その日、Aくん達は林間学校に来ていた。
一日目の夜。
夜中、ふと目を覚ましたAくんは、突然尿意を覚えた。
「B、起きろ」
隣で寝ていたBくんを揺するも、泥のように寝ていて起きない。
仕方なくAくんは一人でトイレに行くことにした。
「うわぁ……」
ドアを開けて立ち止まるAくんの視線の先には、弱々しい電灯に照らされた薄暗い廊下が、どこまでも続いていた。
「嫌やわぁ……」
恐る恐るゆっくりと、だが着実に歩を進めるAくん。
古い木製の床板が、ギシッ……ギシッ……と不気味な音を立て、Aくんの恐怖心をより一層煽る。
「ぷはぁ……」
なんとか無事にトイレに辿り着いたAくんは、待ってましたと尿をぶち撒きながら、ホッとため息をつく。
その時、外で物音が聞こえたような気がした。
「なんやろ……?」
恐る恐る扉を開けて、外を確認するAくん。
ふと、右手にある部屋の引き戸が少し開いているのが目に止まった。
「先生でも居てんのかな……?」
気になったAくんは部屋の中を覗こうと、ゆっくり引き戸に近付いた……。
と、その時、
バタンッ!!!
突然、引き戸が開いた。
「ひぃぃっ!!!」
声にならない声を上げるAくん。
目の前に包丁を持った老婆が立っていた。
「うわああああああ!!!」
パニックになったAくんは、とっさに部屋へと駆け出す。
怖い怖い怖い怖い怖い……。
「待で!ごらあ!!!」
包丁を振り回しながら、老婆が鬼の形相で追い掛けてくる。
「ひぃぃっ!!!」
Aくんは部屋に飛び込むと、すぐに自分の布団に潜り込んだ。
ガタガタガタガタガタガタ……。
恐怖で震えが止まらない。
「おらあああああ!!!」
老婆が扉の前で止まったのがわかった。
「ケケケケケ。隠れたって無駄だよ、坊や。みんなはお布団の中でぬくぬくしていたからね。だが、お前は寒い寒い廊下をヨチヨチ歩いてた。この意味わかるかえ?…………お前だけ足が冷たいってことだよ!!!」
(ひぃぃっ)
Aは心の中で悲鳴を上げた。
「……違う」
老婆が一人づつ布団の中に手を入れ、足の体温を確認している。
「……違う」
(ひぃぃっ)
「……違う」
「……違う」
Aは(夢なら覚めてくれ!)と祈った。
「……違う」
「……違う」
!?
「ケケケケケ、ここかな、坊や?どれどれ可愛いアンヨ出してちょうだい……」
(ひぃぃっ!)
「………………………………違う」
?!
「……違う」
「……違う」
「……違う」
「違う違う違うーーーーー!!」
「キーーーー!!!!!」
老婆は頭をグシャグシャに掻き毟ると、奇声を上げて部屋を飛び出していった。
「どこじゃーーーー!!!!!」
そう。Aくんは発熱性・保温性ともに抜群に優れた足を持つ、スーパー小学生だったのである。
「キーーーー!!!!!」
怖い話投稿:ホラーテラー マラムートさん
作者怖話