誰にだって、「このままで良いのか?」
って思う事はあるだろう
ただ、新しい一歩を踏み出すには勇気が要る
私もそうだった
何せこの業界、日本に限って言えば100年に一度の不景気だ
老人ばかり増えて、仕事がない
でも、私は幸運だったのかもしれない
こうして転職に成功したのだから
私は、今の仕事を気に入っている
人は笑うかもしれないが
小さいながら動物園の園長だ
今日は客が一人来る予定だ
こういう場合、私が案内をする事になっている
暫くするとその客がやってきた
私は順に園内を案内する事にした
まずは、最初の檻だ
その檻の中の様子を見て
客は愕然とした様子だった
それはそうかもしれない
その檻には「象」と書かれたネームプレートが下げられている
中にいるのは人間だ
全員、背中に人一人分ぐらいはありそうな
石を背負っている
それも、落ちないように有刺鉄線で何十にも縛り付けて…
勝手に石を取らないように
手先はコブシの形のまま
同じく有刺鉄線でグルグル巻きにしてある
移動するときは四つん這いだ
皆、そうしないと歩けないような石を背負わせている
「彼らは何故、石を背負っているんですか?」
男の問いに私はこう答えた
「何故って、象は重い荷物を運ぶじゃないですか」
その檻には「蛇」とだけ書かれたネームプレートが下げられている
中にいるのは人間だ
皆、ミイラのように体中を布で巻きつけられている
彼らの唯一できる事は這いずり回る事だけだ
私は比較的、元気に跳ね回る一匹を指差し
「2日前に入ってきた、蛇です」
と紹介した
次に、奥のほうに眼がうつろで口が半開きの一匹を指差し
「あの蛇は、もう7年目ですが、1年も経つと皆ああなります」
と紹介した
その檻には「豚」とだけ書かれたネームプレートが下げられている
中にいるのは人間だ
数人は椅子に縛られ飼育員の格好をした人に
無理矢理、餌を食べさせられている
「彼らはなにを食べさせられている?」
客の問いに私はこう答えた
「知りたいですか?」
客は黙った
さらに私は別の隅に居る一匹を指差しこう言った
「約半年ほどでああなります」
その一匹は太りすぎて歩けないでいる
自分の体重を支えきれなかったのだろう
片足が折れて、骨が皮膚を突き破っている
もちろん手当てなどしないので
破れた皮膚に蛆が湧いている
「もう沢山だ!!」
男は、叫んだ
「何故、貴方はこんな事をするんだ!!
何故、こんなひどい事が出来るんだ!!
即刻、彼らを開放にしなさい
誰にも人をあんなふうに扱っていい権利などない!!
これでは…これではまるで……ッ!!」
そこで男は言葉を詰まらせた
「そうです、ようやく気づきましたね
ここは地獄ですよ
貴方は死んで地獄に来たのです」
「そんな…それでは私も彼らみたいに…
フザケルナ!!
どうして私が、地獄に堕ちなくてはならないのだ!!
私は、生きている間、福祉事業に従事してきた
社会の為に貢献してきたつもりだ!!
彼らは恐らく何か罪を犯したからああなったのだろう
しかし、私は身に覚えがない!!
何故こんな仕打ちを受けなくてはならない!!」
「私は、まだ貴方を檻に入れるとは一言も言ってませんよ?」
「え?」
「貴方はこれから、これからここで飼育員として働くのです」
「何故だ、何故そんな事をさせる」
「こっちでは人手が足りないのですよ
私は、前まで天国で天使をやっていたのですがね
日本の担当だったんですよ
でも貴方も知っている通り
日本ではあまり人が死ななくなりましてね
おまけに、天国に行けるような人など本当に少ない
そこで、転職したわけですよこっちに
又、日本を担当する事になるとは思いませんでしたけどね」
「違う、そんな事は聞いていない
何故私が、こんな酷い事をしなくてはならないのだ
こんなことをするなんて…私には耐えられない!!」
「貴方は自分で気づいてないようですね
貴方始め、彼らを解放しろと仰った
でも次に自分が彼らのようになるかもと考え出したら
必死に弁明なさった
にもかかわらず、檻に入らない知った今度は
酷いことはしたくないと仰る
もうお分かりですね…
貴方が現世で犯した罪は
『偽善』なのですよ」
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話