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中編4
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ふぎか様 開

大学に行く為に地元を離れる事にした。

親は反対したが、ある事を条件に許しを得た。

その条件は夏の、ある一日だけ帰る事。

地元には決まり事があって、その日が終わるまで家を出れないという変な決まり事がある。

とにかく、ど田舎から出たかった俺は約束して都会に引っ越した。

都会の生活は楽しい。

地元にはなかった刺激的な物が溢れていたし、友達も出来たし彼女も出来た。

楽しすぎて約束を忘れるのに時間はかからなかった。

引っ越して初めての夏。

地元じゃ真夏でも涼しかったから辛い。

扇風機だけでは足りず窓を全開にして寝た。

その日、変な夢を見た。

知らない老婆が枕元で何か喋ってる。

「じよつぴんかるな。ひいとなんな」

二回くらい同じ事を聞いて目が覚めた。

どこの言葉だ?

意味が解らなかったが変な夢見たなくらいで、たいして気にしなかった。

親から電話がかかってきた。

約束だから帰って来いと言われたが嫌だと言って切った。

その後も鬼のようにかかってくる電話を無視した。

次の日も夢を見た。

昨日と同じ夢。

また老婆が何か喋ってる。意味が解らない。

起きた時は気分が悪かった。

変な夢のせいで約束の日が今日だという事を思い出したが、たいして気にせず大学に向かった。

家を出てから、変な感じがした。

見られてるような視線を感じる。

大学にいる時も友達と遊んでいる時も。

少し怖くなり、周りを気にしながら家に帰った。

風呂に入りテレビを見ているとドアを叩く音がする。そしてガチャガチャとドアを開けようとする音。

なんだと思いドアの覗き穴を見て、息が止まりそうになった。

真っ黒な人の形をした何かが居る。

レンズ越しに目が合う。

「じよつぴんじよつぴんじよつぴんじよつぴん」

いきなり掠れたような声で叫び始めた。

ノブを回す音も早くなる。初めて見る黒い何かに理解が出来ず動けない。

どれくらい経ったか解らない。

いきなり音が止んだ。

携帯が鳴って、ビクッとなった。

恐る恐る出てみると友達からだ。

「暇だから飲まねぇ?」

最高のタイミングに感謝した。

びくびくしながら待ち、友達が来て安心した。

外に誰か居なかったか聞いても誰も居ないと言われ、肩の力を抜いた。

怖さを忘れる為に飲みまくった。

朝方まで飲み友達が帰った。

そしてすぐに横になった。

また夢を見た。

老婆が前より大きな声で喋ってる。

「じよつぴんかるな!! ひいとなんな!!」

最悪な気分で目が覚める。意味が解らない。

誰だ?

何を伝えたい?

考えていると、またドアを叩く音がした。

昨日の恐怖を思い出し鳥肌が立つ。

いつまで経っても止まない。

仕方なく見に行くと、音が早く大きくなった。

それに昨日と同じ声がする。

何度も何度も同じ事を繰り返す。

じよつぴん……

なんなんだ?

何を言っている?

止めてくれ。

どうしていいか解らずにいると、急に音が止んだ。

恐る恐る覗き穴を見ると同時にインターホンが鳴り焦った。

外には某配達会社の人が立っている。

力が抜けた。

荷物を受け取ると同時に家を出た。

怖くて家には居られなかった。

とにかく人が沢山いる所と考え大学に向かった。

人が居るというだけで安心できた。

安心すると急に二日酔いが来て、吐き気がしてトイレの個室に駆け込み吐いた。吐き終わり、個室を出ようとした時にドアを叩く音がした。

あの声と共に。

息が止まる。

狭いトイレの個室では逃げ場がない。

追い詰められたという恐怖に体が震える。

いつまでも鳴り止まない。もう楽になりたいと、個室から出ようと考えた時、音と声が止まった。

話し声が聞こえる。

誰かがトイレに入ってきたのが解る。

チャンスと思い、急いでトイレから逃げ出した。

もう大学にも居られない。どうしようと考えながら家まで帰ると親父が居た。

親父は怒っていた。

約束を守らなかった俺に、今まで見た事がないくらい激怒している。

目が合った瞬間に殴られた。

それでも、久しぶりに会った家族に安心した。

そして自分に起こった事を聞いて欲しかった。

最初から話そうとして、夢の事を言った時に親父の顔色が変わった。

慌ただしく何処かに電話をして青ざめている。

そのまま親父に引きずられ地元に戻った。

実家に着き、自分に起こった事の理由を教えられた。

地元の村には、ある神がいる。

その昔、天災に悩んだ村人達が古くからある神社の神主に頼み招いた物で、名を巫鍵開(ふぎか)様。

ふぎか様は天災から村を守る代わりに条件を出した。村にとって、必要のない者を全て生け贄として差し出せと。

生け贄に選ばれない為には、自分が大切な者である事を示さなければならない。その方法は、家の鍵という鍵を閉め切り誰か他の人と一緒に居る事。

その両方が満たされない者は必要のない者とし、生け贄と見なすと。

ふぎか様が生け贄を選ぶ日が、あの約束の日だった。

昨日の事を思い出す。

友達と遅くまで飲んでいた。

確か、窓が開いて……

生け贄に選ばれたという事に目眩がした。

普通なら笑い飛ばすような話だが実際に自分の目で見ている以上、信じるしかなかった。

あの夢の老婆は、警告してくれていた事に気付いた。あの時は、何を言ってるか解らず気付けなかった。

死の恐怖に震えている俺に、親父が目に涙を溜めながら言った。

「かなり辛いが、我慢しろよ」

親父の言葉に、助かる方法があると思い頷こうとした瞬間に頭の後ろに衝撃を受け、真っ暗になった……

怖い話投稿:ホラーテラー 月凪さん  

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