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中編3
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トマト狂

私の友人に、“トマト”が異様なまでに好きな男(以下Nと表記)がいた。

夏を代表するあの真っ赤な野菜だ。

私はあの中身のドロッとした内臓の様な部分と、トマト特有の独特な臭いが苦手で、好んで食べることはなかった。

それは今でも変わらず、それ以前にあの芳香を嗅いだだけで気分が悪くなるようになった。

あの一件以来。

その日、私はNの家に泊まるという約束をしていた。Nの家に行くのはこれが初めてだった。

インターホンを鳴らすとすぐに扉が開いた。

私「よう」

N「おー!あがれあがれ!」

Nが盛大に迎える。右手には、真っ赤な食べかけのトマトが。

私「お前…本当好きだな、そんなに食って飽きないのか?」

N「ははっ、飽きねーよ!お前こそその手に持ってんのはなんだよ?」

私が手に提げている袋を指差す。

私「あぁこれ、ここ来る前にそこの八百屋で買ってきたんだ」

ほれ、とNの大好きなそれを差し出す。

N「あ、これ、いいのか貰って?」

私「ああ」

N「サンキュー!」

本当に飽きない。Nは四六時中と言ってもいいくらい片手にトマトを持ち、一つかぶりついてはまた一つと、幾つものトマトを腹に収めていった。

私「あーなんか腹減ったなー」

夜の9時頃、夕食がまだだった私は空腹感を覚えた。

N「コンビニにでも買いに行かねぇとなんもねーぞ」

私「……」

なんも無いことはないだろうと思い、私は無言でキッチンに向かった。

フライパンや鍋等の調理機具はあるが、インスタントラーメンやレトルトカレー等の保存がきく食品が一切見当たらない。

私「なんだよ、あいつ何食ってんだ…?」

冷蔵庫を拝見しようと扉に手を伸ばす。

が、扉に手を置かれ制止された。

私「!、わっ、な、なんだよビックリさせんな!」

Nだった。いつの間にか私の後ろに立っていた。

N「だーから、なんもねーって!」

腹減ったんなら買いに行けよ、とNに急かされ、私は渋々承諾してNの家を出た。

コンビニで適当に弁当を買い、Nの家に戻る途中、私は先程のことを疑問に思った。

なんで俺が冷蔵庫を開けようとした時止めたんだ?食い物があったんじゃないのか?

ケチられた様な気がした私は至極不機嫌な様子で玄関の扉を開いた。

私「……」

無言で居間に向かうが、Nがいない。

トイレかと思いそう気に留めず、腰を下ろした時だった。

「ジュルルッ」

私「!」

何かを啜る様な音がキッチンの方から聞こえた。

それはNがトマトを丸ごと食う際、汁が垂れないように啜る音によく似ていた。

だが何か異様な、不気味な感じがした私は、静かにキッチンへと向かった。

私「(なんだ…?)」

キッチンは何故か電気が消えていて、辺りを暗闇が包んでいる。

そこにうっすらと浮かぶ光りが見えた。

冷蔵庫の扉が開いている。

そして、冷蔵庫の前に座り込む人影。

私「……N?」

Nが振り向く。

N「お か え り」

赤い。真っ赤だった。口の回り、服、手、手の平の上、冷蔵庫の…中身。

異様なまでに、

生臭い

とまと…?

私「あ、ああ、あぁぁぁああぁぁ!!!!」

私は訳が分からず全速力で家に帰り、直ぐに一人暮らしをやめ実家に帰った。

それから彼がどうなったのかは知らない。

怖い話投稿:ホラーテラー 雨師さん  

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