高校2年の夏休み、アルバイトしようと情報誌を買った。その中に
日本△△食品㈱
高校生可、時給500円〜 誰にでも簡単に出来るお仕事です!
みたいな募集があり、当時としては時給も良かったので俺は早速電話をした。電話に出た中年らしき男に色々聞かれ「それじゃあ面接するから今から来れるかい?」と言ったので俺は「はい、すぐ行きます!」と電話を切った。
△△食品…△△食品…と探していると、目当ての会社が見つかった。
見つかったが会社を見た俺は凍りついた。立派な建物の脇に、会社名が入った小さな看板……よりもはるかに立派な◇マークの看板が隣に並んでいる。
(こ…これは……ヤ〇ザの事務所だ!ど…どうしょう…構成員にされちゃうのか!?)
慌てふためいていると、玄関からパンチのおじさん(以下パンチ)が不気味な笑顔を浮かべ歩いて来た。
「さっき電話くれた○○君かい?」
俺は違うと言いかけたが、電話で名前や電話番号など言ってしまったので嘘を付くわけにはいかず
「は…はい、そうです…」
と答えるとパンチは品定めするように俺を見て「よし!付いてきな!」と建物内に入って行く。不安と恐怖で腹が痛くなってきたが、黙って付いていった。
中に入ると若い金髪の兄ちゃん(以下A)と、30才くらいのスキンヘッドの2人がジッと見ていた。ソファーに座らされるとパンチが「いやぁ、まさか募集来るとは思わなかったなー」と満足げな顔をして言った。
「いい体してるなー……よし、君採用ね!明日から頼むぞ!」
俺は頭の中が真っ白になった。俺はただ家計の助けになればと、バイト探していただけなのに…
「祝だな。おい□□寿司に出前頼めや!」とパンチはAに命じた。
結局夕方4時に行って解放されたのは10時近くで、その間仕事内容や他の社員を紹介されたりした。
翌朝8時俺はAとライトバンに乗せられた。仕事内容は、車で住宅地に行きその周辺で珍味を売り歩く(無茶苦茶高い)、といった簡単な内容だ。Aは俺より2才年上の年少上がりでよく喋る男だった。
「売り方にコツがあるんだよ。…あ?コツか?コツはな、気合い!とにかく気合いだ!なめられたら終わりだと思って気合い入れてけ!」
とんでもないアホに付かされたと思った。Aは言葉通りチンピラ丸出しで戸別訪問していた。中には怖がって買う人もいたが、ほとんどが居留守だったり、震えながら「警察呼びますよ!」と追い返された。
俺も何軒か回ったが当然1袋2、3千もする珍味なんて売れるわけもなく、Aに「気合いが足りねぇんだよ!」と何度も怒られた。そのうちパトカーが巡回し始めたので、その日は止める事になった。
そんな日が数日続き、どうやったら辞める事が出来るかばかり考えていた。
毎日ルートを変えていたが、どこ回ってもパトカーが頻繁に来る為苛立っていたAが「仕方ねぇな、あそこに行くか」と言いながら車を走らせた。
ついたのは市内のはずれにあるアパートだった。見るからにオンボロアパートで、人住んでるのか?と思った。
「ここは年寄りばかりでよ、ちょっと脅してやればみんな買ってくれるんだよ。最近の年寄りは金持ってるからなー」
と笑いながら話すA。外道って言葉、コイツの為にあるんだなと思った。かと言って俺も逆らえるわけもなくAに付いていった。
Aは手慣れた様子で次々と売りつけていった。そして階段を上がり2階の部屋のチャイムを鳴らした。
ピンポーン
出てこない。
「お爺ちゃんいるんでしょ?居留守は良くないよ〜。頼むから出てきてよ……聞こえてんのかコラ!」
ギイィー…と蝶番の錆び付いたドアが開いた。中から顔色の悪いお爺さんが出てきた。
「なんだ、やっぱりいるんじゃない。爺ちゃん今日も珍味持って来たんだけど売れなくてさー困ってるんだよね。悪いんだけど買ってや!」
聞こえているのか分からないが、お爺さんは無言で中に入るように手招きをした。
茶の間に腰を下ろすと、お爺さんは襖をあけ奥の部屋に入った。
3分…5分…いつまでたってもお爺さんは現れない。苛立ったAが「いつまで待たせるんだ!こっちも暇じゃないんだぞ!」と勢いよく襖を開けた。
「…う…うわぁぁー!!」
一瞬動きが止まったAだったが、急に叫んで外に飛び出して行った。どうしたんだろうと寝室を覗くと…
!!!
あのお爺さんが首を吊っていた。だらーんとして白目を剥いていたが、こちらを見るように垂れ下がっていた。
俺は腰を抜かしその場から動けず座り込んでいると、騒がしいので隣のお爺さんが見に来た。
「ひ…ひゃあぁー!」
その後警察が来て、第一発見者として事情聴取を受けた。Aは警察が来る前に逃げていたが、珍味を買わされた住人達がAの事を証言してくれてAと会社?が家宅捜査を受け、叩けばなんぼでも埃がでるパンチ達は、脅迫やらなんやらで逮捕された。
その後お爺さんは自殺と断定されたのだが、死後3日経っていたと聞かされた。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話