたわってくるような そのできばえはすばらしいものだとおもった。
たばこととけいは、それぞれまったくちがうものだけど、ものを たいせつにするきもち、よいものを さいこうのものを つくるきもちはいっしょだと おじいさんのおとうさんは そのおとこのひとにはなしてきかせた。
「おぉ、ということは、おにいさんは、このとけいを きにいってくれたんだね。じゃぁ、こいつは、おにいさんにゆずるよ。おだいは、ものがものだからなぁ。そんなにやすくはできないよ。だから、おべんきょうさせていただきますね。」
おとこのひとは ふくろからそろばんをだすと、パチパチとおとをさせて、
「うん。このくらいはほしいなぁ。」
と、のぞむ きんがくをそろばんにおいた。
「あぁ、それならはらえるよ。だいじょうぶ。」
おじいさんのおとうさんは、そろばんどおりのきんがくを てさげぶくろからだして てわたした。
ぱんぱんでおもかったてさげぶくろが、ずいぶんとかるくなったのが、ぎゃくにうれしかった。
それだけ かちのあるものをかえたってことだからねって。
おとこの人は、まんめんのえみをうかべて、
「これでも、かなりやすくしたんだよ。あまりひとにみせたりしないで、だいじにだいじにつかってくださいよ。」
と、おさつをふくろにらんぼうにいれると、おじいちゃんのおじいちゃんのほうをみようともせず おおくにぬしのみことのように おおきなずだぶくろをせなかにしょうと、めのまえのおおどおりを ななめによこぎると あっというまにそのすがたがみえなくなった。
ふぇー、あしがはやいなぁ。
さすが、まちのひとはちがうわなぁ。
おじいちゃんのおとうさんは、さっそくそのとけいを左腕の手首につけて、まちなかをあるきまわった。
「みんなみてくれ。おらのとけいだ。たまげだべ。」
わざときもののそでをまくって、ひだりのうでをうちがわにまげ、これみよがしに みちゆくひとにとけいがみえやすいようにこぶしをつくってみせた。
ぷん!とかわのにおいのする とけいばんどのえもいわれぬかおりがはなをかすめ、うれしくてうれしくてぴょんぴょんとびはねてあるいていたそうだ。
「ちょっと、そこのおにいさんよ。」
うばぐるまにのった こしのまがったおばあさんにこえをかけられた。
みると、そこは、ちいさなはなやさんのみせさきだった。
「おにいさん。ずいぶんとうれしそうじゃないか。ごうせいなくらしをしているようだねぇ。」
とはなしかけてきたそうだ。
おじいさんのおとうさんは、やっと とけいにきづいてもらえたとおもい、
「おうおう、よくきづいてくれたなぁ。これは、おらが たんせいこめてつくった たばこのできだかのけっかさ。どうだい。かっこいいだろう。」
そういって、おばあさんのはなさきにとけいをもっていったんだそうだ。
おばあさんは、
「はぁ、おまえさん、たばこのうかのひとかい。きょうは、おひまもらってまちにでてきたんだね。」
「おばあさんは、このはなやのひとかい?なんなら、てみやげにはなをかってやってもいいよ。」
と ちょっとはなたかだかになりながら、おばあさんにかおをちかづけたとたん、
え、ゾッとして、おもわずうしろにのけぞった。
おばあさんには、くろめがなかった。
めんたまのあるぶぶんが ぜんぶまっしろけ。
しろめだけが むきだしている。
こしもまがっていたのではない。
ひざからしたがなかったんだ。
どうやってからだをささえているのかわからないが、おばあさんは、うばぐるまのなかで、しっかりとりょうひざをつかってたっていた。
それから、りんとしたこえではなしだしたというんだ。
「わるいねぇ。わたしにはおまえさん ごじまんのとけいとやらがみえねぇのよ。うまれつきめがみえねぐ(みえなく)てさ。」
おじいさんのおじいさんは、かおからひがでるようにはずかしくなった。
「もうしわけねぇ。そうとはしらず、わるいごとをした。ゆるしてくだせぇ。」
と、おじいさんのおとうさんは、みせのまえでどげざして、なんどもなんども さかなみたいにひらたくなってあやまった。
すると、はなやのおばあさんは、うばぐるまからてをのばし、、ふしくれだったてで おじいさんのあたまをなでて、こういった。
「あぁ、あんたひとっこいい(よいひとだ)ねぇ。こんな ボサマ(※盲目・盲人)で いざり(※足が不自由で自由に動けない人のこと)のばばにあたまさげるってが。おらのめがみえねぇのは うまれつきだ。わがったわがった。はぁ、いいすけ。さぁ、あたまば(を)あげてけろ。」
おばあさんのまっしろいまなぐ(めのたま)から なみだがこぼれていた。
「おにいさんなぁ。あんた、だまされたんだよ。これは、もっていていいもんじゃない。わかっていながら、こんなものうりつけやがって。まぁ、いずれ あのぎょうしょうにんは ろくなことにならんがね。そのまえに、かねとりもどさねぇごどにはよ。」
おじいさんのおじいさんは、ちのけがひいたそうだ。
「に、にせものをつかまされだってことが。」
おばあさんは、くびをよこにふった。
「そうでねぇ。これは、たしかにいいもんにはちがいねぇ。が、よくないものがついている。おそらく、なんどもなんども もちぬしがかわって、そのたびに、なんにんものいのちをくっていきていやがる。みにつけるものだからよ。よけいにひどい。まぁ、いまのうちは、こいつにさわらないでいるからいいようなものだが。とにかく、わるいことはいわない、おいてきな。」
あまりのことに、こしをぬかしそうになったおじいさんのおとうさんは、
「あぁ、おらどしたごとが、そたらだ(そんな)ものを どごのだれがもわかんねぇやつから たいまいはたいてかっちまった。まちでいちばんたかいとけいをかいにいくっていってでてきたんだ。どうしよう、どうしよう。」
と おろおろとしだしたんだそうだ。
おばあさんは、
「まぁそうなげくな。わるいようにはしないから。ほれ、こっちによこせ。」
と、やさしくなだめ おじいさんのおとうさんは、すなおに おばあさんのしじどおり、
うでどけいを わたしたんだと。
おばあさんは、うけとったうでどけいを にらみつけるようにしながら、なにやらもにょもにょとねんぶつのようなものをとなえていたが。
「おーい。そで子、〇〇さんばよんでこい。ばばがすぐこいっていってらって。つれでこい。そろそろ、ひるめしくいにやくばさ もどってくるころだべ。」
「ほーい。」
すると、みせのおくから、わかおくさんとおぼしきひとがでてきて、ぺこりとおじいさんのおとうさんに おじぎをしたそうだ。
「ばばさま、まだ、なにがやっかいごと たのまれだのすか。」
おばあさんのほうにむきなおり、ちょっとこまったかおをみせた。
「ほら、けさがたから みなれねぇ かおのおどごが このへんば、うろうろしていだったべ。どうもよ、とうひんをうりつける ろぐでもねぇ たびしゅう(※旅衆:旅をする人、行きずりの人、旅をしながら行商する人をさすことば、端的に地元の人間と区別する意味でも用いられた。)だったみてぇだな。にこかこ(にこにこ)したつら(面)にだまされでよ。よぐねぇものばつかまされだみてぇだ。」
わかおくさんは うでどけいをひとめみるなり、
「あぁ~、なして こったらものば。できがいいだけに、みているだけでいまいましいわ。」
とおおきなためいきをついた。
「おにいさん、ごめんなさいね。とけい あずかりますね。」
おばあさんに、むかって、
「んだば、ばばさま。○○さんばよんでくるすけ。
おにいさんは、いましばらく まってでくださいね。」
わかおくさんは、おとこがむかったえきがわのみちではなく、そのはんたいがわのはんかがいをぬけて、やくばのほうにむかってはしっていった。
そのすがたをからだでかんじたのか、おばあさんは、
「とけいのことはなんとかする。かねももどってくるから。あんしんしろ。」
と、いずまいをただして おじいさんのおとうさんにむきあった。
「…あのな。おにいさん さっき 「たばこのうか」だっていってたな。いきなりこんなことをはなしてもうしわけなんだがな。いますぐにとはいわないが、ちかいうちに「たばこのさいばい」は やめたほうがいい。」
おじいさんのおとうさんは、おどろいた。
「な、なんでよ。たばこはこのさきうれつづけるって。こたっら(こんな)に もうがっているのさ。なんでやめねばねぇの。」
「おめえさまには、むがねぇ。おめえさまだけでねぇ。きっと、よめっこさまにもむすこやむすめんどもだーれさもむがねぇ。」
そういうと、しばらくだんまりをきめこんでしまったんだと。
おじいちゃんのおとうさんは、すこしあたまにきて いってやった。
「はぁ、もしや、だましているのはおめえさまのほうでねぇが。おらのしごとにケチつけるってが。なんで、たばこをつぐるのをやめねばねぇんだ。そのりゆうばきがせてくれよ。」
くちもとに あわをうかべて まくしたてたんだそうだ。
おばあさんは、すまねぇ、ちとやすませでくれな。といって、うばぐるまのなかによこになった。
「こらぁ、にげねえでおらと ちゃんとはなししろじゃ。」
怒りながら、うばぐるまのなかを のそきこんだ。
すると、めをとじて、よこたわるおばあさんの すぐそばに ちいさなちいさなひとさしゆびくらいの かんのんさまが くちもとにえみをうかべてすわっていたんだ。
「ひやぁ、これは、これは、めんこい(かわいい)かんのんさまだごど。」
かんのんさまは、ゆっくりとかおをむけると コクリ コクリと たてににかい うなづいたらしい。
「ほぅ、みえたんだね。おにいさん、やっぱり、あんたは、たいしたもんだ。」
おばあさんは、ゆっくりとからだをおこし、また、もとのようにうばぐるまにひざをたててすわりなおした。
「おめぇのまごのまごのだいになるとな、たばごはうれねぐなるらしいぞ。もっといえばよ。おめえさまがほしがったうでどけいもよ。あんまり うれねぐなる。いずれ、はだけをするにんげんもいなぐなる。そういうことだ。」
ちいさなかんのんさまは、うばぐるまのまわりをあるいたり、おばあさんのかたにあがったり
せわしなくうごいていた。
みまちがいでないことは めいはくだったし これは すなおにおばあさんのはなしにしたがうしかないんだべなぁとおもったんだそうだ。
おじいさんのおとうさんは、あぜんとしてあいたくちがひろがらなかった。
って。
え?きがついた。
そうだよ、ほんとうはね、「あいたくちがふさがらない。」
が ただしいつかいかたなんだけどね。
あとからきいたら、これいじょう あきれようがないって いういみで おじいさんのおとうさんは、よくつかっていたらしい。
「たばこやうでとけいが そんなにひつようとされなくなるなんて。」
あまりのことに ことばがでなくて のどのおくは、ゲクゲク しんぞうは、ダグダグし、からだじゅうのちがぎゃくりゅうしてしまったと。
ほどなくして、バリッとせびろをきた あかぬけたしんしがやってきて、ていねいにおばあさんにあたまをさげた。
「ばばさま、いつもいつもおせわになっております。このたびも、また、たいせつなじょうほうをおしらせいただきまして、ありがとうございます。おかげさまで、くだんのきんどけいのことがわかりました。いやー、おどろきましたわ。はい、いっさくじつから、けいしちょうにそうさいらいがだされていた『Fファイルあつかいの いわくつきぶっぴん』でしたわ。なんでも、るすちゅうの△■さまという かまくらにふるくからある おやしきのひきだしからぬすまれ、そのご、なにものかによっててんばいされたものとはんめいしました。」
せびろをびしっときめたひとは、どうやらけいさつのひとらしい。
それもちゅうざいさんといったかんじではなく、がいけんやことばづかいから、もっとえらいひとというか、かなりえらいひとのようにもみうけられた。
〇〇さんとよばれるけいさつかんけいのひとは、おじいさんのおとうさんにむかってていねいにおじぎをすると、
「このおかたは、ひがいしゃのかたですね。このたびは、とんだことでした。おおすじは、ばばさまからうかがっているとはぞんじますが。ときどき、かみがた(※上方=かみがた・この場合の上方とは、かなり遠方からという意味で用いている。はっきりどことはいえないが、東京より南の地方を意味し、隣接する県市町村と分けて用いていた。)からやってきては、わるさをするれんちゅうがいるんです。えきからきしゃにのろうとしているところを すんでのところで ふんづかまえました。
なんと、ぜんこくしめいてはいちゅうの ぜんかもち。とんでもやろうでしたわ。とけいをうったかねで かなりとおくまでいこうとしていたらしいですな。」
とのことだった。
「これにていっけんらくちゃく」じゃなかった。
おじいちゃんのおじいちゃんは、おかねはもどってきたけれど、とてもじゃないが たいげんそうごして いえをでてきたてまえ、むらのかぞくにもうしわけがたたなくて かといって、またあのおおきなおみせにとけいをかいにいくきりょくもなくなってしまった。もう、うでどけいなんかどうでもよくなってしまって、
「かねだけあっても がくもきょうようもねぇと こうして わるいやつにだまされたり とかいのよくないやつに さげすまれたり ばかにされるんだなぁ。」
そういうと また、なみだがこぼれてきたんだ。
はらもへっていたし、なにより、なさけなくてかなしくて そのばにたおれこんでしまったらしい。
そのようすをみていた おばあさんとわかおくさんは、しんそこ かわいそうになったんだろう。
「なぁ、ひるめしいっしょにくってけ。」
といって、みせのおくにある りっぱな かみだな のあるへやにとおしてくれた。
そこに、〇〇ぬりのたくしつらえてもらい、ふかふかのざぶとんをしいて そこにすわるよう
うながされた。
おばあさんは、きんじょのすしやからとくじょうのすしをとり、わかおくさんといっしょにつくったという、とりにくとこんさいをいため ふくめににした うんめぇ煮付けと うにとあわびのはいった しょっぺぇ汁をふるまってくれた。
たらふくたべて、ねむくなり すこしよこになっていたら、
おばあさんが、ずりずりと はらばいになりながら
「おいおい、これをみてみいな。がいこくのはなだ。バラっていうんだ。」
はなびらが いくえにもおりかさなった まっかなビロードをはりつけたような たいりんのはなを いちりんもってきた。
「バラだば、おらでもしってるよ。んでも、こいつは、すんげぇな。かんのんさまは、ここにすんでいるのか。」
いたい!
ゆびさきに いたみがはしった。
「きれいだけんど。バラは、おっかねぇ。トゲがある。かんのんさまは、トゲはよけてとおるのか。それとも、かんのんさまには、トゲはささらねえようになっているのか。」
「おにいさんは、おもしろいことをいうなぁ。まぁ、かんのんさまは、うつくしいところにあらわれる。うつくしいこころをもったひとがすきだからな。トゲはなぁ、かんのんさまがとおるときには、よけるんだよ。トゲのほうでかんのんさまのじゃまにならないようにと きをつかってくれるのさ。どうだい。このはな そだててみたいとおもわないかい。」
おじいさんのおとうさんは、しばらくかんがえこんでいたが、
「いんや。おらは、むりだ。たばこもむずかしいが、こたらなものをそだてるのは、それいじょうにむずがしいがべ。かね と てま がかかりすぎる。それによぉ、このはな、「トゲ」があるだろう。かんのんさまとはちがって、なまみのにんげんは、このトゲにさわっちまったら、いてぇし、いやなきもちになるわ。んで、あつかいもむずかしい。キクのようにながもちもしねぇし、じょうぶでもなさそうだ。てぇへんなわりには、うれねぇどおもう。」
はなみずをすすって はなしをつづけた。
「それに・・・とけいもたばこもうれなぐなるときがくるってはなしだったけんど。おらは、どっちも そうかんたんには なぐならねぇとおもうんだ。うれねぐなってもよ。ひつようなひとは、かならず いるとおもうんだ。」
ふんふん
おばあさんは、うなづいてきいていた。
「おにいさんは、かしこいな。そこまで、りくつがいえるんだば、もう、かんのんさまも このおらも いらねぇな。 じっくりかんがえろ、わがらなぐなったら ひとにきけ。
ひとにきいでもわがらなかったら じぶんのいきたいほうに まずはいけ。まぁ、たしょうしっぱいはするかもしれんがな。すぐなくとも、あの こそどろやろうのようにはならんだろう。」
そういうと、みせのそうこのようなところに わかおくさんにたのんでつれていってもらった。
そこには、たくさんのバラが せのたかいかびんに ところせましとおかれ ごうかけんらんなげんろくえまき ごくらくじょうど をみているようだった。
「どうだ。みごとだろう。せっかくだから、みやげばなしのついでにもっていきな。そで子、よさげなやつを10すうほん てきとうにつつんでやってくれ。」
そういって、みごとにさきほこるバラのはなのくきをおしげもなくたちきると、きりくちをぬらしたちりがみとあぶらがみでくるみ、しんぶんしにつつんでから、もちやすいように おおきなからくさもようのふろしきを つつのようにととのえてからもたせてくれた。
「おにいさん、おかねはだいじだ。ほんとうにつかうべきところにつかえ。そのうち、もっといい とけいがかえるようになるさ。ややおかしいな?とおもったら いったんたちどまれ。」
といってひとくち おちゃをくちにふくんだ。
かんのんさまは、もうどこにもみえなかった。
「それからな。おめえさまは、かしこい。ひとっこもいい。まとまったかねがてにはいったら、とうさんやかあさんにたのんで、がっこうさいがせてもらえ。」
「がっこう…おらは、もうじゅうごだぞ。としとりすぎでるべ。」
「いんや、がくもんは なんぼになってもできる。とにかく、がっこうさいげ。」
そういって送り出してくれた。
おじいさんのおじいさんは、きつねにつままれたようなきもちだったが、てもとのふろしきづつみからかおる ほんのりあまい おんなのおしろいのようなにおいに、しあわせなきもちになったそうだ。
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
ぼくのおじいちゃんは、たばこをすわない。
ぼくのおとうさんも、たばこをすわない。
ぼくのおかあさんは、たばこをみたことがないっていっていた。
どんなおうちでくらしていたのかな。
ちなみに ぼくのいえには、おおきなとけいと まいあさ ぼくをおこしてくれる ドラえもんのめざましどけいと、キッチンには、おんどけいとしつどけいがいっしょになった でじたるどけいがある。
でも、だれも おじいちゃんのおとうさんがほしがったという うでどけいをしていない。
「どうして?」
「ひつようないから」
だって。
おじいさんのおとうさんは、あのことがあってしばらくして、いなかをはなれ、おおきなまちでバラのはなをせんもんにあつかう おしごとをすることにした。
おじいさんのおとうさんがいなくなっても、いなかでは、ずっと たばこのうかをしていたみたいだけどね。
それから、はたらいていた おみせのしょうかいで、とうきょうにいって、おおきなはなやさんでしゅぎょうしながら、やかんこうこうにかよい、そつぎょうしたんだ。
そのころには、もうバラのはなについては、だれもかなわないくらいくわしくなっていたらしい。バラのはなのせんもんかになりたくて、とおいくにまでいってべんきょうもした。
えいごもはなせないといけないから、だいがくにもかよった。
それからも、どこかのおおきなきぎょうにまねかれて、ずっと、ばらのはなをいっしょうけんめいそだてるけんきゅうをしていたんだけど、ね。
ぼくがうまれるずっとまえに、こんどは、だれもみたことがないという「あおいバラ」をつくるけんきゅうをはじめたんだ。
たばこのうかをやめたときのように、おおぜいのひとから おまえには、むりだから。
「あおいばらは、ありえない。そんなふきつなものをつくったら おまえしぬぞ。」とまでいわれたんだそうだけど、あきらめないでたくさんのおなじようなゆめをもつひとたちといっしょに がんばってけんきゅうかいはつにちからをいれ、ついに「あおいばら」をつくることにせいこうしたんだ。
まちでいちばんたかいとけいがほしくて なんじかんもかけてまちにいったから
ふしぎなおばあさんにあったから
いまがあるって。
おばあさんのいったこと ずっとおぼえていたんだね。
あのひ であったひとたちのことも。
ばらととけいとたばこのはなしはこれでおしまい。
どっとはらい。
2021年10月08日 13時30分
掲示板への投稿は、何度経験しても慣れません。
何度も通知が言ったかと思います。
失礼しました。
以前、(愛しい我が家」と題してアップした作品ですが、加筆修正しました。
よって、800字ではない長編となりましたことお詫び申し上げます。
では、リベンジ作品です。恐くはありませんが、何かを感じ取ってくれれば幸いです。
「事故物件の裏側」
手元の腕時計は、23時を指していた。
掃き出し窓を開けると、ベランダからほんのりと潮の香りのする心地よい風が入って来る。
サンダルを引っ掛け、真紅のドレスに身を包むバラの淑女たちの脇をすり抜けるようにしてベランダに出る。
眼下に現れたのは、むき出しの乾いた都会。
男は、ジッポを傾け、タバコに火を付けると、ゆっくりと息を吸い込んだ。
「最高のロケーションですよ。今ならお安くしておきますが。」
大手広告代理店に辞表を叩きつけ、晴れてフリーライターになったあの日、揉み手をしながら満面の笑みを浮かべる不動産屋の口車に乗ったのがそもそもの間違いであった。
まんまと騙されたってわけだな。
口元に自虐的な笑みを浮かべ、男は、静かに煙を吐き出し、そっとまぶたを閉じた。
○昭和…誰もが途方も無い夢を見ることのできた時代…
「あなた、いつまでホタル族やってんの。そろそろ11○Mが始まる頃じゃない?」
キッチンから妻の声がした。
「おぉ、今行く。」
とっくに飲み干したビールの空き缶に、弄んでいたタバコをねじ込みながら、リビングに続く掃き出し窓へ急ぐ。
痛!
足元のブランターに向こう脛を思い切り引っ掛けたようだ。
「ちょっと、気をつけてよ。ミニバラが満開なんだから。真紅のドレスを着た淑女だと思って丁寧に扱ってくださいよ。」
「はいはい。」
「返事は一回でお願いします。」
甘辛い匂いと魚の焦げた匂いが漂う。
今宵の晩酌は、ウィスキーの水割りと、酒の肴は、アジの塩焼きとカボチャの煮つけだ。
「ちっ、カボチャは、好かんって言ってるだろうが。」
仏頂面をしている妻へ、カボチャの煮付けが二切れほど入った小鉢を箸で押しかけてやる。
「もう、お行儀が悪いわね。お願いだから食べてよ。田舎のお義理さんがたくさん送ってきたのよ。ホント…」
(迷惑)
一瞬言葉を飲み込んだ妻の横顔と、テレビの横に置かれた大きなダンボールを眺めながら、男は、リモコンのスイッチを「4」に押した。
○平成…夢も希望も失われたにもかかわらず、表向きは平和な時代…
いつからか、我が家から時計が消えた。
そう、あのカボチャが大量に送られてきた三週間後、ハロウィンの夜に妻が急性心不全で亡くなった あの日から。
フリーランスになってしばらくは、仕事が山のように舞い込んできた。
このマンションの全フロアを借り切って、人も雇い、子どももいなかったことから、朝から晩まで仕事に専念することが出来た。
ところが、済み始めて数ヶ月も経たないうちに、度重なる水漏れ、何度ペンキを塗り直しても浮き出てくるカビ。誰もいないはずの隣室から漏れてくる奇妙な音に悩まされるようになる。
「欠陥住宅」と気付き、マンションに住むオーナーたちと相談し訴訟を起こしている最中に、妻が心労で倒れ帰らぬ人となった。
ハロウィンの宵祭り。久しぶりにワインをあけ、俺の実家から送ってきたカボチャをくり抜いて、「ジャックオーランタン」を作ってみて楽しんでいた矢先のこと。
あの日から、この部屋もこの俺も時が止まったままだ。
実家から送られてきたカボチャが、くさってドロドロになって、ミニバラのプランターの側に置かれて久しい。
異臭が鼻をついて コバエやらゴキブリやら、羽の生えた見たこともない虫たちが、俺を目がけて飛んでくる。
…早くなんとかしないとな。
裁判は、結局 敗訴となった。
くそ。
○令和…超超高齢化社会。先の見えない標なき荒野を彷徨う時代…
どんどんどんどん と激しくドアをノックする音がする。
毎晩、決まった時間に 誰かがノックするんだ。
玄関のドアを開けると誰も居ない。
妻かと思ったんだが。
どうも 違うようだな。
えぇと、今日は、金曜日か。
11○Mでも見るとするか。
テレビのスィッチを入れるも、砂嵐ばかりで何も映らない。
隣室からは、テレビの音が聴こえて来るのに。
漏れ聞こえてくるテレビの音に耳を傾ける。
―都会では、老朽化したマンションに住む独居老人の孤独死がー
だと。
かんけーねーな。俺には。
○今・現在・現実…
「残念なんですよね。眺めもいいし、最高の物件なんですが…。はいはい、では、今回は、なかったということで。」
やれやれ。
小島はるという同業者の情報提供のせいで、事故物件に成り下がってしまったとはね。
昭和のバブル期に建てられた、誰もが一度は憧れる「東京ベィシティマンション」の一室で、俺はため息をついた。
部屋中のありとあらゆる時計が、毎週、金曜日。23時00分になると不自然に止まってしまう現象が起こる。
ちょうどそのころになると、突然テレビのスィッチが入り4チャンに切り替わり、そこかしこにタバコの匂いと紫煙が漂い出す。
ベランダには、30年以上も前から、何度刈り取ってもコンクリートの床面からつるを伸ばし這い出てくる真紅のミニバラが群生し、何を植えても育たない。
以上、この最高の立地条件を誇る物件が「事故物件」とされる理由だ。
「たったそれだけの理由で、事故物件扱いなんですよ。
たったそれだけの理由で、買い手がつかないんですよ。
あなたに、私の気持ちがわかりますか。霊能者さんよ。」
不動産屋は、チッと舌打ちすると、忌々しげにタバコに火を点けた。
○愛しい我が家
霊能者と呼ばれた男が徐に口を開く。
「ここは、もう、とっくの昔に、廃墟マンションですよ。かくいうあなたも…。ほら、そこに転がってる干からびた頭部。これ、ハロウィンのカボチャ違いますよ。あなたの亡骸ですわ。手抜き工事の欠陥だらけ。悪質な商売で、相当多くのオーナーから恨み買ってましたね。裏から手を回し、裁判を無効にした。知らないとは言わせません。私達夫婦のささやかな幸せを あなたは奪った。あなたの時計だけが、止まらなかってわけですね。お可愛そうに。」
「……な、な、なんと。」
「あ、タバコは、身体に悪いですよ。今更遅いですがね。ふふふ…。」
慄く不動産屋身体には、棘だらけのミニバラの弦が巻き付いていた。
「ひ、ひ、いつの間に。」
必死に弦を身体から引き離そうとして、不動産屋の手は血だらけになっるも、その手の先には、女が赤い炎に包まれ微笑んでいた。
それは、真紅のバラのように激しく熱く哀しい顔だった。
「不動産屋さん。あんたは、もうとっくの昔に死んでいるんですよ。
携帯も、ガラケーの時代じゃないのに。まだ、使っているんですもの。オホホホ。」
「ま、ま、待ってくれ。死にたくない。俺は、まだ、生きている…はずだ。だって、さっきもこうして電話して…。」
ツーツーツーツー
不動産屋は、巻き付いたバラの弦に身体を捉えられ、身動きできない。皮膚にトゲが容赦なく突き刺さる。
肉と皮が、ズブズブと音を立てながら破れていく。
うわぁぁぁぁぁぁ
いてぇ、いてぇよ。
たすけてくれぇ。
「残念ですね。私は、霊能者ではないんですよ。だから、あなたを成仏させてあげることができません。人を呪わば穴ふたつ。私達も、同じ穴のムジナですわ。さぁ、ご一緒に地獄に行きましょう。もう、とっくの昔に、時代は、変わったんですよ。冷たいの左半分がなくて、平和の和が付いている、いいんだか悪いんだかわからん時代です。執着しないで、さっさと、行きましょうや。」
「せやなぁ。地獄のほうが生きやすいかもしれんなぁ。」
不動産屋は、バラバラに切り裂かれた霊体のママ、真っ逆さまに暗闇に呑み込まれていった。
2021年10月07日 20時46分
2021年10月07日 20時47分
2021年10月07日 22時07分
書き上げました。
ワードでは、800字ジャストです。
カウントページでは、840字ぐらいには収まったかな。
お気に召してくだされば嬉しいです。
「未練」
ふとすれ違いざまに漂って来たのは、「ジタン・カポラル」の懐かしい香りだった。
私は、慌てて振り返り、鰹節と枯れ葉を燻したような独特の香りがどこから放たれているのか探したが、日は既に落ち、家路を急ぐ人の群れの中に、それらしい香りを放つ人物を見出すことは出来なかった。
駅正面 改札口の斜め上にある丸い大きなアナログ時計は、午後5時を指している。
大学病院の診察を終えた私は、ジャケットの襟を立て、私鉄への乗り換え口に向かって足を早めた。
あ!
私の肩越しに、再びあの香りが漂う。
「あの、すみません。ちょっと、いいですか?」
真後ろに、50代後半から60代前半と思しきスーツ姿の男が立っていた。
サイズが合わないにもかかわらず、無理やり着込んだのかパツパツにつんつるてん状態。
今にもボタンは弾け飛び、ズボンは破れ尻が覗きそうである。
男は、両手に余るほどの真紅のバラの花束を胸の前に大事そうに抱えて立っていた。左手首には、高級腕時計OMEGAが見える。
うわっ。珍妙なアンバランスに、私は、思わず絶句する。
「あのー、 あなたは、野原バラさんですよね?」
「いえ、違います。野原バラという名前ではありません。」
「…そうでしたか。それは、残念です。もう、20年も待っているのに。」
男はそう言うと、肩を落とし、項垂れたまま滑るように黄昏の闇に呑み込まれていった。
とにかく生きるために生き抜くために何でもした。若気の至りではすまぬこともした。
私を野原バラと名付け一生愛すると誓ったあの人は、あんな不細工ではなかったはず。
朝から晩まで変な香りのする煙草を吸い続け、時間にルーズで、締切に間に合わず、原稿用紙の山に埋もれて暮らした男。
こんな生活嫌だというから楽にしてやったのに。
男が書いた売れない小説の筋書き通りの完全犯罪。
なんで今更…。
私は、先刻の医者の言葉を思い出す。
「もってあと一年ってとこですかね。動けるうちに会いたい人に逢っておいてください。」
お疲れ様です。お粗末ですが。投稿いたします。
『染みの臭い』
「ご馳走様」
「またどうぞ…」
店の入り口から聞こえた声で、我に返った。
時計の表示を見る。午後8時…あと10分程で閉店時間だ。
「失礼します。お客様、本日のオーダー終了ですが…」
すかさず、別の店員がテーブルにやって来る。
「ああ、大丈夫です!あの、お会計お願いします」
珈琲の残りを喉に流し込み、ポケットから金を出し、手渡した。
300円。相場で云うなら、高くも安くも無い値段だろう。だが、今の俺にとってこの金額は高いほうだった。
「ご来店ありがとうございました」
店員の声を背に、足早に店を出た。ここに入ったのが午後3時…ゆうに5時間近く、珈琲1杯で粘っていた事になる。
「さて、と…」
次なる場所に行かなければならない。
無職になったタイミングで課金制スマホゲームに没頭し、曜日も何も全く気に掛けないまま残高だけが減り、とうとうアパートの家賃を滞納した挙句、追い出されてしまった。
こんな時の為にと、くっついたり離れたりしていた女子数人に連絡を取るも相手にされず、それぞれの家に置いてあった服は、全て処分されてしまっていた。
「ごめん、私結婚するの。だからもう連絡してこないでね?」
1番仲が良かった子でさえ、この態度の変化だ。世知辛い。おまけに、スマホもどこかに無くしてしまった。
のんべんだらりとやり過ごしていけば、「普通の大人」になれると思っていたのに…今じゃ、汚れ切ったこの服とポケットに入れた金だけが、俺の全財産だ。
感傷に浸りつつ、その場で突っ立っていると…喫茶店のシャッターが下りていくのが見えた。
ガラガラガラガラ…
少しずつ、少しずつ閉じていく。
まるで、お前はここから先の素晴らしい世界には行けないよ、と言われているようでツラい。
どこで間違ったんだろう…
追い打ちをかけるように、今度は雨が足元を濡らし始めた。
「ヤバいヤバい…!」
駆け足で駅方面に向かう。電車に乗る訳では無い。駅前の近くにある漫画喫茶に向かうのだ。
古い雑居ビルの狭いエレベーターを上がって、右に曲がった廊下の突き当たり。
ベッドとシャワー付きで1泊500円。頼りないジジイが1人でやっている、住所不定者の掃き溜めだ。
ポケットから千円札を取り出し、いつも通り入口に向かう…が、何故か暗く、電光掲示板の音楽も聞こえてこない。
おかしい、ここは24時間営業の筈…なのに、人の気配も感じない。ドアは閉じられ、その真ん中に、1枚の張り紙が貼ってあるだけ…
「今まで御愛好ありがとうございます。10月7日を以って閉店致しました。」
日付は、今から1週間前。俺が直近で利用したのが、その前日だった。
嘘、ウソだろ?いつの間に!?まさか…あれが最後の利用日になるなんて。
「マジか…」
ショックで膝から崩れ落ちた。ここが最後の砦だったのに、それが打ち砕かれたのだ。
今更外に出てもずぶ濡れだし、他の場所は全部、危ない人間達が寝床にしていると聞く。
ここの客の1人が足を踏み込んだら、ボコボコにされた挙句、川に流された、という噂もあるのだ。
そんな勇気は無い。だとしても、とにかく他の場所を探すしかない。
この床をとりあえずの寝床にするか…もう1度、他の女を当たるか…
うだうだと考えを巡らすが、踏ん切りがつかない。
その間も、視界の端に店のドアが映り込み、下手くそな字で書かれた張り紙が、「残念でした(笑)」と、ほくそ笑んでいるように見えた。
ここさえ開けば…ここさえ。畜生、畜生、畜生!
「畜生!なんでなんだよっ!」
ふと気づくと、俺は近くにあったビールケースをドア目掛けて振りかざしていた。
勢いまかせにぶつけた衝撃で、プラスチックの粉や破片が自分に向かって飛び散り、思わず目を瞑る。と…次の瞬間。
ギギギィ…
衝撃音が消えると同時に、ヴ──ッ…という、空調の機械音に混じって、鈍い音が廊下に響く。
「え……?」
目を開けると…そこには、ぽっかりと隙間を開けたドアがあった。
separator
ビールケースを足で除け、隙間からそっと店内を覗く。
剥がれかかっている「閉店のお知らせ」をわざと床に落として、外の照明を頼りに中を見回した。
静かな空間。他に人の居る気配は無い。
壁に手を添えると、微かに電気タップの感触が伝わり、スイッチを切り替える────
パチパチッ、パチッ、パン、パン、パン…
花火のような音と共に明滅をしながら、店内が手前から奥へと明るくなり…いつもの店の風景が目の前に広がった。
「マジで…やった…!」
不法侵入だとは分かっていた。が…家無しの俺にとって、そんな事は重要じゃなかった。
トイレの蛇口をひねると、勢い良く水が流れ出る…そして、ふと顔を上げて鏡を見ると、なるほど…喫茶店の店員が、引き気味な反応だったのがよく分かった。
無精ヒゲで髪もベタベタ。汗と脂、その他諸々の臭いを放つ体…最後の利用日に入ったきり、体を洗っていなかった。
お湯は出ないが、季節的にまだ暑いから問題無い。シャワー室で水を浴び、着ていた服で体を拭く…そして、落ちていたシケモクに火をつけ、思い切り煙を吐き出した。
全裸のまま、ぼーっと店内を見渡すと、その雑然さに思わず笑いが込み上げる。
有って無いような仕切りの合間に、適当に配置されたパイプベッドや椅子…漫画喫茶と言うよりタコ部屋だ。埃やゴミがそこかしこに転がっていて、掃除をしてるのかも疑わしい。
その証拠に、ある箇所だけ、異常に臭いのだ。
一部の人間から「生ごみエリア」と呼ばれるくらい、そこだけ臭気の溜まり場となっていて…誰かが芳香剤を撒いても、消えるどころか、芳香剤の甘い香りと混ざって更にヤバくなる。
それに加えて皆が避けるから、限られたスペースに人が密集し、そのせいか小競り合いもよく起きていた。
「てめぇこらジジイ!なめてんじゃねーぞ!」
坊主頭のいかつい男は、その筆頭だった。
何かあればすぐ店長に突っかかり、腕を振り回しては、怖気づく様子をニヤニヤ眺めている…白のタンクトップ姿で、二の腕にバラの刺青をしていたから、密かに「薔薇パイセン」というあだ名で呼ばれいた。
俺も含め皆、店長が何かされていても見て見ぬふり…何故なら薔薇パイセンは、別の意味でくさかったのだ。
多分、チンピラ崩れか…本物の反社だったんだと思う。だが、そんなパイセンも、生ごみエリアにだけは近付かなかった。いつも、「くせぇなー」と言って他の人の席を横取りし、酒を飲んでいた。
そんな事を思い出しながら、ふと、空気に乗ってあの臭いが漂うのを感じる。
今自分の立っているシャワー室近くの席から、直線上の突き当り。天井部分がそこだけ低く、真四角に窪んだスペースになっている。
見ると、埃にまみれた芳香剤が数個、まだその場に残っていた。
内壁の殆どが、元の白い色から変色して鼠色になっているのに対し、そこだけが、黒や赤茶色のシミが重なるように付いていて…外から汚れが付いたというより、内側から染み出てきたような…そんな風に見えてしまう。
そう思った途端、背筋に嫌な寒気を感じた。
ダメダメ!変な事想像したら…だってこれから再び、お世話になるんだから…
俺はすっかり、味を占めた気分でいた。この際、居座れるだけ居座ろう。時間が経てば、きっと仕事も見つかる。とりあえず、明日はコンビニで食料を調達して、それから…まあ、ダラダラすればいいか…
「あー…眠っ…」
寝床を見つけた安心感と心地良い眠気が混ざり、何とも言えない高揚感で一杯になる。と同時に、体の一部が悶々としている事に気づいた。
床には、退去時に取りこぼしたであろう雑誌が散らばっていて…よく見ると、成人向けらしきものも幾つかある。
「どれどれ…」
全裸の男が床の雑誌を漁っているさまは、怪しい以外の何物でも無い。しかし、欲望には逆らえない。そうやって今まで、色んな女子と楽しく過ごしてきたのだ。
四つん這いで少しずつ前に進みながら、何とか読めそうな物は無いか物色する。途中、積まれた雑誌の山を崩したその時…足元に紙の切れ端が落ちて、思わず手に取った。
そこには、殴り書きしたような文面で、赤黒い文字が書かれていた。
『生ごみエリアの噂は本当だった。あれが黒く見えたら、次は自分の番になる』
途端に、全身の血が引くのを感じた。
そう…すっかり忘れていた。
ここには、以前から変な噂があった事を。
separator
実際、生ごみ臭がする訳では無い。ふざけ半分でそう呼ばれていただけ。
そして…壁の色は、他と同じ、鼠色だった。
けど、今の俺には、それが真っ黒に見える。客の間で長らく噂されていた事…それが、現実に、目の前にある。
壁が黒く見えたら、次の人が来るまで、閉じ込められて出られなくなる。
あの悪臭は、そうして閉じ込められた人達の集合体なのだ…と。
死体がどんな臭いか、嗅いだ事は無い。だけど…鼻孔を刺激する「それ」は、確実だった。
気付いていなかっただけ。気配が無い…そりゃそうだ。
…その人は、とっくに事切れていたんだから。
入り口すぐの、いつも店長が腰かけていたスペース。そこに、手足を四方八方に曲げた男が、仰向けで地面に張り付いていたのを、俺はさっき、ここに入った時点で…既に見ていたのだ。
坊主頭で、タンクトップを着た男の姿を。
…ガチャン!
咄嗟に、音の方に顔を向ける。入口のドアの向こう…二の腕の、花の赤い色が、ガラス越しに映った。
それは少しずつ遠ざかり…やがてエレベーターのある場所に吸い込まれると、ガコン、という音と共に消えて行った。
ドアを押す。…だが、びくともしない。
押しても押しても押しても、ドアが再び開く事は無かった。
「…たすけて…出して…!」
誰かが来るまで、待たなければならない。その間は、一歩も出られない。
この体が、染みの一部となって、溶けて腐って消えるまで…
………
「なあ、駅前に廃墟があるだろ、古いビル」
「ああ、あるね…結構前からあるよな?10年くらい?」
「多分…でもあれ、取り壊すらしいよ?」
「そうなんだ、で、今度何作るんだろ」
「何もしないってさ…」
誰か、誰でもいいから、
ここに来てくれ…
皆様、御忙しい日々とリレー小説御疲れ様で御座います(礼)。
先月は難解ながらも取り組み甲斐の有る御題を有難う御座いました。
御題に沿いました話が出来上がりましたので、御目汚しながら失礼致します。
*********************
『薔薇の香りの煙草』
これは私、影淵多喜男(かげぶち・たきお)が過去に巻き込まれた話だ。
あの時は、そうだなァ………誰彼スパスパ煙草を燻(くゆ)らせていた時代だから、バルブが弾けて飛んだ、違う違う。バブルが弾けるかどうかの時代か。地方にゃ関係無かったけども。でも牧歌的と言えば牧歌的ではあったね。
親父や従兄を筆頭に、実弟や悪友さえ煙草を燻らせていたけど、私は一向に吸う気も起きなかった。
そんな中、携帯灰皿を持参した悪友が、私の愛車の中で、煙草を吸って良いか訊いて来た。
学生の時分、女っ気も無く、アルバイトで貯めた金銭を当て込んだマニュアル式の軽自動車だったし、換気も兼ねて窓を開けさせて、呑気に宛て無きドライヴでもしようかと私も持ち掛ける。
*********************
走り出して、暫くしてから悪友がいつも通り煙草を吸うが何だか妙だ。
「凄い香りだな」
「凄いって何が」
「薔薇の香りなんて、一体幾等(いくら)すんのさ」
「何?桃の香りの奴だぞ俺のは」
信号待ちに上手い具合に引っ掛かったので、私はギアをニュートラルにセットして、悪友の持つ煙草の銘柄を見る。
────紛(まご)う事無き桃の絵が描かれている。
信号を見ると青になったので、ギアをローに入れて発進して、徐々にギアを切り替えて行く。
*********************
漫画の話や変な蘊蓄(うんちく)を話していて、少々怖い話でもしようかと私が言い出すと、悪友が嫌がる。
「イッヒッヒ」と気色悪い笑みを浮かべた私が、廃墟に忍び込んで、そこのバルコニーで手を振る仲間を見上げていると思ったら、その仲間が二階を探索していて、バルコニーには全然近付いていないと言う怪談を話し始めると、悪友は嫌だ嫌だとブーイングをし始める。
途端、
「何で薔薇と線香の匂いのするものなんて焚くんだよ」
と悪友が妙な事を言い始める。
今現在の主流であるオートマチック車輛とは違い、片手はハンドル、片手はギアに付きっきりであるから、お香なんぞ焚く余裕も無ければ火の元すら用意も出来ない。出来るとすれば、悪友が下部の方に有る、今はバッテリーの電源取りになっている、シガーソケットに手を伸ばせる位だろう。
ああ、確かに薔薇の香料と線香の匂いが混じった、変な感じの空気が車内に充満する。しかも窓を開け放っているのに、ムワっとした空気が出て行かず、へばり付いている様な具合だ。
「*〇※⇒/=:∩」
「────何か喋った?」
「言ってないって!ほら!君が怖い話なんてするから!」
横目で見ると脂汗をかいている悪友、私は車輛に標準装備されている余り正確で無い時計と、自分の腕時計とを見比べる………すっかり日も落ちて20:00か。
緩やかなアップダウンの場所を良く見ると、墓地公園と呼ばれる場所の近くを通っていた。
「南無阿彌陀仏(なむあみだぶつ)、南無阿彌陀仏」
ギアを切り替えつつ、幾度か私は何と無く御経を唱えて見る。怖いと言うより、涼しさで目が覚める感じで安堵する。
「────あれ?無くなったぞ。やったー………」
悪友が変な匂いから解き放たれたのが余程嬉しかったのか、妙な歓喜振りである。
そう言えば、薔薇の香料と最初は煙草、次は線香の匂いに混じった変な雰囲気が消え失せていた。
然し、深夜で無いにも関わらず、奇妙な事も起きるんだなと、私は眠気覚ましの板ガムを噛みながら、悪友宅に車輛の足を向ける。
────電球の街灯の群れが、「よう」とばかりに出迎えてくれている。
@ふたば さん
すみません、投稿するにあたり加筆しました。
公園の真ん中に立つ、背の高い時計台の針が午前2時を指し示す。
僕は、真夜中の冷たい空気に身を震わせながら、足早に時計台の足元へと向かう。
そこにはショートヘアーの女性が、半袖短パン姿で佇んでいた。いつも通り、タバコをくゆらせながら。
僕はほっと小さくため息をついて、それから「こんばんは」と声をかける。
どこか遠くを、見るともなしに見ていた彼女の顔が、僕の方へと向けられる。
すべての拒絶しているようでいて、同時に捨て猫のように誰かを強く求めている、そんな彼女の瞳。
「あら、またあなたなの?」
彼女はつぶやいた。
僕は彼女の名前を知らない。
だが、彼女がこの公園の近所に住んでいること、在宅でイラストレーターの仕事をしていること(ちなみに僕は在宅のプログラマーだ)、僕と同じで夜型人間で、深夜ラジオを聴きながら作業するのが一番はかどること、いつも深夜2時ちょうどにこの場所へ一服しに来ることなどを、これまで彼女と交わした会話によって知っていた。
「そろそろ、この公園のバラ園が見頃になるみたいよ」
そっけない口調で、彼女は言った。
しかし、その言葉の裏には「よく知っていたね」と誉めてもらいたい気持ちがあることを、僕は知っている。
心と身体が非常にアンバランスな、要するにかわいい人なのだ、彼女は。
「へえ、そうなんですか。よければ今度、一緒に見に行きませんか、昼間に」
僕がタバコの煙とともに軽口を吐き出すと、「起きれないくせに。まあ、私もだけど」と言って、彼女は微かに笑った。
時計の針が2時17分を指した。
突如、彼女が苦しみだした。
首筋を盛んにガリガリと引っ掻きながら、身体を震わせている。
口の端からブクブクと泡を吐き、ついはガクンと頭を下げた。
全身から力が抜けている。
と、彼女の脚、腕、首がザクリ、ザクリと見えない何かに切り裂かれ、次いで脚と腕の各関節も同様に切り分けられた。
目の前の虚空には、バラバラになった彼女のパーツがフワフワとしばらく漂っていたが、やがてタバコの煙のように薄くなり、空へと立ち上って消えて行った。
ああ、今日も見られた。
僕は胸を撫で下ろした
半年前、まだ春先の時期に、たまたま夜の公園で出会った彼女。
度々この場所でタバコをふかしながら、くだらない話をした彼女。
彼女の装いが、半袖短パンという、若干目のやり場に困るようなものになってきた、初夏の頃。
バラ園の花たちが、そろそろ見頃を迎えるという季節。
あの日の、午前2時17分。
僕は背後から彼女に忍び寄り、丈夫な紐で首をしめた。
その後自宅に背負って帰り、バラバラのパーツに切り分けて、翌日、この公園の土の下深くに埋めたのだ。
ーーなぜかって?
彼女がかわいい人だったから。
身寄りもなく友だちもなく、たまたま深夜の公園で出会った僕なんかに、警戒しながらも興味を持ってくれるような、そんなかわいい人だったから。
それにしても、殺害後も彼女とこうして深夜のひとときを過ごせるのは、予想外の幸運だった。
加えて、彼女に僕の行為がバレていないことも。
背後から彼女の首を締めた際、僕は念のため覆面を被っていたので、彼女は僕が犯人だとは思わなかったはずだ。
しかし、幽霊の理屈は僕にはわからない。
身体から抜け出した彼女の幽霊が、自身の身体をバラバラに切り刻んでいる僕を見て、真実を知る可能性だって、あったかもしれないのだ。
結局、それは取り越し苦労だったわけだが。
だから彼女はいまだに、生前と変わらない態度で、僕との逢瀬を繰り返しているのだ。
自分を殺した犯人はおろか、自分が死んだことすら知らない、無垢でかわいい彼女。
毎日、あの初夏の日を繰り返し、新鮮な驚きと恐怖の中、死んでいく彼女。
いつか彼女に、すべてをバラしたらーー!
そんなことを想像しながら彼女と交わす会話は、以前よりもずっと、僕の心をときめかせるのだった。
ああ、今日もいい息抜きができた。
僕は大きく伸びをして、秋の夜中、のんびりと家路に着くのだった。
わかりました。
書き直します。
よって、一旦削除します。
やはり、短めにまとめるとなると、かなり難解になってしまいます。
今回は、とても書きやすいお題ばかりなので、これからアップする作品は800字以内、もしくは前後にまとめてみたいんですよね。
慌てずにクオリティの高い作品を描いていきます。
短編は、難しいです。
力量が問われますね。
でも、今回のふたば様の辛口コメントで、目が覚めました。
彼岸三部作の二作がまだ書けていないので、これから仕上げます。
それからにします。
(^_^;)
ただ、これから、本編に挙げる話は、私が描きたかったことを書きます。
分かる人には分かる といった内容になるかと存じます。
リレー投稿は、お祭りなので、こことは別に楽しく遊ばせていただきます。
ではでは、800字程度にまとめられるお話をアップします。
ほんと、ふたば様の三題お題では、分かりにくいお話ばかり書いていますよね。
(^_^;)
書き続けることが大事なので。
書き続けます。
バラは、育てるのがとても難しい花です。
ミニバラは、毎年チャレンジするのですが、なかなか増えてくれません。
でも、上手な人は、見事なまでに増やし育てているんです。
なかなか咲いてくれなかった 朝顔が、花を次々つけてくれるようになりました。
ちょっと嬉しいです。
ヘブンリーヘブン 天上の青 なんと今が盛りの花なのだそうです。
夏じゃない事がわかり、ちょっと感動しています。
このままだと、たぶん、冬の頃まで咲いていてくれそうな気がしています。
大きな花が見事です。
近々、画像にアップしますね。
ではでは、いましばらくお待ちを。
@あんみつ姫 さん早速の御参加有難う御座います( ᴗ ̫ ᴗ )
リレー小説は若々しい学生の雰囲気なので、こちらはシックな大人のイメージのお題です(*´꒳`*)
ミニバラって、花が小さめな分枝が目立つと言いますか、ベースがしっかりしているからこそ花が目立つみたいなところがありますよね。丁度、赤と緑は互いを引き立てる反対色ですし(╹◡╹)
薔薇といえば女性のイメージですが、内容を象徴するタイトルは、家主の男性目線だけでなく、その妻目線の題名とも受け取れる様な気がします。いやでも妻はこの物件の障りで亡くなった様に見えるので、もしかしたらそのもっと前の誰かの目線の可能性も否定出来ませんね……
各シーンの流れが少しだけ分かりにくいのですが、
元家主の男が(おそらく不動産の男と共に)この物件へと再びやって来る→元家主の回想→元家主の隣で不動産屋が愚痴る
という流れで、ずっと元家主目線のお話として読むので合ってましたかね(・・?)
初見で読んだ時、最初と愚痴のシーンは不動産屋さんの目線なのかと勘違いしてこんがらがってしまいましたorz
@ロビンⓂ︎ さん先月に引き続き御参加有難う御座います( ᴗ ̫ ᴗ )
久しぶりのマモル君!
確かにこんな格好で運転されたらいつ事故が起きてもおかしくないですねw
例え友人さんが事故を起こさなくとも、対向車線の運転手がたまたまこの格好に気付いてしまって手元が狂う創造をしてしまいました(≧∀≦)
お題を“活かす”のは確かに難しいですよね。特に今回はただ“使う”だけなら割と難易度が低いかも知れません(л・▽・)л
ですが、皆さんこのお題の雰囲気に合ったお話ばかりで出題者の私は既に満足げです(◜𖥦◝ )
@綿貫一 さん今月も御参加有難う御座います( ᴗ ̫ ᴗ )
お題発表から24時間以内というタイムアタックレギュレーションは無い筈なのですが、今月も物凄く早い投稿ですね(・・;)
タイトルの“名前のない”が、まるでドラマチックであるかのように見えて「別に名前には実際興味がないのだけれど、こうなってから『そういえば名前知らなかったな』と思ったから後付けでドラマチックにしよう」的なニュアンスにも読み取れて、たまらなくサイコパスですね╰(*´︶`*)╯♡
…もし、霊が死ぬ前の(意識が途切れるまでの)出来事を繰り返すのだとしたら、こういう身体がバラバラになる霊は意識がまだある状態で細切れにされていたのでしょうかね……?
わざと死なないよう注意しながらバラしていたのなら、反応も楽しんでいたのかもなのですねー(°▽°)(°▽°)
お題をうまくいかすのは難しいですね…ぶひ…
「マモル」
時計台の前で寝そべっている犬がいる。
でもその姿は誰にも見えていない。どうしてかというと、答えは簡単。アレは犬の妖怪だからだ。
この妖怪はいつも僕の邪魔をする。
この元犬は、僕が飼っていたパグ犬のマモルで、死んだ後も成仏する事なく、僕のそばにいる。
おそらく、僕の事が心配なんだと解釈しているが、直接マモルに聞いたわけではないので、なぜ妖怪にまでなって僕のそばに居続けているのかはわからない。
マモルは僕の姿を見つけると、シワシワの顔でウッシッシと笑った。
僕はムッとした顔でマモルをにらみつける。
笑われた理由は当然、僕が女の子に約束をすっぽかされたからだろう。
初めてデートの約束にまでこぎつけたアリスちゃん。もう約束の時間を30分もすぎている。
放置されている僕はといえば、薔薇の花束を片手に、自分なりに考えた中途半端なオシャレをしてたっている。事情を知っている人間がみたら、たぶん皆んな笑うかもしれない。
もう来ないのはわかっている。LINEを打っても既読にもならない。
スマホとにらめっこしている僕を見て、マモルがまたウッシッシと笑う。僕を心配しているとはとても思えない。
次の朝、友人と海に行くための用意をしていると、マモルが「ボクもついていく」と言う気満々の顔で僕を見ていた。
迎えにきた友人の車に乗り込むと、マモルがブヘン!とくしゃみをした。
車の中は煙草の匂いが充満していて、僕は友人に海に着くまではもう車の中で煙草を吸わないでくれと頼んだ。マモルは妖怪のくせに煙草の匂いが苦手なのだ。
友人はなんで?と言ったが、まさか後ろの席に煙草嫌いの犬の妖怪が座っているなんて言えないから、僕は禁煙中だと嘘をついた。
海まであと30分というところで、休憩しようという事になった。
友人がコンビニに入ったのを確認すると、僕は後部座席のマモルに問いかけた。
「やっぱり、行かない方がいい?」
マモルは話せない変わりに鼻を一回鳴らした。
ここまでの道中、マモルが何回も何回も鼻を鳴らすので、全く友人の話が入ってこなかった。
マモルがこんなに鼻を何度も鳴らして警告するのは、それなりの理由がある。
今までもそうだったから、無視はできない。この車が事故に巻き込まれるか、行った先の海で水難事故に遭うか。
僕はずっとこの車を自然にUターンさせる方法はないかと考えていた。
友人が「お待たせ!」と、頭にシュノーケルをつけて帰ってきた。目にはゴーグル。
おそらく、僕を笑わせて場を盛り上げようとしての事だろうけど、僕は引き攣った笑顔しか返せなかった。
後ろでは、ブヒブヒブヒブヒとマモルがやっている。
バイトまで休んで海を楽しみにしている友人を前に、僕は何も言う事ができない。今更行き先を変える訳にもいかないし、腹が痛いから引き返してくれとも言えない。考えている間に車はまた海に向かって走り出してしまった。
運転席でゴーグルをつけながらサザンを熱唱する友人。後ろではブヒブヒブヒブヒとやかましい妖怪。
このままでは必ず何かしらの危険が待っているのは間違いないのに、チキンな僕は何も言いだす事が出来ない。
ああ、僕はどうしたらいいのだろう?
了
@林檎亭紅玉 さん1番乗り有難う御座います( ᴗ ̫ ᴗ )
今回はシックな大人びた雰囲気を(私が読みたくて)求めたお題でしたが、いきなり大満足なお話でした。
思い通りに行くことが許されない世界、それがこの現実であり、そんな世界に対するやるせ無さと憎しみが、紫煙と薔薇のウイスキーに混ざりビターな味わいを醸しておりますね( ¯꒳¯ )ᐝ
個人的には、精神異常者には保護者・監視者を付けさせ、精神異常者が犯罪を犯した場合はその者達も罪に問われるようにすれば、必死になって身近な方々が犯罪防止に努めると思うんですけどね……
高齢者ドライバーも、身内に免許更新の承諾書を書かせて、もしその高齢者ドライバーが事故を起こした場合は承諾書にサインした身内にも法的責任を持たせるとかすれば、そもそも高齢者ドライバーが減りそう_(┐「ε:)_
「名前のない恋」
公園の真ん中に立つ、背の高い時計台の針が午前2時を指し示す。
僕は真夜中の冷たい空気に身を震わせながら、足早に時計台の足元へと向かう。
そこにはショートヘアーの女性が、半袖短パン姿で佇んでいた。いつも通り、タバコをくゆらせながら。
僕はほっと小さくため息をついて、それから「こんばんは」と声をかける。
どこか遠くを、見るともなしに見ていた彼女の顔が、僕の方へと向けられる。
すべての拒絶しているようでいて、同時に捨て猫のように誰かを強く求めている、そんな彼女の瞳。
「あら、またあなたなの?」
彼女はつぶやいた。
僕は彼女の名前を知らない。
だが、彼女が公園の近所に住んでいること、在宅でイラストレーターをしていること(ちなみに僕は在宅プログラマーだ)、僕と同じで夜型人間で、深夜ラジオを聴きながら作業するのが一番はかどること、深夜2時ちょうどにここへ一服しに来ることなどを、これまで彼女と交わした会話によって知っていた。
「そろそろ、この公園のバラ園が見頃になるみたいよ」
そっけない口調で、彼女は言った。
しかし、その言葉の裏には「よく知っていたね」と誉めてもらいたい気持ちがあることを、僕は知っている。
心と身体が非常にアンバランスな、要するにかわいい人なのだ、彼女は。
「へえ、そうなんですか。よければ今度、一緒に見に行きませんか、昼間に」
僕がタバコの煙とともに軽口を吐き出すと、「起きれないくせに。まあ、私もだけど」と言って、彼女は微かに笑った。
時計の針が2時17分を指した。
突如、彼女が苦しみだした。
首筋を盛んにガリガリと引っ掻きながら、身体を震わせている。
口の端からブクブクと泡を吐き、最後はガクンと頭を下げた。
全身から力が抜けている。
と、彼女の脚、腕、首がザクリ、ザクリと見えない何かに切り裂かれ、次いで脚と腕の各関節も同様に切り分けられた。
目の前の虚空には、バラバラになった彼女のパーツがフワフワとしばらく漂っていたが、やがてタバコの煙のように薄くなり、空へと立ち上って消えて行った。
ああ、今日も見られた。
僕は胸を撫で下ろした。
半年前、まだ春先の時期に、たまたま夜の公園で出会った彼女。
度々この場所でタバコをふかしながら、くだらない話をした彼女。
彼女の装いが、半袖短パンという、若干目のやり場に困るようなものになってきた、初夏の頃。
バラ園の花たちが、そろそろ見頃を迎えるという季節。
あの日の、午前2時17分。
僕は背後から彼女に忍び寄り、丈夫な紐で首をしめた。
その後自宅に背負って帰り、バラバラのパーツに切り分けて、翌日、この公園の土の下深くに埋めたのだ。
なぜかって?
彼女がかわいい人だったから。
身寄りも友だちもなく、たまたま深夜の公園で出会った僕なんかに、警戒しながらも興味を持ってくれるような、そんなかわいい人だったから。
それにしても、死んで幽霊になったあとに、認識が更新されないのは幸いだった。
背後から首を締めたうえに、覆面まで被っていたわけだから、万が一にも僕が犯人だとは、生前の彼女は思わなかったはずだ。
しかし、幽霊の理屈は僕にはわからない。
身体から抜け出した彼女の幽霊が、自身の身体をバラバラに切り刻んでいる僕を見ているかもしれないと、ずいぶん不安に思ったものだった。
しかし、それもとんだ取り越し苦労で、彼女は生前と変わらぬ僕との、殺人犯との逢瀬をいまだに繰り返しているのだ。
ああ、今日もいい息抜きができた。
僕は大きく伸びをして、秋の夜中、のんびりと家路に着くのだった。
タイトル入れ忘れてました!
『薔薇の復讐』です!!
『』
頼む。
一度だけ、一度だけチャンスをくれ……。
俺は震える右手に悪態をつきながら、何倍目かわからないウィスキーのグラスを傾ける。
馬鹿なことは考えるな、と、相棒は言った。もしそれが本当なら、俺たちが居る意味が無くなるじゃないか、とも。
「刑事って仕事は」
俯いたままの俺を慰めるように、相棒はわざと明るい声で言った。
「理不尽が多いもんだな」
わかっている。わかっている、でも。
「おい、馬鹿なことは考えるなよ」
あいつはそう言って、ポケットの中でよれよれになった煙草に火を点ける。
「あんなのは、頭のおかしくなった奴の戯言だ。本気にするんじゃないぞ」
時計を見る。時間は午前零時。
窓辺で薔薇が香る。
お前の為の薔薇が。お前が一番好きだった花が。写真の中のお前は、あの時と変わらずに微笑んでいて。花瓶の薔薇。赤い薔薇。
血の匂い。
あの女が来た、と、奴は言った。
別の女も、もっと昔の女も、皆。
奴の枕もとに立っては、恨み言を述べるのだと言う。
奴が殺した女たち。
血まみれで奴を取り囲む女の中に、俺の女房は居るのだろうか?
「本気にするな、お前らしくも無い」
わかっている。
わかっているさ。
「あいつは、おかしくなった振りをしてるんだ。少しでも罪が軽くなるようにな」
俺の相棒はそう言って、フィルターを噛み潰した煙草を苛立たし気にぺっと吐き捨てた。
「精神異常者は死刑にならない。腹の立つことに、俺たちの信じる司法とやらはそんな風にできている」
相棒は、俺を横目に見ながら二本目の煙草に火を点けた。
「でも、だからって。俺たちがあんな野郎の言うことを信じちまったら……」
薔薇が香る。
季節外れの、甘い匂い。
相棒ははっとしたように口を噤んで、それから自分を偽るように、わざと深く有毒な煙を吸ってみせる。
相棒の目にも、見えていたのかもしれない。
午前零時。
あの殺人鬼の周りを取り囲む、甘い香りの女たちが。
「被害者は」
俺は、一人きりの部屋で呟く。
フォアローゼス。
薔薇のラベルのウィスキーは、女房が好きだった酒だ。
「皆、赤い薔薇が好きな女だった」
精神異常者は死刑にならない。俺たちが信じた法律というものは、とてつもなく弱いものなのかもしれない。だが、俺達にはそれを遵守する……いや、世間の人間に遵守させる義務がある。
法が無力だなんて悟られてはならないのだ。
でも。
俺にチャンスをくれ。
チャンスを……。
奴に殺された女の数を数えるには、左右の指を使っても足りないくらいだ。
しかし、俺がこの濁った眼で見ることができたのは、せいぜい片方の指で数えられる程度。
化けて出るにも才能が居るらしい。
あの中にお前はいるのか?
俺の女房はいるのか?
それさえ、賭けだ。
俺は震える手で拳銃を持ち直す。
薔薇のウィスキーが、俺に勇気をくれる。
俺にチャンスをくれ。
もう一度、お前に会わせてくれ。
もしも、それが叶うなら。
二人で、奴に正義の鉄槌を。
法というものはやはり、無力なのかもしれない。
俺は相棒にごめんと謝って、引き金を引く。
しまった!もう10月だ!
という訳で、リレーも遂にスタートしましたが、こちらも新しいお題を提供致します ( っ'-')╮ =͟͟͞͞ 💣
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【10月お題】
「バラ」「時計」「たばこ」
投稿期間 10/1 0:00〜10/28 23:59
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気分転換にでも力試しにも、お気軽にご挑戦くださいませ( ᴗ ̫ ᴗ )